第I部 進行する地球温暖化とわたしたちのくらし〜地球温暖化対策に向けた国土交通行政の展開〜 

3 公共交通機関の利用促進による二酸化炭素排出削減に向けた課題

(自家用乗用車への依存の進展)
 環境負荷は交通機関によって異なり、単位輸送量(人キロベース)当たりのCO2排出量を見ると、鉄道と比べて、バスは約2.7倍、航空は約6倍、自家用乗用車は約9倍の排出量である。したがって、人が移動する際に自家用乗用車よりも鉄道・バス等の公共交通機関を利用するようになれば、CO2排出量の削減につながる。しかし、旅客輸送の交通機関別の分担率の推移を見ると、モータリゼーションの進展に伴い環境負荷の高い乗用車への依存が進んできた。
 
図表I-2-1-14 輸送量当たりのCO2排出量(平成17年度)

図表I-2-1-14 輸送量当たりのCO2排出量(平成17年度)
Excel形式のファイルはこちら
 
図表I-2-1-15 旅客輸送の分担率の推移(人キロベース)

図表I-2-1-15 旅客輸送の分担率の推移(人キロベース)
Excel形式のファイルはこちら

(地域によって異なるCO2排出量の増加)
 乗用車への依存が高まるにつれて旅客輸送におけるCO2排出量は大きく増加したが、増加の状況は地域によって異なる。旅客輸送における一人当たりCO2排出量の増減(平成2年度と16年度の比較)を都道府県別に試算すると、全国平均で約38%増加しているが、三大都市圏(注1)内の都府県の多くでは平均を下回っている。その中でも東京都、神奈川県、大阪府、京都府で増加が少なく、特に東京都では微増にとどまっている。一方、地方圏(注2)ではほぼすべて平均以上に増加しており、大都市部と地方部とで旅客輸送におけるCO2排出量の動向が大きく異なっていることがうかがえる。
 このような地域による違いは、それぞれの交通機関分担の状況によるものと考えられる。そこで、旅客輸送の交通機関分担の動向を三大都市圏と地方圏に分けて見た上で、CO2排出量の削減に向けた公共交通機関の利用促進に関する課題を見ていく。
 
図表I-2-1-16 一人当たりCO2排出量(旅客輸送)の推移の試算(平成2年度と16年度の比較)

図表I-2-1-16 一人当たりCO2排出量(旅客輸送)の推移の試算(平成2年度と16年度の比較)
Excel形式のファイルはこちら

(1)三大都市圏における動向
(依然として高い公共交通機関の輸送分担率)
 三大都市圏では旅客輸送における一人当たりCO2排出量の増加率が小さいが、これは三大都市圏において公共交通機関の分担率が依然として高いことが一因である。
 
図表I-2-1-17 三大都市圏における輸送分担率の推移

図表I-2-1-17 三大都市圏における輸送分担率の推移
Excel形式のファイルはこちら

(堅調に推移する鉄道利用者数)
 このように公共交通機関の利用が多い背景の一つとして、三大都市圏における鉄道の利用者数が依然として多いことがあげられる。特に、首都圏では一時減少したものの近年は安定しており、中でも東京都区部では鉄軌道の分担率が76%(平成16年度)と非常に高い水準である。
 
図表I-2-1-18 三大交通圏における鉄道輸送人員の推移

図表I-2-1-18 三大交通圏における鉄道輸送人員の推移
Excel形式のファイルはこちら

 鉄道利用者数は、既存路線だけではなく、新規路線の開業による利用者の動向にも影響されると考えられる。例えば、17年8月に秋葉原・つくば間が開業した「つくばエクスプレス(TX)」の場合、千葉県柏市・流山市を対象にした調査では、両市内の駅で乗降する鉄道利用者数が年間で約3.4百万人(約1.7%)増加し、その結果、両市内の運輸部門におけるCO2排出量が0.4%削減されたとしている。また、愛知県名古屋市の地下鉄の場合、16年10月に名古屋大学・新瑞橋(あらたまばし)間が開業して全国初の地下鉄の環状運転が開始されるとともに、18年4月には格安な1日乗車券(ドニチエコきっぷ)が発売されたこと等により、利用者数が増加し18年度には過去最高の乗車人員を記録している。

(2)地方圏における動向
(乗用車への依存の進展)
 地方圏においては、旅客輸送における一人当たりCO2排出量が大きく増加している。これは、三大都市圏とは異なり自家用乗用車への依存度が増加傾向にあることが一因であり、各地方ブロックの中での中心的な県(宮城・広島・福岡等)においても同様の傾向がみられる。
 
図表I-2-1-19 宮城県内の輸送分担率の推移

図表I-2-1-19 宮城県内の輸送分担率の推移
Excel形式のファイルはこちら

(自家用乗用車の台数の増加と公共交通機関利用の減少)
 地方圏ではモータリゼーションが進展し、郊外化も進んでいることから、三大都市圏以上の伸びで自家用乗用車の保有台数が増加しており、一世帯当たりの自家用乗用車の保有台数も多い。
 
図表I-2-1-20 自家用乗用車保有車両数の推移

図表I-2-1-20 自家用乗用車保有車両数の推移
Excel形式のファイルはこちら

 一方、自家用乗用車の普及に加えて人口の減少が進んだ結果、地方圏における鉄道・バスの利用者数は大幅に減少している。その結果、公共交通事業者の経営が圧迫され、地域によっては不採算路線からの撤退が相次ぎ、公共交通機関の空白地域が出現しており、住民の移動手段の確保が切実な課題となっている。
 
図表I-2-1-21 地方圏における乗合バス及び鉄道の輸送人員の推移

図表I-2-1-21 地方圏における乗合バス及び鉄道の輸送人員の推移
Excel形式のファイルはこちら

(3)幹線移動の動向
(中長距離移動における公共交通機関へのシフト)
 都市間・地域間の幹線移動について、距離帯別に旅客輸送の分担率の動向を見ると、300キロ未満の移動では自動車の利用が増加しているが、300キロ以上では公共交通機関へのシフトが起こっている。300〜500キロ程度の移動では自動車から鉄道へのシフトが、500キロ以上の距離では航空へのシフトが進んでいる。
 
図表I-2-1-22 距離帯別輸送分担率の推移

図表I-2-1-22 距離帯別輸送分担率の推移
Excel形式のファイルはこちら

 中長距離の移動時に利用される高速バス、航空、新幹線について見ると、輸送人員は増加傾向にあるが、これは幹線道路や航空網、新幹線の整備によるものと考えられる。例えば、東京から長野への移動を見ると、平成9年に長野新幹線が開業した影響で、鉄道の分担率は約20%(7年度)から約60%(17年度)に増加している。
 
図表I-2-1-23 各輸送機関の輸送量の推移

図表I-2-1-23 各輸送機関の輸送量の推移
Excel形式のファイルはこちら
 
図表I-2-1-24 東京都から愛知県・長野県への輸送分担の推移

図表I-2-1-24 東京都から愛知県・長野県への輸送分担の推移
Excel形式のファイルはこちら

(4)公共交通機関の利用に向けた課題
(地域の公共交通機関の活性化・再生の必要性)
 先に述べたように、鉄道やバスは自家用乗用車に比べて単位輸送量当たりのCO2排出量が少ない。したがって、環境負荷の小さい交通体系を構築するためには、自家用乗用車から公共交通機関へのシフトを促すことが必要である。
 そのためには何が必要かについて、国土交通省が意識調査(注1)を行ったところ、公共交通機関の利便性の差を反映して地域によって大きく異なる結果となった。京浜や阪神では、「環境にやさしいので、(利便性や快適性等が)現状のままでも、自家用車よりも公共交通機関の利用回数を増やしたい」との回答率が最も多く、公共交通機関の利用による環境負荷の低減に対する意識が強いことがうかがえる。また、「乗り継ぎがしやすくなったり混雑が緩和されたりするなど快適性が向上すれば、自家用車よりも公共交通機関の利用回数を増やしたい」の回答率も高くなっており、鉄道やバス路線が身近にあることを前提として快適性を求める声が大きくなっている。一方、その他の地域では、公共交通機関の利用促進には「本数が増えたり所要時間が短縮されたりするなど利便性の向上」、「自宅の近くの鉄道やバス路線の新設」が必要とする回答が多く、そもそも路線が身近になかったり、本数が少ないなど利便性が低かったりするために自家用乗用車を利用している状況がうかがえる。
 
図表I-2-1-25 どうすれば公共交通機関の利用回数を増やすか(地球温暖化に関する意識調査(平成19年12月国土交通省実施))

図表I-2-1-25 どうすれば公共交通機関の利用回数を増やすか(地球温暖化に関する意識調査(平成19年12月国土交通省実施))
Excel形式のファイルはこちら

 地域の公共交通機関の利便性等を高め、その活性化・再生を実現することは、公共交通機関の利用促進を通じて環境負荷の低減につながるだけではなく、住民の移動手段を確保することにより自立した生活を支え、くらしの質を確保・充実させるとともに、地域経済の発展にも貢献する。例えば、次世代型路面電車システム(LRT)の整備とその高頻度運行によって、利便性の向上が図られ、自家用乗用車から公共交通機関への利用者転換が促進されている地域もある(第3節コラム参照)。
 公共交通機関の活性化・再生に関するニーズや課題は地域によって多種多様である。地方公共団体を中心に、交通事業者や住民をはじめ地域の関係者が一体となって、地域の実情に即した交通体系について検討し、その実現を図っていくことが求められる。


(注1)本節においては、特に注意書きがない限り、首都圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)、中京圏(愛知県、岐阜県、三重県)、関西圏(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県)を指す。
(注2)三大都市圏以外の道県を指す。
(注3)平成19年12月6日から16日にかけて、層化三段無作為抽出法に基づき抽出した全国の満20歳以上の男女4,000人(回収数1,255人)を対象に、個別面接聴取法による調査を実施した。

 

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む