8 健全な水循環・適正な国土管理に向けた新たな川づくり
 
 
1.現状と課題
 
(1)水循環型社会の構築
 イ 流域全体、社会全体を視野に入れた水循環システムの必要性 
 人間の諸活動を含めた流域における変化が水循環系に影響を与えていることから、これらの課題を解決すべく、流域単位での取組み及びこれに対する国民の理解が不可欠な状況となっている。
 一方、通常の河川改修だけでは対応が困難な、異常気象等を原因とした集中豪雨による大洪水や、地下街での浸水被害等新たなタイプの浸水被害が発生しており、流域全体での効果的な治水対策が必要となっている。
 健全な水循環系の構築に向け、社会全体を視野に入れた国土の総合的な整備・保全・管理を指向する必要がますます高まっている状況にある。
 ロ 水に関する基本理念の確立・共有 
 健全な水循環系構築について、水に関する関係6省庁で「健全な水循環系構築に関する関係省庁連絡会議」を開催し、平成11年6月、連携・協力のあり方等の基本的事項について、中間的なとりまとめが公表された。この中で、水循環系を取り巻く状況変化と問題点に対する施策のイメージとして、以下のように整理された。
 1)流域の貯留浸透・かん養能力の保全・回復・増進(水を貯える・水を育む)、2)水の効率的利活用(水を上手に使う)、3)水質の保全・向上(水を汚さない・水をきれいにする)、4)水辺環境の向上(水辺を豊かにする)、5)地域づくり、住民参加、連携の推進(水とのかかわりを深める)(図2−8−1)
 
(図2−8−1)
 
 
(2)安全で安心できる国土の形成
 イ 激甚な水害・土砂災害の頻発 
 平成11年は、大きな水害・土砂災害が相次ぎ、各地に爪跡を残した。
 ロ 国土基盤の現状 
 我が国は河川に比して地盤の低い沖積平野が多く、欧米諸国と比べ、治水が極めて重要な国土保全政策となっている。これまで着実に治水施設の整備を進めてきた結果、浸水面積は減少してきているが、被害額は傾向としては減っていない。また、物的な被害のみならず、ライフラインなどの都市機能の長期の麻痺等により、多大な影響を与え、さらに高齢社会の到来により災害弱者の増加も懸念される状況にある。
 ハ 安全な社会基盤の形成 
 今日の我が国の治水施設の整備は、欧米諸国と比較しても極めて不十分なものといわざるを得ない。21世紀初頭までに当面の目標を達成し、最低限必要な国民の安全を確保する上でも、今後とも治水施設等の整備を計画的かつ強力に推進していく必要がある。
 ニ 危機管理対応型社会の構築
 以下のソフト・ハード両面での対策を進め、危機管理対応型社会を構築していく必要がある。また、その際には国民一人一人が自らの生命等は自ら守るという考え方に基づいて判断し、行動することを念頭に置いて、対策を講じることも必要であると考える。
 1)危機管理対策の確立、2)総合的な都市雨水対策の確立、3)河川情報伝達による減災、4)壊滅的被害の回避、5)抜本的再度災害防止対策、6)地下空間における緊急的な浸水対策、7)高潮防災対策の充実
 ホ 総合的な土砂災害対策 
 1) 情報提供や警戒避難措置、住宅等の立地抑制も含めた対策の必要性
   〜土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律の制定〜
 6月末梅雨前線豪雨により広島市、呉市を中心に甚大な土砂災害が発生した。この災害は予測の難しい突然の集中豪雨に加え、土石流危険渓流数、急傾斜地崩壊危険箇所数がともに全国第1位の広島県の地形条件や山裾に展開した宅地という条件が重なり、同時多発的に土砂災害が発生した。
 建設省は「総合的な土砂災害対策に関するプロジェクトチーム」を開催し、土砂災害防止のための総合的な対策に関する法制度の整備、総合的な土砂災害対策に関する支援措置について検討を進めた。この検討結果を踏まえ建設大臣は河川審議会に総合的な土砂災害対策のための法制度のあり方について諮問し、平成12年2月答申された。この答申を受け、建設省は、既存の事業関連諸制度と相まって総合的な土砂災害対策を講じるため、土砂災害のおそれのある区域についての危険の周知、警戒避難体制の整備、住宅等の新規立地の抑制、既存住宅の移転促進等のソフト対策に関する新たな法制度として「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」を国会に提出した。平成12年5月8日に公布され、平成13年4月1日から施行される(図2−8−5)
 
(図2−8−5)
 
 
 2) 災害弱者関連施設に係る総合的な土砂災害対策
 平成11年は、全国47都道府県で1,501件の土砂災害が発生した。6月末の梅雨前線豪雨により広島県において土石流、がけ崩れで亡くなった24名のうち高齢者、障害者等の災害弱者は13名を占めるなど依然として多くの災害弱者が土砂災害の犠牲となっている。このため災害弱者に係る土砂災害対策が強く求められている。
 
(3)渇水ポテンシャルの増大と総合的な渇水対策 
 イ 水資源の現状
 我が国は水資源の安定的利用を図る上では極めて不利な気候的・地理的条件となるため、効率的かつ安定的な水資源の確保を図ってきたが、近年の少雨傾向及び1人あたりの使用水量の増加傾向から、水需要のひっ迫している地域を中心に渇水が頻発している。
 ハ 渇水に強い社会を構築するための総合的渇水対策
 渇水に強い社会の構築のため、水の再利用の推進、節水の促進等水資源を最大限効果的に活用するシステムを社会に組み込むとともに、渇水対策ダムの整備、水系間水融通及び既存水源の効率的運用等を積極的に推進することも重要である。
 ニ これからの社会・経済の展望と水資源開発
 今後、これまでのような急激な水需要の増加は考えにくい状況にある一方で、高齢化の進行による渇水等に対し抵抗力の弱い人々の増加等により、安全で安定した水に対する要望が一層高まるものと考えられ、水資源開発については、質を重視し、利水安全度の向上について取り組んでいくことが必要である。
 
(4)環境の保全と創出
 イ 多様性を考慮した河川環境への取組み 
 河川には、治水・利水の機能だけではなく、多様な自然環境や潤いのある水辺空間としての役割が求められてきており、こうしたニーズを踏まえ、多様な生物の生息・生育の場であり、人と自然が触れ合える河川や渓流の整備・保全を推進している。主な施策は、1)多様な河川形状を考慮した取組みの推進、2)河川・渓流における上下流方向の連続した環境条件の確保、3)流域での自然の広がりを考慮した取組みの推進などである。
 ロ 水環境の改善への取組み
 全国の一級河川の直轄管理区間における水質の現況は、長期的には徐々に改善傾向にあるが、都市域の河川の中には依然として水質汚濁の著しいものがある。また、閉鎖性水域の湖沼等の水質は近年横這い状態ないしやや悪化の傾向がみられる。このような河川・湖沼等の水環境の改善を図るため、各種事業を総合的に実施する。
 近時、ヒトを含む生物の生殖機能等内分泌系に悪影響を与える可能性が指摘されている内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)等の新たな水環境問題が顕在化してきており、関係省庁の実施する内分泌攪乱化学物質に係わる調査研究の結果も踏まえつつ、継続的な実態把握を実施する。
 平成11年7月にダイオキシン類対策特別措置法が成立し、同年12月にダイオキシン類に係る環境基準が告示された。建設省では、平成12年1月から全国の一級河川直轄管理区間におけるダイオキシン類の実態調査に着手し、今後も調査を継続するとともに、その結果を踏まえ、今後の監視計画やダイオキシン対策のあり方について検討する。
 ハ 多様な生物の生育・生息環境の確保
 貴重な動植物種については、その生息・生育環境を保全し、種の保護・増殖を図っていく必要があり、河川に生息する魚介類等並びに河川の利用実態等を調査する「河川水辺の国勢調査」の調査結果を河川改修や河川管理に活かし、河川における生態系に関する調査研究を推進する。
 ニ 海岸環境の整備と保全〜白砂青松の海岸を目指して 
 平成12年4月に施行された改正海岸法では、「防護」「環境」「利用」の調和のとれた海岸保全を行っていくこととしている。海岸部に供給される土砂について流域全体での総合的な土砂管理対策等を進め、「白砂青松」の海岸を構成するなど、防護・環境・利用に対する良好な空間としての機能を有する砂浜の保全に努める。施設の整備にあたっては、自然環境の保全に配慮する。
 また、今回の法改正により、車の乗り入れ等の行為の規制、油の流出事故等の原因者施行、違法な船舶等の放置物件についての簡易代執行等の制度を有効に活用して、海岸環境の整備と保全を進めていく。
 
(5)参加と連携による地域と河川の関係の再構築
 近年、貴重な水と緑の空間としての河川の役割が再評価され、参加と連携により地域と河川の密接な関係を再構築していくことが必要となっている。
 イ 地域の意向を反映した川づくり 
 河川の特性を活かした個性ある川づくりを実現するには、計画段階から地域との連携が不可欠であり、河川整備計画策定に地域住民、地方公共団体の長等の意見を反映する手続きを導入した。一級水系においては、留萌川水系等6水系の河川整備基本方針を策定し、現在、河川整備計画の策定手続きを進め、二級水系においては、上津浦川水系等9水系の河川整備基本方針が策定されるとともに、上津浦川及び気仙川の河川整備計画が策定されている。
 ロ 河川管理への市町村参画の拡充 
市町村が河川管理に積極的に参画することが求められていることから、河川審議会の「河川管理への市町村参画の拡充方策について」の答申を受け、河川管理への市町村参画を内容とする「河川法の一部を改正する法律」が平成12年4月28日公布された。市町村工事制度の拡大、政令指定都市への河川管理権限の委譲を内容とする。
 ハ 流域における市民団体等との連携活動の強化 
 河川に関するどのような側面において、どのような内容で市民団体等と一緒になった取組みを進めていけば、よりよい川づくりを行うことができるかということに関して検討し、具体的に実現するべく、河川審議会において「河川における市民団体等との連携方策のあり方について」審議がなされている。
 ニ 地域との関係再構築に向けた情報化の推進 
 平成11年8月には、地域の独自性を活かした地域と河川の関係の再構築を図るため、住民が河川管理者と共同して活動を展開する姿を目指し、1)環境、歴史・文化に関する情報の充実、2)画像情報や体験型の情報提供による河川に対する住民の関心の喚起、3)地域の住民が主体的に河川に関わるための支援について施策を展開する必要があるという内容の河川審議会答申が出された。
 ホ まちづくりと連携した都市内河川整備の推進 
 河川の持つ防災機能や環境機能等を活かした良好な河川及び沿川地域の整備を推進し、都市の安全性・防災性の向上、都市環境の向上を図る。
 ヘ 「川に学ぶ」社会の実践に向けて
 河川審議会「川に学ぶ」小委員会が平成10年7月に取りまとめた報告を受けて、平成10年9月に「川に学ぶ」研究会を設置し、川を活かした環境教育の実践に向けた具体的方向を打ち出すよう検討を進めている。
 ト 「河川レンジャー」制度
 日常的な環境モニタリング、河川利用者への窓口等を行う専門家「河川レンジャー」制度のあり方について検討を進めている。
 チ 河川の自然性を踏まえた適正かつ安全な河川利用に向けて 
 河川利用上事故を未然に回避するために、河川利用者の自己責任のあり方や適正な河川利用、安全確保のあり方について検討を進めている。
 リ 福祉の川づくりの推進 
 堤防に緩やかなスロープや手すり等の設置、車椅子での利用の体験会等により、全ての人が親しみやすい川づくりを推進する。
 ヌ 新たな海岸保全の計画制度等の推進
 平成12年5月16日、建設大臣を含む三大臣が共同で海岸保全基本方針を策定、公表した。さらに、方針に基づき、都道府県が住民の意見等を反映した海岸保全に関する基本的な事項を定める「海岸保全基本計画」を作成することとしている。
 
(6)生活・文化を含めた河川伝統の継承と発展 
 川と人との長い歴史を振り返り、先人の智恵に学ぶことの重要性が見直されてきており、平成12年1月、「川における伝統技術の活用はいかにあるべきか−生活・文化を含めた河川伝統の継承と発展−」について河川審議会から建設大臣に答申がなされ、保存と活用に当たっては、現代技術と伝統技術を整合させ、バランスよく融合し活用することが重要であること、また、河川伝統技術の範囲は、ハード的なものだけではなく、ソフト的なものまで含めて考えることが適当であるという認識のもと具体的な提言を行っている。
 
(7)21世紀の世界の水ビジョン 
 イ 世界の水ビジョン
 21世紀の水問題を解決するために、WWC(World Water Council)が設立された。このWWCでは、21世紀に向けた世界水委員会を発足させ、21世紀における世界水ビジョンが2000年3月にオランダ・ハーグで開催された第2回世界水フォーラムで発表され、閣僚級会議では閣僚宣言が採択された。
 ロ 水に関する国際的取組み
 現在、韓国、中国、フランスとの間で科学技術協力協定に基づく二国間会議を開催しており、今年度からは新たに米国との間に二国間会議を開始し、第1回目を日本で開催する予定である。
 
(8)土砂災害に関する国際的取組み 
 インドネシア、ネパール、フィリピン、ヴェネズエラ、ホンデュラス、イラン等に土砂・火山災害対策を目的とした専門家・調査団の派遣等を行っている。
 また、「第1回日伊土砂災害防止技術会議」が、平成11年11月1日〜4日東京都内、鹿児島県において実施された。
 
2.平成11年度、12年度の主要施策
 
(1)平成12年度の主要施策の概要
 イ 平成12年度の基本方針 
 平成11年に激甚な水害、土砂災害が多発したことをふまえ、「信頼感ある安全で安心して暮らせる国土づくり」を強力に推進し、生活関連の社会資本整備を重点実施する。さらに、総合的な土砂災害対策の推進のための制度を創設するとともに、河川管理への市町村参画の拡大等を行う。
 ロ 主要施策
 主要施策は以下のとおり。
 1) 緊急防災対策の重点実施として、イ)激甚災害地域緊急防災対策、ロ)都市機能等の壊滅的被害を防ぐ大規模災害等危機管理対策、ハ)床上浸水頻発地区緊急解消対策、ニ)災害弱者関連緊急土砂災害対策、ホ)緊急的渇水対策、ヘ)災害情報伝達ネットワークの整備。
 2) 総合的な土砂災害対策として、イ)特定緊急(砂防・地すべり対策)事業の創設、ロ)災害関連急傾斜地崩壊対策特別事業(がけ特)の創設、ハ)土砂災害情報相互通報システム整備事業の創設、ニ)砂防関係事業調査費補助制度の創設。
 3) 流域やダム周辺を対象とした治水対策として、イ)ダム周辺の山林保全措置制度の創設、ロ)流域貯留浸透事業の対象の追加、ハ)流域水防災対策事業の創設、C)災害復旧助成事業において、必要に応じた氾濫流対策の局部的な実施。
 4) 地域の自主性、多様性を考慮した河川等の整備として、イ)河川管理における市町村参画の拡大、ロ)統合河川整備事業の創設、ハ)特定小川災害関連環境再生事業(特定小川災害関連事業の拡充)。
 5) 防護・環境・利用の調和のとれた海岸事業の拡充 
 6) 河川管理に関する国と地方の役割分担については、平成11年3月26日の第2次地方分権推進計画閣議決定を踏まえて、同年8月5日に河川審議会より「河川管理に関する国と地方の役割分担について」の答申がなされ、役割分担についての基本方針、一級水系指定等の考え方及び基準等が示された。今後はこの答申を踏まえ、平成12年度中を目途に関係地方公共団体との調整を進める予定である。
 
(2)アカウンタビリティの向上等に向けた取組み
 イ 事業の効率的・効果的実施のために
 緊急防災対策の重点実施、事業箇所の統合、厳選等による重点投資を実施する。また、他省庁との連携施策・事業を強化し、平成12年度から林野庁と連携し、自然豊かな海と森の整備対策事業(白砂青松の創出)、総合的な流木災害防止緊急対策等を実施する。
 ロ 事業の透明性の確保 
 1) 再評価の実施
 公共事業の効率性及びその実施過程の透明性の一層の向上を図るため、昨年度同様に再評価を実施し、評価結果を平成12年度予算に反映した。
 2) 新規事業採択時評価システム
 平成12年度の新規事業箇所についても、昨年度同様、各事業毎に総合的に事業を評価する際に整理すべき指標(必要条件・事業の優先度)及び判断基準を明確化し、全ての新規事業箇所について、その内容を公表した。
 3) 費用便益分析の推進
 治水事業の費用便益分析においては、平成11年6月に「治水経済調査マニュアル(案)」(平成12年一部改定)を作成し、平成12年度新規採択箇所から活用している。
 砂防等事業においても今後、マニュアルを作成し、公表していく予定である。また、環境整備の経済評価手法等についても検討を進めていくこととする。
 4) 事後評価の試行
 平成11年度より一部の直轄事業において事後評価の試行を実施している。
 なお、ダム等事業については、「ダム等の管理に係るフォローアップ制度の試行について」(平成8年2月7日河川局長通達)により、これを事後評価と位置付けている。
 ハ 地域との対話の推進 
 平成9年の河川法改正の趣旨に従い、流域住民の方々から広く、多種多様な意見を聴き、対話を積み重ねていくことが重要である。例えば、吉野川における取組みとして第十堰について、流域住民の方々と現在の可動堰以外の種々の代替案も含めて、今後とるべき対策について議論していくこととしている。
 
(3)所管事業長期計画の推進
 第9次治水事業七箇年計画、第4次急傾斜地崩壊対策事業五箇年計画、第6次海岸事業七箇年計画を推進する。 
 
 また、平成11年度、12年度の主要施策として以下の施策を行っている。
(4)信頼感ある安全で安心できる国土の形成
(5)自然と調和した暮らしと環境を創出する治水事業等
(6)個性あふれる活力ある地域社会を形成する治水事業
(7)危機管理体制の拡充
(8)河川管理等の充実
 
 
 
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