国土交通省ロゴ

国土交通白書 2020

第1節 我が国を取り巻く環境変化

■4 国土基盤整備の進捗

(1)公共事業関係費の推移

(国土交通省の公共事業関係費)

 国土交通省の公共事業関係費は、政府全体の公共事業関係費の約8割を占める。当初予算の公共事業関係費は、2001年度(平成13年度)から2012年度までは減少傾向にあったが、2014年度以降はほぼ横ばいで推移してきた。

 こうした中、相次ぐ自然災害を受けて2018年12月に閣議決定された「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」を集中的に実施するため、2019年度及び2020年度は、「臨時・特別の措置」として当初予算の増額が図られた。近年の自然災害の激甚化・頻発化等を踏まえれば、今後とも、防災・減災、インフラ老朽化対策等の国土強靭化や経済の活性化等に直結する社会資本の戦略的な整備を進めていくことが不可欠であり、そのための必要かつ十分な公共事業予算を確保していくことが重要である。

図表I-1-1-30 国土交通省の公共事業関係費の推移
図表I-1-1-30 国土交通省の公共事業関係費の推移

(2)社会資本整備の状況

(高規格幹線道路の整備)

 人々の生活や経済活動を支えるために、道路が果たす役割は大きい。我が国における高規格幹線道路注11の整備は、2000年(平成12年)には7,843kmであったが、2020年3月には11,998kmとなり、1987年に策定された高規格幹線道路網約14,000kmに向けて着実に整備を進めている。現行の整備状況は、国土面積の近いフランスの11,618kmやドイツの13,009kmと同程度となっている。これらが整備されることにより、全国の都市・農村地区からおおむね1時間以内で高規格幹線道路に到達することが可能となるなど、利便性は格段と高まる見込みである(図表I-1-1-31)。

図表I-1-1-31 高規格幹線道路の整備目標と達成状況
図表I-1-1-31 高規格幹線道路の整備目標と達成状況

 しかしながら、高規格幹線道路については現行2車線(片側1車線)が約4割を占め、主要都市間の連絡速度は依然として約半数の都市間において60km/h未満であるなど、諸外国と比べて整備が遅れている。今後は、生産性向上や災害時の応急対応の観点から、現在暫定2車線区間の高規格幹線道路を4車線以上にするなどの整備を進める必要がある(図表I-1-1-32)。

図表I-1-1-32 都市・地域間サービスレベルの課題
図表I-1-1-32 都市・地域間サービスレベルの課題

(環状道路の整備)

 第1章第1節2に示すとおり、高度経済成長期には東京圏に人口が流入した。それに伴い、産業は高密度化していったが同時に道路の渋滞などの交通課題が生じていた。環状道路の整備は、その解消策として、1963年(昭和38年)に「首都圏基本問題懇談会中間報告書注12」で発表された「都市間高速道路整備構想」によるものであり、その後、首都圏の道路交通の骨格として3環状9放射の道路交通ネットワークが計画された。9放射の骨格については、1987年に東北道が全面開通したことでおおむね完成した。また、3環状については、1977年に中央環状線の一部(板橋JCT~熊野町JCT)が開通して以降、外環道、圏央道の整備が進んでいる(図表I-1-1-33)。首都圏では2018年に外環道の一部(三郷南IC~高谷JCT)が開通後、外環道経由を選択する利用者の増加が見られた。また、首都高速JCTの4車線化(2箇所)の整備効果も相まって、中央環状線内側の渋滞損出時間が約3割減少した。
図表I-1-1-33 首都圏における3環状9放射の道路交通ネットワーク注13
図表I-1-1-33 首都圏における3環状9放射の道路交通ネットワーク

 環状線の整備については、首都圏以外にも名古屋圏、大阪圏で行われており、その効果が現れている。名古屋圏では、名古屋市周辺の10km圏内に位置する名古屋環状2号線注14の整備により、小牧市から飛島ふ頭間の物流の回旋数が、1日2往復から3往復に増加するなど、物流の効率化が図られた注15。大阪圏では、京奈和自動車道の整備に伴い、名阪国道と連結することで、近畿、中部地方との時間短縮効果が図られ、物流アクセスが向上した。奈良県内の沿線地域で、京奈和自動車道の開通前後10年間の新規工場の立地件数を比べると、開通前(1996年~2005年)は59件であったが、開通後(2006年から2015年)は4倍の247件となるなど、整備によるストック効果が見られた。

(河川・砂防・海岸の整備)

 国土交通省では、水害、土砂災害から国民の生命や財産を守るため、堤防やダム・遊水地、砂防設備、海岸保全施設などの災害対策の施設等を整備するなどの取組みを続けてきたところである。

 令和元年東日本台風注16においては、後述のコラムに記載している狩野川放水路や利根川上流ダム群における整備効果のほか、各地で整備効果が確認されているところである。一例として、鶴見川では、鶴見川多目的遊水地において、約94万m3を貯留し、遊水地の直近に設置されている亀の子橋水位流量観測所の水位は、6.58mまで上昇したところであるが、多目的遊水地が無かった場合、さらに水位が約0.3m上昇し、氾濫危険水位を超過したと推定される(図表I-1-1-34)。遊水地内にある横浜国際総合競技場において、翌日の2019年(令和元年)10月13日には、ラグビーワールドカップ2019大会の日本対スコットランド戦が、大会運営関係者(大会組織委員会、開催都市(横浜市)、管理スタッフ等)のご尽力によって無事に開催された。

図表I-1-1-34 令和元年東日本台風における事前防災対策の効果
図表I-1-1-34 令和元年東日本台風における事前防災対策の効果

 また、天竜川流域では、136名の死者・行方不明者が発生した1961年の梅雨前線集中豪雨災害以降、67基の砂防設備が整備されたことで、令和元年東日本台風においては、1961年当時の1.3倍の降雨量となったにもかかわらず、人的被害ならびに家屋への被害が発生しなかった。

 このように、事前の防災対策の効果が見られるものの、諸外国には英国やオランダの主要都市のように、日本よりも高い安全度目標での治水整備が概成しているところもある。例えば、英国では、ロンドンのテムズ川で年超過確率1/1,000の高潮を防ぐことのできる防潮堤であるテムズバリアが既に完成している。また、オランダでも、区間に応じて、年超過確率1/2000~1/10,000(沿岸部)の洪水・高潮を防ぐ堤防が既に整備されている。一方、日本は、東京を流れる荒川では、70.6%、大阪を流れる大和川では50.0%の堤防整備率となっており、近年の自然災害の頻発・激甚化を踏まえると、更なる治水対策が必要である。

(3)交通形態の新たな変化

(整備新幹線による都市間移動の短縮)

 都市間移動の短縮は、人口交流の拡大による経済活動の活性化に大きく寄与する。2000年(平成12年)から2017年までに、新たに整備された整備新幹線の区間は、東北新幹線は盛岡から新青森、北海道新幹線は新青森から新函館北斗、北陸新幹線は長野から金沢、九州新幹線は博多から鹿児島中央と、全国各地で延伸し、総延長で約870kmとなった。これにより、東京と各都市との移動時間の短縮が図られたばかりではなく、函館と仙台、長野と金沢、福岡と鹿児島といった三大都市圏以外の都市間における交流人口の拡大が図られた。

 交流人口の増加率と大都市圏との所要時間の関係に着目すると、福岡県と鹿児島県間の移動時間に近い90分圏内では交流人口が約42%、移動時間が2時間圏内では約34%、3時間圏内では約18%の増加となった(図表I-1-1-35)。

図表I-1-1-35 全国の新幹線鉄道網の現状と整備効果
図表I-1-1-35 全国の新幹線鉄道網の現状と整備効果

(国内定期航空旅客者数の回復)

 空路による交流人口の拡大も、インバウンドの呼び込みを含めた地方創生の観点から重要である。LCC(格安航空会社)の参入は、2010年(平成22年)のオープンスカイ注17の推進等にはじまり、現在まで旅客数を順調に伸ばしている。最新の2018年のデータでは、LCCの国内線旅客数は1,022万人、国際線旅客数は2,448万人と堅調に伸びてきている。

 国内定期航空旅客数全体注18の推移を見ても、2011年は東日本大震災等の影響もあり7,759万人まで落ち込んでいたが、それ以降はLCC旅客数の増加等もあり、2018年には1億300万人と過去最高となっている(図表I-1-1-36)。

図表I-1-1-36 国内定期航空旅客数の推移
図表I-1-1-36 国内定期航空旅客数の推移
Excel形式のファイルはこちら
  1. 注11 「高速自動車国道」及び「一般国道の自動車専用道路」
  2. 注12 都市間交通体系の整備を議論するため、国と有識者で構成された「首都圏基本問題懇談会」にてとりまとめられたもの。その中で「都市間高速道路整備構想」が発表され、東京環状道路、関東環状線、臨海高速道路の高速道路の建設が望ましい旨が取り込まれた。
  3. 注13 未開通区間は2018年6月時点のものであり、事業中区間及び調査中区間を含む。
  4. 注14 自動車専用部(名古屋第二環状自動車道及び伊勢湾岸自動車道)と一般部(国道302号)から構成されている。
  5. 注15 2017年度に国土交通省が実施したヒアリングによる。
  6. 注16 2020年2月19日、気象庁は令和元年に顕著な災害をもたらした台風について、台風第15号については「令和元年房総半島台風」、台風第19号については「令和元年東日本台風」と名称を定めた。(気象庁では、顕著な災害をもたらした自然現象について、後世に経験や教訓を伝承することなどを目的に名称を定めることとしている。)
  7. 注17 企業数、路線数及び便数に係る制限を二国間で相互に撤廃すること。
  8. 注18 特定本邦航空運送事業者(客席数が100又は最大離陸重量が5万kgを超える航空機を使用して行う航空運送事業を経営する事業者)に限らず国内定期航空運送事業を行う者