国鉄改革から10年を経た今、(1)に述べたような具体的方策の下で国鉄事業の再生という観点から見ると、分割・民営化後の鉄道事業の状況の中には主に以下の4つの点をはじめとして評価できるものが多い。
昭和50年代以降の国鉄時代においては、毎年のように行われた運賃改定の一方で旅客輸送量は減少停滞が続いたところであるが、民営化後は、平成8年のJR北海道等(JR北海道、JR四国及びJR九州をいう。以下同じ。)の運賃改定以外は基本的には民営化前の運賃レベルが維持されている。運賃水準が安定した背景としては、民営化後の好調な経済動向による輸送量増があったことも事実であるが、運賃水準が据え置かれたことによってJR各社が他の交通機関に対する競争力を増し、JR各社のサービス面の向上の努力もあってこれが輸送量の増加に結びつくという良いサイクルをもたらしたことも否定できない。交通市場における競争力を発揮する結果となったことは分割・民営化の最も顕著な効果として評価することができる。今後、高速道路の整備の進展等による相対的な競争条件の低下が予想されるところであり、また、かつてのような大きな経済成長が期待できない経済情勢下でいかに輸送量の伸びを確保するかという点に留意し、創意工夫をこらして営業努力に合わせ経営の効率化等を進めることが期待される。
A鉄道輸送サービスの内容の向上
ダイヤ設定の改善や新規車両の投入など、分割により地域の実情にあったサービスの提供が可能となったことに加え、鉄道特性を最大限発揮させる観点からの高速化や旅客輸送サービスの基本である職員の接客態度の改善等のサービス面の向上が国鉄改革後積極的に進められたことは、利用者利便の向上の観点から評価に値する。ただ一方では、大都市部における混雑率の改善や、高齢者、身障者の移動の円滑化に資する諸施設の整備水準などについては立ち遅れている部分があり、これらの課題の解決のため、今後一層の努力が期待される。
B納税者への負担軽減
国鉄時代は国からの補助金の額が国鉄による納税に代わる納付金等の額を上回り、差引概ね年間6,000億円程度の国民負担がなされていたところであるが、分割・民営化後はJR各社は新たに法人税等の国税を納付することになり、本州3社を中心に経営が好調に推移したことを背景に、逆に納税額が補助金の額を概ね年間1000億円以上も上回る状況が続いている〔1−5−1表〕。この点で、国鉄改革は国の財政の改善効果をもたらし、ひいては納税者たる国民にとって負担軽減効果をもたらしているといえる。
C職員数の削減
国鉄時代の経営上の問題として、何よりも事業内容に比し極端に多数の職員を抱えていたことが指摘されていた。国鉄の分割・民営化の方針が示された昭和57年度末に38.7万人であった職員数はJR各社が発足した62年度初には19.9万人、平成7年度末には18.9万人と減少しており、それに伴い、JR各社を通じて国鉄時代と比較して生産性の向上が図られた。