第1回 CARATS2040チャレンジコンペ 開催結果

Collaborative Actions for Renovation of Air Traffic Systems(CARATS)

第1回 CARATS2040チャレンジコンペ 開催結果

🏆最優秀賞
CARATSオープンデータとAIが実現する次世代管制官育成プラットフォーム
大阪公立大学  田上満喜

🎖️優秀賞
旅客機国内便に対する新幹線方式及び電動航空機の導入
東京都立大学  梶川 崚、林 泰希、由井 颯人、山下 優樹、一松 佳希、塩崎 亮太、
        出合 慎太郎、丸山 昇大、荒井 颯太、荒川 健琉、河野 孝弘

🏅ビジネスチャンス賞
AAM×ロボットによる新たな物流
大阪公立大学  今本 光祐、岡野 友哉、進士 景星

🏅データ活用賞
軌道ベース運用のその先の空域と滑走路運用
東京都立大学  一松 佳希、林 泰希、由井 颯人、山下 優樹、塩崎 亮太、出合 慎太郎、
        丸山 昇大、荒井 颯太、荒川 健琉、梶川 崚、河野 孝弘

🏅研究奨励賞
越境的共創で拓く航空人間科学:安全を高める研究基盤の提案
九州大学    植田 航平


審査員による講評

屋井 鉄雄



東京科学大学 特任教授
CARATS推進協議会 座長

 今年度より初めて開催されたCARATS2040チャレンジコンペにおいて、学生の皆様から多様かつ先進的な提案が寄せられ、審査員一同、非常に刺激的な時間を過ごすことができました。 提案分野は幅広く、いずれも航空分野の将来像を真摯に考え抜いたものであり、審査は容易ではありませんでしたが、産学官それぞれの分野から選出された審査員が学生のアイデアに対して厳正なる審査を行いました。
 最優秀賞に輝いた大阪公立大学の「CARATSオープンデータとAIが実現する次世代管制官育成プラットフォーム」について、学生とは思えない完成度で、技術的な深みと教育的価値を兼ね備えた優れた提案であり、航空保安大学校への導入も検討できるのではないかと感じました。続く優秀賞を受賞した東京都立大学の「旅客機国内便に対する新幹線方式及び電動航空機の導入」は、予約不要・低運賃という利用者視点を重視し、地方路線の課題解決に向けた実効性を示した点を高く評価しました。
 その他、ビジネスチャンス賞を受賞した大阪公立大学の「AAM×ロボットによる新たな物流」は、空の利用にこだわり、ドローンに追加機能を持たせる発想や都市価値への波及効果を見据えた視点は、将来的なビジネス展開の可能性を感じました。 データ活用賞を受賞した東京都立大学の「軌道ベース運用のその先の空域と滑走路運用」は、現行のオープンデータ活用の限界を踏まえつつ、今後のデータ公開促進に寄与する意義深い内容でした。 さらに、研究奨励賞を受賞した九州大学の「越境的共創で拓く航空人間科学」は、安全性向上に不可欠な心理学的アプローチを取り入れ、学際的な広がりを期待させるものでした。
 総じて、今回の発表は、航空分野の未来を切り拓く多様な視点と創造力に満ちており、学生の皆様の熱意と探究心に深く敬意を表します。今後もこうした挑戦的な取り組みが継続され、産学官の連携を通じて実装に向けた議論が進展することを強く期待いたします。




植田 竜



日本航空株式会社 運航基準技術部 部長

 このたび初めて開催された「CARATS2040チャレンジコンペ」では、5組の学生の皆さんが航空交通分野の発展に資するアイデアを発表し、多くの刺激と期待をもたらす場となりました。 審査員を務めさせていただき、深い感銘を受けるとともに、我が国の航空交通システムの今後の発展に期待を寄せております。
 本コンペでは、参加された皆さんがそれぞれ設定した課題やテーマに対し、独創的なアプローチと専門的知見を駆使して挑戦している点が印象的でした。 世界的な航空需要の拡大や国内における少子高齢化の進行に伴い、人材不足や運航効率の向上といった課題が顕在化することが予測される中、 AIによる次世代管制官育成プラットフォームや「CARATSオープンデータを活用した軌道モデルの研究、「次世代エアモビリティによる新たな輸送システムの提案、安全性向上を目指した新たな研究基盤としての航空人間科学の提案、国内線に対する新幹線方式及び電動航空機導入の提案など、航空の将来を担う学生の皆さんによる多様で革新的なアイデアの発表に、審査をしていた私自身心が躍り、未来への大きな希望を感じました。
 これらの提案は、将来の航空システムにおいて安全性・利便性・持続可能性の向上に寄与する示唆を含んでおり、参加された皆さんの熱意と創造力が、これからの空の未来に大きな貢献をもたらすことを期待しております。
 最後に、本コンペを企画・運営された事務局の皆様に深く感謝申し上げるとともに、今後もCARATSの裾野がさらに広がり、 安全を最優先に、持続可能かつ利便性の高い航空交通システムの構築に向けた取り組みがより一層推進されることを願っております。




新居 一巳



全日本空輸株式会社 オペレーションサポートセンター フライトオペレーション推進部 部長

 今回ご参加頂いた皆様、お疲れ様でした。 皆様のご提案は、いずれも航空交通分野における深い洞察に加え、示唆に富むものであり、強く心に響きました。将来の航空交通分野における真摯な探究心と熱意に、心より敬意を表します。
航空業界が直面している 安全/安心・運航効率・環境という根幹をなす重要課題に対し、多面的で独創的なアプローチが随所に見受けられました。 航空会社の運航部門を預かる者として、特に航空の将来を描く上で、以下について強く注目した次第です。
 まず第一に、オペレーションの将来像を理想論ではなく現実的な社会実装を見据えた、リアリティーのある視点で描いていた点です。 TBO の進展、電動航空機、AAM物流などに対し、単なる技術活用に終わらず、社会的受容性等も勘案したさまざまな視点での提案は、非常に有意義な内容でした。
 次に、最新の技術そのものだけではなく、それを支える人や社会との調和にも着目していた提案が多かったことです。 AI技術と実データを活用した次世代の管制官育成、AAM活用、ヒューマンファクターの深化など、持続可能な航空交通の根幹を支える上で、社会課題の解決に資する重要な視点も多くあり、航空交通分野の発展に繋がる素晴らしい内容でした。 いずれも実現へ結びつくことを大いに期待しています。
 今回の提案を拝見し、皆様のような若い力が未来の航空を、より安全/安心に、より効率的で、より環境に優しいものへと創造していくことを確信していますし、 皆様と共に新しい航空を創り上げていけることを、心から楽しみにしています。




庄田 武志



日本電気株式会社 エアロスペースソリューション統括部 上席プロフェッショナル

 「CARATS2040チャレンジコンペ」にご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。
 今回のコンペでは、航空分野におけるオープンデータ活用の可能性を多角的に示す提案が集まり、審査員として非常に有意義な時間となりました。 どの提案も、10分間という短い発表時間の中で、課題解決に向けた真摯な姿勢と未来を切り開こうとする強い意志が感じられ、良い刺激をいただきました。
 AIとCARATSオープンデータを組み合わせた管制官育成プラットフォームは、教育と安全性を両立させる実践的なアプローチであり、現場に直結する価値を示していました。 電動航空機導入をベースとした都市型配送モデルや新幹線方式の運航の提案は、空と地上をつなぐ新しいモビリティの形を描き、社会受容性を突破していく勢いを感じました。 さらに、コロナ禍データを活用した軌道ベース運用の拡張モデルや、人間科学に基づく安全性向上の取り組みは、航空の未来を支える基盤として重要な意味を持っています。
 今回のコンペを通じて強く感じたのは、「データをどう使い、どのような価値に変えるか」という挑戦が、航空分野に新しい可能性をもたらすということです。 応募者の皆様のアイデアには、技術的な深さだけでなく、社会に貢献したいという思いが込められていました。 こうした取り組みが、今後の研究開発やビジネスの現場で実を結び、航空の未来をより安全で持続可能なものにしていくことを心から期待しています。
 このチャレンジに参加された皆様の努力と創意工夫に、改めて敬意を表します。 ここで生まれたアイデアが、社会課題の解決や新しい価値創出につながり、航空の未来がさらに安全で豊かになることを願っています。




網浜 貴夫



株式会社NTTデータ モビリティ&レジリエンス事業部 航空システム統括部 開発担当 部長

 今回のコンペでは、物流、軌道運用、管制官育成、地域航空、人間科学と、空の世界をさまざまな角度から照らし出してくれました。 いずれもCARATS2040の方向性をよく読み込み、「新しい技術をどう使うか」だけでなく、それを支える人や社会の姿まで含めて描こうとしていた点が印象的でした。
 AAMとロボットを組み合わせた都市物流の構想では、人口分布を踏まえた拠点配置や騒音・プライバシーへの配慮、経済性試算まで一貫したシナリオが示されていました。 コロナ禍の実運航から日本の実情に即した軌道モデルを抽出した研究は、TBOの議論に一石を投じてくれました。 最優秀賞に輝いたCARATSオープンデータと対話型AIによる管制官育成プラットフォームは、訓練の質と期間短縮を両立させようとする意欲的かつ現実の問題へ直接的な解決を示唆する試みでした。 地方路線に電動航空機と新幹線型の搭乗方式を導入するユニークな提案は、所要時間、コスト、CO2排出を多方面から比較し、地域交通の将来像のアイディアをわかりやすく示してくれました。 また、航空人間科学の基盤整備を訴えた発表は、ヒューマンエラーや注意・学習の知見をCARATSや安全政策と結びつける視野の広さが際立っていました。
 産業界の立場からコメントさせていただくと、これらのアイディアを既存システムや制度制約、データガバナンスの枠組みとどう接続するかが次のステップになるかと思います。 今回の提案は、その接続点を具体的にイメージさせてくれるものであり、今後の共同研究や実証プロジェクトの種として大いに発展可能と感じました。 皆さまの斬新なアイディアが、産官学の連携の中で現実のシステムへと育っていくことを期待しています。




神田 淳



国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 航空技術部門 航空プログラムディレクタ/ 航空環境適合イノベーションハブ長

 CARATS2040チャレンジコンペは、学生を対象に航空交通分野の発展に資するアイデアを広く募集し、そのアイデアを競っていただく日本で初めての場で、今回が記念すべき第1回となりました。
 コンペでは、AAMの物流活用とその運航方法、次世代管制官育成プラットフォーム、旅客機の電動化と運航方式、航空交通管制への人間科学研究の適用、軌道ベース運用と滑走路運用、に関するバラエティに富んだ研究計画・成果を発表していただきましたが、いずれも学生ならではのユニークな視点での発表でした。 もちろん短い研究期間のために、調査の広さ・深さや環境上・機能上の制約の考慮という点では粗々なところが見受けられましたが、その分、アイデアとしては新鮮で、今後の発展の可能性を感じるものでした。また驚いたのはプレゼンの上手さです。相当に時間をかけて発表資料を練り上げたのでしょう。 いずれの発表も、背景・問題点、研究の目的、アイデアの提案、解析・分析・評価、結論が明確になっており、短い時間の中で端的に発表され、理解しやすかったことが印象的でした。
 最優秀賞をはじめとしたさまざまな賞を受賞されたみなさん、この度はおめでとうございます。 今後、研究をさらに進められる方、別の分野に進まれる方、研究以外の仕事に就かれる方などいらっしゃるとは思いますが、 どのような立場になっても、今回の受賞がみなさんの自信やモチベーションの向上につながり励みになることを願っております。
 最後に、本チャレンジコンペの開催にご尽力くださった関係者の皆様に御礼申し上げます。 継続していくことで、航空交通分野を研究する学生が増え裾野の拡大につながり、ゆくゆくは研究成果が社会実装されていくことを願っております。




山口 茂彦



国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 電子航法研究所 研究統括監

 「CARATS2040チャレンジコンペ」にご参加いただいた皆様、ありがとうございました。 航空交通システムに関する研究機関の立場から、皆様の提案を拝見し、審査をさせていただきました。
 今回のコンペは学生の皆さんを対象としていると伺っていたため、利用者・航空旅客としての視点が多いのではないかと想像していました。 ところが実際には、人手不足やヒューマンエラーなど、航空の現場で働く人々に目を向けた提案が多く寄せられ、良い意味で驚かされました。 少子高齢化による労働力不足といった社会課題にも着目し、幅広く情報を集めながら丁寧に提案をまとめてくださったことに敬意を表します。 皆さんの提案から、航空交通システムが今後さらに良くなっていく可能性を強く感じ、大変心強く思いました。
 また、「次世代エアモビリティ」「自動化・自律化」「AI」など、研究開発が進み、発展が期待されるテーマを扱った提案も目立ちました。 新しい分野にも積極的に挑戦する姿勢は、とても頼もしいものでした。
 さらに、「CARATSオープンデータ」を活用した提案もあり、実際に学生の皆さんにも使っていただけていることを知り、とても嬉しく思いました。 今後、より多くの方に活用していただくこと、また、航空交通システムに関する研究開発の幅が広がることを期待しています。
 航空交通は、私たちの生活を支える大切な社会インフラです。今回のコンペがきっかけとなり、航空交通の未来について考える人が増え、誰もが安全で便利に空を移動できる社会の実現につながれば幸いです。 コンペを通じて得られた気づきや学びが、皆さんの次の挑戦の力となり、より良い社会づくりに役立つことを願っています。




金籠 史彦



国土交通省 航空局 交通管制部 交通管制企画課 課長

 今回の「CARATS2040チャレンジコンペ」及び「CARATS2040推進フォーラム」は、航空需要の増大、脱炭素化に向けた要請の高まりや、デジタル技術の進化等の状況変化に的確に対応し、 産学官が連携して研究開発や社会実装を推進するための新たな長期ビジョンとして、CARATS2040が今年6月24日に策定・公表されたという節目に合わせ、 より多くの皆様にCARATS2040を知って頂き、以て航空交通への関心と理解を深めて頂く契機としたいという趣旨で開催されました。
 その観点から、「CARATS2040チャレンジコンペ」及び「CARATS2040推進フォーラム」にご参加下さいました皆様、開催にご尽力頂きました皆様に、深く御礼を申し上げます。 とりわけ、「CARATS2040チャレンジコンペ」については、次世代の航空交通分野の担い手になりうる学生の方々に、 旺盛な好奇心としなやかな想像力と未来の「空」に対する熱い想いを発揮して挑戦して頂きたいという願いを込めて、初めて開催されたものです。 初開催となった「CARATS2040チャレンジコンペ」には、全国そして様々なバックグラウンドの学生の方々から、素晴らしい応募提案の数々を頂きました。 それらの応募提案からは、既成概念にとらわれない柔軟なアイディアや新しい視点に触れることができ、日々航空行政に携わる我々自身も、大いなる学びと刺激を頂きました。
 応募提案は、人手不足、災害レジリエンス、脱炭素化などの社会課題に直面しながら、これからも増大する航空ニーズを受け止めるべき未来の「空」に向けて、 次世代モビリティ、AI、CARATSオープンデータ、軌道ベース運用、学際的取組等からブレイクスルーを見いだそうとする、純粋なチャレンジ精神の結晶のような提案ばかりであり、審査するプロセスもワクワクするものでした。
 今後とも、より良い未来の「空」を実現するために、産学官がより緊密に連携して行く中で、若い世代の知恵と情熱という推進力に、大いに期待したいと思います。