
国土交通白書 2023
第1節 地球温暖化対策の推進
(1)まちづくりのグリーン化の推進
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、脱炭素に資する都市・地域づくりを推進していくため、「まちづくりのグリーン化」に取り組んでいる。
具体的には、都市のコンパクト・プラス・ネットワークや居心地が良く歩きたくなる空間づくりを進め公共交通の利用の促進等を図ることでCO2排出量の削減につなげる「都市構造の変革」、エネルギーの面的利用や環境に配慮した民間都市開発等を推進することでエネルギー利用の効率化につなげる「街区単位での取組」、グリーンインフラの社会実装の推進等により都市部のCO2吸収源拡大につなげる「都市における緑とオープンスペースの展開」の3つの柱で取組みを進めている。また、省庁横断的な取組みである「地域脱炭素ロードマップ」に基づく脱炭素先行地域に対して支援を強化するなど、重点的に取り組んでいる。
(2) 環境に優しい自動車の開発・普及、最適な利活用の推進
環境性能に優れた自動車の普及を促進するため、エコカー減税等による税制優遇措置を実施している。なお、エコカー減税等については、令和5年度税制改正において、自動車ユーザーの急激な負担増を回避するため、5年末まで現行措置を据え置きつつ、燃費基準の切り上げ等の見直しを3年間で段階的に行うこととされた。また、地球温暖化対策等を推進する観点から、トラック・バス事業者等に、燃料電池自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車や天然ガス自動車等の導入に対する補助を行っている。
(3)交通流対策等の推進
道路の整備に伴って、いわゆる誘発・転換交通が発生する可能性があることを認識しつつ、二酸化炭素の排出削減に資する環状道路等幹線道路ネットワークの強化、ETC2.0を活用したビッグデータ等の科学的な分析に基づく渋滞ボトルネック箇所へのピンポイント対策、ICT・AI等を活用した交通需要調整のための料金施策を含めた面的な渋滞対策の導入検討などの取組みのほか、道路照明灯の更なる省エネルギー化、高度化を図るとともに、LED道路照明の整備を推進している。また、安全で快適な自転車利用環境の向上に関する取組みを推進している。加えて、通勤交通マネジメントをはじめとする事業者の主体的な取組みの促進等により、日常生活における車の使い方をはじめとする国民の行動変容を促す取組みの推進により、自動車交通量の減少等を通じて環境負荷の低減を図っている。
(4)公共交通機関の利用促進
自家用乗用車からエネルギー効率が高くCO2排出の少ない公共交通機関へのシフトは、地球温暖化対策の面から推進が求められている。このため、環境省と連携して、LRT・BRTシステムの導入を支援するほか、エコ通勤優良事業所認証制度を活用した事業所単位でのエコ通勤の普及促進に取り組んだ。
(5) 高度化・総合化・効率化した物流サービス実現に向けた更なる取組み
国内物流の輸送機関分担率(輸送トンキロベース)はトラックが最大であり、5割を超えている。トラックのCO2排出原単位注1は、大量輸送機関の鉄道、内航海運より大きく、物流部門におけるCO2排出割合は、トラックが約9割を占めている。国内物流を支えつつ、CO2の排出を抑制するために、トラック単体の低燃費化や輸送効率の向上と併せ、鉄道、内航海運等のエネルギー消費効率の良い輸送機関の活用を図ることが必要である。更なる環境負荷の小さい効率的な物流体系の構築に向け、大型CNGトラック等の環境対応車両の普及促進、港湾の低炭素化の取組みへの支援や冷凍冷蔵倉庫において使用する省エネ型自然冷媒機器の普及促進等を行っている。また、共同輸配送やモーダルシフトの促進や、省エネ船の建造促進等内航海運・フェリーの活性化に取り組んでいる。加えて、「エコレールマーク」(令和5年4月現在、商品166件(187品目)、取組み企業98社を認定)や「エコシップマーク」(5年5月末現在、荷主189者、物流事業者213者を認定)の普及に取り組んでいる。貨物鉄道においては、4年7月の「今後の鉄道物流の在り方に関する検討会」における提言を踏まえ、貨物鉄道が物流における諸課題の解決を図る重要な輸送モードとして、その特性を十分に活かした役割を発揮できるよう、指摘された課題の解決に向けて関係者と連携して取り組んでいる。また、港湾においては、我が国の産業や港湾の競争力強化と脱炭素社会の実現に貢献するため、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化や水素等の受入環境の整備等を図るカーボンニュートラルポート(CNP)の形成を推進しており、低炭素型荷役機械の導入支援、水素を用いた港湾荷役機械を導入するための実証事業等を行っている。さらに、国際海上コンテナターミナルの整備、国際物流ターミナルの整備、複合一貫輸送に対応した国内物流拠点の整備等を推進することにより、貨物の陸上輸送距離削減を図っている。
このほか、関係省庁、関係団体等と協力して、グリーン物流パートナーシップ会議を開催し、荷主と物流事業者の連携による優良事業者への表彰や普及啓発を行っている。総合物流施策大綱(2021~2025年度)策定後は、同大綱の3つの柱である「物流DXや標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化」、「労働力不足対策の推進と物流構造改革の推進」、「強靭で持続可能な物流ネットワークの構築」のそれぞれに即した取組みも表彰対象とし、物流分野全般の課題解決に資する取組みを幅広く支援している。
(6) 鉄道・船舶・航空・港湾における低炭素化の促進
①鉄道分野における脱炭素化の取組み
2050年カーボンニュートラルに向けて更なる脱炭素化を図るため、令和4年3月より「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会」を立ち上げ、議論を行った。同年8月の同検討会中間とりまとめを踏まえ、鉄軌道事業者等に対する新たな支援制度の創設や鉄道脱炭素官民連携プラットフォームの開催を通じて、鉄道分野及び鉄道関連分野の脱炭素化の実現を促進した。
引き続き、令和5年5月に出された同検討会の最終とりまとめを踏まえ、関係省庁とも連携しながら、エネルギー効率の高い車両の導入、水素を燃料とする燃料電池鉄道車両の開発やバイオディーゼル燃料の導入促進等を進めるほか、鉄道アセットを活用した再生可能エネルギーの導入拡大や、環境優位性のある鉄道の利用促進により、社会全体の脱炭素化に貢献することを目指す。
②海運における省エネ・低炭素化の取組み
国際海運分野については、令和3年11月に、我が国が米国、英国等とIMOに共同提案した2050年国際海運カーボンニュートラルの目標を実現すべく、IMOにおいて引き続き議論を主導する。また、この目標を達成するための2040年時点の中間目標として、平成20年比50%削減目標を令和4年12月にIMOに対して新たに提案した。加えて、令和3年度より、グリーンイノベーション基金を活用して水素・アンモニア等を燃料とするゼロエミッション船の実用化に向けた技術開発・実証を行っている。アンモニア燃料船については令和8年、水素燃料船については令和9年の実証運航開始を目指しているところ、令和5年5月には、世界で初めて船舶用大型エンジンによるアンモニア燃料と重油の混焼運転試験を開始するなど、この分野の技術開発をリードしている。国土交通省として、引き続き世界に先駆けた国産「日の丸」エンジンの開発支援を継続していく。内航海運分野においても、船舶の省エネ・低脱炭素化を促進しており、令和4年度は「内航カーボンニュートラル推進に向けた検討会」のとりまとめに示した施策を具体化すべく、荷主等と連携し、新たな技術・手法を組み合わせた連携型省エネ船の開発、バイオ燃料の活用や運航効率の一層の改善に向けた取組み、省エネルギー・省CO2の見える化を推進している。省エネルギー・省CO2の見える化については、省エネ法における荷主のエネルギー使用量の算定において、内航船省エネルギー格付制度の評価に応じた原単位を使用できるよう措置した。また、関係省庁とも連携してLNG燃料船、水素FC船、バッテリー船等の実証・導入を支援するなど船舶の低・脱炭素化に向けた取組みを一層加速させている。
③航空分野のCO2排出削減の取組み
航空の脱炭素化に向けて、令和4年6月に「航空法等の一部を改正する法律」が成立し、航空会社や空港管理者等が主体的・計画的に脱炭素化の取組みを進めるための制度的枠組を導入した。
また、令和4年12月には同法に基づき、今後の航空における脱炭素化の基本的な方向性を示す航空脱炭素化推進基本方針を策定した。当該方針に沿って、航空会社や空港管理者による脱炭素化推進計画の作成を支援、進捗をフォローアップし、航空の脱炭素化を着実に進める。
国際航空分野では、国際民間航空機関(ICAO)において、令和4年10月、我が国が議論をリードしてきたCO2排出削減の長期目標について「2050年までのカーボンニュートラル」が採択された。
また、「航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会」で取りまとめた工程表の取組みを着実に進めていくため、SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)の導入促進、管制の高度化等による運航の改善、機材・装備品等への環境新技術の導入の3つのアプローチ毎に関係省庁と共同して官民協議会を設置した。SAFの導入促進については、2030年時点の本邦航空会社による燃料使用量の10%をSAFに置き換えるという目標に向け、国際競争力のある国産SAFの製造・供給、SAFのサプライチェーンの構築、CORSIA適格燃料の登録・認証取得(ICAOにおける環境持続可能性・GHG排出量の評価等)などに取り組む。
空港分野においては、「空港分野におけるCO2削減に関する検討会」において空港施設・空港車両等からのCO2排出削減、空港の再エネの導入など各空港における脱炭素化の推進について検討を進めている。また、空港の脱炭素化に向けた官民連携プラットフォームの取組みや利用者への理解促進をするとともに、「空港脱炭素化推進のための計画策定ガイドライン(第二版)」及び「空港脱炭素化事業推進のためのマニュアル(初版)」を参考にしつつ、各空港において空港脱炭素化推進協議会の設置や空港脱炭素化推進計画の策定を推進する。
④港湾におけるカーボンニュートラルポート(CNP)形成の推進
港湾においては、我が国の産業や港湾の競争力の強化と脱炭素社会の実現に貢献するため、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化や水素等の受入環境の整備等を図るカーボンニュートラルポート(CNP)の形成を推進している。
令和4年12月に施行された「港湾法の一部を改正する法律(令和4年法律第87号)」により、港湾管理者が、多岐に亘る関係者が参加する港湾脱炭素化推進協議会における検討を踏まえて、港湾脱炭素化推進計画を作成するなど、CNPの形成をより一層推進する体制が構築された。また、港湾管理者による同計画の作成を支援するとともに、低炭素型荷役機械の導入、停泊中船舶に陸上電力を供給する設備の整備、水素を動力源とする荷役機械等に関する現地実証、LNGバンカリング拠点の整備、洋上風力発電の導入等を推進する。
加えて、サプライチェーンの脱炭素化に取り組む荷主等のニーズへ対応するため、コンテナターミナル等の脱炭素化の取組み状況を客観的に評価する認証制度の導入に向けて、国際展開も視野に入れて検討を進める。
(7)住宅・建築物の省エネ性能の向上
2050年カーボンニュートラル、2030年度温室効果ガス46%排出削減(2013年度比)、さらに50%の高みに向けた挑戦という目標の実現に向け、我が国のエネルギー消費量の約3割を占める建築物分野における取組みが急務となっている。
住宅・建築物の省エネ対策を強力に進めるため、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」が令和4年6月に公布され、2025年度までに原則全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務付けることとした。加えて、より高い省エネ性能への誘導のため、建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度を強化するとともに、形態規制の合理化等により既存ストックの省エネ改修を推進することとしている。また、再エネ設備導入促進のための措置として、市町村が地域の実情に応じて再エネ設備の設置を促進する区域を設定できることとした。
このほか、省エネ・省CO2等に係る先導的なプロジェクトやZEH・ZEB等の省エネ性能の高い住宅・建築物に対する支援を行うとともに、独立行政法人住宅金融支援機構のフラット35SにおけるZEH等への融資金利引下げ等を実施している。また、設計・施工技術者向けの講習会の開催等により、省エネ住宅・建築物の生産体制の整備に対する支援を行っている。さらに、住宅の省エネ化を推進するため、国土交通省、環境省、及び経済産業省は住宅の省エネリフォーム等に関する新たな補助制度をそれぞれ創設し、ワンストップで利用可能とするなど、連携して支援を行う。
(8) 下水道における省エネ・創エネ対策等の推進
高効率機器の導入等による省エネ対策、下水汚泥の固形燃料化等の創エネ対策、下水汚泥の高温焼却等による一酸化二窒素の削減を推進している。
(9)建設機械の環境対策の推進
燃費基準値を達成した油圧ショベル、ブルドーザ等の主要建設機械を燃費基準達成建設機械として認定する制度を運営しており、令和5年1月現在で163型式を認定している。一方、これらの建設機械の購入に対し低利融資制度等の支援を行っている。
また、令和32年目標である建設施工におけるカーボンニュートラルの実現に向けて、動力源の抜本的な見直しが必要であり、GX建設機械(電動等)の導入拡大を図るため、GX建設機械認定制度創設の検討を行う。
(10)都市緑化等によるCO2の吸収源対策の推進
都市緑化等は、パリ協定に基づく我が国の温室効果ガス削減目標の吸収源対策に位置づけられており、市町村が策定する緑の基本計画等に基づき、都市公園の整備や、道路、港湾等の公共施設や民有地における緑化を推進している。また、地表面被覆の改善等、熱環境改善を通じたヒートアイランド現象の緩和による都市の低炭素化や緑化によるCO2吸収源対策の意義や効果に関する普及啓発にも取り組んでいる。
(11)ブルーカーボンを活用した吸収源対策の推進
CO2吸収源の新しい選択肢として、沿岸域や海洋生態系により隔離・貯留される炭素(ブルーカーボン)が注目され、令和元年6月に「地球温暖化防止に貢献するブルーカーボンの役割に関する検討会」を設置した。2年7月にはブルーカーボンに関する試験研究を行う技術研究組合「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)」の設立を認可し、藻場の保全活動等の取組みによりブルーカーボン生態系が吸収したCO2吸収量をクレジットとして認証する「ブルーカーボン・オフセット・クレジット制度」の試行に取り組んでいる。
- 注1 貨物トンを1km輸送するときに排出されるCO2の量。