長良川河口堰建設差止請求控訴事件判決(H10.12.17)



第四 本件堰の収去請求(第二次請求)の当否
 一 前記(第三の一)のとおり、本件堰はすでに完成し、被控訴人による運用が   継続しているところ、本件堰の収去請求は上記の運用継続を不可能にする内容   の請求であるから、まず、その民事訴訟における審理対象としての適格が問題   となる。しかし、この請求を認容する実体判断は、本件堰の管理・利用につい   ての行政的施策に影響を与えるものではあるものの、本件堰の管理・利用が国   の河川に関する行政全般にわたる政策的判断を不可欠の前提とするとはみられ   ず、また、本件堰の管理・利用の制限がそのような国の全般的な行政上の政策   的判断に深く係わるものともみられないから、この請求が民事訴訟における審   理対象としての適格を欠くということはできず、これに対する実体判断をすべ   きものと解される。  二 ところで、ある建造物の存在自体が他人の絶対権を侵害しまたは侵害するお   それがあるとして、その収去を求める場合、その請求の相手方は、当該建造物   の処分権を有し当該建造物を収去し得べき法的地位を有する者でなければなら   ないと解すべきである。したがって、通常民事訴訟において、絶対権の侵害を   理由に建造物の収去を請求する者は、請求の相手方が当該建造物の収去権限を   有する者であることを主張立証する必要があると解される。  三 ところが、本件においては、この点についての主張立証はなされておらず、   かえって、関係法令等に照らし、被控訴人は、本件堰(水資源開発公団法にお   ける水資源開発施設)について、本来の河川管理者である建設大臣の権限を代   行して法定の管理行為等を行う者で、水資源開発施設の新築又は改築といった   重要な業務については、建設大臣が水資源開発基本計画に基づいて定めた事業   実施方針により、建設大臣の指示を受けてこれを遂行すべき地位にあるものに   すぎない(河川法9条、水資源開発公団法18条1項、3項、19条、23条、   55条2号、同法施行令9条)。また、仮に本件堰の所有権が国に帰属せず被   控訴人に帰属すると解する余地があるとしても、本件堰は河川法3条2項の河   川管理施設とされ(水資源開発公団法23条1項)、その所有権には関係法令   等による公用制限が課されるものであるところ、法令上、被控訴人に対し、独   自の判断で本件堰を収去する権限を認める規定は存せず、むしろ、上記のよう   な関係法令における被控訴人の地位に照らし、法は、公共の用に供される本件   堰について、被控訴人に対し、被控訴人独自の判断で収去する権限を認めない   趣旨であると解されるから、およそ被控訴人が本件堰につき独自の判断でこれ   を収去し得べき法的地位を有するということはできない。  四 そうすると、控訴人らの本件堰の収去請求は、その請求原因となるべき主要   事実の主張立証を一部欠くことになるから、本件訴訟における多数の論点を検   討するまでもなく、棄却を免れないこととなる。