資料6−1

「産業構造転換に対応した都市政策のあり方懇談会」

報告骨子(案)


T.検討の背景と問題意識

@これまで我が国の都市政策(都市計画)は、土地利用規制と都市基盤施設整備とを主要な政策手段としながら、基本的には、工業化の進展とそれに伴う人口・産業の都市への集中による旺盛な土地需要に対応するため、良好な住環境を備えた新市街地の形成と産業立地の受け皿整備を主要なテーマとして取り組んできた。

Aしかし現在では、人口の都市集中の鈍化、少子高齢化の進展、生活者ニーズの多様化、環境問題の高まり、情報化の進展、経済のグローバル化など都市をめぐる状況は大きく変化している。

B特に産業構造については、我が国全体の就業者数や生産額に占める商業・サービス業など第三次産業の割合がますます高まる一方で、製造業など第二次産業の割合は停滞するとともに、情報・通信分野をはじめとする新たな産業の成長や、製造業における生産性の向上や先端化など、その量と質の両面において大きな構造転換が進んでいる。

Cまた、産業構造の転換に伴って既成市街地において工場跡地等の遊休土地が大量に発生するとともに、そのような企業保有の遊休地の適切な処理を進めることが、資本の生産性向上による我が国産業の国際的な競争力回復の観点から求められている。

D以上のような状況から、都市政策(都市計画)の主たるテーマは、かつての新市街地整備から既成市街地の再整備に移ってきているが、これまで産業の発展が経済・生活の両面において都市に大きな影響を及ぼしてきたことを考慮すれば、産業構造の転換は都市のあり方そのものに大きな変容を迫るものであると考えられる。

Eこのため本懇談会においては、現在我が国が直面している産業構造転換の動向とそれが都市に及ぼす影響を把握し、新たな産業構造に対応しつつ、21世紀の豊かで活力ある経済社会の基盤として都市の再構築を図るための、基本的な考え方や方策を明らかにすることを目的として検討を進めてきたところである。

Fなお、今回は主に東京圏をはじめとする大都市地域を念頭におき、産業構造転換に伴って遊休化が進む工業地の問題を中心に検討を進めたところであり、地方圏における都市政策のあり方等については、あらためて検討が必要であると考えている。

U.産業構造の転換の動向と都市への影響

1.産業構造転換の動向

@産業構造転換の動向を、まずはこれまでの産業別就業者数の構成比の推移で見ると、1950年以降商業・サービス業等の第三次産業の割合が一貫して高まっているのに対し、製造業等の第二次産業の割合は1970年以降微減に転じている。

A同様に産業別国内総生産の構成比も、第三次産業の割合が徐々に高まるのに比べて、第二次産業の割合は1970年以降ほほ横ばいとなっており、なかでも製造業については、1990年代に入って生産額も横ばいとなっている。

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Bまた、今後の動向について通商産業省の産業構造審議会が行った予測では、産業別就業者数では第三次産業に従事する者の数が引き続き増加し、なかでも情報・通信、ビジネス支援、娯楽・生活サービス、教育・医療・福祉等の分野で著しい伸びが予測されている反面、製造業に従事する者は横ばいか微減であり、建設業や、第三次産業の中でも卸売・小売業への従事者は減少するとされている。

C今後の産業別生産額では、卸売・小売業を含む第三次産業全般が著しく増加すると予測されており、製造業についても、機械製造業などが比較的高い伸びを示す一方で鉄鋼・非鉄金属等は微増にとどまるなど業種によって差がでるものの、全体としては増加傾向にあると予測されている。

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Dこのような量的に表れる変化とは別に、例えば情報技術が今日では多くの産業に導入され、産業活動に欠くことのできない基盤となっているように、それぞれの産業の内部において質的な転換や高度化が進んでいる。

E製造業の分野においても、先端技術の導入等による生産性の向上や高付加価値化、新製品開発による新たな市場の開拓、ISO14000の取得等にみられる環境対策の強化などを通じて今日の経済社会の様々なニーズに対応するとともに、それぞれの企業という側面からは、専業化あるいは多角化、分社化やアウトソーシング、生産設備の一部海外移転などを通じた経営の効率化・低コスト化により、厳しい国際競争への対応が図られている。

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Fなお、こうした状況に加え、多様な雇用を生み出す製造業は将来ともに我が国の雇用確保にとって重要な産業であることや、先端化・高度化して資本集約的・知識集約的な性格を強めている分野の製造業は容易に海外移転できないことなどから判断すれば、今後我が国の産業全般の中でいわゆるソフト産業の占める割合が相対的に高まるものの、中長期的に見て製造業全体が急速に縮小するという状況にはないと考えられる。

   

2.産業構造転換が都市に及ぼす影響

(1)産業構造転換に伴う土地利用の動向と都市計画の対応

<製造業について>

@製造業の立地特性をみると、明治の殖産興業期以来、市街地から離れた田園地帯等に個々の事業者の判断により立地し、その後の市街地の外延化に伴って一般市街地に包み込まれた非計画的な工業地と、第二次大戦後の高度成長期を中心に、国や地方公共団体の積極的な関与のもと、臨海部や内陸部において一般市街地と隔離する形で計画的に造成された工業地とに大別することができる。

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Aこのうち前者の非計画的な工業地については、都市計画においてもその集積の実態に見合った用途地域等を指定し、産業の保護と住環境の保全の両立が図られてきたが、周囲との摩擦や土地価格の上昇、比較的ゆるやかな土地利用規制、比較的高い公共施設の整備水準などを背景に、また規模拡大など工場側の要請も反映する形で、これまでも土地を売って工場が転出し、跡地が他用途に転用されることが恒常的に行われてきた。特に大都市地域では、昭和30〜40年代の工場制限三法により既成市街地内の多くの工場が転出し、跡地が計画的な住宅地や大規模商業施設など地価負担力がより大きい用途に転用されている例が少なくない。

B都市計画ではこうした動きに対し、土地利用転換の実態に即して用途地域の変更等が行われてきた。特に1980年代には、産業構造の転換による大規模な工場跡地等の発生に対応し、再開発地区計画制度や新たな面的整備事業などが整備され、計画的な住宅地や商業施設への転換が促進された。

C一方、後者のような計画的に造成された工業地については、工業用地の造成に併せて必要な公共施設を整備し、既成市街地からの移転も含めて積極的に工場を誘致するとともに、工業専用地域指定などの土地利用規制を適用してその保護を図るということが行われてきた。

Dこうした工業地では、厳しい転用規制、産業利用を想定した公共施設の整備水準、一般の市街地とは分離されていることなどから、他用途への転用は必ずしも容易には行われず、工業地として比較的安定した土地利用が維持されてきた。

Eしかしいずれのタイプの工業地も、1970年代から顕著になった産業構造の転換により、それまでにない規模とスピードで転換や遊休化が進んでいる。特に近年では厳しい国際競争の中で、企業の競争力回復の観点から過剰生産設備の整理等が行われ、結果として発生する遊休地の有効活用あるいは処分が検討されている。

Fなお、近年の工場敷地面積の推移をみると、鉄鋼、化学が、1970年代以降ほぼ横ばいであるのに対し、電気機械、輸送用機械は伸びてきているが、新規工場立地のための用地取得は、1989年以降減少が続いている。

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新規・成長産業について>

Gこれから成長が期待されている情報・通信、生活文化、ビジネス支援などの産業は、一般に広い事業用地は必要とせず、むしろ顧客や事業協力者との近接性、新しい産業に適応した優れた労働力、創造的な都市環境などを求めて、半ば自然発生的に既成市街地内に立地する傾向のものが多い。このため、都市計画等による直接的な誘導は難しく、また、遊休地に対する土地需要という点では、あまり多くを期待できない。

Hなお、新規・成長産業の中でも廃棄物処理・リサイクル産業、バイオテクノロジー産業などは、一般的な市街地とは隔離された比較的大規模な土地を必要とする可能性がある。

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(2)遊休地の発生状況

@工場等の遊休化の実態を包括的に捉えた調査はほとんどないが、経団連会員企業を対象に今回実施した「遊休地実態調査」やその他の既存調査等からは、大量の遊休地の発生とその多様な実態がうかがえる。

Aまず遊休地の種類についてみると、保有企業等が遊休地として捉えているものの中には、大小様々な規模の工場や資材置き場の用地のほか、比較的小規模な営業所、保養所、社宅等の敷地、大規模なリゾート開発を予定していた山林など様々な土地があり、その現況も、更地に限らず遊休化した施設が残っている場合など多様である。

B次に遊休地の発生場所についてみると、既成市街地内、臨海部及び都市郊外に大別され、それぞれ周辺環境や開発ポテンシャルなどが異なるが、その規模については、リゾート開発予定地を除けば大規模な遊休地は主に臨海部で発生している。ただし、その中にも数ヘクタール規模のものから300ヘクタール規模のものまで大きな幅がある。なお、既成市街地内の中にも、一部に数10ヘクタール規模の大規模な工場跡地が存在している。また、臨海部や都市郊外の計画的工業地では、遊休化した工場の隣に操業中の工場があり、当面遊休化の予定もないという例が多い。

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C遊休化の時期についてみると、工場用地が遊休化するのは1970年代以降に見られる現象であるが、特に1990年代に集中している。この中には、事業拡張予定地として購入された土地が、その後の経済情勢の変化や社内事情により、未利用のまま置かれている例も少なくない。また、営業所、保養所、社宅等の敷地などが遊休資産として扱われるようになったのは最近の特徴である。

Dこうした遊休地を保有する企業は、企業会計上の資産圧縮の観点から当該土地を売却したいという意向が一般には強いが、実際には、既成市街地内など開発条件の優れた土地については処分や土地利用転換が進んでいるものの、臨海部の工業専用地域や臨港地区内にある大規模な工場跡地等については、売却先が見つからず、また自ら開発することも困難であるという例が多い。

Eこのため、遊休化した状態のまま置かれたり、当面は駐車場や資材置き場として暫定的に利用されているが、土地の売却や転換が進まない要因としては、厳しい土地利用規制や都市基盤施設の不足ということに加えて、今後の人口・産業の動向のもとで、遊休地の規模や立地条件、売却希望価格等に適合する新たな土地需要が少ないという面もあると考えられる。

Fなお、そうした遊休地を保有する企業の対応には、地元自治体とも連携を図りつつ積極的に開発構想を検討するものから、当面は模様眺めのという姿勢のものまで、それぞれの社内事情を反映してか相当の幅が見受けられる。

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(3)産業構造転換の都市への影響

@産業構造の転換は、例えばいわゆる企業城下町における工場閉鎖等が、地域の雇用機会の減少、消費の落ち込み、地元自治体の税収の減少などを通じて当該都市の経済基盤を脅かしかねないように、都市そのものの成長や衰退に大きな影響を及ぼすものである。また、これまでの都市が、工業化の進展と密接に関連して形成されてきたように、長期的には産業構造の変化が、我が国の経済・社会システムや文化、ライフスタイル等に大きな変化をもたらし、今後の都市のあり方に根本的な変容を迫る可能性も考えられるが、こうした根本的あるいは長期的な影響のほかにも、次のような影響が考えられる。

Aまず、産業構造転換に伴う遊休地の大量発生は、用途地域等において想定している土地利用のあり方と矛盾するほか、放置すれば市街地の荒廃や既存の都市インフラの不効率化をもたらすおそれがある。

Bまた、他用途への土地利用転換が行われる場合にも、例えば工場地帯への無秩序なマンション立地が、劣悪な居住環境を形成するとともに周囲の既存工場の存立を脅かし、製造業の活力を奪うおそれがあるなどの問題が生じる場合もある。

C逆に、密集市街地における防災公園等の確保や、面的な市街地整備の種地や都市基盤施設整備に伴う代替地としての活用、大規模性を生かした商業・業務・交流等の新たな拠点や良好な環境を備えた都心居住地の形成など、都市再構築を進めるうえでの貴重な空間資源として遊休地が活用できる可能性も考えられる。

D他方、産業構造転換の過程で生まれる新規・成長産業の中には、既成市街地の物的・社会的・文化的なストックを基盤として半ば自然発生的に立地するものが多いことから、従来の都市政策で誘導することは難しいが、新規・成長産業が発展する環境を用意できるかどうかは、その都市の成長に大きく影響する可能性がある。

Eまた、廃棄物処理・リサイクル産業、バイオテクノロジー産業など、居住系の土地利用とは相容れない種類の新規・成長産業もあるが、こうした産業に対してどのように対応するかも重要な課題である。

Fさらには、持てる知識や技術を若い人に伝えながら働きたいと望む元気で経験豊かな高齢者や、子育てや家事をこなしながらも家庭の外で働きたいと望む女性などが働きやすい環境を整えるため、職住近接型の都市形成のニーズがますます高まると考えられる。

  

V.産業構造の転換に対応した都市政策の基本的な考え方

1.これから求められる都市像

@現在わが国では、人口の大半が都市に居住し、経済活動の大部分が都市で営まれているが、都市をめぐる状況は、産業構造の転換をはじめ、人口の都市集中の鈍化、少子高齢化の進展、生活者ニーズの多様化、環境問題の高まり、情報化の進展、経済のグローバル化など大きく変化している。

Aこうした変化に的確に対応し、21世紀の豊かで活力ある経済社会を築いていくためには、ハード・ソフト両面にわたる生活環境の一層の向上や安定した雇用の確保に加えて、情報技術を基盤とする高度に知的・感性的な産業を発展させ、あるいは伝統的な技術を再生させることを通じて特色ある都市文化・地域文化を醸成し、国際的な交流を深めることが必要である。このため、優れた人材が育ち、集まり、活発に交流するような質の高い居住、労働、遊びの場と文化的環境とを備えた魅力ある都市の形成が重要である。

Bすなわち、21世紀の豊かで活力ある経済社会の基盤となる安全・快適で利便性と文化性の高い都市の創造を図るため、既成市街地の再編・整備を中心に都市の再構築を図ることが、今日の都市政策の最重要課題となっている。

Cこの際に目指すべき具体的な都市像は、今後の経済・社会の動向により不透明な部分も多く、また、それぞれの都市固有の条件に応じて異なるとも考えられるが、おおよその方向としては、経済、文化、交流等の諸活動が都市を舞台として活発に展開されるようなコンパクトで職・住・遊のバランスがとれた都市であり、かつ地域固有の歴史、文化等を反映し、市民共有の資産として世界に誇りうるような都市という姿を描くことができる。

D特に産業構造転換との関連では、低公害の都市型製造業や商業・サービス業が都市における産業の過半を占めるようになり、なかでも情報、生活文化など今後の経済成長をリードする産業が魅力ある創造的な空気に充たされた都市環境を求めることや、少子高齢化社会に対応した働きやすい雇用の場の確保という問題を考えあわせれば、基本的には、これまでのような用途分離型の都市構造・土地利用から、用途混在・職住近接型の都市構造・土地利用への転換がより一層求められると考えられる。

Eなお、従来から都市に立地してきた製造業や新規・成長産業の一部には、混在型の土地利用には馴染まないものもあるため、そのような産業活動のためのスペースが必要であることにも留意する必要がある。

 

2.産業構造転換に対応した都市政策のあり方

(1)基本的な方針

@これからの都市政策の基本は、既に述べたように、安全性と快適性と利便性と文化性とを高いレベルで備えた魅力的な都市空間の創造に向けて、既成市街地の再編・整備を中心に都市の再構築を図ることである。

Aこのことは、都市における市民生活の質の向上のみならず、既成市街地の物的・社会的・文化的なストックを基盤として成立する新しい産業を振興する上で重要であり、それらを通じた都市の競争力の維持・向上を図る上でも不可欠である。

Bまた、都市の再構築を進めること自体が、「都市づくり産業」とも呼ぶべき新たな産業クラスターを成長させる可能性も期待できる。これは、従来の建設業や不動産業の枠にととどまらず、都市の魅力づくりに関する総合的な企画・調整や、民間資金を都市開発に誘導するためのファイナンス、新しい建設材料や建築物のリニューアル技術、移動・エネルギー・ゴミ処理等に関する高度なシステム、都市型観光サービスなどに関連する非常に裾野の広い産業クラスターである。

Cこのような認識のもとに都市の再構築を進めるためには、従来の都市政策の枠組みにとらわれず、産業政策、福祉政策、文化政策等と一体化した総合的な取り組みが重要である。特に用途混在・職住近接型のまちづくりを進めるためには、従来行われてきた用途規制にとどまらず、地区計画や特別用途地区の活用を含めて、よりきめ細かな土地利用のコントロールが必要になるものと考えられる。また、比較的短いサイクルで変化する産業活動と、長期的なストックとなる土地・建物との関係を調整するため、建築物の形態や街並み、あるいは環境面のコントロールを中心とする手法を導入することなども視野に入れながら、検討を進めることも必要である。

D産業構造転換の過程で大量に発生している工場跡地等については、基本的には都市の再構築を進める観点からその活用を検討すべきであるが、当面は我が国における製造業全般が急速に縮小するという状況にはなく、したがって遊休地の発生は個々の事業者の事情を反映してランダムになっている一方で、転換後の土地需要が量的にはあまり多くを見込めず、また、地方公共団体にとっても、急激な土地利用転換は地域の雇用確保や安定的な都市環境の維持の観点から必ずしも歓迎される状況にはない。さらに従前の土地利用の状況によっては、土壌汚染の可能性を考慮することが必要になる場合も考えられる。

Eこうしたことを考えあわせれば、工場跡地等について全般的に転換を促進するのではなく、将来の需要も見据えて適切に対応することが重要であり、少なくとも既成市街地内に非計画的に立地した工業地と、臨海部や都市郊外で計画的に造成された工業地とでは、それぞれの形成経緯を考慮した対応が必要である。

Fなお、企業の遊休資産の処理とそれによる企業経営の改善そのものは、我が国産業の再生・発展を図る上で重要な緊急かつ課題であるが、第一義的には産業政策の視点からとらえられるべきものであり、都市政策上の課題と混同すべきではない。

(2)非計画的工業地における遊休地の取り扱いについて

@既成市街地内にある非計画的工業地については、これまでも恒常的に転換が図られてきたところであり、一般的には産業用途と隣接する居住用途との摩擦の解消にも効果があることから、今後も土地利用転換の要請があれば、原則として都市計画においても積極的に対応することが適切である。

Aただし転換に際しては、比較的規模が大きい工場跡地等は既成市街地に残された貴重な空間資源であり、防災性の向上など周辺市街地の整備・改善のために活用できる可能性があることから、地方公共団体による先行取得をはじめ、その公的利用を優先的に検討すべきである。

Bまた、公的利用を行わない場合にも、転換後の新たな土地利用が都市構造や周囲の市街地環境にどのような影響を及ぼすかを個別に検討し、必要に応じて望ましい土地利用形態を示し、開発事業者を誘導すべきである。

Cその上で、再開発地区計画等の活用や、転換に関する手続きの迅速化をより一層進めるとともに、必要に応じて面整備事業の活用や関連公共施設の整備、都市基盤整備公団等の参画などを通じ、積極的に土地利用転換を促進すべきである。

(3)計画的工業地における遊休地の取り扱いについて

@計画的工業地については、遊休地が大規模に発生する場合が比較的多く、その転換は将来の都市構造に大きなインパクトを与えうるものであることから、工業地の立地の広域的な位置付けに応じて、都市計画のマスタープランにおいて土地利用の概ねの方針を明らかにした上で、個々の転換の要請に対応することが適切である。

A基本的には、臨海部の工業地等のうち一般の市街地に隣接する地区については、当該地区に対する広域的な土地需要、当該地区内での土地利用の混在状況、公共施設の整備状況や将来の整備構想を考慮した上で、地区内の従来からの土地利用と著しい齟齬がない場合には、原則としてプロジェクトごとの部分的な転換を認めるべきである。

B一方、臨海部において港湾機能、運河、広幅員道路等に接続し、一般市街地からは隔離され、工業または流通の機能に特化している地区や、内陸部の計画的な工業団地や流通団地については、当面、既成市街地内の非計画的工業地からの移転も含め、原則として工業または流通の機能の中での転換を図るべきである。特に、今後は一般市街地から隔離された大規模な産業用地を新規に確保することが困難であることから、将来において廃棄物の処理・再生、バイオテクノロジーなど一般市街地とは相容れない産業への転換も視野に入れることが必要である。

Cただし、複数の工場等が集積する一体的にまとまった地区において、少なくとも地区の過半が遊休化し、あるいは遊休化することが確実であり、かつ地区内の土地所有者の合意に基づく他用途への転換の事業的な目途が立った段階では、当該地区の一体的な土地利用転換に柔軟に対応することが適切である。

Eなお、計画的工業地においても他用途への転換を進めることとなった場合には、非計画的工業地の場合と同様に、公的利用の可能性を検討するとともに、必要に応じて土地利用規制の緩和、関連する手続きの迅速化、面整備事業の活用や関連公共施設の整備、都市基盤整備公団等の参画など、転換が円滑に進むような措置を積極的に講じるべきである。

Fまた、工業利用から工業利用への転換を進める場合にも、最近の企業経営合理化の下で、従来は同じ工場敷地内で用意されていた福利厚生等の機能が外部化される傾向にあることを考慮すれば、就業者に対する快適な労働環境の提供の観点から、工業地への比較的小規模な商業施設やサービス施設、交流施設等の限定的な立地に対して、その内容を個別に判断して柔軟に対応すべきである。

(4)遊休地の発生と転換需要との調整について

@遊休地を保有する企業の多くは、当該土地のできるだけ早い売却や土地利用転換を希望しているが、工場施設等の遊休化はそれぞれ企業の固有事情によって生じるため、その時期や場所をあらかじめ都市計画で想定することは困難であるとともに、無秩序な土地利用転換は周辺との摩擦など土地利用の混乱を招くおそれがある。

Aまた、立地条件や売却希望価格にもよるが、最近の経済情勢のもとでは遊休地に対する本格的な需要は限定的であり、将来の需要動向についてはも不透明な部分が多いため、遊休地の売却や土地利用転換を図ろうにもなかなか具体化しないという状況が見られる。

Bこのような状況のもとで、産業競争力回復のための過剰生産設備の処理の促進と、将来をも見据えた望ましい土地利用の実現との両立を図るためには、当該遊休地をその規模や立地条件等に応じて、暫定的に店舗、娯楽施設、スポーツ施設、倉庫、駐車場、資材置き場、緑地等として利用することが有効である。

Cまた、暫定的な利用には、土地利用の将来動向を見極めるための実験、市場の変化への迅速な対応、新産業の苗床となる低廉な床の供給など様々な可能性も期待できる。

Dなお、こうした暫定的な土地利用を円滑に進めるために、遊休地の所有者等に対する土地保有コストの軽減などの経済的な支援が必要であれば、主として産業政策の観点から検討すべきであるが、必要に応じて都市計画等においても、期間を限定した土地利用制限の緩和など柔軟に対応すべきである。

Eまた、暫定的な利用が、一般開放される緑地の整備や将来の公的利用に備えた一時転用など都市再構築を進める上でも意味がある場合には、都市政策の観点からも遊休地の所有者等に対する経済的支援について検討すべきである。

  

W.大都市地域における工場跡地等の活用に関し重点的に取り組むべき政策

1.産業構造転換に対応した都市政策のあり方に関する指針の明示等

@都市政策(都市計画)において、産業構造の転換に伴う遊休地の発生等の課題に的確に対応し、魅力的な都市空間の創造を推進するためには、実際の政策の担い手である地方公共団体において、それぞれの地域固有の事情を考慮しながら、産業構造転換の状況に対する正しい理解のもとに、適切な判断と柔軟かつ迅速な対応が行われることが重要である。

Aこのため、本懇談会で提案する産業構造転換に対応した都市政策の基本的な考え方を、地方公共団体に対する指針として明示すべきである。

Bさらには、広域的に都市の再構築が必要な大都市地域においては、国、地方公共団体等による協議会など、産業構造転換に対応した都市政策を推進するための強力な連絡調整体制の整備を図るべきある。

 

2.工場跡地等の暫定利用を円滑に行うための制度の整備等

@遊休地の土地利用転換に関する都市計画制度等の整備がかなり進んでいる中で、産業構造の転換と都市の再構築との調和を図るためには、遊休地の発生と転換需要とを調整する暫定的な土地利用を円滑に行うための制度を充実することが重要である。

Aこのため、まずは産業政策の観点から、過剰生産設備の処理等に伴って発生する遊休地を暫定的に他用途に転用する場合の、事業者に対する経済的な支援措置について検討すべきである。

Bまた、都市計画の観点からも、暫定的利用に対する土地利用規制の緩和等を柔軟に行うための制度的枠組みや、都市環境の改善等に寄与する暫定的な利用に対する経済的な支援措置について検討すべきである。

 


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