どうも、寺島でございます。20分程度の話ですので、集約してお話ししないと、的確に問題意識が伝わらないと思います。私と首都機能移転との関係、話しだせば長いんですけれども、20年くらい前から若手の研究会ということで、この問題にいろいろ関わってきた思い出がございます。その後、私はニューヨークとワシントンで合わせて11年間仕事をして帰ってまいりまして、今回の首都機能移転の話というのは、一言で言ってしまいますと、政治機能の分離ですので、ワシントン方式が日本で可能かというふうに言い換えてもいいかと思います。したがいまして、国会の特別委員会にも何度か呼ばれまして、ニューヨークとワシントンにそれぞれ、ニューヨークには4年住みました。ワシントンには7年住みましたけれども、どちらも住んだことのある日本人という立場で、一体政治機能が分離された時に、どういうプラス、マイナスがあるんだろうかということも含めまして、いろいろ報告をさせていただいた経緯がございます。冒頭、私のこの問題に対する基本姿勢というのを申し上げておきたいんですけれども、私は、内需拡大の打ち上げプロジェクトとして、新手の大型公共投資として、首都機能移転というものを推進するべきだという議論をもし期待している人がいるならば、その種の議論ならやめた方がいいというのが、私の基本的な立場です。地方で首都機能移転の集会ということが行われますと、集まっている人達というのは、ほとんど公共投資に棚ボタ的な期待をしているゼネコンの人達が埋め尽くしているというような雰囲気になりがちです。私が言いたいのは、公共投資期待論から脱皮するという所で、この議論を進めていかないと、話がねじれてしまう。ですから、若い方とか、女性の方なんかが、本気でこの問題に関心を持つような展開をしていかなきゃいけないというのが、私の基本的な考え方です。もし公共投資としての首都機能移転ということを期待するなら、これは国会等移転審議会の試算をじっと見ればよくわかりますけれども、国会を中心に移転する第一段階では4兆円、最終的には12兆3000億円というような数字が、トータルのコストとして出ています。その内、公的負担、つまり公共投資という形で予想されている推定値が第一段階で約2兆数千億です。1年間で2兆数千億出るわけではありません。仮に10年でいうことであれば、1年にすれば、2千数百億円の話です。これも大きな数字です。だけど、冷静に考えればわかることですけれども、この国は、景気づけのために地域振興券というやつで7千億の金を使った国なんですね。ですから、年間2千億程度の公共投資というイメージがどの程度のマグニチュードなのかということは、当然視界に入って、冷静に議論にされなきゃいけないということはよくわかるはずです。そこで私が申し上げたいのは、付加価値の高い創造的首都機能移転論ということであるわけです。つまり、日本の戦後が蓄積してきた技術だとか、知恵とか、情報というものを集約して、振り絞って、このプロジェクトを一つのプラットホームとして、未来創造型の知恵を凝縮したプロジェクトとして、これを推進していくならば、ひょっとしたらこのプロジェクトは、日本の21世紀というものを切り開いていくプラットホームになっていくトリガープロジェクト、つまり引き金を引くプロジェクトになるかもしれない。問題は、どういう知恵を、あるいは情熱を込めて、このプロジェクトに関わっていくのかというのが大切なんだというのが、一言で言ってしまえば、私の基本スタンスです。
私の書いているものに、五つの創造的首都機能移転を推進するポイントということを書いております。時間の制約がありますので、要点だけ、何が言いたいんだということだけ申し上げます。私は、まず第一のキーワードとして、環境保全型の実験都市というキーワードを置いております。どういう意味かと言いますと、もし新首都を環境保全型の実験都市というキーワードを置いて、たとえば具体的な目標として、東京のCO2の排出の一人当たり、たとえば5分の1を目指すとか、あるいはエネルギーの利用効率を10倍にするとか、あるいは完全リサイクル都市を目指すなどという具体的な目標設定をして、設計に入ったならば、私が言いたいのは、日本国内のみならず、世界中の環境保全型技術の開発に立ち向かっている人達を俄かに活気づけると言いますか、要するにこのプロジェクトがターゲットプロジェクトになって、そこへ導入すると言いますか、そこで実験することを狙いとして、研究開発というものが一気に促される可能性が大いにある。これが、環境保全型実験都市ということを議論している、非常に重要なポイントだと、自分は思っています。
二つ目は、国際中核都市としての新首都というキーワードを置いております。国際中核都市というのは何かと言うと、一言で言うと、ジュネーブモデルということが言いたいんです。スイスにジュネーブという町があります。この町には、国連欧州本部というのがあります。15の国連機関が本部を置いています。年間40万人がジュネーブを訪れ、1泊500ドル近くするホテルがいつも満杯というのが、ジュネーブを訪れたことのある方ならば、実感すると思います。人がたくさん来ているというだけじゃないんですね。情報密度というのがキーワードです。要するに世界中から質の高い、つまり情報の密度の高い人達がジュネーブを訪れてくる。学者とか、専門家とか、シンクタンクの関係者とか、ジャーナリストだとか、要するに観光立国という言葉がありますが、この国が外から人を引き付けてくる。これからの一つの大きな課題だと思いますけれども。国際中核都市というイメージで、もし新首都を構想したならば、たとえば私などが言っているのは、日本が得意とする国際機関、アジア太平洋の地域に国連の本部、国連の関係機関の本部というのは非常に少ないです。東京の青山に国連大学の本部というのがありますけれども、タイのバンコクにエスカップの本部があるくらいです。国連アジア太平洋本部くらいを日本に引き寄せてきて、日本が得意とする分野、ODAだとか、たとえばアジア太平洋エネルギー研究センターだとか、食糧の安定需給に関わるセンターだとか、国連国際機関を引き寄せてきて、新首都を単なる無味乾燥な政治首都にしないための国際的な中核都市として構想するくらいの気迫が必要だろうという意味で、私は、この国際中核都市というキーワードを使っております。
三番目に、住環境整備の実験都市という言い方をしております。どういう意味かと言うと、私は海外で生活する期間が非常に長かったですから、実感することですけれども、今衣食住という言葉の中で、衣と食について、日本人は世界でも最高のレベルの水準を享受していると思います。だけれど、住という意味においては、大都市の住環境というのは、まだまだ大変遅れております。たとえばニューヨークの一人当たりの住環境スペース60m2(平方メートル)というのが出ていますけれども、東京では30m2(平方メートル)です。半分の平均面積の所を、たとえば年収倍率ということがあります。いわゆる年収の何倍でその住宅を入手できるかという数字なんですけれども、少なくともアメリカの、90年代で大分変わりましたけれども、それでも倍かかります。ですから、半分のスペースの所を、2倍の年収をかけて入手しなければいけないというハードルを背負って、東京に住んでいるサラリーマンは生きていることになります。私が言いたいのは、国家公務員住宅というのが、たぶんこの国において、大金持ちでなければ貧乏でもない人が、平均的に住んでいる住環境イメージだと思いますけれども。外に行って、よく聞かれます。「日本人は、21世紀も同じような住環境に住みつづけるんですか」と。私は、パラダイムを変える一つのきっかけとして、今度首都機能移転に伴って、新首都に作る国家公務員住宅のスペック、スペースを倍増させ、冷暖房も給湯も、あるいは駐車場もあるようなスペックの住宅というものを装備して立ち向かうべきじゃないか。残された東京、これがより重要になると思います。現在東京には、公務員住宅のスペースが130haあります。これは39万坪です。庁舎の跡地面積が80haあります。これが24万坪あります。合計63万坪です。ここを、東京の住環境をより良くするために、生活環境をより良くするために、知恵を振り絞って再活用して、21世紀の東京に住む人達が、丁度ニューヨーク再開発だとか、パリの再開発みたいなものを構想しながら、立ち向かっていく大変大きなきっかけになるんではないかというふうに思っております。
四番目、情報インフラ整備の実験都市という言い方を私はしているんですけれども、要するに後で議論になると思いますけれども、東京への集積というものがあまりにも集中しているために、東京においてはすべてが高コストです。高コストによって、何がもたらされているかと言うと、新しいことに挑戦する時のハードルがものすごく高くなっています。たとえば我々は、情報産業関係の様々なベンチャーを立ち上げようとしていますけれども、東京で新しい事業をベースに展開することだけを前提にして企画をすれば、これは大変なコストがかかります。たとえば敷金、礼金だけの世界で、アメリカにおいて、ベンチャーの人達が立ち向かうのに必要なコアマネーくらいのものが一遍に吹っ飛んじゃうくらい、高コスト構造の中で新しい事業を立ち上げていかなきゃいけない。その他、これはIT革命と首都機能移転との関係ということで、後で議論になると思いますし、この分野に関しては、私が大変尊敬する月尾先生がしっかりお話になると思いますし、その話をむしろしっかり聞きながら、我々が視界に入れておくべきことを議論していくことが、大変重要だろうと思います。いずれにしましても、私は後で補足いたしますが、情報革命、つまりIT革命の時代こそ、いわゆる情報インフラ整備の実験プロジェクトが必要だということ論点を展開したいというふうに思っています。
それから五番目のキーワードとして、私が強調したいのは、文化性重視の実験都市というポイントです。これはどういう意味なのかと言うと、一言例を申し上げると、ワシントンにスミソニアン・インスティテュートという九つの博物館と三つの美術館から成り立っているインスティテュートがあります。これが、ワシントンという街を無味乾燥な政治都市ではなくて、文化性の高い雰囲気を醸し出す都市に、大変大きな貢献をしております。私が言いたいのは、器としての博物館とか、美術館を作った方がいいなんていう単純な話ではないんですね。これを支えるインフラとして、これらのインスティテュートを現実に支えているのは、NPOです。つまり非常に参画型で、たとえばワシントンを取り巻いている地域に住んでいる家庭の主婦みたいな人が、一生懸命美術の勉強をして、国立美術館の案内だとか、解説だとかを、ボランティアとかNPOの活動の中で、一生懸命になって支えています。私が言いたいのは、首都機能をただ移せばいいと言うんじゃなくて、器を作ればいいと言うんじゃなくて、そこに参画する人達の仕組みが、ソフトウエアーが大変重要だというふうに思っています。よく首都機能の議論をすると、若い人達とも、大学とかそういう所で議論していますけれども、人間の顔をしないような無味乾燥な人工都市を作っても、まったく意味がないということを言う若い人達が大変多いです。たとえば都市というものには、新橋烏森とか、新宿歌舞伎町的な面も大切なんだ。人間の顔をしていない無味乾燥な都市を作っても、夜人っこ一人歩いていない無気味な街になっちゃうだけだ。あるいは、東京に、夜になると逃げ帰ってくるような街になっちゃうということを、よく言う人がいます。私は、若い人達の感性であるならば、そういう人達の知恵とか、アイデアとか、多いに参画させて、それを吸収して、人間の顔をした都市にしていくというのが、大切だろうというふうに思っています。
私が言いたい話を集約して言うと、今申し上げたようなキーワードを貫いて、知恵を出しながら、付加価値を高めていくプロジェクト、つまり社会工学ということを盛んに頭に置いて、今話をしているつもりでいます。つまり、様々な要素をくみ上げながら、問題を解決していくアプローチですね。今の日本が抱えている閉塞感というものを解決していくアプローチとして、もし今申し上げたような知恵を集約しながら、この首都機能移転というプロジェクトを展開していくならば、このプロジェクトは、日本再生のプラットホームになるかもしれない。特に最後の1点として強調しておきたいのは、実需につながるプロジェクトが今くらい必要な時はないということなんですね。IT革命とか言っていますけれども、私は、金融肥大型の経済構造になりつつあるアメリカに対して、非常に批判的な視点を持っています。つまり、物の100倍の、今世界貿易というのは1日180億ドルですけれども、その100倍の為替の取引が行われる時代になっています。コンピューターの中をお金が回るようなことがビジネスモデルとして、たとえばディリバティブだとか、ヘッジファンドとかというようなキーワードを思い浮かべていただければわかりますけれども、だんだん経済が実体経済から乖離した金融肥大型の経済へと、世界経済そのものが変わりつつあります。そして、我々の日本という国は、ただ金融肥大型の虚ろなマネーゲーム国家にしてはいけない。そのためには、実需につながる内需の拡大型の構想というものについて、やはり知恵を絞らなければいけない。つまり外需に依存しながら、輸出ドライブをかけて、この国の人間が豊かな生活をする時代から、国内に海外の人、物、金、技術を取り込んで、懐を広げて、要するに世界に対して貢献していくタイプの発想というものを持たざるを得なくなっている。それがエンジニアリング力というものにかけられているテーマだと思うんですね。最近、外人の人と議論すると、日本というのは、本当に不思議な国だと言われます。個別の要素は全ていい物を持っている。技術もある。人材もいる。お金もある。ネット海外純資産133兆円という数字が、ついこの間発表になっていましたけれども、133兆円の貸方になっているんですね、ネットで。第2位、スイス35兆円という数字を見ると、いかに日本が海外に対して貸方になっているのかわかります。ところがそれを総合的に組み合わせる力がない。総合設計力がないから、個別の要素を生かしきれないでいる。一言で言うと、生け花の花のイメージで言いますと、きれいな花は一杯持っているのに、立てる剣山を構想する力がないから、全部寝ていると言うか、倒れている。我々は、まずここを突破していかなければいけないのではないのかなというふうに思います。20分の話でしたので、意を尽くせませんでしたが、後でまたパネルに参加させていただきたいと思います。今日は、どうもありがとうございました。