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国土交通白書 2020

第2節 環境変化に対する国土交通省の取組み

■2 地域・経済の活性化に向けた対応

(1)活力ある地域づくり

(コンパクト・プラス・ネットワーク)

 第1章第1節1に示すとおり、人口減少と高齢化の加速は、今後のまちづくりに与える影響も大きい。地域においては、高齢者や子育て世代にとって安心できる健康で快適な生活環境を実現し、財政面・経済面において持続可能な都市経営を行うことが重要な課題である。「コンパクト・プラス・ネットワーク」とは、こうした課題の解決に向けて、医療・福祉施設、商業施設や住居等がまとまって立地し、高齢者をはじめとする住民が公共交通によりこれらの生活利便施設等にアクセスできるなど、福祉や交通等も含めて都市全体の構造を見直したまちづくりのコンセプトである。国土交通省では、このような「コンパクト・プラス・ネットワーク」の形成を推進している(図表I-1-2-15)。

図表I-1-2-15 コンパクト・プラス・ネットワーク概要
図表I-1-2-15 コンパクト・プラス・ネットワーク概要

(地域公共交通の維持・改善)

 第1章第1節2に示すとおり、公共交通サービスの維持・確保が厳しさを増している中、高齢者の運転免許の返納が年々増加し、受け皿としての移動手段を確保することが、ますます重要な課題になっている。

 2007年(平成19年)に、地域公共交通の活性化・再生を通じた魅力ある地方を創出すること等を目的として、「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(地域公共交通活性化再生法)」が制定された。また、2013年には、交通政策の基本理念等を定めた「交通政策基本法」が制定された。同法の基本理念に則り、2014年には地域公共交通活性化再生法が改正され、「コンパクト・プラス・ネットワーク」の考えの下、地方公共団体が中心となって、まちづくりと連携しながら、面的な公共交通ネットワークの再構築を図ることが明確化された。これにより、地方公共団体は地域交通のあり方等を計画(地域公共交通網形成計画)に定めることができるようになり、2020年3月末までに、585件の地域公共交通網形成計画が策定された。

 また、地域のニーズにきめ細やかに対応できる市町村等が、地域交通に関するマスタープランとなる計画を策定した上で、公共交通の改善や移動手段の確保に取り組んでいくことが出来る仕組みを盛り込んだ「持続可能な運送サービスの提供の確保に資する取組を推進するための地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律」が2020年(令和2年)6月に公布された。

 また、2006年には、バスやタクシーの提供が困難な地域において自家用有償旅客運送注69を可能とする制度を創設した。また、高齢化が進む地域における交通の確保や、観光客の利便性の高い周遊手段の確保等を図るため、2018年からは低速で環境にやさしいグリーンスローモビリティの普及を推進するなど、地域が抱える交通等の課題解決に向けたモビリティサービスの導入を進めている。

(土地政策の推進)

 土地政策の基本的役割は、国民のための限られた貴重な資源であり、国民の活動にとって不可欠の基盤である土地という特殊な財について、その時々の自然的、社会的、経済的及び文化的諸条件に応じた適正な利用を確保すること、そのための市場の条件整備を行うこととされてきた。

 このため、これまでも、1989年(平成元年)には、バブル期の投機的取引の抑制等を目的とした「土地基本法」の制定、バブル崩壊後には、都市機能の更新の停滞等への対応としての「新総合土地政策推進要綱」(1997年閣議決定)等に基づく適正な土地利用の推進、地価の下げ止まり傾向を踏まえた「土地政策の再構築」(2005年)の策定、人口減少局面を迎えた中での、「土地政策の中長期ビジョン」(2009年)、「土地政策の新たな方向性2016」(2016年)の策定や、それを踏まえた施策の展開など、着実に施策が講じられてきた。

 また、近年は、人口減少の進展等に伴う土地利用ニーズの低下等を背景に、所有者不明土地や管理不全の土地、空き家・空き地が増加し、それに伴う諸課題への対応が喫緊の課題となっている。

 空き家については、適切な管理が行われていない場合、防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしうることから、地域住民の生命・身体・財産の保護、生活環境の保全、魅力あるまちづくりのためには、このような空き家等を有効に活用する取組みが必要である。このため、2015年に、「空き家等対策の推進に関する特別措置法」を制定・施行するとともに、空き家を改修し地域活性化のため観光交流施設に活用する取組みや、老朽空き家を除却する取組み等を支援している(図表I-1-2-16)。また、2017年には、空き家の利活用を推進するため、地方公共団体ごとの空き家の開示情報を標準化し、全国の空き家等の情報を簡単に検索できる「全国版空き家・空き地バンク」を整備した。

図表I-1-2-16 空き家等対策の推進に関する特別措置法に基づく支援例
図表I-1-2-16 空き家等対策の推進に関する特別措置法に基づく支援例

 所有者不明土地については、まずは、2018年に所有者不明土地を公共的目的で円滑に利用することを可能とする「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が制定され、2019年に全面施行されている。

 さらに、残された課題である所有者不明土地等の発生抑制や解消を図るため、適正な土地の利用や管理を確保する施策の推進を図るとともに、その前提となる地籍調査の円滑化・迅速化を一体的に措置する「土地基本法等の一部を改正する法律」が2020年3月に成立した。

(2)民間活力の活用等

 安全・安心な暮らしを支えるためには、適切な社会資本の整備が必要である。国土交通省では、1999年(平成11年)より、厳しい財政状況の中で民間資金の活用を拡大し、真に必要な社会資本の新規投資及び維持管理を着実に行っていくため、PPP/PFI(官民連携事業/民間資金等活用事業)を推進してきた。

 PPP(Public Private Partnership)は、民間事業者の資金やノウハウを活用して低廉かつ良好な行政サービスを実施する取組みである。また、PPPの代表的な手法の一つであるPFI(Private Finance Initiative)は、公共施設等の建設、改修、維持管理、運営等を民間の資金、運営能力や技術的能力を活用しながら行う事業である(図表I-1-2-17)。内閣府調査によると、PFI採用実績は、1999年度の3件から2018年度には740件(事業主体別では国が81件、地方が608件、その他が51件)となっており、その数は近年増加傾向にある注70

図表I-1-2-17 PPPのイメージ図
図表I-1-2-17 PPPのイメージ図

 国土交通省関連のPFI導入実績の一例としては、コンセッション方式による空港運営が挙げられる。我が国の空港管理体制は、滑走路等は国が管理、空港ビル等は民間が管理・運営しており、主体がバラバラであった。しかし、2013年に制定された「民間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する法律(民活空港運営法)」により空港におけるコンセッション方式の導入が可能となったことで、滑走路等の運営を空港ビル等の運営と一体で民間に委託することが可能となり、民間の資金や創意工夫を活かした就航便数・路線の拡大等の空港活性化に向けた取組みが可能となった。例えば、仙台空港は2016年7月より、国管理空港として初めて空港運営を民間の新会社である仙台国際空港(株)に委託し、運営が開始された。これにより、仙台空港から宮城県外の東北地方各所への2次交通の充実、柔軟な着陸料設定や積極的なエアポートセールスによる路線の誘致等、民間の創意工夫を活かした運営が進められている。

3)生産性向上・人材活用の推進

(i-Constructionの推進)

 2016年(平成28年)9月に開催された未来投資会議において、第4次産業革命による『建設現場の生産性革命』に向け、建設現場の生産性を2025年度までに2割向上を目指す方針が示されるなど、建設現場の生産性向上の取組みへの期待は高まっている。

 国土交通省では、建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す取組みであるi-Construction(アイ・コンストラクション)を進めている(図表I-1-2-18)。トップランナー施策として、1)ICTの全面的な活用(ICT 土工)2)全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化等)3)施工時期の平準化に注力して取り組んでいる。施工や管理に3次元データ等を活用するICT活用工事は年々増加しており、3次元データを利用した土木工事(ICT土工)における延べ作業時間が約3割縮減するなどの効果が表れている(図表I-1-2-19)。

図表I-1-2-18 生産性向上イメージ
図表I-1-2-18 生産性向上イメージ
図表I-1-2-19 i-Constructionの効果
図表I-1-2-19 i-Constructionの効果

 特に、コンピュータで3Dの建物情報モデルを構築するBIMや、3次元モデルを活用し社会資本の整備・管理を行うBIM/CIM注71は、「i-Construction」のエンジンとして重要な役割を担っている。BIM/CIMについては2012年度から試行運用を開始し、当時11件だった活用業務・工事は、2019年度には361件となるなど、順調に増加している(図表I-1-2-20)。また、2019年度には、3次元データ等を活用した取組みを牽引する国土交通省直轄事業の実施事務所を「i-Constructionモデル事務所注72」に指定するなど、i-Constructionの一層の推進に取り組んでいる。

図表I-1-2-20 BIM/CIMを活用業務・工事の推移
図表I-1-2-20 BIM/CIMを活用業務・工事の推移
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(建設業・運輸業への女性の就業促進)

 建設業や運輸業では、他産業に比べ女性就業者の割合が低い状況にある。このような中、女性が活躍できるよう、国土交通省では魅力的な業界づくりを進めている。

 建設業においては、2014年(平成26年)に、建設業団体と共同で「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」を策定し、柔軟な働き方の採用や更衣室の導入等による現場の労働環境の整備等を通じた、女性が働きやすい環境の整備を推進している。

 自動車運送事業においても、女性の活躍推進に向けた取組みを行っている。例えば、トラック事業では、2014年より「トラガール注73促進プロジェクトサイト」を立ち上げ、女性トラックドライバーの活躍の紹介等を通じて業界イメージの改善に向けた積極的な情報発信を行っている。また、タクシー事業では、2016年に「女性ドライバー応援企業」認定制度を創設し、女性ドライバーの採用や、子育て中の女性が働き続けることのできる環境整備を行っている事業者の支援等を通じて、女性の新規就労・定着を図っている。

(働き方改革の推進)

 建設業や運輸業における担い手の確保・育成のため、「働き方改革注74」による、魅力ある職場づくりを推進している。2017年(平成29年)6月には、「建設業・自動車運送事業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議」が立ち上げられ、長時間労働を是正するための環境整備等に取り組んでいる注75

 建設業に向けては、2018年3月に「建設業働き方改革加速化プログラム」を策定し、長時間労働の是正や生産性向上を図るとともに、「建設キャリアアップシステム」の構築等による処遇改善に取り組んでいる。建設キャリアアップシステムは技能者の保有資格や現場の就業履歴等を業界横断的に登録・蓄積する仕組みであり、これにより技能者は能力や経験に応じた適正な処遇を受けることが可能となっている(図表I-1-2-21)。

図表I-1-2-21 建設キャリアアップシステム
図表I-1-2-20 建設キャリアアップシステム

 運輸業に向けては、2018年5月に88の施策を盛り込んだ「自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画」を策定し、労働生産性の向上、多様な人材の確保、育成、取引環境の適正化等の取組みを推進している。また、トラック運転者不足に対応し、我が国の国民生活や産業活動に必要な物流機能を安定的に確保するとともに、我が国経済のさらなる成長に寄与するため、1)トラック輸送の生産性の向上・物流の効率化、2)取引適正化を通じた女性や60代以上の運転者等も働きやすい労働環境の実現、に取り組む「ホワイト物流」推進運動を、関係省庁等と連携して推進している注76

(外国人材の受入れ)

 深刻化する人手不足に対応するため、一定の条件下での外国人材の受入れも行っている。

 建設分野においては、2015年(平成27年)4月に外国人建設就労者受入事業注77を開始し、技能実習注78修了者について雇用を継続した上で、引き続き建設業務に従事することを可能とした。

 また、2018年12月に「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が公布され、2019年4月より新たな在留資格「特定技能」が創設された。これにより、国土交通省の所管では建設分野、造船・舶用工業分野、自動車整備分野、航空分野、宿泊分野の5分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を受け入れることが可能となった。2020年3月末時点で、これら5分野において、計479名が日本に在留しているところである注79

  1. 注67 居住機能や医療・福祉・商業、公共交通等のさまざまな都市機能の誘導により、都市全域を見渡したマスタープランとして位置づけられる市町村マスタープランの高度化版。
  2. 注68 公共交通ネットワーク全体を一体的に形づくり、持続させることを目的に、地域全体の公共交通の在り方、住民・交通事業者・行政の役割を定めるマスタープラン。
  3. 注69 バス・タクシー事業が成り立たない場合であって、地域における輸送手段の確保が必要な場合に、必要な安全上の措置をとった上で、市町村やNPO法人等が、自家用車を用いて提供する運送サービス。
  4. 注70 事業数は、内閣府調査により実施方針の公表を把握しているPFI法に基づいた事業の数であり、サービス提供期間中に契約解除又は廃止した事業及び実施方針公表以降に事業を断念しサービスの提供に及んでいない事業は含んでいない。
  5. 注71 BIM/CIMは、「Building/ Construction Information Modeling, Management」の略。
  6. 注72 3次元データ等を活用した取組みをリードする国土交通省直轄事業を実施する事務所を「i-Constructionモデル事務所注72」として全国で10事務所を選定。
  7. 注73 女性トラックドライバーの愛称。トラック運送業界における女性の活躍を促進するために、国土交通省が名付けた。
  8. 注74 働く人々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で選択できるようにするための改革。長時間労働の是正や雇用形態に関わらない公正な待遇の確保等の措置を講じている。
  9. 注75 2019年までに、建設業4回、自動車運送事業5回の会議が開催されている。
  10. 注76 詳細は第II部第6章のコラムにて記載。
  11. 注77 東京2020大会等による一時的な建設需要の増大に対応するための2020年度までの時限的措置。
  12. 注78 外国人の在留資格の一つ。日本において企業や個人事業主等と雇用関係を結び、出身国において修得が困難な技能等の修得・習熟・熟達を図る制度。
  13. 注79 速報値であり、変更の可能性がある。