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国土交通白書 2025

第3節 産業の活性化

■3 海事産業の動向と施策

(1)海事クラスターの強靱化

 四面を海に囲まれる我が国には、海運業、造船・舶用工業、船員を中核分野に、船舶貸渡業、港湾関連業等、金融保険、教育機関など関連分野の集積した「海事クラスター」が形成されている。国際競争の激化等により、中核分野のいずれが欠けても「海事クラスター」全体の維持が困難となり、経済・国民生活・経済安全保障等に大きな影響が生じる。環境技術・自動運航技術を新たな競争力の源として、各種施策とともに、海事クラスターの強靱化を図る必要がある。

 造船・海運分野の競争力強化に向け、令和3年5月に成立した「海事産業の基盤強化のための海上運送法等の一部を改正する法律」に基づき、各種支援を行っている。

 具体的には、造船・舶用事業者が生産性向上等に取り組む「事業基盤強化計画」について42件(58社)注5、事業基盤強化計画の認定を受けた造船事業者が建造し、安全・低環境負荷で船員の省力化に資する高品質な船舶を海運事業者が導入する「特定船舶導入計画」について78件(80隻)注5をそれぞれ認定した。認定事業者に対しては、税制特例及び政府系金融機関からの長期・低利融資等の措置が必要に応じて講じられている。

 また、船員の働き方改革を推進するため、船員の労務管理の適正化等に取り組むとともに、「海技人材の確保のあり方に関する検討会」の中間とりまとめで示された快適な海上労働環境形成の促進に資する仕組みの導入等の対応策の具体化を進めるほか、内航分野における内航海運業者と荷主間の取引環境の改善や生産性の向上に取り組んでいく。

【関連リンク】

「海事産業の基盤強化のための海上運送法等の一部を改正する法律案」を閣議決定

URL:https://www.mlit.go.jp/report/press/kaiji01_hh_000512.html

【関連リンク】

事業基盤強化計画・特定船舶導入計画(海事産業強化法)

URL:https://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_tk5_000068.html

(2)造船・舶用工業

①造船・舶用工業の現状

 貿易を海上輸送に依存している我が国において、造船・舶用工業は、経済安全保障上不可欠であるとともに、地域経済・雇用に貢献している。また、我が国の艦艇・巡視船はすべて国内で建造・修繕されており、造船・舶用工業は我が国の安全保障を支える重要な産業である。

 船舶は我が国と中国・韓国で世界需要の9割以上を建造しており、し烈な国際競争を繰り広げている。そのような中、我が国の造船・舶用工業は、ゼロエミッション船等の次世代船舶の供給体制の構築及び人手不足の深刻化等、依然として様々な課題に直面している。我が国船舶産業がこれらの課題に立ち向かい、国際競争力を高め、引き続き我が国の経済・社会を支えていくため、令和6年7月、産官学から成る「船舶産業の変革実現に向けた検討会」において、「2030年の次世代船舶受注量におけるトップシェア確保」という目標及びそれを実現するためのロードマップを作成した。今後は、目標達成に向けて、以下の取組を推進していく。

②造船・舶用工業の国際競争力強化のための取組

 今後の世界の造船市場においては、新造船の建造需要が更に拡大すると見込まれており、その中では、水素、アンモニア等を燃料とするゼロエミッション船等の需要への対応が必要となる。一方で、我が国の人口減少に伴い、人手不足が深刻化している。そのため、我が国船舶産業においては、生産性の向上及び人材の確保・育成等を推進する必要があるほか、我が国における安定的な海上輸送の確保という経済安全保障上の課題にも対応していく必要がある。

 ゼロエミッション船等の需要への対応については、それら船舶の供給体制を整えるため、令和6年度から、環境省等と連携し、それらの新燃料に対応した舶用機器の生産設備及び造船所においてそれらの機器を艤装するための設備の整備に対する支援を行っている。

 我が国の造船・舶用工業の生産性向上に向けては造船所等のデジタル・トランスフォーメーション(DX)に関する技術開発等への支援を行っている。令和7年度からは、ロボット等により複雑な製造工程を自動化する技術(DXオートメーション技術)の開発等への支援を行っていく。

 人材の確保・育成に関しては、船舶産業の魅力の向上・発信及び新燃料船に対応する専門人材の育成促進に向け、産学官による検討等を進めている。

 また、外国人材の多能工化に対応するため、令和元年度より開始された「特定技能制度」について、6年3月に造船・舶用工業分野の業務区分注6の再編を行い、外国人材が従事可能な作業範囲を拡大したほか、現在の「技能実習制度」に替わるものとして、9年4月から「育成就労制度」の運用が開始される予定のところ、こうした動きも踏まえつつ、引き続き、巡回指導の実施等により、外国人材の適正な受入れを進めていく。

 経済安全保障の観点からは、「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」に基づき、特定重要物資に指定された船舶用機関(エンジン)・航海用具(ソナー)・推進器(プロペラ)について、安定的な供給体制の確保を図るため、これまでに11件の供給確保計画の認定を行い、設備投資に必要な支援を講じている。引き続き、当該制度の適切な運用を通じて、サプライチェーン強靱化の取組を支援していく。

 また、「デジタル技術を用いた高性能次世代船舶開発技術」が同法に基づく特定重要技術の1つとして位置付けられたことを受けて、船舶の開発・設計・建造の効率や船舶の性能を革新的に高める技術(バーチャルエンジニアリング技術)の研究開発支援を行っていく。

 加えて、激しい国際競争が繰り広げられる造船分野において、公正な競争条件を確保するため我が国は、経済協力開発機構(OECD)造船委員会において、コストを船価に適切に反映しないような不当廉売の抑止や市場歪曲的な公的支援の抑制に取り組んでいるほか、船舶関連の公的輸出信用アレンジメント注7の改定の議論を通じて環境に配慮した船舶の輸出促進に向けても取り組んでいる。

(3)海上輸送産業

①外航海運

 外航海運は、経済安全保障の確保に重要な役割を果たしていることから、日本船舶・日本人船員を確保することは極めて重要である。この課題に対処するため、「海上運送法」に基づき、日本船舶・船員確保計画の認定を受けた本邦対外船舶運航事業者が確保する日本船舶等(航海命令発令時に日本籍化が可能である外国船舶(準日本船舶)を含む。)について、トン数標準税制注8を適用し、安定的な海上輸送の早期確保を図っている。

 さらに、令和5年4月に成立した「海上運送法等の一部を改正する法律」にて創設された外航船舶確保等計画の認定制度が同年7月より施行された。認定を受けた上記の計画に基づき導入する一定の船舶について、特別償却率を最大32%まで引き上げることにより、外航船舶の日本船主による計画的な導入・確保を促進している。

②国内旅客船事業

 国内旅客船事業は地域住民の移動や生活物資の輸送手段として重要な役割を担う一方、令和5年度の国内旅客船事業の輸送需要は約74百万人(4年度比約17%増)であるが、燃油価格高騰等も相まって、経営環境は厳しい状況にある。このため、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の船舶共有建造制度や税制特例措置により省エネ性能の高い船舶の建造等を促進している。さらに、海運へのモーダルシフトを一層推進するため、モーダルシフトに最も貢献度の高かったと認められる事業者を表彰する「海運モーダルシフト大賞」を元年度に創設し、表彰を実施している。

【関連データ】

国内旅客船事業者数及び旅客輸送人員の推移

URL:https://www.mlit.go.jp/statistics/file000010.html

③内航海運

 令和4年度の内航海運の輸送量は1,540億トンキロであり、国内物流の約4割、産業基礎物資輸送の約8割を担っており、モーダルシフトの受け皿としても重要である。

 一方で、内航船舶は、船齢が法定耐用年数(14年)以上の船舶が全体の約7割を占めている。また、内航船員全体の年齢構成は徐々に若返りが進んでおり、50歳以上の割合も他産業と同水準に推移しているが、近年、若年船員が増加傾向であり、定着促進が課題となっている。さらに、内航海運業者の99.7%が経営基盤の脆弱な中小企業であり、寡占化された荷主企業への専属化・系列化が固定化しているという業界構造になっており、こうした状況の改善が課題である。

 これらの課題や環境の変化に対応するため、令和4年4月に施行された改正内航海運業法では、内航海運業に係る契約の書面交付の義務化、「荷主に対する勧告・公表制度」、「船舶管理業の登録制度」等を創設し、例えば、船舶管理業者については、347社(令和6年度末現在)まで増加した。また、「内航海運業者と荷主との連携強化のためのガイドライン」の周知や、荷主業界と内航海運業界との意見交換の場である「安定・効率輸送協議会」等の開催に加え、令和6年度は商慣習の改善を後押しするため本ガイドラインの改訂を行うなど、取引環境の改善や生産性向上等に取り組んでいる。

④港湾運送事業

 港湾運送事業は、海上輸送と陸上輸送の結節点として、我が国の経済や国民の生活を支える重要な役割を果たしている。令和6年3月末現在、「港湾運送事業法」の対象となる全国93港の指定港における一般港湾運送事業等の事業者数は846者(前年度より10者減)となっており、令和5年度の船舶積卸量は、全国で13億4,300万トン(前年度比1.7%減)となっている。

 また、近年、港湾運送事業においても生産年齢人口の減少等を背景とした担い手不足の実態にかんがみ、民間事業者による先進的取組事例の共有、事業者間の協業の促進、適正な取引環境の実現に向けた取組等を通じ、安定的な港湾物流の確保を図ることとしている。

(4)船員

 船員の確保・育成は我が国経済の発展や国民生活の維持・向上に必要不可欠であり、国土交通省では我が国最大の船員養成機関として独立行政法人海技教育機構(JMETS)を活用し、優秀な船員を育成している。外航船員について、経済安全保障等の観点から、一定数の日本人船員の確保・育成に取り組んでいる。内航船員について、船員教育機関を卒業していない者を対象とした短期養成課程の支援や船員を計画的に雇用して育成する事業者への支援等、若手船員確保に取り組んでおり、業界関係者の努力も相まって、若手船員の割合は増加傾向にある。

 一方、厳しい労働環境等を背景に若手船員の定着が課題となっていることから、労務管理責任者制度の創設等による船員の労務管理の適正化や船員の健康確保に関する新たな制度を通じて、船員の働き方改革の実現に取り組んでいる。

(5)海洋産業

 浮体式洋上風力発電の導入拡大に向け、大型構造物の設計・製造等の技術力や海に面した広い敷地・製造設備等を有する我が国造船業への期待が高まっている。国土交通省では、設置・維持管理に必要な船舶の需要見通しや求められる性能等の検討等を行っている。

(6)海事思想普及、海事振興の推進

 海洋立国である我が国において、国民の海洋に対する理解や関心の増進や、暮らしや経済を支える海事産業の認知度向上は、安定的な海上輸送及びそれを支える人材の確保のために重要な取組である。このため、国土交通省は、海事関連団体等と連携して、海事振興事業及び海洋教育事業を全国で展開している。令和6年度には、海事振興事業として「海の日記念行事2024」を開催し、海や船にまつわる各種ブースの展示やステージイベント等を行った。また、海洋教育事業では、児童・生徒・教員・保護者に対し、出前講座や体験型学習等の場を提供することで、海洋や海事産業の理解増進を図った。

  1. 注5 各計画の認定制度が開始されて以降の累計。
  2. 注6 溶接、塗装、鉄工、仕上げ、機械加工、電気機器組立ての6業務区分から、造船、舶用機械、舶用電気電子機器の3業務区分へ見直しされた。
  3. 注7 政府系金融機関による船舶輸出への融資の金利や償還期間等に関する国際的なルール。
  4. 注8 毎年の利益に応じた法人税額の算出に代わり、船舶のトン数に応じた一定のみなし利益に基づいて法人税額を算出する税制。世界の主要海運国においては、同様の税制が導入されている。