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海の交通法規入門


追越し船の航法
 道路の車両交通と同じ(追越し船の航法)  

広い海の上で船と船が近づく状況のうち、
 「一方が後方から接近し、他方を追い越す場合」について見てみましょう。

 基本的な考え方は、道路の車両交通の追越し方法と同じです。
 後方から接近する追越し船は、追い越される船を確実に追い越し、十分に遠ざかるまで追い越される船の進路を避けなければなりません。

 追い越される船の右側から追い越すか、左側から追い越すかについては特に決まりはありません。
 図でみると

 このようになります。

 追い越す方法は「自動車と同じ」で簡単ですが、陸上の道路と広い海の上とではだいぶ様子が違います。
 広い海の上で、「一方が後方から接近し、他方を追い越す」のはどのような場合が考えられるでしょう・・・

 

 図のうち、どこまでが追越し船でしょうか。
 問題となるのは、どこまでが「追越し船」で、どこからが「横切り船」かです。

 海上衝突予防法では、「船舶の正横後22度30分を超える後方の位置からその船舶を追い越す船舶は、追越し船とする。」と定めています。

 追越し船となる範囲は図で示すと次のとおりです。

 「22度30分」とはずいぶん半端な角度ですね。
 船の真横(正横)から船尾までの90度、その4分の1といえばわかりやすいでしょうか。

 

 これは方位を示すコンパスカードの読み方からきています。風の吹く方向、風向の表し方とも関連があります。
 360度を32等分した方位の角度(11度15分)を1ポイント(Point)「点」といいます。昔の帆船の時代から船では、方位の角度を表す単位としてこのポイントを使ってきました。
 「船舶の正横後22度30分」とは「船舶の正横後2ポイント」という言い方もできます。

 「船舶の正横後22度30分」で示される区分けは、夜間、船が点灯する灯火の区分けにもなります。
 夜間、船の後方を照らす「船尾灯」と、船の右側を照らす「右舷灯」及び船の左側を照らす「左舷灯」の境でもあります。
 図でみると

 このようになります。

 「追越し船の範囲は理解できるが、船が揺れていたりすることもあるだろうし、実際に見て互いにその範囲が正確にわかるのだろうか。」という疑問があるかもしれません。

 確かに「追越し船」となるのか「横切り船」となるのか、まぎらわしい場合があります。
 適用航法の違いで、とるべき方法が大きく異なる場合があります。(どのような場合か、追越し船の範囲の図を見て考えてください。???

 これらについて海上衝突予防法では、「自船が追越し船であるかどうか確かめることができない場合は、追越し船であると判断しなくてはならない。」と定めています。
 自分の船が、「追越し船」となるのか「横切り船」となるのかがまぎらわしい場合は、追越し船として、追い越される船を確実に追い越すことで、混乱を生じないようにしています。


◎もう少し詳しく知りたい場合は
海上衝突予防法 → 13条
裁決事例にみる交通法規 → 裁決事例3へ
今回は、広い海の上での航法のうち、追越し船の航法についてみてみました。
「海の交通法規入門」では、以後、
 「動きやすい船が、動きにくい船を避ける」(各種船舶間の航法)
 「常識的な交通方法 船員の常務」(船員の常務)
 「夜の航海 船の灯火」 などについて、解説する予定です。
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