3 貨物輸送の近代化・合理化の方向


  経済が高度成長から安定成長へ移行するのに伴い,貨物輸送活動も,従来の量的拡大から質的充実へと,その志向する方向の転換を迫られている。
  高度成長期には,大量生産・大量消費時代を迎え,経済規模が拡大し,さらに,経済発展の原動力として,新しい産業が次々と誕生し,経済活動が物に対する輸送需要の急増をもたらした。一方では,新しい生産方式によって既成の産業を若返らせてきた技術革新が,原子力開発,宇宙開発,海洋開発など新しい分野の開発を可能にし,そこに新なた輸送需要を生み出してきた。これに対し,各輸送機関は,鉄道,道路,港湾,空港,各種ターミナル等の施設整備とあいまって,各種の技術革新を背景に新しく開発された輸送技術を駆使して,貨車,トラック,船舶などの大型化,専用化,高速化等輸送容量の拡大,輸送手段・方式の近代化を進めてこれに応え,高度成長を支えてきた。
  しかしながら,大幅な輸送需要増加を安価なコストでこなしていくという高度成長を支えた一つの側面については,45年度頃までには量的にも技術的にもほぼ一応のレベルに達したと考えられるが, 〔2−1−1図〕でみたとおり,経済成長と輸送量との関係はこの頃から変化してきている。
  経済の安定成長期を迎え,産業構造の変化等により,既に述べたとおり,今後輸送需要の増加に多くを見込めない中で,高度加工型・知識集約型産業のウェイトの増大,荷主企業における顧客に対するサービスを低下させることなくトータルとしての物流コストを低減させたいという要請の高まり等もあり,輸送の随時性,低廉性,安全性,機動性などの観点からする荷主側の輸送機関の選択も一段と厳しさを増してきている。
  また,十数年間の高度成長期に,輸送容量の拡大を図るため急激な施設整備,輸送機材の投入,新技術の導入が行われたため,随所にひずみが生じており,例えば,物流活動に伴って発生する騒音,振動,排出ガス等の公害問題あるいは大都市を中心とする交通混雑問題等が大きな社会問題となっている。これらの解決に資するためにも,さらに物価対策,省資源,省エネルギーの観点からも,むだな輸送を省き物流の効率化を図る必要がある。
  このように物流環境が変化し,各輸送機関間,各運輸企業間における競争が激化する中で,高度化する荷主のニーズに応じ,物資の安定輸送,物流の効率化の使命を果たしていくために,各輸送機関は輸送構造の変化にきめ細かに対応し,自己の特性を生か迂る方向で極力,特化,近代化し,安定成長時代にふさわしい効率的な物流体制を整備し,企業基盤の確立を図る必要がある。
  各物流機関ごとの近代化,合理化の方向は,以下のとおりである。

(1) トラック輸送

  まず,都市内における貨物輸送については,トラックが中核的な役割を演じているが,東京,大阪等大都市を中心とする道路混雑の影響は深刻の度を加えている。このため,トラックの輸送効率は大幅に低下し,また,労働集約性が高く,省力化にも限界があることからコストアップが顕著となっており,流通合理化の見地からもその解決が最も緊急の課題となっている。
  このため,大都市における集配輸送の合理化及び交錯輸送の削減を図り,積載効率を上げ,かつ,自動車交通量を減少させるため,大都市の一定の地域における複数の荷主に係る貨物について,1つのトラック事業者又は複数のトラック事業者が都市内の輸送を行う共同輸送等が実施されている。これらは,従来個々の荷主が自家用トラックを使用して輸送したり,あるいは,個々の荷主が個々のトラック事業者と結びついて輸送を行っていたシステムに比べて,物流コストの低減,交通量の削減に関しては格段の効果をあげるものなので,今後とも,その推進を図る必要がある。
  また,新聞,牛乳,百貨店商品等われわれの日常生浩に密着した物資一般については,共同宅配の推進も検討されているが,特に,百貨店商品については,51年6月から7月にかけて,東京地区(板橋区高島平)及び大阪地区(堺市泉北ニュータウン)において,また,52年7月から8月にかけて,これに郵便小包を加え,札幌市及びその周辺において,運輸省の指導の下に共同宅配モデル事業を実施した。
  また,現在,集配送貨物の大部分は,狭い道路上で積卸作業が行われているが,都市内の道路混雑の緩和,交通公害の防止等の観点から道路外で効率的な積卸しが行われることが望ましいので,輸送の端末に共同荷物授受施設の整備も検討されている。
  さらに,近年,小口貨物に視点をあてて,軽自動車を使用して積合わせ運送を行う軽車両運送事業等新しいタイプの事業が実施されてきており,また,路線業者においても速配体制を強化し,企業向けのものだけでなく一般家庭の小量物品を迅速に高いサービス水準の下で輸送するもの等,新しい輸送サービスを提供するものも出てきている。今後とも,このような荷主のニーズにきめ細かに対応した輸送サービスの提供を図っていく必要がある。
  次に, 〔2−1−13図〕でみたとおり,地域間輸送についてもトラックの果たす役割りが増大しているが,道路等輸送路の整備と比較し,輸送路の結節点であるトラックターミナル等の物流拠点の整備は立ち遅れている。既に,30年代後半からトラックターミナルの建設が始まり,砥年の「流通業務市街地の整備に関する法律」の施行と相まって,急速にトラックターミナルの整備が進められ,51年12月末現在,全国で1,889のトラックターミナルが整備されている。しかしながら,整備の必要性があるにもかかわらず,いまだその整備構想すらない地域一方では,安定成長期としては過大な建設計画が策定され現在に及んでいる地域もみられる。このため,今後の安定成長期への移行を踏まえた全国的な物流ネットワーク整備という観点からバランスのとれた効率的な拠点を配備する必要がある。

(2) 内航海運

  内航海運は,その大量性,低廉性という輸送特性から,石油化学,製鉄,セメント等の我が国基幹産業の発展と臨海工業地帯の開発に対応してその輸送量を増大し,トンキロで国内における全貨物輸送の約半分のシェアを維持してきた。すなわち,51年度における輸送量は,既に述べたように50年度実績を若干上回る程度にとどまったが,国内における全貨物輸送の中で内航海運の占めるシェアはトンキロで52.0彩であり,48年度以来の水準を維持している。特に,工業用非金属鉱物,鉄鋼,セメント及び石油製品の51年度における輸送シェアは 〔1−2−9表〕のとおり,トンキロでそれぞれ92.5%,77.4%,81.3%,89.5%と極めて高く,従来から,内航海運の輸送特性が十分発揮される分野となっている。これらの基幹産業物資の輸送については,今後の我が国の産業構造や地域構造の変化等によって内航海運の果たす役割に基本的な変化が生じるものとは考えられない。
  そうした中で,内航海運に対する要請は輸送力の増強等の量的な面もさることながら,輸送の効率化や合理化等の質的な面の充実に向けられる傾向が強まるものと考えられ,内航海運としては,船舶の近代化等のハード面,輸送費の節約等のソフト面の両面にわたって,従来以上の厳しい対応を迫られることとなろう。
  このほか,内航海運の果たす役割のうちいわゆる雑貨輸送の分野においては,国内貨物輸送体系全体のあり方との関連においても最近つとに問題とされており,「第三次全国総合開発計画においても,貨物輸送における海路利用の促進の必要性が述べられているとともに,今後10年間における海上貨物輸送の伸び率を他の輸送機関に比較して高く見込んでいる。
  海上輸送は一般に, 〔2−1−18図〕のとおり省エネルギー上,また,労働力の有効利用,環境対策上からも,陸上輸送に比し優れた面をもっており,長期的視点から,地域間雑貨輸送システムとして今後成長することが望まれる。

(3) 国鉄貨物輸送

  年々減少を続けてきた国鉄貨物輸送量は50年度には年間1億5,000万トン,500億トンキロの大台を割り,さらに51年度は455億トンキロとこれまでの輸送量のピークを示した45年度に比べ27%減となっている。
  しかしながら,鉄道は,大量・定型輸送の分野では優れた経済性を発揮し,51年度においても穀物,化学肥料,紙・パルプ,化学薬品,セメント等のような物資では陸上貨物輸送においてトラックを上回っており,石油製品も同様に陸上貨物輸送量の半分近くを占めている。
  したがって,国鉄は,今後とも鉄道特性を発揮できる大量・定型輸送の分野を中心に特化し,経済合理性に即して現在の輸送実態に対応した徹底的な運営の効率化を図っていくべきであろう。

(4) 倉庫

  倉庫については,サイロ,冷蔵倉庫等をはじめとする倉庫施設の整備,ラック装置,フォークリフトなどの荷役機械の導入により,物流の近代化・合理化が図られてきている。
  最近における倉庫業を取りまく環境には,我が国経済活動の停滞による保管需要の伸び悩み等,厳しいものがある。しかしながら,倉庫は入出庫活動を通じて物流全体を把握できる立場にあることから,物流の近代化の中枢機関として,我が国物流の近代化に寄与するところも多い。
  これがため,今後とも,流通業務団地等全国物流拠点地に社会的ニーズに対応した適正な庫腹等のハード面の整備を図るとともに,企業の財務内容の改善等企業体質の強化,総合物流業への脱皮,事業の共同化・協業化等ソフト面の対策強化を図る必要がある。

(5) 物流システム化の促進

  地域内及び地域間を問わず,トラック輸送内航海運及び鉄道輸送は,物流システムの一部を形成するもので,それ自体で完結するものではないから,これらの諸物流機関の物流活動全体を有機的に結合し,物流活動全体を一つのシステムとしてとらえ,ニーズに適合した物流システムを設計していく必要がある。
  従来から,鉄道又は船舶の大量輸送性と自動車のもつ機動性を組み合わせたフレートライナー,カーフェリーのような協同一貫輸送システムが既に全国的規模で整備され,物流効率化に寄与している。
  まず,長距離フェリーによる自動車航送量の推移は 〔2−1−19図〕のとおり,48年度までは急速に輸送量は増大したが,それ以降は伸び悩んでいる。長距離フェリー輸送の国内総輸送量に占める分担率はそう大きいとはいえないが,長距離フェリーは,道路混雑の回避,陸上交通事故の防止,交通騒音及び大気汚染の防止,トラック運転者不足の緩和,荷傷みの減少等のメリットを有しており,今後ロールオン・ロールオフ船,コンテナ船等の内航近代化船とともに各々の船種の特性を十分発揮しながら物流の近代化に寄与していくことが期待されている。

  次に,国鉄コンテナ輸送は44年のフレートライナーの運行開始,46年の私有10トンコンテナ制度の開始等により, 〔2−1−20図〕に示すとおり,48年度まで急速に伸びてきたが,49及び50の両年度は不況による貨物量の減少とストの影響51年度にはこれに加えて運賃改定の影響もあって減少している。

  また,航空貨物輸送は, 〔2−1−21表〕のとおり増加傾向を続けているが,戸口から戸口へのサービスを迅速・確実に行うためには,自動車輸送との密接な連携を保つ必要があり,協同一貫輸送システムの形成が要請されている。

  さらに,小口貨物について,コンテナ,パレット等を利用して貨物をユニット化し,機械荷役との組み合せによって需要者までの一貫輸送を行うユニットロードシステムは,貨物のユニット化により荷役の省力化,荷傷みの減少,包装費の低減等物流コストの低減に大きな効果をもたらす。しかしながら,このうちパレット利用については,個々の事業所内の運搬,荷役,保管の合理化策として広く普及しているが,発から着までパレットに積載したまま一貫して輸送する一貫パレチゼーションは,一部の物資を除いて遅々として進展していないのが現状である。


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