齋藤 氏
司会のNHKの解説委員の齋藤宏保です。まずはじめに、今日のパネルディスカッションの狙いについて、お話をさせていただきます。今回の首都機能移転の論議と言いますのは、東京への一極集中のひずみを是正するために、首都機能の移転が必要だとした平成2年11月の衆参両院での「国会等の移転に関する決議」から始まったと言います。それから10年以上が経ちました。この間、一昨年の12月には、総理大臣の諮問機関である国会等移転審議会から、首都機能の移転先の候補地について、答申が出されました。そして今、論議の舞台は、そのボールを投げた国会に移っています。衆議院の特別委員会は、去年の5月、2年を目処に結論を出すという決議をしました。それからしますと、残された時間はいよいよ後1年を切りました。大詰めを迎えているようです。ところが、なぜか国民の関心が今一つ盛り上がっていないのが、実状だと思います。国の将来を決める重要な問題なのにもかかわらず、一体なぜ関心が今一つ薄いのでしょうか。また、国民の合意なくして、首都機能の移転を進めることはできるのでしょうか。そこで今日は、首都機能の移転が本当に必要なのか、必要でないのか、そして国民の関心を高め、国民の合意を図るためにはどうすればよいのか、徹底的に議論をしてみたいと思います。では、早速「21世紀の日本と首都機能移転」と題しまして、パネルディスカッションを始めたいと思います。まず、本論に入る前に、そもそも首都機能の移転の論議は、どんな経緯で始まったのか。そして、今どうなっているのか。国土交通省の政策統括官の舩橋さんにご説明いただこうと思います。舩橋さんよろしくお願いいたします。
舩橋 氏
それでは、只今寺島さん、月尾さんから、いろんな論点についてのご議論がございましたけれども、私の方からは、その前提となるファクトファインディングと申しますか、現状がどうなっているのかについて、ご説明をさせていただきたいと思います。まず、首都機能移転の定義がどうなっているのかということでございますが、三権の中枢機能、すなわち立法、行政、司法、これらの中枢を東京圏以外の地域に移すことというふうに考えられております。一部に、これを分けてはどうだろうかという議論がございますけれども、定義としては、首都機能移転をこういうふうに考えているということでございます。
それから次に、齋藤さんの方からお話がございましたが、平成2年に国会の決議がございまして、その後どうなったかということでございます。平成4年に国会等の移転に関する法律が制定され、この法律を受けて、国会等移転調査会というものが発足いたしました。ここで移転の意義、効果、あるいは移転先の選定基準をどう考えるかということについての審議が行われ、平成7年にその報告が行われております。それから次に、国会等移転審議会というものが、今度は候補地をどういうふうに選定するかということについての議論を3年近く行ったわけでございますけれども、平成11年に答申が出て、後程申し上げますけれども、候補地が提示をされたところでございます。
次に、平成2年の国会決議が行われた当時の問題意識はどうであったかということでございます。人口や諸機能の一極集中、地価の高騰、通勤ラッシュだとか、先程来お話に出ております住環境が悪いとか、いろいろな生活環境の欠如、それから災害の際の機能の麻痺とか、地域のアンバランスの拡大のようなもの。こういったものについての問題意識から、この決議が行われております。
次に、時間もございませんので、簡単でございますけれども、人口や諸機能の一極集中の現状はどうかということですが、面積で見ますと、国土の3.5%の地域に、人口が約4分の1、26%、それから資本金10億円以上の企業で見ますと、本社機能が54%が集中しているというような現状でございます。それから次に、地価はどうなっているかということですけれども、平成2年、3年、このあたりが地価のピークでございました。いわゆるバブル経済の絶頂期に、これはあったわけでございます。それ以降は、漸次商業地、住宅地とも低下傾向にあるというのが、現状判断かと思っております。
それから次に、良好な生活環境の欠如ということで、ここでは通勤に非常に時間がかかるというような、通勤、通学に時間がかかる。片道1時間半以上かかる人がどれくらいいるかという統計がございます。平成7年の段階で、都心3区に通っている人の4分の1が、1時間半以上かかっているというような傾向が出ております。
それから次に、災害時における都市機能の麻痺ということですけれども、東京都内に木造住宅密集地域として指定されている所が24,000ヘクタールございます。その中の約4分の1の地域、これが災害時の危険が非常にあるということで、重点整備地域というふうになっております。非常に災害対応力は弱いということでございます。
それから次に、地域のアンバランスの問題ですけれども、東京圏が人口増であるのと比較いたしまして、過疎地域では、人口減少が続いている。近年では、東京圏への人口の転入超過傾向が再び若干強まっているというような傾向になっております。
それから、候補地選定のプロセスですけれども、全国から16の地域を検討対象地域といたしまして、移転審議会で審議をいたしております。東京からのアクセスの容易さ、それから火山とか、水害、土砂、あるいは地震などの災害に対する安全性、水供給の安定性とか、全国からのアクセスの容易性とか、いろんな指標を総合的に勘案して、数値化をいたしまして、そして移転先候補地を選定したわけでございます。北から申し上げまして、栃木・福島地域、岐阜・愛知地域、三重・畿央地域という、三地域になっております。三重・畿央地域は、将来新たな高速交通網が整備されることになれば、移転先候補地となる可能性があるということでございますけれども、三つの地域が示されたわけでございます。現在、国会両院でご審議が行われておりますけれども、今後の手順といたしましては、国民の合意の形成の状況、それから社会経済情勢の諸事情、それから東京都との比較考量を通じて検討して、移転するかどうか、移転するとしたらどこにするかというようなことを、ご論議をいただいているところでございます。そして、移転が決定いたしましたならば、およそ約10年で建設を行い、当初想定される規模といたしましては、1800ヘクタールの地域に、約10万人の都市を作ってはどうかということになっております。成熟段階になりますと、より大きな、最大で56万人という想定をしておりますけれども、そういうことが審議会等の議論では想定されていたわけでございます。
齋藤さんの方からお話がございました、今回平成2年からの決議以降は、10年にわたってこの議論が行われております。積極論、慎重論、いろいろあるわけでございますけれども、国民の合意形成ということが、非常に私ども大事だと考えております。今回のパネルディスカッションが、そういう場になっていただきたいというふうに考えております。以上でございます。
齋藤 氏
ありがとうございました。