公共交通のバリアフリー化を推進するに当たっては、そのための財政的裏付けが必要となる。しかしながら、鉄道駅をはじめとする交通ターミナル等におけるエレベーター・エスカレーターの設置等の垂直移動対策は、施設費用が多額となり、また、既存駅の改修等にあっては、設置空間の確保が容易でなく、用地確保や付帯工事で追加費用を要するなど、資金的・物理的に容易でないケースも多い。また、ノンステップバス等の導入についても現時点では割高な費用負担となっているが、これらの施設整備等は、コストに見合うような利用者の需要増には直ちに結びつかない。
一方、交通事業者は、利用者数の伸び悩み、競争の進展等により厳しい経営環境下にあり、コスト削減が強く求められる状況下にある。
こうした中で、今後バリアフリー化を推進していくためには、限られた財源を有効活用して、事業者側においては、バリアフリーに係る利用者ニーズをより的確に把握し、効率的・効果的な施設整備やサービス提供に努める必要がある。国や地方公共団体においても、(1)バリアフリー促進のための補助制度等の支援措置による適切な対処、(2)今後の取り組みに当たって先駆的・模範的ケースとなるようなモデル事業の実施、(3)移動制約者のためのわかりやすい公共交通利用案内システムの構築等を地域の実情を踏まえながら、また、地域の自主性に配慮しつつ推進していく必要がある。さらに、バリアフリー化の一層の推進のためには、(1)交通事業者と公的主体との連携による鉄道駅等の交通ターミナル施設の改善整備の促進、(2)交通事業者、あるいは交通ターミナル施設におけるバリアフリー化への取り組み状況についての定期的な公表、評価・認定制度の導入等の措置も有効と考えられる。
また、公共交通機関におけるバリアフリー化を推進していくことは、公共交通機関の利便性や魅力度を向上させる総合的取り組みでもあり、その結果、健常者を含めたすべての利用者にとって使いやすいものとなれば、利用者からも評価され、公共交通機関としての信頼を高めるものと考えられる。
事業者のバリアフリー化への取り組みは、高齢者・障害者の自立や社会参加のため、公共交通を担う事業者としての公共的使命から支援協力していくというとらえ方ができるが、一方、2015年には4人に1人、2050年には3人に1人が65歳以上の高齢者となることを考えれば、市場の中で相当規模を占める有力顧客層をいかに自社の事業対象に取り込み、ビジネスチャンスとして活用していくか、また、顧客満足度の高いサービスの創出により、ニーズに応え、企業評価を高めていくかといった企業戦略的な視点でとらえることもできる。実際にタクシー事業者の中には、(1)高齢者等のために病院の順番とりなどの用事を代行するサービスの提供、(2)ユニバーサルタクシー(P.122参照)、(3)高齢者の外出に当たり、乗務員が介護役を引き受け、輸送及び介護のトータルサービスを提供する等の新しい試みが出始めている。また、鉄道、バス等の事業者においても高齢者を対象とした新たな営業割引制度の導入により需要喚起とサービス向上を図る動きがある(P.127参照)。当初はこうしたニューサービスへの認知度が低く、採算性等の問題があるが、交通事業者にあっては、拡大していくシルバー市場の中で利用者ニーズに沿った新しい事業展開や利用者利便向上のためのサービス改善に創意工夫を発揮していくことが期待される。
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