4 交通バリアフリー化に向けたソフト面の取り組み


 高齢者・障害者等の移動制約者が公共交通機関を円滑に利用できるようにするためには、前記3のような施設整備を中心としたハード面での対応のほかに、移動制約者のための特別の交通サービスの提供、事前の十分な交通運輸情報の提供、国民の側の支援協力体制づくりといったソフト面の対応が重要であり、以下、これらソフト面の施策の動向をみてみる。〔1−3−15表

(1) STS(スペシャル・トランスポート・サービス)

 STSとは、乗合バスやタクシー等の従来の公共交通機関を利用できない移動制約者に個別的な輸送を提供する交通サービスであり、これにより移動制約者の単独での公共交通機関の利用が可能となる。サービス形態としては、ドア・ツー・ドア型、定時定路線型及び公共施設等巡回型の3つに分かれている。
 このうちドア・ツー・ドア型サービスは、最も移動制約者に配慮したものであり、移動制約者のうち単独ではタクシーを利用することができない人を対象としている。電話等により事前の予約を必要とし、運行する車両はリフト付き車両等のバリアフリー化した車両を使用する。運行主体は、タクシー事業者が福祉タクシーとして運行するケースや、地方公共団体からの運行委託を受け、事業者又はボランティア等の福祉団体が運行するケースがあり、いずれも、地方公共団体等からの補助金による助成等を受けることが多い。
 定時定路線型サービスは、乗合バスの形態に類似しているが、バス停間隔を短くしたり、リフト付きバスや低床バス等の車両の運行により、移動制約者にとっても利用しやすいサービスを提供するものである。
 公共施設等巡回型サービスは、自治体等の主導により病院、デイケア施設その他の公共施設等をバリアフリー化した車両で巡回するサービスである。
 こうしたSTSのサービスは、従来の公共交通機関と比較し、よりきめの細かいサービスを提供することが可能となり、移動制約者が単独で利用可能な交通手段として有意義である。しかしながら、事業者がタクシー事業の一環として運行する場合には、採算性の問題があり、また、福祉団体等が運行する場合には、車両の運行体制や公的支援のあり方等について検討を要するため、今後こうしたサービスの普及拡大に向けて、地方公共団体を含めた関係者間で連携協力して取り組むことが必要である。

(2) 分かりやすい交通運輸情報の提供

(3) 国民のバリアフリーに向けた意識の向上

 駅などで、高齢者・障害者等の移動制約者の方を見かけた時、声をかけて手を貸してあげることは、意外と難しいものである。理由としては、そのような機会が少なく慣れていないこと、こうした方への理解が十分でないこと等があり、視覚障害者用の誘導チャイムがうるさいという苦情があることもその現れである。
 欧米諸国においては、相互扶助の考え方が進んでおり、健常者が高齢者・障害者等に手を貸す光景も一般的なものとなっているが、我が国においても、誰もが高齢者・障害者等の立場に配慮してあげる心の余裕を持ち、相互扶助を実践していくことにより、精神面でのさらなるバリアフリー化を進める必要がある。
 こうした動きのひとつとして、交通ボランティア活動がある。交通ボランティア活動とは、地域住民を主体とするボランティアが、主として最寄りの鉄道駅等において、高齢者・障害者等の移動制約者が公共交通機関を円滑に利用できるよう簡単な介助その他の支援活動を無償で実施する活動をいう。交通エコロジー・モビリティー財団では、「交通ボランティア育成講座」を各地で開催し、交通ボランティア活動の普及促進と国民の意識向上に努めている。

(4) 移動制約者に対する運賃等の割引

 高齢者・障害者等の移動制約者の社会参加をより拡大していくためには、運賃等の割引制度により、移動に要するコスト負担を軽減することもひとつの方策であり、現在、事業者の自主的な判断に基づき、1−3−17表に示すとおり実施されているが、交通運輸事業が厳しい経営状況下にあり、公共交通機関の一般利用者の負担からの内部補助により実施することにも限界があること、身体障害者の範囲が拡大していること等から、国又は地方公共団体の福祉政策の一環として行われるべきとの議論もある。
 また、JRグループの「フルムーンパス」や「ジパング倶楽部」、新京成電鉄の「新京成プラチナパス」の例にみられるように、高齢者数が増加し、シルバー市場が拡大していく中、新たな需要喚起策として営業割引が行われている。


(注)ピクトグラム:ピクトグラムとは、文字に代わって事物や概念を伝えるために作られる図形であり、その種類も用途もさまざまであるが、駅構内等公共交通機関においても、外国人に対して乗り場、公衆電話、トイレ等の施設を周知する媒体として用いられている(P.143参照)。


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