地域交通DXプロジェクト「COMmmmONS」(コモンズ)発足。
「MaaS 2.0始動!国土交通省が進める地域交通DX - 現場と政策をつなぐ共創イベント」レポート
「交通空白」と「サイロ化」をいかに埋めるか? 地域交通DXのプレイヤーが集結

2025年6月6日、東京・渋谷のPlug and Play Japanにて「MaaS 2.0始動!国土交通省が進める地域交通DX」が開催された(オンラインでも同時配信)。プログラムは、国土交通省の内山裕弥氏による基調講演を皮切りに、JRグループ4社が地域交通の現状と課題を共有。続いて、Luupがマイクロモビリティのデータ利活用事例を、MaaS Tech Japanが交通空白地対策における先進的な取り組みを紹介した。後半には、Bashow、SWAT Mobility Japan、New Ordinary、KAFLIX CLOUD、ジヤトコの5社が登壇し、地域交通DXに関わる自社の技術やサービスについてピッチを実施。セミナー終了後は、登壇者と現地参加者との間で活発なネットワーキングが行われた。
地域交通DXのカギは「ベストプラクティス創出」と「標準化」
「地域交通」のあり方を持続可能なものへと変革していくためのDXは、単なるデジタル化やシステム導入といった表面的な取り組みだけで完結するものではない。2025年度から「地域交通DX」として始動するこの取り組みは、移動にまつわる地域課題を構造的に見直し、持続可能な形へと再設計することを目的としている。国土交通省の内山裕弥氏による基調講演では、過去のMaaS推進施策を振り返りつつ、現在の課題と今後の方向性について率直に語られた。

2024年4月に同課に着任した同氏は、過去5年間のMaaS推進施策を整理する中で、DXがアプリ導入やキャッシュレス決済といった手段に矮小化されている状況に違和感を抱いたという。
多様な交通事業者や関連企業、スタートアップ、自治体職員などと意見を交わす中で、地域交通の構造的な課題や今後取り組むべき方向性についての整理を進めてきたと話す。2024年9月に開催された『地域交通を変革するMaaS 2.0~テクノロジードリブンで地域交通DXを加速~』では、地域交通DXの構想を披露し、議論を活性化させてきた。
これまでのMaaSの取り組みとその限界
国土交通省では2019年のモビリティサービス推進課の設置以降、MaaSアプリの普及を後押しし、補助制度も整備してきた。結果として、国内では100件を超えるMaaSアプリが立ち上がっている。

しかし、内山氏は「2019年当時に目指していた理想の社会には至っていない」と語る。描いていたのは、公共交通機関を一つのサービスのようにワンストップで利用できる世界だった。だが、現実には各アプリが地域単位で独立し、フルスタック型で閉じたサービスとなっており、地域ごとにアプリを使い分ける必要がある。内山氏はこのような状態を「サイロ化」と呼び、マルチモーダルな交通の実現を阻む大きな要因と位置づけている。
従来のMaaSが注力していた都市部中心の設計では捉えきれない地域特有の課題も顕在化している。内山氏は「人口減少でバスもタクシーも減っている。一方で、高齢者は免許を返納して車が使えず、家族の送迎がなければ病院にも行けない地域が増えている」と指摘。移動手段の喪失が日常生活に直結する地域が各地で生まれている現状がある。
地域交通DXが向き合う4つの課題
内山氏は、地域交通DXにおいて注視すべき課題として、「サービス」「データ」「マネジメント」「ビジネスプロセス」の4つを挙げた。

1. サービスの課題:モードの「サイロ化」
公共交通が民間主体で運営されている日本では、モードごとに独自のサービスが構築されがちだ。そのため鉄道、バス、タクシーが統合されたマルチモーダルな移動体験が成立しにくい。
2. データの課題:取得の困難さ
交通政策の設計にはモードをまたいだ移動データが不可欠であるが、ICカードやQRコードなどの仕様がバラバラであり、統一的なデータ収集が難しい。加えて、個人情報保護法の解釈が企業ごとに異なり、ID付きのデータの共有が進まないという問題も存在する。
3. マネジメントの課題:データドリブンな政策立案の実践不足
バスの本数を減らした場合の影響などを予測する交通シミュレーション技術は未成熟な状況にある。仮説検証を前提とした政策立案の基盤が不十分であるため、施策の効果を予測・評価するためのツールや指標の開発が求められている。
4. ビジネスプロセスの課題:業務の「サイロ化」
交通事業者ごとに業務プロセスやシステムが異なり、それぞれにカスタマイズされた仕組みが構築されている。結果として、システム更新や連携のたびに高いコストが発生し、業界全体としてのスケーラビリティも確保できていない。
ベストプラクティスの創出と標準化がカギ
これらの課題に対応するため、国土交通省では現在、全国約20件の実証プロジェクトを立ち上げ、仮説検証とプロトタイプ開発を進めている。

その一例として紹介されたのが、QRチケッティングの標準化だ。異なる事業者が発行するQRコードを仲介システムで相互認証できるようにし、共通インターフェースを設けることで、誰でも接続可能な仕組みを開発している。
また、2025年6月6日には、「地域交通DXの推進に向けた情報提供依頼(RFI#1)」を公表。これは来年度以降の取り組みに向けて、地域交通DXに資するアイデアや技術の募集を行うものだ。内山氏は「ジャストアイデアであっても、地域交通の課題を解決するためにやってみたいアイデアがあれば、ぜひ応募してほしい」と広く関係者に参加を呼びかけた。
JR各社が示す地域交通の構造課題と連携モデルの可能性
第2部「JR各社からみる地域交通の課題」では、JR東日本・JR西日本・JR東海・JR九州の各社が登壇し、「鉄道や周辺データの利活用」と「地域交通の連携と課題」の2つのテーマに沿って、現場で直面する課題や自社の取り組みを共有した。

鉄道データの活用と地域全体での交通設計(JR東日本)
最初に登壇したのは、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の中西良太氏。中西氏は、Suicaの普及状況について「鉄道利用者の約95%が交通系ICカードを利用しており、新幹線eチケットや在来線のチケットレス化も進んでいる」と説明。

また、これまで各地で取り組んできたMaaS事業の振り返りとして、「技術的な課題はおおむね解消されてきているが、持続可能な地域交通の実現には、交通モードを横断した地域全体での計画・評価と、地域社会と連携した施策の実施が不可欠」と指摘した。
特に交通データに関しては、「単一モビリティでのOD(発着地点)情報では乗り換え行動などが把握できず、個人単位での移動分析が重要になる」と述べ、政策立案やサービス改善につなげる必要性を強調した。
今後は、鉄道にとどまらず他社路線や航空、シェアサイクル、地域の生活サービスと連携し、「他業種・地域連合型による伴走型のまちづくり」を目指すとした。また、自治体との連携を円滑に進める工夫として「Slackを活用したスピーディーな相談体制の構築」や、「失敗しても怒らないマインドの重要性」にも言及した。

データ・人材・制度の壁に挑む現場のDX(JR西日本)
西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)の井上正文氏は、VoC(Voice of Customer)を通じて見えてきた地域交通の課題として、「技術人材の不足」や「DXの遅れ」を挙げた。

そのうえで、JR西日本におけるDXの具体事例として、1)強風予測AIの活用(湖西線)、2)監視カメラAIの導入を紹介。ただし、こうした社内ソリューションは横展開に限界があるという。その理由として、データ形式の不統一、法制度に対する見解の相違、自社開発志向の強さ、人員削減によるリソース不足などを挙げた。
最後に、「JR西日本の強みは、社内のデータサイエンティストを中心とした課題解決の伴走力にある」とし、「地域DXのパートナーとして、真剣な共闘をしたい」と締めくくった。

移動の不便が招く悪循環、東海地域の連携課題(JR東海)
「地域交通の連携と課題」のテーマでは、東海旅客鉄道株式会社(JR東海)と九州旅客鉄道株式会社(JR九州)が発表した。
東海旅客鉄道株式会社(JR東海)の後藤裕平氏は、名古屋大学と連携して進める地域課題の調査から、「交通の不便さ」が「住み続けたくない」と感じる大きな要因になっていることを指摘した。

後藤氏は、コロナ禍と人口減少により公共交通の利用が減少し、それがサービス低下を招く「悪循環」が各地で起きていると説明。特にマイカー依存の強い地域では、車を持たない住民にとって日常生活に大きな不便が生じていると述べた。こうした課題を打開するためには、「一次交通(鉄道や基幹的バス)」「二次交通(路線バス、タクシー、送迎)」「三次交通(徒歩や自転車)」といった複層的な交通手段が連携し、地域全体として統合的なモビリティサービスを提供する必要があるという。
JR東海では、名古屋大学を中心とする「COI-NEXT 地域を次世代につなぐマイモビリティ共創拠点」に参画し、地域横断的な対話と実証を重ねている。後藤氏は「一対一の関係では話しづらいことも、広域の連合体であれば対話が進みやすくなる」とその効果を語った。

さらに、春日井市で展開中の「春日井のりかえアップデート・プロジェクト」の取り組みを紹介。鉄道、バス、デマンド交通、シェアカー、シェアサイクルといった多様な交通モードをMaaSアプリ「CentX」で連携し、これまで把握しづらかったモード横断的な移動実態を可視化。そのうえで、行動変容の効果を検証する取り組みが進められているという。
「関係者の調整は非常に大変だったが、汗をかいて取り組むことでノウハウが蓄積され、次の現場に必ず生きてくる」と語り、地道な取り組みが持つ意義を強調した。
九州全県を巻き込む「九州MaaS」の挑戦(JR九州)
最後に登壇したのは、九州旅客鉄道株式会社(JR九州)の高橋拓大氏。高橋氏は、「まちづくり」としてのモビリティのあり方を提示し、「ターミナル駅近郊から沿線へ、人と人をつなぐ移動拠点としての機能強化が必要」と語った。

JR九州では2024年4月に「一般社団法人九州MaaS協議会」を設立し、同年8月には「九州MaaS」サービスを開始。現在は100者を超える団体が参画しており、九州全県を対象にモードをまたいだ交通連携に取り組んでいる。
高橋氏は、地域交通の実現に向けて重要な視点として、駅を拠点とした多様な交通手段を結節させるモビリティハブの構築が不可欠だと指摘。また、異なる交通モード間での移動をよりスムーズにするため、九州MaaSでのQR認証ABT(Account Based Ticketing)導入を進めており、自動改札機等での共通読み取りを実現することで、乗り継ぎのシームレス化を図る構想を明らかにした。例えば、列車内からタクシー配車を予約できる連携システムの実証実験も計画されているという。
「こうした取り組みから見えてくるデータを利活用することによって、関係する企業・団体と協力し、より良い効果的な公共交通の構築につなげていきたい」と語り、技術と仕組みの両面で、モビリティの“当たり前”を変えていく必要性を強調した。

マイクロモビリティから得られるデータ活用の可能性
第3部では、株式会社Luup 取締役COOの牧田涼太郎氏が登壇。「都市部におけるマイクロモビリティデータの利活用事例」と題して、電動マイクロモビリティから取得した移動データの活用事例を紹介した。

Luupは「街じゅうを『駅前化』するインフラをつくる」をミッションに、電動アシスト自転車や電動キックボードのシェアリングサービスを展開している。2020年のサービス開始以降、ポート数は1万3000カ所を超え、現在では国内最多となった。利用実態としては通勤や通学といった日常利用が全体の8割以上を占めるなど、都市部での移動手段として定着しつつある。
Luupの強みは、すべての車両に搭載されたIoTモジュールとスマートフォンアプリを通じて、数秒単位で取得される位置情報や移動データにある。ID付きで蓄積されたデータからは、移動経路、滞在時間、ユーザー属性などが高い精度で可視化され、従来のODデータだけでは捉えきれない細かな移動の実態が把握できる。
こうしたデータを活用した実証事例の一つが、2024年3月に渋谷区の西参道エリアで行われた実証実験だ。明治神宮西門付近と住宅街の高架下の2カ所にポートを設置し、マルシェやキッチンカーとあわせたイベントを実施。Luupのデータからは、寄り道を含む移動の割合や滞在時間、周辺エリアとの行き来の傾向などが分析された。結果として、明治神宮側ポートの方が利用時間・寄り道率ともに高く、住宅街側の利用は目的地への直行が多いことが判明した。

牧田氏は、「数百メートル単位の立地の違いが、移動の目的や行動パターンに大きく影響している」と述べ、マイクロモビリティならではのデータが都市空間の設計やまちづくりに有用であることを強調した。
また、Luupは東京都が主導する「東京データプラットフォームケーススタディ事業」にも参画。自動車の走行データや人流データとマイクロモビリティの移動データを掛け合わせることで、交差点の安全性や自転車走行レーンの整備効果を可視化する分析に取り組んでいる。また、マイクロモビリティのジャイロセンサーで検出される車両の“傾き”のデータをもとに、走行時に不安定となる箇所を特定することで、道路設計や施策検討への活用が期待されている。
牧田氏は、「行政や事業者が持つデータを持ち寄ることで、政策につながる多様な気づきが得られる」と語り、マイクロモビリティのデータが今後の交通政策やまちづくりに果たす可能性を示した。

モビリティデータを活用した「交通空白」の可視化
第4部では、株式会社 MaaS Tech Japan 代表取締役の日高洋祐氏が登壇。同社は、モビリティに関わる移動の不便や交通空白、渋滞や事故の増加といった課題の解決を目指し、都市・地域へのMaaS実装を通じて“理想的な移動社会”の構築を掲げている。

国土交通省では、地域公共交通の計画と運営における課題を踏まえ、2024年4月に「地域公共交通計画の実質化に向けた検討会」を開催。2025年3月には、地域公共交通計画の「アップデートガイダンスVer1.0」が公表された。同ガイダンスでは、地域のモビリティ課題を的確に捉え、より実効性のある計画を策定・実行するための視点として、①モビリティデータの利活用、②標準的なモデルアーキテクチャの導入、③機動的・横断的な実行体制の確立という三本柱が提示されている。
なかでもモビリティデータの利活用については、地域課題の可視化や施策の解像度を高めるために不可欠であると強調されている。しかし、実態としては多くの自治体が公共交通の利用実績データすら持っていないなど、データの作成や共有段階に課題が顕在化している。こうした現状を打開すべく、MaaS Tech Japanでは複数の自治体と連携し、データを用いた課題の発見と検討、施策立案まで支援に取り組んでいる。
そうした取り組みとの例として、国土交通省の「日本版MaaS推進・支援事業」における「交通計画策定支援システム」を紹介。このシステムでは、基礎自治体向けに交通指標の可視化を通じて課題を抽出し、施策の提案とともに補助制度や他自治体の事例も合わせて表示。施策立案に必要な一連の情報をパッケージで提供する。
広域自治体向けには、管内の交通課題と施策の状況を俯瞰し、他自治体への共有も可能にする機能を備えている。実際に群馬県みなかみ町や渋川市では、同システムを活用した交通計画の施策を行い、一定の工数削減や課題の見える化といった成果が得られた。

さらに、福岡県と連携して進める「モビリティデータ連携基盤構築等業務」では、実証的な取り組みとして、交通事業者との協働によるダイヤ策定の効率化や需給最適化の仕組みづくり、さらには安価なデジタルバス停を用いたデマンド型交通の実装を見据えている。
最後に2025年度の取り組みとして、「モビリティ事業者の収益性向上に資するデータ活用支援」、「自治体および交通事業者のデータ活用ユースケース拡大」、「業務設計・運行管理のデータドリブン化」を挙げ、実装と成果の蓄積を通じて、より解像度の高い政策設計につなげていく意義を強調した。

独自の技術やサービスで地域交通の課題解決に挑む5社がピッチを披露
最後のセッションでは、地域交通の現場課題に対する多様なアプローチを持つ企業5社が登壇し、それぞれのプロダクトやソリューションを紹介した。
「寄り道」で地域を元気にする車載音声アプリ「Bashow」/株式会社Bashow

最初に登壇したのは、株式会社Bashow。「車載アプリ多様化時代の地域交通DX」と題し、車で移動中に周辺のおすすめスポットやイベントなどの話題を音声で案内するトピック案内アプリ「Bashow」を紹介した。2024年度には、さいたま市、掛川市、御前崎市、横浜市などで運用され、2025年5月時点で1,000人以上が利用。利用者アンケートでは85%が「今後も使いたい」と回答しているという。今後は首都圏や名古屋などへ拡大を予定しているとのこと。
「Bashow」は、Web上の情報からAIが自動でトピックを生成。場所や日時、天候のほかユーザーの情報も加味し、AIが案内のタイミングを判断して情報を提供する。ユーザーからの反応をもとに強化学習を繰り返し、継続的に進化していくという。「Bashow」は「目的地への効率的な移動」ではなく、「寄り道を楽しませる」ことで地域の魅力に触れる機会を創出することを重視している。
ナビや安全支援に留まらず、「移動時間そのものを楽しむ」体験価値を提供する車載アプリの広がりが今後一層期待される。

AIオンデマンドと路線最適化で支えるデータ駆動の次世代交通運行/WAT Mobility Japan 株式会社

SWAT Mobility Japan 株式会社は、世界8カ国で200以上のサービスを展開するグローバルテック企業。少ない車両台数と移動距離で最大の効率を実現する独自のルーティング・アルゴリズムを強みとし、AIオンデマンド交通の運行支援、物流最適化、導入前の交通シミュレーションといったソリューションを提供している。
同社のAIオンデマンド交通運行システムは、リアルタイムの運行分析と定期的なパラメーター調整によって、地域ごとに最適化されたサービス設計が可能。大阪府の豊能町や東京都三鷹市、京都府の与謝野町などで導入実績があるほか、既存システムとのAPI連携にも対応している。
さらに、路線バスの乗降実績や路線・系統といった運行データの可視化・分析を自動化するシステムや交通分析サービス、オンデマンド交通シミュレーションの提供を通じて、全国20の自治体や多数のバス事業者を支援。乗務員不足が深刻化する中、同社は「利便性を損なわない路線の合理化こそ急務」とし、データに基づいた現状の把握や交通施策の意思決定支援に注力している。

「気分」に寄り添うAIレコメンドで移動と目的地を最適化/株式会社New Ordinary

株式会社New Ordinaryは、2020年に名古屋市で創業したAIスタートアップ。同社はユーザーの趣味嗜好やそのときの「気分」に応じたスポットを提案するナビアプリ「NOSPOT」を紹介した。
「NOSPOT」は、移動の“手段”ではなく“目的”に焦点を当て、独自のAIモデルによる高度なレコメンド技術を搭載。協調フィルタリング、自然言語処理によるファインチューニング、行動ログの統計解析を組み合わせ、ユーザーごとに適した目的地を提示する。また、MaaSと連携し、渋滞や遅延に応じた交通手段の最適化と、体験のパーソナライズを同時に実現しているのも特徴だ。
事例としては、名古屋観光コンベンションビューローと連携した「AIレコメンド観光マップ」や、大阪・関西万博期間中のオーバーツーリズム回避を目的とした大阪広域データ連携基盤(ORDEN)との取り組みを紹介。今後は、「NOSPOT」のAIレコメンド機能をAPIとして他社・自治体へ展開し、観光・MaaS領域での活用拡大を目指すという。

レンタカーDXで地域交通のインフラ再構築と業務革新を目指す/株式会社 KAFLIX CLOUD

株式会社 KAFLIX CLOUDは、地域交通の「リ・デザイン」とレンタカーDXを手掛けている韓国発のスタートアップ。同社は、レンタカーを交通空白地における移動手段の補完的な役割として位置づけ、レンタカー産業のデジタル変革(DX)に取り組んでいる。
レンタカーは観光やドライブだけでなく、日常の荷物運搬や地域インフラとしての役割も担っているが、人手不足やアナログな業務対応といった課題が多く残る。こうした課題に対し、同社はレンタカー管理システム「Reborn」や、多言語対応のセルフチェックイン端末、グローバル在庫管理(GDS)機能の提供などを通じ、生産性の向上と業務効率化を図っている。
将来的には、完全無人でのレンタカー貸し出しを可能にする店舗運営を目指している。日本では現在、無人貸し出しに関する制度上の制限があるが、同社はこれに対しても制度見直しに向けた提案を進めていく意向を示した。

坂道に強い電動アシスト自転車が交通空白を補完する新たな移動手段に/ジヤトコ株式会社

最後に登壇したのは、自動車用変速機で世界トップシェアを誇るTier1サプライヤー、ジヤトコ株式会社。同社は新規事業として、電動アシスト自転車向けのドライブユニットを開発。モーターと変速機を一体化したリアハブユニットにより、従来比でレシオカバレッジが25%向上し、坂道も快適に走行可能。ギアノイズも20%削減する。
アプリ連携にも対応し、アシストの強弱をシーンに応じて調整可能。走行ルートに応じた交通情報の提供や注意喚起の通知、ふらつき防止機能など、安全性にも配慮している。
富士市での活用事例では、新富士駅・富士駅からのバス接続が不便な地域において、自転車による移動が有効な選択肢となることを実証。坂道の多い地域でも、電動アシストによる快適な走行と健康促進を両立し得るモビリティとしての可能性が示された。今後は、シェアモビリティ事業者との連携も視野に入れているという。

地域交通DXプロジェクト「COMmmmONS」(コモンズ)発足
産学官連携で持続可能な地域交通の未来を目指す
クロージングセッションにおいて、国土交通省の内山氏は「最後のピッチセッションまで、どの発表も非常に興味深かった。みなさんも各発表を聞きながら、『こんなこともできるかもしれない』と思いついたことがあるだろう。そうしたアイデアを、今後の新しい事業や技術の開発につなげていただきたい」と述べた。
そして、「国土交通省では、地域交通DXを一緒に推進してくれるパートナーを募集している。今回の各セッションをご覧いただいた方々には理解いただけたと思うが、我々が求めているのは、単純な“委託-受託”という関係ではなく、リアルな課題解決を目指すとともに、ソリューションの実現に熱意をもって取り組んでいるパートナー。みなさんが成し遂げたいことと、我々が政策的課題として掲げることが合致する点を互いに見いだし、協業していける――そうしたパートナーを求めている。実現したいアイデアをお持ちの方は、ぜひ参画してほしい」と語り、イベントを締めくくった。
国土交通省では、MaaS2.0の取り組みを発展させ、2025年6月から地域交通DXプロジェクト「COMmmmONS(コモンズ)」を新たにスタート。6月末にはティザーサイトを公開した。同プロジェクトでは、地域交通の課題をデジタル技術の力で乗り越え、連携・協働を軸とした変革を推進し、すべての人がアクセス可能な社会基盤として持続可能なモビリティサービスの実現を目指す。今年度には、「交通空白」解消に向けてスタートアップや学生によるコミュニティイベントも各地で開催予定だ。産学官という枠や地域、世代を超え、持続可能な地域交通の未来の構築に挑んでいく。
Updated: 2025.07.31
文: 松下 典子(Noriko Matsushita) 編集: 北島 幹雄(Mikio Kitashima)/ASCII STARTUP 撮影: 曽根田 元(Gen Soneda)