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海の交通法規入門


  夜の航海 船の灯火 (その1)

 広い海で2隻の船が出会う場合、相手船の状況と自船との位置関係からその状態によって「行会い船の航法」「横切り船の航法」「追越し船の航法」などの航法が適用されます。
 相手船の状況について、具体的には、相手船はどの方向に見えるか、どちらに向いているか、動いているか(速力は速いか)、どのような種類の船かなど、これら見張りによって得られた情報と、測定した方位の変化から相手船と衝突のおそれがあるかどうかを判断し、どの航法を適用するかを決定します。

 相手船の状況は、昼間であれば容易に見ることができますが、では、夜間はどうするのでしょう。

 海を離れて、陸上の車の場合を考えてみましょう。夜間、明るいヘッドライトを照らしている車は、近づいてくる対向車とわかりますし、赤いテールランプは先行する車の後部だとわかります。夜間は、すべて灯火によって判断しています。道路交通法において、車両に点灯すべき灯火が定められています。
 
 海の上も同じです。夜間はそれぞれの船が表示している灯火によってその船の状況を判断します。
 海上衝突予防法においては、夜間、船が表示すべき灯火を厳密に定めています。
 相手船はどちらに向いているか、相手船は動いているか、相手船はどのような種類の船か・・・これらを灯火だけによって判断します。

 夜間、もしも、灯火をつけ忘れていたら・・・相手の船からは見えませんので、状況を判断することができません。したがって航法を適用することができません。

 夜間、もしも、点灯していた灯火の電球が切れたら・・・相手の船を判断できないことに変わりがありませんが、灯火が消灯してしまった場合には警報が鳴る装置を装備している場合もありますし、大型船では灯火を二重に装備し、消灯してしまった場合にはすぐに他方に切り替えて表示できるようにしています。船の灯火がいかに重要なものかがわかりますね。

 船の灯火のうち、基本的なマスト灯、舷灯、船尾灯について説明します。

1 マスト灯  

 「マスト」の名のとおり、船の高い所に設置され、前方から横方向までを範囲として光を放つ白色の灯火です。光の照らす範囲、正確な「射光範囲」は、船首から左右112度30分の範囲です。なにやらまた中途半端な度数が出てきました。既に説明した追越し船の航法の「追越し船の範囲」を思い出してください。船尾灯が照らさない範囲をマスト灯が照射します。


マスト灯の射光範囲

 長さ50メートル以上の船は、前部と後部にそれぞれ1個のマスト灯を表示します。この場合、前部マスト灯は後部マスト灯より低い位置に表示します。この2個のマスト灯の見え具合によって、その船がどのような向きになっているかがわかります。
 船の左舷側を見ると、

このように見えます。
船の右舷側を見ると、

このように見えます。
正面から見ると、

 このように見えます。
 2個のマスト灯の見え具合、2個のマスト灯の開き具合でその船がどのような向きになっているかがわかるわけです。
 
 長さ50メートル未満の船は後部のマスト灯を必要としませんので、マスト灯は1個です。1個のマスト灯のみで、その船がどのような向きになっているかを知ることは難しいですが、あとで説明する舷灯との組み合わせによって、知ることができます。

 船の長さによって、視認距離(マスト灯の明るさ)が決められています。船が大型になるほど明るい灯火で遠くまで届く、つまり遠くから見つけられるということになります。
 
 「マスト灯は自動車のヘッドライトのようなもの?」とイメージされるとちょっと違います。他の船から見た場合にはこちらに向かってくる船ということがわかり、その点では同じ役目を持っています。大きく違う点は、車のヘッドライトのように前方の障害物を見つけるために路上を照らすという役目はありません。
 大型船に用いられる一番明るいマスト灯は、6海里(約11q)先から見える明るさということになっていますが、使用している電球の明るさは一般家庭の部屋で使用する程度に過ぎません。

 夜間の操舵室は真っ暗です。暗闇の中から、他の船の灯火を探しますので、見張りの妨げとなる光をつけてはいけません。
 マスト灯など定められた以外の灯火は、見張りの妨げとなるばかりではありません、それを見る相手の船が戸惑い、誤認したら大変です。定められた灯火以外の光を表示してはいけません。


2 舷灯  

 船の左右を識別する灯火が舷灯です。船の右側(右舷)に緑色の右舷灯、左側(左舷)に紅色の左舷灯を表示します。
 舷灯の射光範囲は、船首から左右それぞれ112度30分を照らし、左右を合わせるとマスト灯と同じ範囲となります。


舷灯の射光範囲

 舷灯はマスト灯1個の船ではマスト灯よりも低い位置に表示します。前部マスト灯と後部マスト灯の2個のマスト灯をもつ長さ50メートル以上の船では、舷灯は前部マスト灯の後方で前部マスト灯よりも低い位置に表示します。
 通常、大型船では船橋(ブリッジ)の左舷と右舷に、小型船でも操舵室上部の左舷と右舷に表示しています。

 舷灯の明るさはマスト灯よりも弱く、舷灯の光が届く距離はマスト灯よりも短くなっています。実際、夜間に遠くから他の船の灯火見る場合、マスト灯が先に見え、次に舷灯が見えてきます。
 2個のマスト灯の見え具合によって、その船がどのような向きになっているかがわかることを説明しましたが、これに加えて緑色か紅色の舷灯が見えればさらにはっきりします。
 
 先の図に舷灯を加えるここのようになります。

 

 船の長さが20メートル未満の船では、舷灯に代えて両色灯を表示することができます。両色灯は一つの灯火器具の中に緑灯と紅灯を一緒に入れたもので形状も小さく、左右別々の舷灯を表示することが困難であったり、実際的でない小型の船に用いられ、操舵室上部の中央に表示されるのが普通です。


3 船尾灯  

 船の船尾に表示する灯火が船尾灯です。船尾灯は白色で、できる限り船尾近くに表示します。
射光範囲はマスト灯(舷灯)が照らさない範囲の135度、正船尾から左右67度30分の範囲です。この中途半端な度数は、追越し船の航法で説明した度数で、90度の4分の3(6ポイント)にあたります。


 

船尾灯の射光範囲

 「まてよ・・マスト灯も船尾灯同じ白色。白色1灯が見えたときは、マスト灯1個の船のマスト灯か、船尾灯か、どうやって区別するんだろう?」こんな疑問が出てくればたいしたものです。
 今までの説明のとおり、マスト灯と舷灯(両色灯)は射光範囲が同じですから、明るさの違いから、見えてくる時間は違いますが、やがて舷灯が見え、白色と舷灯の緑か紅が見えればマスト灯であるとわかります。

 舷灯が見えない段階では・・・マスト灯と船尾灯の表示位置の高低から推定し、うっすらと見える相手船の形などから判断します。実はこれがなかなか難しいのですが。

 夜間といっても、月明かりがあったり、星明かりがあったりしますので、全く灯火だけしか見えないということはまれで、たいていは相手の船の形がわかります。船首で波を切って進んでいれば白い波が見えますし、大型船では排気ガスなどが出ている煙突がわかる場合もあります。双眼鏡で見ればさらにはっきりします。こうしたことから船の形を判断して、その灯火の位置からマスト灯か船尾灯かを区別します。

《 灯火あれこれ 》

 灯火の境目  

 マスト灯と舷灯は前方から横方向、船尾灯は後方を照らし、その射光範囲は方位1度の半分(方位の30分)の単位で厳密に区切られている、ということは説明したとおりですが、では、船の斜め後方にあたる、マスト灯(舷灯)と船尾灯との境目ではどのように見えると思いますか?

 答えは「マスト灯(舷灯)と船尾灯が同時に見えることがある。」です。
 光の拡散が理由です。灯火の器具は射光範囲を厳密に区切って作られており、灯火器具は船体へ正確に取り付けられますが、光源から遠ざかるほど光が広がることから、マスト灯(舷灯)と船尾灯が同時に見えることがあります。
 また、これとは逆に、大型船と近距離で行き会うときなど、見えていたマスト灯(舷灯)が見えなくなって次に船尾灯が見えるまで少し時間がかかる、つまり一時的に両方が見えない現象が生じることがあります。


 船の灯火は世界中みな同じ  

 船が表示すべき灯火の色、明るさ、設置位置などは海上衝突予防法(同施行規則)に厳密に
定められています。海上衝突予防法は、国際海上衝突予防規則に基づいていますので、船の灯火は世界共通です。当然ながら、広い海での航法も世界中みな同じです。
 日本の港にはたくさんの外国船が寄港しますし、日本の沿岸をたくさんの外国船が航海しています。もちろん日本の船もたくさん外国に行きます。船の灯火や航法がが国ごとに別々だったら・・・たいへんなことになりますね。

 舷灯の色は飛行機も同じ  

 舷灯の左右の色、右が緑、左が紅は、飛行機でも同じです。夜の空港に行く機会があったら確かめてみてください。

◎ もう少し詳しく知りたい場合は
海上衝突予防法 → 第23条


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