(品質の確保)

 昨今、トンネルのコンクリート落下事故をはじめとする公共工事の品質確保の不足が事故を引き起こすケースや、また住宅についても欠陥住宅問題が社会問題化するなど、住宅・社会資本の品質の確保が重要な課題となっている。この中で、住宅・社会資本のエンドユーザーである国民は、公共工事については、「商品」の代替性が弱いため、「質の悪いものを避ける」という選択肢がなく、住宅の場合であっても、様々な形で情報開示がなされてきたとはいえ、情報の非対称性から最適な選択は難しい。
 品質が確保されたものをつくることは「ものづくり」精神の基本であり、それによって安心感、信頼感のある豊かな国民生活を築く、ということを忘れてはならない。

(1)公共工事の品質確保
 後述するように、公共工事のコスト縮減は、限りある財源を有効に使うための重要な課題である一方、品質が確保されていない「安かろう、悪かろう」の社会資本であっては、国民生活や生命・財産の安全を守ることができず、結局は国民にとって割高な買い物となってしまう。コストを下げることの要請と、質の高いものを提供することの要請を両立させることにより、品質確保を図ることが重要である。
 このため、建設省においては、平成10年2月に「公共工事の品質確保等のための行動指針」を定め、公正さを確保しつつ、良質なモノを低廉な価格でタイムリーに調達する責任を「発注者責任」として明確にした。
 また、コンクリート落下による一連の事故を受けて、建設省・運輸省・農林水産省による「土木コンクリート構造物耐久性検討委員会」が設置され、平成12年3月に提言が取りまとめられた。具体的には、コンクリート構造物について、耐久性を確保することは、剥落による第三者被害の防止に有効なだけではなく、ライフサイクルを通した費用の最小化のために重要であるとの認識に立ち、コンクリート構造物の建設システムや維持管理システムのあり方について提言されている。
 なお、詳細については「第2 国土建設施策の動向」の「III 建設技術に関する総合的な取組み」を参照されたい。

(2)住宅の品質確保
 国民のニーズの多様化に対応して、国民生活の基盤である「居住」についても競争を通じた適正な価格の下で、多様な選択が可能となるようにしていくことが必要とされている。このためには、住宅政策全般について、これらの多様な選択が市場機能の活用によって実現できるような体系へと転換していくことが求められており、市場のゆがみにより自由な選択が阻害されている場合には、その阻害要因を除去するなど、国民が適切に判断し安心して選択できるようにしていく必要がある。
 例えば、一般消費者が住宅を建設・取得する際には、自己責任原則の下で的確な判断が行えるよう、住宅供給者側が住宅の質に関しての情報を十分に開示し、また、その情報の確実性の高いことが要求される。しかし、現状においては、情報の非対称性が存在し、一般消費者が住宅供給者側と対等の立場で、安心して住宅を建設・取得できるような環境が十分に整備されてはいないといえる。
 このため、住宅の品質確保の促進等に関する法律が平成12年4月1日に施行され、住宅性能を契約の事前に比較できるよう新たに性能の表示基準を設定するとともに、客観的に性能を評価できる第三者機関が設置されるほか、性能評価を受けた住宅に関わるトラブルに対しても紛争処理の円滑化、迅速化が図られることとなる。
 なお、詳細については「第2 国土建設施策の動向」の「VI 良質な住宅宅地ストックの形成」を参照されたい。