齋藤 氏
基調講演では、寺島さんの方から、21世紀の付加価値を創造するプラットホームとするために、首都機能の移転が重要である。首都機能移転の必要性が強調されました。一方、月尾さんは、首都機能移転の根拠となる意義が喪失している。その意義と言うんでしょうか、目的と言うんでしょうか、これが毎年のように変わっている。定見不在であるとしまして、移転の必要性に疑問を投げかけられています。では、寺島さんと月尾さん以外のパネリストの皆様は、首都機能移転についてどんなお考えなのか。まず、それを伺っていきたいと思います。最初に、照明デザイナーの石井幹子さん、お願いいたします。
石井 氏
皆様こんにちは。私は、実はこの問題につきましては、国会等移転調査会というかなり早い段階の時から、委員として参加させていただいておりました。当時は、関西財界の宇野收さんが会長でいらっしゃいまして、本当にいつも地方分権とこれは一体のことなんだということを、折につけ言っておられましたのが、大変印象的でございます。その後、様々な討議を経まして、委員の方達が、キャンベラ、ボンとベルリンに視察に行かれました。私は、両方ともそれは既に見ておりました所でございましたので、ブラジリアの視察の時には参加させていただきました。当時、やはりこの問題に大変深く関わっておられました八十島先生(宇野先生・八十島先生は、お二人ともお亡くなりになられておりますが)が、ご一緒でございました。20世紀における文化遺産に今やなっているブラジリアでございますが、それを見たわけでございますけれども。
そしてその後、だんだんと先程ご説明にありました候補地が挙がってまいりました。これも、全ての候補地、私拝見に上がりまして、そしてその後、本当に度重なる会合を経まして、シビアーな採点を、これは数値で行って、平成11年の答申には、それがつぶさに記されております。ということで、大変長い年月をかけて、そして膨大な時間だけではなくて、様々な方達が大変沢山の時間等を割いて、この問題に関わってきて、大変真摯な議論、そしていろいろな実証がされて積み上がってきたというふうに、私は感じております。そういった中で、ちょっと皆様方には、映像で見ていただいた方がいいと思いまして関連のスライドを数枚お持ちしておりますので、スライドをお願いいたします。
まず、これはご存知ブラジリアでございます。私が丁度デザイン系学生でございました時に、このブラジリアが完成いたしまして、大変当時の建築界に、都市計画、そして建築に、大きな話題を投げかけた所ですが。これは全景ですね。そして次。これも国会議事堂でございまして、中央に建っているのが管理棟、そして上院と下院というふうに、極めて明快なデザインで作られております。ただ、非常にこのブラジリアはいろいろな問題が多くて、周辺に衛星都市とか衛星集落といったものが沢山ありまして、都市として、果たして成功しているかどうかということには、大変疑問の残る所です。
そして、一方先程の基調講演にありましたけれども、ワシントンをご紹介いたしますと、有名なポトマック河畔のモニュメントに光が映っているところですが。次。そして、これが連邦議会の建物と、そして水と緑が大変ふんだんに使われた都市です。ご存知ホワイトハウスですが、まさにアメリカ合衆国のショールームと言うか、ショーケースといった感じの都市になっております。
次は、オーストラリアのキャンベラ。丁度メルボルンとシドニーの間の地点の内陸側に入ったといった所で、広い草原地帯に新しい都市を作った。緑の中に、建物が埋まっているような、そんな街です。だんだん夕暮れになっていきますと、やっと都市らしい雰囲気が出てくる。これは夜景でございます。昼間よりもずっと賑わい感が出る夜景になっておりますが、これは全く新しく人工湖を真ん中に作って、そして一番光っている所、手前が国会議事堂ですが、極めてきちっとした都市計画で作られた街です。
そしてその後、私、実は、イメージ部会というのが発足いたしまして、何とかビジュアルで首都機能移転を見せたい。パンフレットを作成するといったようなことで、イメージを作る部会の部会長をいたしましたが、これは、実はその時のイメージでございまして、国会議事堂を真ん中に描いておりますが、極めて透明感のある、明るく開かれた政治ということを、一つのイメージとして提案しております。
最後、これは新しい都市のイメージでございますが、21世紀の朝焼け、丁度夜が明けてきたところ、そしてその桜、菜の花といった、極めて日本的な花が描かれていますが、まさに私達が忘れてしまっていた故郷のイメージ、故郷を再生したいといったような、そういう水と緑と、そして花々です。いわゆる新都市と言いますと、超高層ビルが立ち並ぶのが想像されますが、そういう都市ではないという都市を考えているというイメージを、ここで作ったつもりです。はい、明るくしてください。
ということで、私は、新しいこの都市は、日本の失われてしまった故郷をもう一度作ることではないか。今、大変日本の国土が醜い、汚い状況になっておりますし、また都市も、非常に住みにくく、醜い都市になっている。そういった意味で、これまで壊してしまってきたものを、21世紀に新しくもう一回見つめなおして、いわゆるヨーロッパ型の都市ではなくて、日本の、そしてアジアの新しい都市というのはどうあるべきかという、新しいもの作りの原点になるような新都市なら、大変私は賛成です。以上です。
齋藤 氏
ちょっと石井さんに確認させていただきたいんですけれども、石井さんは、首都機能の移転は必要であるということなんでしょうか。
石井 氏
はい、私、条件付です。ですから、要するに美しい、まさに日本人の故郷となるような都市であれば、賛成。いわゆる超高層が立ち並ぶようなブラジリア的な都市であるならば、いかがか。そういう条件付の賛成です。
齋藤 氏
ありがとうございました。それでは、ケント・ギルバートさんお願いいたします。
ギルバート 氏
私自身は、とりあえずこんなことやらなくてもいいという気がします。もっとやるべきことが一杯ありますので、それをやってから、なお更余裕があるんだったら、やってもいいかもしれないけれども。じゃあ何をやるべきか。地方分権ですね。地方分権と行政改革。地方分権と行政改革をこれに結びつけようとするんですが、関係ないんです。そういうふうに議論をミックスするから、おかしくなるんです。行政改革は、どうせやるべきことです。建物がどこに存在しようと、関係ありません。地方分権というのは、どうせやるべきことですよね。地方分権をやったことによって、移転が必要ではなくなる可能性も高いという気がします。私は、もう15年くらい前から、国税率と地方税率を逆にして、補助金制度を止めてしまったらいい。そして、国家公務員と地方公務員の数を逆にする。だから、国家公務員で余った人達は皆地方に行って、地方の仕事をしていればいいんだと言っているわけですよね。これで、一極集中がかなり直るんじゃないですか。なにも国会議員を他に移さなくても。だから、よくあることなんですよね。議論の論点をミックスして話し合って、だから結局結論が出ない。認めることができる論点があるとすれば、一極集中は確かに一極集中しているんですよね。それは確かなんですけれども、じゃあ他の所に移しても、政府は全部同じ場所にあるとすれば、同じだという気はしますよね。東京は、どうせ皆一極集中するでしょう。一極集中しているのは、政府ではなくて民間なんですよね。だから、なんで本社ビルを今時銀座に建てるのか、不思議で仕様がないんですよね。そんなの厚木のあっち側に作ればいいんですよ。それだったら、地方都市に、ちゃんと空港がある地方都市、たとえば富山とか、そういう所がすごく魅力的だと思いますよね。社員が皆そこに移ればいいし、コミュニケーションは、全部Eメールでやればいいわけですから。という気がしますので、分散してほしいのは、政府ではなくて、民間なんです。それをしないのが不思議です。アメリカに行きますと、よく都市部が全然駄目になっているんですよね。皆分散しているんです。高速道路の出口の周りが、それぞれ一つの経済圏になっているわけですよね。そこには、小規模ですけれども、5,6階建てのオフィスビルがあるとすれば、すぐ埋まるんですよね。これが、なんで日本でできないのかなと思って。高速道路の出口の周りにあるのは、ラブホテルとパチンコ屋とガソリンスタンドと。なんでそれが一つのオフィスビルの集まりにならないのか、不思議で仕様がないんですけれども。車で通勤しないからなんですけれど、理由は。何しろそういう考え方です。まとまらないまま、あまり長い時間喋っても仕様がないので、止めます。
齋藤 氏
ケント・ギルバートさん、さっき寺島さんの方で、今の日本のある意味で閉塞状況を打破すると言うのか、新しい価値観を創造するためには、首都機能の移転というのは、重要な意味を持っているのではないか。そういうお話をされましたけれども、寺島さんのご講演を聞かれていて、どういう感想を持たれました?
ギルバート 氏
確かに引越せば、荷物は整理されるというのはわかるし、新しく作れば、それなりに新しい発想は出てくるかもしれませんけれども、この考え方はずっと続いているんじゃないですか。私は、これを万博型開発論と言っています。万国博覧会を開かない限りその町は潤わない、と。だから、作るんですね。作って、そして6ヵ月後に取り壊す。誰が儲かったかと言うと、建設会社、終わり。みなとみらい見て下さい。いまだに空き地が余っているじゃないですか。横浜博をやったからと言って、多少の効果はあったかもしれませんけれども、どうせみなとみらいを作るんだったら、最初からみなとみらいを作ればいいのであって、横浜博なんかいらなかったという気がしますよね。だから、都市博を止めてよかった。でも、まだ土地遊んでいるでしょ。やっても、やらなくても、駄目。
齋藤 氏
わかりました。また議論は後ほど。それでは、白石さんお願いいたします。
白石 氏
はじめに、私の立場をはっきりさせたいと思います。本日は、月尾チームの一員でございます。今日のチラシには、危機管理機能を備えた新都市の実現というキャッチフレーズを出させていただきました。これだけをお読みいただくと、じゃあ白石は賛成派なのかというふうに、皆さんご理解をいただいたかもしれませんが、明確に申し上げますと、私は、首都機能移転に非常に懐疑的な思いを持っております。その理由として、東京一極集中を果たして今更是正する必要があるのか。その必然性についての疑問でございます。皆様ご存知のように、東京都の全体の人口ピークは今から13年前でございます。今後、ご存知のように、2007年に我が国全体の人口減少が始まりますし、さらにそれより4年遅れて、東京圏全体の人口減少が始まります。平成14年までに、東京から千葉、神奈川、埼玉、さらに茨城といった所に、行政機関と特殊法人が28移ります。行政機関の面でも、移転が既に進みつつある。さらに、産業面では、10年前と現時点を比べますと、東京都心区を富士山の頂点とする富士山型構造から、中枢管理機能を支える情報サービス産業などが、立川、厚木、そして川崎、横浜、千葉などの周辺都市に移転をして、阿蘇山型に既に移行しております。既に多極多核多圏域型の構造に移行しています。もはや東京一極集中ではなくなっているのではないか。それが、一点目の理由でございます。さらに、それに加えて、移転先の人口60万というのが、この東京の過密解消に、果たしてどれだけ大きなインパクトを持つのかどうか、それについても疑問でございます。
二つ目の理由として、先程ケントさんもおっしゃいましたが、移転が国政改革を進める。これがセットになって論じられているのが、おかしい。まず、行革と地方分権ありき、地方に権限委譲を進めることによって、地方が東京詣でをする必要もなくなってきますし、東京がスリム化の方向に向かうのではないかなと思います。移転と改革が、車の両輪のようなものだと言われておりますが、私は、まず改革ありきで、物事を進める必要があると思います。
三番目の理由としましては、今ほど大都市の再生や、公共事業の見直し、地方の公共事業の見直しが叫ばれている中で、さらに追加的な投資を、新規にする必要があるのかということです。首都機能移転を進めることによって、地方の公共事業の分捕り合戦になったり、地方の地価を上昇させてしまうことになったり、さらに広域交通網の整備、空港や高速道路、鉄道といった、新幹線といった、こうした負担を地方が担えるのかどうか。そういうことについても、疑問がございます。
こういうふうに述べてまいりますと、「すべて反対」というふうに捉えられますが、私は今のままでいいとは思っておりません。東京にたとえば大地震が来た場合の危機管理をどうしていくか。それを考えていく必要性があるわけで、私は、東京の首都機能を補う補都、それを補完するような行政機能をどこかに担保しておくべきだというふうに考えます。以上でございます。
齋藤 氏
必要性に疑問を呈される方の元気が非常にいいんで、東京でこういう議論をしますと、どうしても大都市中心になると言うか、地方切捨てのような、地方の方には、そういうふうに聞こえるのかなというふうな感じもしましたけれども。須田さん、よろしくお願いします。
須田 氏
それでは、私の立場でございますけれども、私は、やはり首都機能移転というのは、21世紀の住みよい国づくりのために、どうしても必要だというふうに思います。同時に、国会の決議の中にもございますし、これは超党派の決議でございますが。それから、今の「国会等の移転に関する法律」の前文にもございますように、首都機能移転は、国の行財政改革そのものなんですね。関係があるんじゃありません。そのものなんです。そう書いてあるわけですから。国会議員が超党派でそうお決めになったということは、世論がそのようなことを支持したということとイコールでございますし、私もそのように思います。したがって、これは確実に実行すべきものであると思います。
ただ、問題点が若干そこにあるわけでありまして、非常に多くの誤解が首都機能移転の議論を混乱させている所がある。これだけは早く誤解を解いていかなければいけない。三つほど誤解があると思います。先程もご指摘がございましたが、一つは、これが公共投資の配分論。いわゆる土建行政的なと言いましょうか、そういうふうなものと混同をされているということが、非常に残念ながら事実でございますから、そういう面からは、いろんな批判がこれに対して出てくるということが、一つあると思います。二番目には、長期の議論と短期の議論の混乱が、あると思います。すなわち景気回復のために、こういうものを促進すべきだという議論もありますし、また逆に、この財政難の折に、なぜこんなことをやらなければいけないのかという議論があります。確かに、現在は財政難でありましょうが、これは百年の計と言いましょうか、長期の議論と目下の財政論、今の景気論、それとが混乱された議論でありまして、これもやはりこの議論を混迷させているものだと思います。三番目に動機、首都機能移転を必要とした一つの動機、契機、そういうものが確かにあったと思うんでありますが、それと本質論との混同がもう一つあると思います。それは、東京問題であります。つまり、東京の一極集中が、最近少し緩和されたとか、いろんなことが言われておりまして、もうこれでいいじゃないかというふうな議論がございます。確かに経緯から見て、東京一極集中が大変だ。東京の混雑が大変だということから、この議論が始まったことは事実でありますけれども、これは動機であって、本質論ではないわけです。本質論は、あくまで日本をどうするか。国をどうするかということで、東京をどうするかというだけの議論ではなかったはずであります。その点が混同されておりますので、東京の人とそうでない人との対立の図式が、ここに出てしまった。大変不幸なことだと、私は思います。以上の三点の誤解ですね。つまり、公共投資配分論との混同、長期の議論と短期の議論の混乱、それから動機と本質論との混同、こういうことが非常にこの議論を混迷させておりますので、私は、やはりここでこの議論の原点に立って、前文にも書いてあり、かつ国会決議にありますように、行財政改革そのものなんだということを、一つ確認すると同時に、21世紀の住みよい国土づくりをするためには、どうしてもこれが必要なんだという観点に立って、もう一度議論を再構築すべきだというふうに思えてならないわけでございます。
それでは、どのような首都がいるのかということになってまいりますが、先程月尾先生からもお話がございましたけれども、当然21世紀型の情報化時代の首都であり、同時に環境との共生を考えた、環境問題が深刻化する中での新しい首都のあり方が模索されなければいけないと思いますし、当然首都機能が全部、新しい首都に集中したのでは、何もならないわけですから、そこに分散の原理というものを入れながら、新しい首都を再構築していく。環境との共生というものを十分考えた首都というものを作り、そこに情報化技術、IT技術というものをフルに使った、新しい首都像というものをそこに選ばなければならないので、東京をそのまま地方に移転するような、そのようなことではもちろん駄目だというふうに思います。
そのような首都を早く作るということが、私は急務だと思っておりますが、なぜそういうことを言うかということを、最後に三つばかり申し上げます。一つは、そのまま東京に置いておいてもいいじゃないかという議論があると思います。東京にお金をかけれれば、東京に集中投資をすれば、あるいは東京の今の状態等をうまく処理すれば、なんとかやっていけるということはあるかもしれない。それでは、問題は解決しないわけであります。なぜかと言うと、東京には集中の論理、メカニズムが、国の機構から経済機構から、民間まで含めて、全てに働いております。これをどこかで断ち切らない限りは、また同じ問題が何年か後に繰り返される。問題を先送りするだけだと思います。集中のメカニズムを何とか切っておかなきゃいけない。これが一つ大きな動機だと思います。もう一つは、巨大化の論理というものがあります。集積が集積を呼ぶということは、確かにあるわけでありますから、この辺の論理は、まだ決して断ち切られてはいない。その辺のことも、首都機能移転を考える際に必要だと思います。もう一つ、やはり地方の意見かもしれませんが、なぜ東京が他の地域より偉いのか。そういう序列意識というのが、明らかに東京にあると思います。全てが東京に憧れる。東京の人は、他の地域の人よりも偉いと思う。そういうことは、間違いなくあるし、また地方には、そういうことに対するひがみの意識というのは、確かにあると思います。そのように世の中のシステムができております。東京にあるものは、全て尊い。東京にあるものは、全てレベルが高い。事実でありましょう。そういう事実を起こしたのは、やはり今までの東京に全てのものが集まっている。首都が東京だったからだと、私は思うのであります。日本の国は非常に狭い国です。しかも、その中で人間の住める面積というのは、非常に限られております。この面積を有効に活用して、そこに住んでいる人が全て同じようなチャンスで、国政に参画できるような、そしてまた様々な所に分散することによって、全ての人々がゆとりのある新しい社会生活が営めるような、そういう国にすることこそが、私は政治だと思うわけであります。したがって、21世紀の日本の国づくりは、首都機能移転から。それは、あくまで一つの手段ではありましょうけれども、そのように私は考えます。行財政改革の一環としても、これは進めなければいけないと確信を持って申し上げたいと思います。
齋藤 氏
今の須田さんから問題を提起された話というのは、実は寺島さんと月尾さんのお話の中でも、おそらく出ていた問題かと思うんですね。どういうことかと言いますと、21世紀の日本をどう考えるか。その辺の議論というのは、とても不足しているのかなという感じがしております。それでは、一応皆さんのスタンスがわかった所で、テーマを絞って、問題点を絞って、ちょっと議論をしてみたいと思います。二つ問題点を絞ってみたい。一つは、一極集中、東京への一極集中をどう考えるか。もう一点は、情報社会の中で、首都機能移転というのは、どういう意味を持っているのか。その二点。それを踏まえて、では国民的な議論、あるいは国民的な合意を得るためにはどうすればいいのか。そういう形で、議論を進めていきたいなと思います。