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第6回 工法評価選定会議 羽田空港再拡張事業工法評価選定会議 報告書(案)

2.主要論点についての検討結果

 本会議で検討対象としてきた桟橋工法、埋立・桟橋組合せ工法、浮体工法の三工法について検討を行った結果、以下の結論を得た。(別紙1、別紙2参照)

(1)三工法の特徴

 検討対象とした三工法の特徴を挙げると次のとおりである。

桟橋工法

 桟橋工法は、土中に多数の金属製の杭を打ち込み、これを基礎構造として、上部に滑走路、誘導路等の空港施設を建設するものであり、我が国には空港としての例はないが、岸壁等の港湾施設において事例は数多く存在する。また、外国では、米国のラガーディア空港、ポルトガルのマディラ空港の一部において使用実績のある工法である。

  • 杭の間を河川流が透過する構造であるため、多摩川河口部に設置可能である。
  • 滑走路部が単一構造であるため、勾配の不連続が発生しない。
  • 支持地盤にまで杭を打ち込むことから、長期的にも沈下は生じない。
  • 航空機荷重により、滑走路等の空港施設にたわみ等の変位が生じる。
  • 海中に金属が長期間存置されるため、錆による長期耐久性の課題がある。
  • 地盤により荷重を支えているため、地震による影響を受ける。
  • 第一航路浚渫土砂の処分が別途必要である。

埋立・桟橋組合せ工法

 埋立・桟橋組合せ工法は、関西国際空港、中部国際空港等我が国の海上空港の建設に数多く用いられ実績のある埋立工法に、多摩川の河川流の透過を確保するために桟橋工法を組合せたものである。
  • 杭の間を河川流が透過する構造であるため、多摩川河口部に設置可能である。
  • 第一航路浚渫土砂を埋立材として利用することが可能である。
  • 滑走路上に埋立部と桟橋部の接続部があり、埋立部においては長期的に沈下が生じるため、接続部において勾配が変化する。
  • 桟橋部においては、航空機荷重により、滑走路等の空港施設にたわみ等の変位が生じる。
  • 桟橋部は海中に金属が長期間存置されるため、錆による長期耐久性の課題がある。
  • 地盤により荷重を支えているため、地震による影響を受ける。

浮体工法

 浮体工法は、金属製の箱形及び櫛形の構造体の浮力により、滑走路、連絡誘導路等の空港施設の重量を支えるものである。基本的には地盤には力を与えず、係留施設(ドルフィン)を通じて、地盤に固定されている。空港としての利用は、横須賀における実証実験のみであり、世界的に見ても事例は存在せず、新しい構造形式である。
  • 浮体の下部を河川流が透過する構造であるため、多摩川河口部に設置可能である。
  • 滑走路部が単一構造であるため、勾配の不連続が発生しない。
  • 係留施設及び可動橋を介して地盤と接続しており、地震による浮体本体への影響はない。
  • 浮体内部の巨大な空間を活用できる。
  • 浮体構造である連絡誘導路が固定構造である既設空港と4段継ぎ手等を介して接続している。
  • 潮汐による周期的な浮体の上下移動及び波浪、潮流、風等の自然条件による動揺がある。また、航空機荷重により、滑走路等の空港施設にたわみ等の変位が生じる。
  • 海中に金属が長期間存置されるため、錆による長期耐久性の課題がある。
  • 第一航路浚渫土砂の処分が別途必要である。

(2)三工法について適格性が確認された事項

 検討の結果、適格性が確認された事項は次のとおりである。

空港として長期・安定的に機能すること
  • 滑走路、誘導路について、航空機荷重によるたわみ、温度変化、本体構造の動揺が基準内に収まること。
  • 航空保安施設(無線、航空灯火)の動揺、変位について、設置誤差の基準と照らし合わせると、許容範囲内に収まること。
  • 供用開始後の沈下(埋立・桟橋組合せ工法)については、適切な維持管理を行うことで基準を達成できること、金属疲労については基準を満足すること。
  • 想定を超える自然条件(地震等)が発生しても重大な事態に至らず、また、短期間で機能回復が可能であること。
  • 事故災害(火災、航空機事故、船舶の衝突等)時の復旧が短期間かつ比較的安価であり、空港機能に重大な影響を与えないこと。
安全・確実な施工
  • 実施にあたって詳細な検討を行う必要があるが、工事中の安全対策は現時点では致命的な問題点がないこと。
  • 実施にあたって航行安全対策を講ずる必要があるが、ジャケットや浮体ユニットの安全・確実な運搬、曳航については、致命的な問題点がないこと。
環境への影響
  • 工事中の水質に与える影響(濁り)については、汚濁防止膜を設置すること等で回避可能なこと。
  • 環境影響評価手続きにおいて、詳細な予測・評価を実施する必要があるが、場の喪失による影響は、簡易なシミュレーションの結果、環境に大きな影響を与えないこと。
  • 環境影響評価手続きにおいて、詳細な予測・評価を実施する必要があるが、流況の変化、栄養塩、溶存酸素の変化等に係る簡易な数値シミュレーションの結果、流れ等に大きな影響を与えないこと。
その他
  • 実施にあたり、影響を最小限にするための具体的な安全対策を検討する必要があるが、東京湾内その他輻輳海域において、工事の実施が船舶航行に与える影響については、大きな問題がないこと。
  • 多摩川の河川管理上、支障がない構造となっていること。

(3)各工法の留意点

 各工法の技術的検討を深めた結果、留意点を挙げると次のとおりである。

桟橋工法

  • 海中に多数の金属製の杭が長期間存置されるため、錆による腐食への対策(防食対策)に留意すべきである。この防食対策については、団体から提案された耐海水ステンレス鋼ライニングの長期間の耐久性について、有識者からのヒアリングを行ったところ、適切な点検、維持管理を実施することで長期間(100年間)の使用は可能であるとの結果が得られた。ただし、これを実現させるための条件として、点検の頻度やその手法について詳細な検討が必要であり、かつ、劣化に対する適切な補修を実施することが不可欠であるとの見解が示された。

埋立・桟橋組合せ工法

  • 滑走路上における埋立部と桟橋部の接続部について留意すべきである。滑走路上に埋立と桟橋の接続部が存在する米国・ラガーディア空港及びポルトガル・マディラ空港において現地調査を行ったところ、特にラガーディア空港では埋立部に沈下が生じているが、空港当局及び就航エアラインに対してヒアリングを行った結果、両空港とも接続構造の存在による航空機の走行性、安全性に問題は生じていないことが分かった。従って、この接続部については、基本的に問題はないものと考えられる。ただし、両空港においては地震の規模が我が国に比べ小さいという状況に留意しておく必要がある。よって、我が国においては、今後、実施にあたっては、地震への対応策を十分取り込むとともに地震後の速やかな復旧方法の検討を行うことが必要である。
  • 桟橋部については、桟橋工法と同様に錆による腐食への対策があるが、これは桟橋工法における留意点と同様に解決可能であるとの結果であった。

浮体工法

  • 浮体構造の安全性を確認するためには、横須賀における滑走路長1000mの実証実験やシミュレーションのみで十分浮体の挙動が再現できるかどうかという指摘があるが、有識者にヒアリングしたところ、シミュレーション技術の発達により、実際の浮体の挙動については、相当な精度で再現できることが確認された。なお、実施にあたっては、実際の地形等を考慮した詳細な検討が必要との指摘があった。
  • 連絡誘導路と既設空港の接続部(4段継ぎ手等)について留意すべきである。これについて、有識者にヒアリングを行ったところ、空港用の4段継ぎ手の設計は技術的に可能であるとの結果が得られた。ただし、実施にあたり、部分的な試作品による耐久性等の確認を行う必要があるとの見解が示された。
  • 他工法と同様、錆による腐食への対策(防食対策)について留意すべきである。防食対策については、浮体工法では団体から提案されたチタンクラッド鋼ライニングの長期間の耐久性について、有識者からのヒアリングを行ったところ、桟橋工法における対応と同様に解決可能であるとの結果が得られた。

(4)工費・工期について

 工費(維持管理費を含む)・工期については、各団体からの提案内容は、桟橋工法(工費6,080億円、工期2.5年)、埋立・桟橋組合せ工法(工費5,780億円、工期2.6年)、浮体工法(工費5,897億円、工期2.5年)であったが、これらについて追加的な資料提出を求め、検討を行ったところ、工費・工期の面では大きな差は認められなかった。引き続き、工費・工期の確実性を担保するための契約・発注方式の検討を深める必要がある。特に、維持管理費については、いずれの工法も多量の金属が長期間にわたり海水中に存置されること等から、点検・維持管理システムの高度化やその他不確定な要因により維持管理費が増加する可能性がある。従って、維持管理費が当初見込みより増大する場合のリスク負担について十分検討のうえ、施工者に維持管理費を保証させるなど適切な責任分担関係を構築する必要がある。



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