平成12年9月6日発表

運輸経済月例報告 平成12年6月のトピックス



〜運輸経済月例データ等による景気動向指標について〜

* 運輸省調査により、月例データのうち、トラック関連、国内航空関連、自動車登録台数等7系列は景気に対して先行的に動くことが判明。この7系列を用いた景気動向DIを作成したところ、景気の山谷の動向に先行する動きを示し、DIとして信頼性の高い結果が得られた。
 
* 輸送業総合指数(輸送指数の構成要素)が実質GDP伸び率の動向と非常に近い動きを示すことが判明。これを利用した実質GDPの予測式も作成。

 運輸省情報管理部では、毎月、「運輸経済月例報告」及び「輸送指数」を公表している。これらのデータは、企業の生産活動や個人消費などの経済動向を敏感に反映するものであるが、景気動向との関連については必ずしも検討されてこなかった。
 そこで、これらのデータを用いて景気動向指標として活用できる景気先行DIを作成するとともに、実質GDP伸び率の予測式を作成した。

1.『運輸経済月例報告』掲載の運輸データによる景気先行DIの作成と評価

(1)景気先行DIを構成する運輸データの抽出
 景気先行DIを構成するデータの抽出のため、『運輸経済月例報告』に掲載されている貨物輸送関連の25系列、旅客等輸送関連の31系列、計56系列について、1980年1月から1999年12月までのデータを用い、グラフからみた各データの分析(各データと景気先行・一致・遅行CIとのグラフを描き、景気との関連性を判断)、統計的手法による各データの分析(時差相関係数の計測等の統計的手法を用いて、既存景気指標との関連性を分析)を行った。
 以上の結果、企業活動や個人消費との関連性が高く、先行性がある運輸データとして以下の7系列を抽出した。

運輸データによる景気先行DI採用系列

@営業用自動車(貨物)特別積合、A営業用自動車(貨物)一般、
B国内航空(貨物)合計、C冷蔵倉庫 月末保管残高、
D国内航空(旅客)幹線、E自動車新車登録台数 合計、
F高速道路利用台数 合計

(2)景気先行DIの作成と評価
 次に、上記7系列の運輸データを用いて、経済企画庁の発表しているDIと同じ作成手法を適用して景気先行DIを作成し、経済企画庁が発表している1980年からの景気基準日付による景気の山谷との関連性について検証した。

<具体的な検証方法>
A 運輸景気DIが50%を上回ったとき(=拡張している系列が総系列のうち半数以上を占める)に「+」、下回ったときに「−」を付していく。
B 景気基準日付による景気後退期(=景気の山から谷までの局面)において、「+」が3ヶ月連続した場合に、これを「景気拡張転換シグナル」が出たものとする。同様に、景気基準日付による景気拡張期(=景気の谷から山までの局面)において「−」が3ヶ月連続した場合に、これを「景気後退転換シグナル」が出たものとする。
 こうして検討した結果を経企庁の景気基準日付との比較でまとめたのが、以下の表である。

表1 運輸景気先行DIの検証

  運輸景気DIの
転換シグナル
景気基準日付
による転換点
先行月数
景気後退期 1981年6月
1982年5月
1983年1月
1983年2月(谷) -
-
1ヶ月
景気拡張期 - 1985年6月(山) ×
景気後退期 1986年5月 1986年11月(谷) 6ヶ月
景気拡張期 1990年11月 1991年2月(山) 3ヶ月
景気後退期 1991年4月
1993年4月
1993年10月(谷) -
6ヶ月
景気拡張期 1995年7月
1996年7月
1997年3月(山) -
8ヶ月
景気後退期 1999年1月 1999年4月(谷) 3ヶ月

 この検証結果によると、1983年1月から99年1月までの間、計8回観察された転換シグナルのうち、6回が景気基準日付による転換点に一年以内に先行して発せられており、景気の転換点を予測するパフォーマンスで良好な結果を示した。
 従来、一般的には運輸データの動きは景気に対して遅行的であると考えられてきたが、本調査の結果、この7系列のように先行性を示すデータの存在が確認されたことは特筆すべきであり、また、景気先行DIが高いパフォーマンスを示したことを受け、今後さらに実用化に向けた取組みを行っていく必要がある。

2.「輸送指数」による実質GDP伸び率予測式の作成

(1)輸送指数と実質GDP伸び率との連関性分析
 「輸送指数」についても、輸送指数を構成する各項目について、1(1)で示した3つの側面から実質GDPや景気との連関性について分析を行った結果、特に、輸送業総合指数と実質GDP伸び率との間に強い連関性がみられた(相関係数 r=0.6516)。
 ここでは、実質GDP伸び率と輸送業総合指数のそれぞれの原系列・前年比をプロットしたグラフを示したが、その伸び率同士の相関係数をとってみると、伸び率同士の相関係数としては極めて高い数値が得られた。(参考:鉱工業生産指数)

図2−1 実質GDPと輸送業総合指数の推移(原系列・前年比)

図2−2 実質GDPと鉱工業生産指数(IIP)の推移(原系列・前年比)

(2)輸送業総合指数による実質GDP伸び率予測
 このように、輸送業総合指数と実質GDPとの間に強い連関性が確認できたことから、輸送業総合指数の前年比による実質GDPの前年比の伸び率予測方法を検討した。
 図2−1、2−2に示したグラフを、X軸に輸送業総合指数/鉱工業生産指数の前年比をとり、Y軸に実質GDP前年比をとった散布図を作成すると、以下の通りとなる。

図2−3 実質GDPと輸送業総合指数  図2−4 実質GDPと鉱工業生産指数

 図に示した輸送業総合指数と実質GDPの回帰直線の式は、以下のようになる。

輸送業総合指数(推計期間1980年第1四半期〜1999年第3四半期)
(実質GDP前年比)=0.0097+0.7626×(輸送業総合指数前年比)
             (4.26)(10.78)
 自由度修正済決定係数=0.5961(カッコ内はt値)

 図2−1および2−3から明らかであるように、輸送業総合指数による実質GDPの回帰直線の式において、実質GDPと輸送業総合指数はかなり近い相関関係がある。
 このように、輸送業総合指数は、実質GDPを予測する際に有効な指標となることが判明した。また、この予測式は、実質GDPを民間支出と企業生産の中間にある輸送面から捉えなおすものであり、その意義は非常に高いものである。
 今後、逐次推計式をアップデートしていき、動きのクセなどについて情報を蓄積していき、実用化につなげていくこととしている。

3.今後の課題

 以上のように、今回の調査では注目すべき結果が得られたが、実用化に向けては、速報化のための手法やこれら指標のマクロ経済理論からみた妥当性等についてさらに検討を進める必要があり、運輸省情報管理部では、引き続き調査することとしている。

平成12年 夏期期間中の旅客輸送等の動向

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