以下では、調査対象地域に局所的な大きな被害を及ぼす可能性のある9火山(蔵王山、吾妻山、安達太良山、磐梯山、那須岳、高原山、日光白根山、富士山、御嶽山)に対して、噴火した場合における降下火砕物の到達範囲を見積もることにする。推定方法としては、過去の火山の噴火事例をもとに見積もることを考える。具体的方法は以下の通りである。
1.噴火規模別の降下火砕物到達範囲の設定
降下火砕物については、到達範囲を過去の実績をもとに検討することとする。
過去の実績と同じ規模の噴火が将来起こるとも限らないため、いくつかの噴火規模を設定し、噴火規模と降下火砕物到達範囲が明らかになっている噴火事例をもとに、各噴火規模ごとに堆積厚さ別の到達距離を推計した。ここで、到達距離とは、風向きの卓越方向(火山灰分布軸)に最も遠くまで飛んだ距離を示す。
推計の方法は次の通りである。
(降下火砕物到達範囲の推計方法)
1)推計に用いた過去の噴火事例は、有珠山(1633年、1822年)、十勝岳(1962年)、安達太良山(12万年前)、那須岳(1410年)、新潟焼山(1974年)、浅間山(1783年)、富士山(1707年)、御嶽山(約9〜11万年前)を用いた。
105m3オーダーの事例には、1974年新潟焼山の噴火実績(降下火砕物約2.6×105m3岩石換算体積;密度2,500kg/m3と仮定、以下同様)を用いた。
107m3オーダーの事例には、1962年十勝岳(4.0×107m3であり、降下火砕物以外の噴出物は見られない)、1410年那須岳噴火(2.8×107m3)を用いた。
108m3オーダーの事例には、1822年有珠山噴火(9×107m3)、1783年浅間山噴火(1.7×108m3)、1633年有珠山噴火(6×108m3)を用いた。
109m3オーダーの事例には、1707年富士山宝永噴火(8.5×108m3)、安達太良山噴火(12万年前、1×109m3)を用いた。
1010m3オーダーの事例には、御嶽噴火On-Pm1(約9〜11万年前、2×1010m3)を用いた。
2)まず、各火山の噴火事例ごとに、堆積厚さ別到達距離を、べき乗関数あるいは指数関数(相関係数の高い方を採用)で近似して求めた。推計した堆積厚さは1m、10cm、1cmの場合であり、それぞれごとの到達距離を関数化した。火砕物の厚さが1cmを超えると、交通機能などに影響が出始め、10cmでは木造建物の被害が出始め、1mにも達すると甚大な被害が発生する。
3)次に、堆積厚さ別に見て、噴火規模と到達距離との間の関係を同様にべき乗関数として近似した。これにより、噴火規模が107m3、108m3、109m3、1010m3の各場合における堆積厚さ別の到達距離を推計することができる。
3)により得られた結果は次の通りである。
図11 噴火規模別・堆積厚さ別の降下火砕物到達距離
(図中の1.0E+09は1.0×109を意味する)
堆積厚さ | 噴火規模(m3) | |||
---|---|---|---|---|
1.0×107 | 1.0×108 | 1.0×109 | 1.0×1010 | |
100cm | 2 | 6 | 17 | 52 |
10cm | 10 | 28 | 75 | 203 |
1cm | 49 | 101 | 208 | 425 |
表7を噴火頻度を考慮して書き改めると表8のようになる。
厚さ | 数百年に1回程度(噴火頻度) | 数千年に1回程度(噴火頻度) | 数万年に1回程度(噴火頻度) | |
---|---|---|---|---|
北東地域火山・御嶽山 | 100cm | 2km | 6km | 17km |
北東地域火山・御嶽山 | 10cm | 10km | 28km | 75km |
北東地域火山・御嶽山 | 1cm | 49km | 101km | 208km |
富士山 | 100cm | 6km | 17km | 52km |
富士山 | 10cm | 28km | 75km | 203km |
富士山 | 1cm | 101km | 208km | 425km |