6 良質な住宅宅地ストックの形成
 
 
1.住宅・宅地の供給の動向
 
(1)新設住宅着工戸数・床面積の推移
 平成11年度は、住宅金融公庫融資の大幅拡充、住宅ローン控除制度の実施をはじめとする税制改正、経済対策等の政策効果により、住宅取得環境が改善され、第3四半期にはやや水準を下げたものの、年度全体では122.6万戸(前年度比4.0%増)と、3年振りに前年水準を上回った(図2−6−1)
 また、新設住宅着工床面積は全体で11,956万m2、1戸当たり平均床面積は、前年度比3.6%増の97.5m2となった。利用関係別にみると、持家が0.2%増の139.3m2、貸家が3.8%増の53.2m2、分譲住宅が2.8%増の95.4m2となっている。
 
(図2−6−1)
 
 
(2)宅地供給の現況
 宅地供給量は、昭和47年度の23,400haをピークに減少に転じ、昭和60年代以降、約1万ha強とほぼ横ばいで推移してきたが、平成10年度の宅地供給量は、全国で8,800haとなっている(図2−6−5)
 
(図2−6−5)
 
 
2.住宅・宅地政策の課題と展開
 
(1)住宅事情の現況と問題点
 平成10年の住宅・土地統計調査によれば、全国の住宅数は総世帯数4,436万世帯に対して5,025万戸となり、一世帯当たりの住宅数は1.13戸に達し、戸数面での充足は進んでいる。住宅の質的な面については、一戸当たりの平均床面積が92.4m2に達し、全体として着実な向上が見られるものの、その内訳を見ると、持家122.7m2、借家44.5m2と差が生じており、依然として標準的な世帯向けの賃貸住宅ストックは極めて少ない状況にある。
 また、世帯と住宅との対応関係を示す居住水準についてみると、全世帯が確保すべき目標である最低居住水準に満たない世帯は、平成5年の7.8%から平成10年には5.1%となり、着実に最低居住未満世帯率は減少している。
 しかしながら、平成10年住宅・土地統計調査によれば、三大都市圏の最低居住水準未満の世帯は7.0%であり、全国平均5.1%よりも高い。特に所有関係では借家に住む3〜5人の世帯では、19.4%と高くなっている。
 また、平成10年住宅需要実態調査によれば、約1/3の世帯が住宅及び住環境に不満を感じている。特に、住宅の広さに限らず、住宅性能、住環境についての不満が高くなっている。
 
(2)新たな住宅宅地政策の方向性
 第七期住宅建設五箇年計画が平成12年度をもって終了することに鑑み、新たな計画の策定に当たって、住宅・住環境の現況及び社会経済情勢の変化に、より的確に対応するため、平成10年9月「21世紀の豊かな暮らしを支える住宅・宅地政策はいかにあるべきか」について、建設大臣から住宅宅地審議会に対して諮問がなされ、平成11年9月にその中間報告がなされた。
 同中間報告では、今後の住宅宅地政策の方向を考えるに当たって、1)これまでは土地取得に強い関心を置いた住宅宅地資産の形成が行われてきたが、成熟社会においては、居住サービスを生み出すものとしての住宅宅地の確保の側面が強調されること、2)国民の価値観、家族形態の多様化に対応して、「居住ニーズ」が多様化すること、3)成熟社会への移行、環境制約等から限りある資源を有効に活用していく必要性が高まること等から良質な住宅宅地ストックを適切に管理維持し、長く使っていくという視点が必要となること、が重要であるとされている。
 こうした点を踏まえ、的確な住宅宅地政策の転換を図るに当たっては、市場機能の活用により国民の多様な選択を可能とする「市場重視」、社会全体に備わっている住宅ストックを有効に活用していく「ストック重視」、の2つの視点が重要であるとされている。
 
(3)第七期住宅建設五箇年計画の推進
 平成8年3月に策定された第七期住宅建設五箇年計画(平成8〜12年度)においては、イ)国民のニーズに対応した良質な住宅ストックの整備、ロ)安全で快適な都市居住の推進と住環境の整備、ハ)いきいきとした長寿社会を実現するための環境整備、ニ)地域活性化に資する住宅・住環境の整備、を基本的目標として定めている。
 居住水準の目標としては、誘導居住水準(4人世帯、共同住宅91m2、一戸建123m2)については、平成12年度までに全国で半数の世帯が、その後できるだけ早期にすべての都市圏で半数の世帯が確保できることを目標とし、このため、平成12年度において住宅一戸当たりの平均床面積を約100m2とすることを目標として良質な住宅ストックの形成に努めることとしている。また、最低居住水準(4人世帯、50m2)については、大都市地域の借家居住世帯に重点を置いて水準未満の世帯の解消に努めることとしている。なお、性能及び設備の目標については、本格的長寿社会となる21世紀の住生活に対応するために住宅が備えるべき段差の解消等のバリアフリー性能、遮音や断熱性能、耐久性能等を盛り込む等、所要の拡充を図り、その着実な改善を図ることとしている。
 計画期間中における民間を含めた総住宅建設戸数については、730万戸を見込み、そのうち、公的資金による住宅建設の量としては、352.5万戸(平成10年1月変更)を見込んでいる。
 また、第七期住宅建設五箇年計画期間における諸施策の推進に当たっては、公的住宅供給を、民間との適切な役割分担の下、住宅市場を補強・補完するものとして推進を図ることとしているが、公団住宅、住宅金融公庫融資の主要制度について、事業の重点化と政策誘導機能の強化を図る方向で所要の見直しを行なっている。
 特に、平成11年10月に住宅・都市整備公団を廃止して設立された都市基盤整備公団は、地方公共団体、民間事業者等との協力及び役割分担の下に、大都市地域等において、居住環境の向上及び都市機能の増進を図るための市街地の整備並びに賃貸住宅の供給及び管理に関する業務を重点的に行うこととしている。
 さらに、住宅金融公庫融資制度については、平成12年の通常国会において、住宅金融公庫法を改正し、イ)新築住宅について、一定の耐久性を要件化することと併せ、償還期間を35年に一本化、ロ)良質な中古住宅に対する融資の充実、ハ)計画的な共同・協調建替えを支援する「都市居住再生融資制度」の創設、を行うなど、成熟社会に向け、良質な住宅ストックの形成、維持・管理の促進、中古住宅の流通促進等の観点から、公庫融資制度の総合的な見直しを行った(表2−6−1)
 
(表2−6−1)
 
 
(4)密集住宅市街地の整備
 大規模地震時に市街地大火が生じるおそれ等がある密集住宅市街地について、「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」や密集住宅市街地整備促進事業等の補助制度の活用による集中的な事業の実施により、可能な限り早期に密集市街地の防災性の確保と居住環境の改善を図ることとしている。
 
(5)少子・高齢社会に対応した住宅政策
 本格的な高齢社会の到来に対応し、安心、快適で自立した高齢者居住を実現するため、建設省においては平成12年4月に「総合的な高齢者居住政策の基本的方向」を発表し、1)高齢者の安心、快適で自立した生活を支える住宅・住環境整備の推進、2)公民の適切な役割分担による高齢者の多様なニーズに応えた居住選択の支援、3)地域における高齢者を支える福祉と連携した生活環境の整備という3つの方向性に基づき施策の推進を行うこととしている。
 少子化問題に対しては、平成11年12月に少子化対策推進関係閣僚会議において策定された「少子化対策推進基本方針」において、ゆとりある住生活を実現するため、良質なファミリー向け住宅の供給を促進するとともに、夫婦で仕事や社会活動をしながら子育てがしやすい環境の整備を推進するため、職住近接の都心居住の推進、住宅と保育所等の子育て支援施設一体的整備等を推進することとされている。
 
(6)住宅・建築物における環境対策
 地球温暖化問題をはじめとした地球規模での環境問題の深刻化に対応して、住宅・建築分野においても、住宅・建築物の使用段階でのエネルギー消費量が増加していること、産業廃棄物の不適正処理の多発、住宅室内の化学物質等による健康影響への適切な対応が不可欠であること、などの問題が指摘されており、公的主体、住宅・建築生産者、消費者の各主体が、それぞれの立場で実効性のある環境対策を総合的かつ計画的に講じることが重要である。
 
(7)住宅建設コストの低減
 豊かさを実現できる住生活の実現に向け、住宅建設コストの低減のための施策が不可欠である。
 
(8)住宅の品質確保の促進
 住宅の品質確保の促進、住宅購入者等の利益の保護及び住宅に係る紛争の迅速かつ適正な解決を図るため、住宅性能表示制度と瑕疵担保責任の特例を内容とする「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が平成11年6月に公布され、平成12年4月1日に施行された。
 
3.大都市地域における住宅・宅地問題
 
(1)大都市地域における住宅・宅地問題の現況
 1) 地価の動向
 国土庁の平成12年地価公示によると、三大圏における住宅地の地価は、対前年変動率▲5.9%と平成4年以降9年連続の下落となっている。
 2) 住宅の年収倍率
 首都圏の新規民間分譲マンションの平均価格の勤労者世帯の平均年収に対する倍率は、地価高騰に伴って上昇し、平成2年には8倍に達したが、その後低下傾向にあり、平成11年には4.8倍となっている(図2−6−10)
 
(図2−6−10)
 
 
 3) 住宅立地の状況
 平成10年度に新規供給された宅地分譲と戸建て分譲の合計を、中心地からの距離帯別にみると、三大圏では約6割が20km以遠に立地しているのに対し、その他の地域では約8割が20km圏内において供給されている。
 4) 居住水準
 規模要因に関する達成状況をみると、平成10年時点で、主世帯のうち最低居住水準未満世帯率は全国で224万世帯(5.1%)であるが、三大都市圏で156万世帯(7.0%)、京浜葉大都市圏で99万世帯(7.8%)存在しており、また、誘導居住水準以上世帯についても、全国で46.5%、三大都市圏で40.7%、京浜葉大都市圏で37.7%となっており、大都市地域における居住水準向上の遅れが目立っている。
 
(2)都心居住の推進
 大都市地域においては、住宅立地の遠隔化により通勤時間が長時間化し、職住近接のニーズが高まっている。一方、都心地域においては、人口減少による居住空間の空洞化やコミュニティの崩壊等の問題が生じている。職と住のバランスのとれた都市構造を実現し、職住近接によるゆとりある生活の実現を図るには、政策的に都心地域における土地の有効高度利用と積極的な住宅供給を促進することが必要となっている。
 
(3)広域的計画体系に基づく住宅・宅地供給の促進
 大都市地域における住宅・宅地需要に対して、広域的な観点からの取り組みを行なうため、平成2年に改正された大都市法に基づき、平成3年に、三大都市圏の大都市地域について、国が供給基本方針を、関係都道府県が同方針に即し供給計画を策定した。同方針は平成8年に変更され、平成17年度までの10年間の住宅・宅地の供給目標量、供給促進施策等が定められた(表2−6−6)
 
(表2−6−6)
 
 
 現在、国及び関係公共団体は一体となって、既成市街地の有効利用、市街化区域内農地の計画的宅地化、新市街地の計画的開発、都心の地域その他既成市街地内における住宅供給の促進等を推進し、適正な価格での良質な住宅・宅地の供給を図るとともに、住宅取得能力の向上等の総合的な施策の展開を図っている。
 
(4)既成市街地における住宅供給の促進
 既成市街地においては、居住水準の向上、土地の有効・高度利用、職住近接の実現、公共公益施設の有効利用の観点等から中高層共同住宅の供給と、建替えによる住宅供給を推進する必要がある。また、既成市街地内の工場跡地等の低未利用地で一定規模以上のものについては、有効・高度利用を図ることにより周辺市街地整備とあわせた住宅供給を行なっていくことが重要である。
 
(5)大都市地域での良好な宅地供給の推進
 市街化区域内農地の住宅地等への転換の促進、定期借地権を活用した住宅・宅地供給の促進等に重点を置き、大都市地域内における近郊居住の実現に向けて、公共施設が適切に整備され、良好な居住環境を備えた住宅市街地の整備を図る。また、常磐新線・新駅の周辺における鉄道整備と一体となった宅地開発や緑・景観、高齢者等に配慮した良質な宅地開発を推進する。
 
 
 
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