1.災害に強い安全な国土づくり

(1)治水対策

 我が国は、国土の約10%の洪水氾濫区域に人口の2分の1、資産の4分の3が集中しており、洪水から生命や財産を守る堤防やダム等の治水対策は重要な課題である。このため、再度災害防止対策の重点実施、都市機能麻痺を防ぐための総合的な対策の推進、各種事業の効率的実施、きめ細やかな情報提供等ハード・ソフト両面から治水対策に取り組んでいる。

図表II-6-1 地盤の大半が洪水時の水位より低い日本の都市
図表II-6-1 地盤の大半が洪水時の水位より低い日本の都市

1)地域の意見を反映した河川整備計画策定への取組み
 近年、貴重な水と緑の空間として人々に潤いを与えるという河川の役割が再評価され、地域と河川の関係を取り戻そうとする気運が高まりつつある。治水を推進するに当たってもこうした意識の高まりを踏まえ、住民の参加と連携により地域と河川の密接な関係を再構築していくことが必要とされている。
 このため、平成9年に改正された河川法では、今後の約20〜30年間に行う具体の河川整備の内容を定める河川整備計画の策定に当たって、河川管理者は、案の作成段階から学識経験者の意見を聴き、また地域住民の意見を反映させるための措置を講ずることとしている。これに基づき、公聴会や説明会の開催、インターネットなど地域の実状に応じた手法を用いて、地域住民からの意見聴取を行うなど様々な取組みが行われている。また、地域の意向を十分に反映するため、案に対する関係地方公共団体の長の意見を聴取することとしている。一級河川については、13年12月1日現在、国土交通大臣管理区間について4河川、都道府県知事管理区間においては12水系17圏域で河川整備計画が策定されている。また、二級河川については38河川において河川整備計画が策定されている。


<多摩川水系河川整備計画の策定>

 東京湾に注ぐ多摩川は、過去、水害の発生を引き起こしてきた一方で、都市に残された水と緑のオアシスとして流域の市民に親しまれるとともに、多摩川を通じた流域の市民交流を実現してきた河川である。この多摩川において、約30回の開催中に延べ600人の地域住民の参加があったふれあい巡視や8回にわたる開催の中で延べ800人もの市民が参加した流域セミナー等の場を通じた議論、さらに5回にわたる学識経験者の意見の聴取などを目的とした流域委員会等での議論などを踏まえ、平成13年3月、河川整備の前提を定めるなどの3つのポイントと治水・利水、環境の整備内容などを示した5つのアクションからなる斬新な河川整備計画が策定された。

【3つのポイント】
・環境や利用に配慮した河川形状にする「河岸維持管理法線」
・多摩川の自然保護、利用ルールづくりを促進「機能空間区分」
・「川づくり全般の計画」:河川敷利用のルールづくりや情報提供システムの構築などの「ソフト対策の推進」

【5つのアクション】
・治水整備の目標は「戦後最大規模」
・"多摩川そのものが博物館"「多摩川流域リバーミュージアム」
・住民と行政が協力して川づくりを行う「協働の維持管理」
・多摩川の水の使われ方を解明する「水流実態解明プロジェクト」
・危機に備えたまちづくり「高規格堤防(スーパー堤防)」

市民アクション(川歩き+意見交換の場)



2)再度災害防止対策の推進
 水害により大きな被害を受けた地域を対象として、同規模の災害を再び発生させないため、周辺地域を含めた対策を短期間に集中的に行っている。

図表II-6-2 再度災害防止対策
図表II-6-2 再度災害防止対策



図表II-6-3 東海豪雨(平成12年9月)による被害及び庄内川・新川激特事業(河川激甚災害対策特別緊急事業)による効果
図表II-6-3 東海豪雨(平成12年9月)による被害及び庄内川・新川激特事業(河川激甚災害対策特別緊急事業)による効果



3)柔軟な治水対策
 長期間河川改修が困難な地域において、住宅・宅地等を洪水被害から守るために住宅地の嵩上げや輪中堤等の事業を実施し、短期間かつ経済的に家屋の浸水対策を実施する (13年度創設) 。

図表II-6-4 柔軟な治水対策(水防災特定河川事業)
図表II-6-4 柔軟な治水対策(水防災特定河川事業)

4)地域の裁量的な河川整備
 一定規模以下の河川工事を対象に、都道府県ごとに策定された事業計画に沿って統合的な補助金を交付し、地域で裁量的に事業を実施することにより、創意工夫による個性的な地域づくりを推進する統合河川整備事業を実施している
(2級は12年度、1級は13年度創設) 。

5)ボトルネック橋梁対策
 下流の改修が進んでいるにもかかわらず橋の改良が出来ていない場合にはその上流の改修が進まず、一連の区間としての安全度が確保できない。そのため13年度は、河川改修に伴い架け替えられる鉄道橋について、固定資産税の特例措置を拡充するなどのボトルネック橋梁の改良促進のための施策を実施している。

 <ボトルネック橋梁>
ボトルネック橋梁

6)ダム群再編等による治水・利水機能等の向上
 貯水池容量の効率的な再配分等により、洪水調節効果の増強による洪水リスクの軽減、水量回復による河川環境の改善など治水・利水機能の向上を図る既存ダムの徹底活用を実施している (第II部第4章第5節2.第I部第3章第1節3.(3) ) 。

7)家屋の浸水対策マニュアルの発行
 家屋(家財)被害額の軽減や、住民の安全性の向上のため、水害による住宅の被災実態を調査・分析し、浸水による被害が少なくなる建て方、対処の方式等について取りまとめ、建築主、設計者、居住者向けのパンフレット及び対策の具体例をカード形式にとりまとめたガイドブックを作成し、自治体を通じて住民への周知を推進している。

 

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