第2章 創造的で活力ある21世紀の国土をつくるために
我が国は戦後の高度経済成長を通じ、高品質なモノを大量に生産する技術を有した輸出中心の工業国として国際競争力を確保した。しかし、バブルの崩壊を契機とした景気の低迷に加え、国際環境の変化を受け我が国の国際競争力は低下を余儀なくされている。例えば、欧州有数のビジネススクールであるIMD(国際経営開発研究所)が毎年国別の競争力を順位付けし発表しているが、その2000年版の報告によると、47カ国中我が国は17位となっており、90年代前半では上位にあったことと比べると大きく低迷している状況にある(図表2−1−2(b))。現在競争力が優位にある国では見られるが我が国には不足している「海外の資本、人材、技術、さらには交流人口(観光客等)を呼び込む魅力」を高めるという視点が重要になる。産業面に限らず生活面を含め「魅力的な国」を創り上げていくことが、今後人口減少を経験していく我が国の活力創出のための一つの方向となり得るものであり、国土や社会資本においてもその方向に沿った整備・活用が求められる。
このため、国際拠点空港や国際拠点港湾の整備はもとより、それらを連絡する国内幹線道路ネットワークの連携のとれた整備を行い、都市内物流を含めた物流システムの効率化と物流コストの低減を図ることが重要となっている。特に大都市圏における物流の効率化、交通の円滑化に関し、環状道路の整備の遅れによる影響が指摘されており、東京圏を例にとってみると、放射道路の整備率が9割に達していることに対し環状道路の整備率は2割にとどまっており、これはロンドンやパリと比較しても極めて低水準である(図表2−1−5(a))。
この結果、首都圏中央連絡自動車道の内側では渋滞ポイントが約600箇所にも及び、また、東京圏の都市部では都心部に発着点のない交通の流入等の影響により旅行速度が極めて低くなっている。3環状9放射の自動車専用道路網が完成すれば、これらの不経済な状況が改善されるほか、自動車から排出される二酸化炭素や窒素酸化物等も大幅に減少することが見込まれる。また、環状道路は、過度に中心部に一極集中した構造から、周辺の拠点的な都市を中心に自立性の高い地域を形成し、相互の機能分担と連携・交流を行う分散型ネットワーク構造の構築に重要な役割を果たし得るものでもあり、早急に整備していく必要がある。しかし、環状道路の完成までには、なお相当の期間がかかるものと予想されるため、1)ITS(高度道路交通システム)の活用や2)交通需要の管理を行うことにより都市内の物流の効率化、交通の円滑化を図る必要がある。
次に、活力ある国土を形成するための「海外からの交流人口の拡大」策については、多様な都市の魅力を楽しむ「都市観光」による交流の拡大の可能性がある。例えば、東京商工会議所が外国人を対象に「東京の魅力」の所在を尋ねた調査によれば、日本や東京の個性・文化・景観に魅力を感じている人は多くなっており、必ずしも新奇性のある施設や名所、イベント等のみが観光資源になるものではないといえる(図表2−1−12)。したがって、このような1)『日本の個性や歴史・文化的視点を意識したまちづくりや景観づくり』、さらには2)『おもてなしの心(ホスピタリティ)に溢れた接客精神の醸成』を各都市・地域が行うことが観光資源を掘り起こすことになり、あわせて3)『交流・観光手段である道路や交通機関の利便性を高める』ことが、交流・観光対象としての我が国の潜在的「魅力」を引き出し、向上させる基本的な条件であると考えられる。また、このような「観光」以外にも、大規模な国際会議や展示会などの開催による交流拡大も有効な手段となり得る。
現在国際競争に欠かせないインフラとして世界的に注目を集めているものがIT(情報技術)であり、我が国がこの分野で遅れをとることは許されないといえよう。このITの進展・普及は経済構造や経済活動から個人の生活様式まで様々な局面に影響を与えることが考えられる。特に、仕事の内容によっては在宅勤務・SOHOを促進させることが考えられ、今後職住一体又は近接の生活様式が普及することになれば、居住者を引きつける生活環境が整っていることが重要となるため、地域の活性化の観点からも、生活環境に配慮したまちづくりを行っていくことが求められる。また、光ファイバーの敷設による道路、河川、下水道などの高度な管理や、地理情報システム(GIS)の活用による災害対応や環境管理など、社会資本においてもITの果たす役割は大きく、最近では都市計画マスタープランの策定過程においてインターネットを活用して住民の意見を募るなど、公共事業への住民参加の手段としても重要になっている。
また、世界的に地球環境問題が人類共通の優先課題と認識される中、国レベルで環境問題に積極的に取り組むことが国際競争に参加する前提条件となっている。例えば、地球温暖化については、温室効果ガス(二酸化炭素、メタン等)の削減に向けて国際的な取組みが行われており、住宅・社会資本分野においても、住宅・建築物の断熱化等による省エネルギー化、自動車交通の円滑化によるエネルギー効率の向上、二酸化炭素排出の少ない都市構造の形成等の取組みを行っている。今後は、国、地方公共団体、企業や住民が協力することによって、環境と共生し、持続的な発展が可能となる国づくり・まちづくりを行い、「魅力的な国」の形成を実現する段階に入っており、住宅・社会資本の果たし得る役割は大きい。
21世紀は全国的に高齢化を伴った人口減少が進行し、国土の「広大なる過疎化」がもたらされることにより、我が国全体の活力が失われることが危惧されている。一方で、高速道路網等が着実に整備されてきたことにより地域間の交流が活発化しており、今後さらに交通ネットワークが整備されていくことに伴い地域間交流は飛躍的に高まる可能性を有することになる。このような中で、居住・交流両面において『魅力ある都市圏・生活圏への選択と集中』の傾向が強まることが予想され、それぞれの地域が利便や魅力を求めて集まる定住人口・交流人口を確保するための一層の努力を余儀なくされる「地域間競争の時代」が本格的に到来しようとしている。
また、全国的な高齢化を伴う人口減少は社会資本整備・管理の面においても大きな課題を投げかける。「人口規模と住宅・社会資本整備水準のミスマッチ」による国土管理の非効率性の問題や、財源の制約、さらには既存社会資本ストックの維持補修や更新費の増大などを考えると、今までのように全国各地においてフルセットの社会資本整備を目指すことは必ずしも効率的ではなく、その地域の発展にとって真に必要なものを戦略的に整備していくという姿勢が必要になってくる。その際、公共事業にはさらなる重点化・効率化・透明化が求められる一方、競争を通じた個性ある地域づくりによる活力や魅力の維持拡大の視点から、創意工夫をする地域に対するインセンティブを与えることも重要である。
前節でITの進展による影響について概観したが、地域の発展にとっても大きな影響を及ぼし得るものである。まず、インターネット等を活用した情報発信への取組みが地域の活性化にとって重要な手段の一つとなりつつあり、個性ある地元情報を発信し、地域の魅力をアピールすることにより、交流人口が増加していく可能性がある。また、インターネットによる通信販売という新たな手法の浸透により、地方部においても大都市に集中する消費者を対象として地元特産品・工芸品等の販売を行うことができるようになり、地域産業にとって重要なツールとなりつつある。また、先に述べてように、在宅勤務・SOHOといった職住近接・一体の形態が増加することが考えられ、生活環境に配慮したまちづくりの行われた地域が選択される可能性が高い。このSOHOに関しては、地域経済の活性化に資する産業の育成・支援という観点から、地域の活性化をにらみ各自治体においてその支援の動きが広まっている。このようにITの進展は、地域の活性化にとって有用なツールとなるものであると同時に、人々の生活様式の変化に伴ったまちづくりを地域に促す大きな圧力となっているといえよう。
また、交流を生み出すためには、地域の人々がその地域において生き生きとした生活を送る土台が築かれていることが重要であり、「持続可能な暮らし」に向けた生活環境づくりを行い、「地域の魅力」を増大させる基盤を整えることが地域の活性化のためには不可欠である。そのためには、地域が活性化し今後安定的な成長を遂げ持続していくための基本要素である「医・職・住」に地域ごとに特色のある他のサービス(「遊・学」など)を付加しその充実を各地域が図っていくことが必要である。特に地域全体から見た「住」環境の整備の重要性について見ると、バリアフリー化のほか、美しい景観やリフレッシュできる公園等の「遊」空間、生涯学習や地域文化・歴史・産業と連携した「学」空間、拠点都市との交通利便性などが魅力的な「住」環境の重要な要素となるが、これからの高齢社会においては、このような魅力的な「住」環境の形成を図る上で、住宅や福祉に関する公的サービスだけでなく、地域の人的資源を活用しつつ、高齢者の自立支援をはじめ地域社会(コミュニティ)の「住」を支えるソフトな仕組みをつくっていくことが重要になる。高齢者や障害者の自立を支援するNPO等地域の人的ネットワークは、個人の自主的な参加を通じて、地域で支える福祉社会づくりに寄与するだけでなく、社会に貢献しようとする「公たる自覚」を醸成し、コミュニティの新たな活力となろう。
さらに、競争力の確保の観点からは地域の拠点都市を中心とした一定の広がりをもった都市圏レベル、広域的な生活圏レベルでの連携(市町村合併や広域連合など)が必要になる。このような連携により、先に述べた人口減少の進行に伴う国土管理の非効率性等の問題や、既存社会資本ストックの維持補修や更新費の増大による新規投資の圧迫の問題は緩和される可能性がある。むしろ、広域的視点から、戦略的なプロジェクトや公共施設の整備、土地利用などを行うことができるようになり、効率的な地域づくり・まちづくりを推進していくことが期待できるというスケールメリットが注目される。
日本経済が長期間にわたり低迷し、産業競争力の強化が焦眉の急となっている現在、我が国の住宅・社会資本整備を担う建設産業についても、建設投資の低迷と建設業者数の増加、コスト縮減の要請など公共投資を取り巻く環境の大きな変化、建設市場の国際化による競争の激化などから、その経営環境が極めて厳しくなっており、大きな構造変化に直面している。また、近年(平成2年から10年)における全要素生産性(TFP)の成長率を産業別に比較した場合、建設業は−5.1%と低下しており(図表2−3−1)、これは、マクロでみた建設業の実質労働生産性の低下にも対応している(図表2−3−2)。
1.建設産業における市場環境整備への取組み
建設産業は、企業間の公正な競争を通じ、21世紀の経済社会のニーズに応えられる創造力と活力を有する産業となることが求められている。このような建設業の再生は、基本的には、各企業の自己責任、自助努力により進めていくべきものであるが、行政においても、将来展望を提示しつつ、企業の多様な選択を可能にする環境整備と競争性を重視した公正な市場環境整備を行うことが必要である。このような観点から、量的な側面だけでなく質の面をも重視した経営への転換、企業の連携強化による経営力・技術力の充実など、新たな企業経営の展開が進められており、大手クラスを中心に総合建設会社の再生に向けた努力を促し、企業自身による「経営組織の革新」と「連携の強化」の動きが加速するような競争的な市場環境の整備を進めているところである。
例えば、建設市場はその約半分が公共発注に依存していることから、市場のあり方も公共工事の入札・契約制度に大きく影響されており、制度の適切な運用が重要であるが、建設省においては、一般競争入札方式の採用など公共工事の入札・契約手続の透明性・客観性、競争性の大幅な向上を図り、「不正が起きにくい」システムづくりを進めるとともに、最近では、価格以外の技術力等の要素を重視した入札・契約方式の導入も進めているところである。
建設産業においては、従来から「重層下請構造」が存在し、これが契約関係の明確化、労働条件の改善、取引関係の自由化等を図ろうとする場合の構造的な問題となっていることが指摘されていた。このような建設産業の構造改善については、昭和63年の中央建設業審議会の答申以降、数次にわたるプログラムを策定し、行政、業界団体一体となった取組みを推進することにより、労働時間の短縮や人材の確保、契約や代金支払の適正化、経営の改善、雇用の調整等の分野において、一定の成果を上げてきたところである。今後とも、不良・不適格業者の排除の徹底、元請業者や下請業者からなる協議会等の自主的な取組みの推進、経営改善や情報化による生産性の向上、優秀な人材の確保・育成と雇用労働条件の改善等の課題について、自主的かつ重点的に取り組むべきテーマを明らかにするとともに、各事業者団体と行政の役割分担についても明らかにして、具体的な取組みを進めることが求められている。
2.建設産業における労働生産性の向上
現下の厳しい建設市場環境の下では、元請、下請を問わず、現状のまま全ての建設業者が生き残ることは不可能である。今後は建設市場における競争が一層激化すると予想され、1)コストダウン、2)品質、商品開発能力、提案力による差別化、の2つの局面で競争力の強化が求められている。一方、建設市場におけるこのような競争の激化と、まもなく労働力人口の減少が推計されていることを踏まえると、長期的に見て有効な生産性向上策と考えられるものは、建設産業の単品受注の現場生産という性格から、現場の総合管理監督を担う技術者と、直接施工を担う建築大工、鳶・土工、塗装等の専門工事業において現場の施工管理や直接施工を担う職長や技能者の資質の向上を図ることが重要となってくる。つまり、建設産業はヒトで成り立つ産業であり、労働者の有する能力で品質やコストが大きく左右される産業としての観点からの生産性の向上を目指すべきである。
3.建設産業におけるIT革命の方向性
建設産業に課せられている生産性の向上という課題に応えるためには、前述のような人を大切にする施策を中心にした現場の労働生産性の向上に加え、ITの活用による生産性向上を図ることが必要である。
1) 生産性向上による建設生産システム全体の改革をもたらす
ITの活用により、現場施工を担う部門から、営業、設計、財務管理、資材調達を担う 部門まで、全部門が共通の問題意識をもち,情報共有を進めるコカレント・エンジニアリ ングにより、例えば現場で生じた問題をリアルタイムで設計部門においても把握して現場 と同時進行型で解決策の提案ができ、また現場においても設計部門の指示を待たずとも設 計情報をもとに暫定的な問題解決が可能となるなど、生産プロセス全体の生産性が向上す る。
2) 「ストック・メンテナンスの世紀」への対応
リフォーム(維持・補修・改修)市場の拡大に伴い、各企業とも過去に施工した建築物 などの基本的な数値データ、クレーム情報と対応記録、定期的な診断結果などを電子情報 化した履歴情報の有無が、受注の際の大きな武器になり、企業対消費者(B to C)の取 引が拡大し、将来の大きなビジネス・チャンスを生むと考えられる。
3) 電子商取引等による建設資材の商流・流通システムの改革を促す
我が国でも、製造業の分野でインターネットによる部品調達が本格化し、調達部門の雇 用削減・配置転換、調達コストの削減に効果をあげはじめている。建設産業においても、 公共工事のコスト縮減などの観点から、電子商取引による資材調達の合理化が将来期待さ れ、建設CALS/ECの平成16年までの全面導入を目標とした取組み等が行われている。