第2部 海上交通をめぐる現状・課題と政策的対応
エネルギー需要に応えるLNG船 (2)不定期船部門
(i)不定期輸送市場の動向
 次に、不定期船で運ばれるばら積み貨物の大半を占める原油、鉄鉱石、石炭及び穀物の地域別荷動きについてみると、原油については中東からアジアへの荷動きが最も多く、また、石炭・鉄鉱石については大洋州からアジアへの荷動き、穀物については北米からアジアへの荷動きが最も多い(図表2-1-13)。
 原油、鉄鉱石及び石炭については、アジアにおけるエネルギー需要や建設需要の増加に伴い、1996年までアジア発着の荷動きが占める割合がほぼ堅調に伸びてきている。また、穀物についても、東南アジア諸国や中国における食肉消費量の増加に伴って、飼料穀物の需要が伸びているため、やはりアジア発着の荷動きが増加している(図表2-1-14)。
 しかしながら、1997年以降については、アジア通貨危機の影響により増加傾向に歯止めがかかっている。


図表2-1-13 世界の不定期主要貨物の海上荷動量(1996年)


図表2-1-14 不定期主要貨物アジア向け荷動き量推移
(ii)運賃水準の動向
 不定期船の運賃水準については、海上荷動き量と船腹供給量との需給バランスを基礎としつつ、世界の政治・経済上の要因や、天候、季節的要因により絶えず変動する点が特徴である。
 タンカーの運賃は、基準運賃指標である「 ワールド・スケール(WS) 」 の何%という決め方がなされ、刻々と変動している。低迷を続けていたペルシャ湾/日本の運賃水準の最近の推移を見ると、1996年に回復基調に転じた結果、97年10月にはWS100となっている。これは、95年から96年にかけて韓国でタンカー油濁事故が続いたことから、同国において老齢船の用船についての自粛通達が出されたり、高齢タンカーに対する高額の準備金の賦課政策が打ち出されたため、質の高い若い船齢の用船を韓国が日本と引き合い、運賃上昇をもたらしたことによる。しかし、2ヶ月後の12月には、韓国航路を就航するVLCCの用船契約が激減し、VLCC運賃は安値でWS50を割り込んだ(図表2-1-15)。
 このように、不定期船については特に運賃水準の変動が激しいため、企業においては運賃変動のリスクをヘッジするべく、 数量契約 又は 連続航海用船契約 をしていることが多い。


図表2-1-15 ペルシャ湾/日本VLCC運賃の推移
(3)その他
(i)世界の外航船員の状況
(A)欧州における船員事情
 外航海運では文字どおり世界規模での競争が繰り広げられており、各国の海運企業は、生き残りをかけて、コスト削減策を進めてきた。
 こうした取り組みの一つとして、海運企業は、世界最大の船員供給国であるフィリピン等人件費の安い発展途上国の船員の配乗が可能であり、かつ、有利な税制度を有する 便宜置籍国 に自国籍船を移籍したり、現地に設立した自己の海外子会社に船舶を建造・保有させて現地国籍としており、現在ではそうした便宜置籍船を活用する方法が多くなっている。
 この結果、ノルウェー、イギリス等の海運国と呼ばれる国々でも自国籍船が減少し、これに伴い自国船員も減少を続けてきた。こうした状況に対応すべく、欧州各国は80年代後半より相次ぎいわゆる国際船舶登録制度等を創設し(図表2-1-16)、税制上の優遇措置、補助金等の予算措置等を講じることにより自国籍船にコスト競争力を取り戻させて、自国籍船隊及び自国船員の減少傾向に歯止めをかけるための取り組みを続けている。


図表2-1-16 諸外国の国際船舶登録制度等について
(B)船員需要の高まり
 先進国においては、海外への移籍等による自国籍船の海外流出の影響を受け、船員数が減少傾向にある。しかしながら、その内訳を見ると、 部員 については必ずしも質を問わず、コストの安い外国人船員を中心とする一方、 職員 については、船舶の安全運航への荷主の信頼を確保すること、 修繕費、保険料等も加味したトータル・コストの縮減や航海中の船舶管理の充実等を通じた オフハイヤー の最小化によって収益の向上を図ること等の見地から、自国船員を含めた優秀な船員に依存する傾向も見られる。こうした傾向は、 国際安全管理コード(ISMコード)(参照) の強制化や、 PSC の監督事項に有効な資格を有する船員の配乗の確認を追加すること等を内容とした STCW条約 の1995年改正の発効等、国際的な安全基準の強化の動きを受け、近年一層強まっている。
 また、乗組員のより高度な技術と豊富な経験を必要とする複雑な設計構造を有する船舶や大型船が増加していることからも、十分な資格能力と経験を有する船員に対する需要が増加している。


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