齋藤 氏
さて次に、情報化社会をどう考えるかということで、ちょっとお話をしてみたいなと思います。これについて、さっき月尾さんの方は、情報社会の中では、首都機能移転の意義はもう失われているんではないかというようなお話であったと思うんですが。まず月尾さん、それに対して、寺島さんとちょっと意見が違ったと思うんですが。
月尾 氏
先程舩橋さんから、ご説明があったのですが、首都機能移転は三権の中枢機能を東京以外に移すという話です。その三権機能は何かということをコンパクトに言えば、国家に必要な情報を作って、それを必要な場所に伝えるという機能です。伝える方は、世界均一料金の通信制度で伝えられます。しかも、これからブロードバンド時代になると、声や文字だけではなくて、画像でも、動画でも伝えられる。これは、どこにあっても条件は同じです。それは、今年一杯にやられる比較考量で、どちらが経済的合理性があるか、技術的な妥当性があるかということを検討してもらえばはっきりする。次の作るということはどうかということですが、福島県か三重県かどこかわかりません。岐阜県でもいい。山の中に役人だけが集まって、日本をどうするのかという議論をしたら、本当にクレイジーな結果が出そうです。公務員倫理法で多少駄目になったけれども、いろいろな人の意見を聞いて方針を作ってきたから何とかなっている。同質の者が集まって失敗した例は、筑波研究学園都市だと思います。あそこは、研究者だけを集めた。研究者というのは、役人よりも異常な人だから、そのような人が集まったら、自殺者が続出ということになって、多くの人は、東京から通っているということになってしまったのです。社会というのは多様性が必要です。だから、そもそも三権だけ移すということは、情報を作るという視点で考えたら全くナンセンス。つまり、多様な人を集めた所で、日本の将来を考えるようにしなければいけないということです。それから、須田さんが居住のことをご心配されているのですが、国民には居住する場所の選択の自由はあるのだから、東京が嫌なら、よその都市に行って下さいということです。東京に耐えられない人は、行ったらいいけれど、行けないのは、地方に働く場所がないからです。仮に東京から60万人分の仕事を移して、東京に残る3千何百万人の人の通勤時間が減るということは全くない。どう考えても、合理性はないということです。
もう一つだけ追加させていただきたいのですが、この移転によって、日本の経済がどうなるかということを検討するべきだと思います。ブラジリアというのは、石井さんが写された写真で見ると、きれいそうですが、私も行きましたけれども、空疎な所で、あんな所に住む人はいない。あそこにいる人は、金曜日の夕方には、飛行機に乗って、リオデジャネイロに行ってしまいます。それはともかくも、あれによって、現在のブラジルができた。どういう意味かと言うと、経済的に破綻した国家ブラジルというのは、ブラジリアに膨大な投資をした結果、出現した。あの計画を実施したクビチェック大統領は、その責任をとって、国外に逃亡しました。先程石井さんが示された建物を設計したオスカー・ニーマイヤーという建築家は、身の危険を感じて、イスラエルへ逃亡しました。死ぬ直前に、かろうじてブラジルに戻してもらえた。それくらい犯罪的なことだったのです。ブラジリアは、美しいとか、空疎だとか、いろいろな感想があるけれど、ブラジルという国家に、どれくらい犯罪的な結果をもたらしたかということは、ほとんど議論されていない。日本の公共事業もこれ以上増やせないとか、別の方向に向けろと言っている時に、関連投資を含めれば数十兆円と言われている公共投資をやって、ブラジルのような経済にならないかということは、国土交通省に計算していただきたい。ブラジルでは、大統領が逃げ出さなければいけないくらいの破綻的なことが起こった。そういうことをこれからやろうとしているかもわからないという所も検討していただきたいと思います。
齋藤 氏
月尾さんから、かなり手厳しい意見が出されましたけれども、寺島さんは、これに対して、情報化社会であるからこそ、余計に首都機能移転は意味を持っている。そういうふうなお考えだと伺っておりますが。
寺島 氏
今、月尾先生が言われている中で、ITの時代には、移転が無意味だというポイントは、我々が本当に真剣に考えなければいけない問題を提起していると思うんですね。私達、実はこのことに関する検討委員会がありまして、様々な方の意見を聞きながら、考えたんですね。その中で、僕が発言しておきたい点は何点かあるんです。ITの時代こそ、リアルのベース、現実空間は大切だというポイントを申し上げておきたいんですね。今、インターネットバブルがはじけたと言われて、我々もIT革命の中を走ってきましたけれども、現実にビジネスの現場で今議論されているのは、リアルとバーチャルの融合ということですね。サイバー空間だけでネットワークができれば、人間の情報密度は高まっていくなんていう時代じゃないということは、よくわかってきています。つまりリアルのベースはものすごく大事で、つまり生身の人間として、顔をつき合わせて、フェイス・トゥー・フェイスということですね。そういう所で、しっかりコミュニケーションする場、地場というものがものすごく重要になってくると思います。したがって、地理空間から情報空間へという視点が、ものすごく重要な問題をはらんでいるんですけれども、その中で、同時に現実空間というものをどう設計するか。皆のコミュニケーションをより深めるために、どういうふうに現実空間を設計するかというテーマはあるということが、まず一点目。二つ目は、分権型ネットワークの時代こそ、中心というものが必要だということなんですね。ワシントンは、先程石井さんの言葉で、アメリカという国のショーケースというような表現もありましたけれども、たとえばアメリカの歴史博物館、あるいはアメリカの様々な科学博物館を訪れることによって、民族が蓄積してきたアセット(資産)みたいなものが体験できる場を作っています。これから日本は、分権化を目指さなきゃいけないということは、その通りだと思います。地域を活性化させるためにも、是非ともそれは必要。ところが、それを進めれば進めるほど、やがて気づきますけれども、一体化の装置と言いますか、分権化を進めれば進めるほど、一体化のためのシンボリックマネジメントが必要になってくる。そのためには、この種の新しい新首都機能というものを、世界に向けても、日本の新しい世紀に挑戦しているテーマを見せる必要があるというのが、僕のポイントです。三点目。政治と経済の適切な距離ということです。月尾先生が言っている論点も、本当によくわかります。ただし、私自身の実感として、ワシントンとニューヨークが離れていることのメリットというのもあります。それは何かと言いますと、一つは、我々は永田町と霞が関と丸の内と大手町がごった煮になっている所で、すぐに連絡を取り合って、政治と経済、つまり立法、行政、ビジネスが、コミュニケーション密度を深める意味で、集積のメリットというのは、なるほどある意味では素晴らしいものだった。だけど、同時にそれが、政治と経済の持たれあいというのを作って、過剰な依存構造というのを作り上げてきた。やっぱり政治と経済の適切な距離、1時間の移動空間の中で、僕もよくニューヨークから農務省を訪ねたり、商務省を訪ねたりするテーマで移動したことがありますけれども、やはりその中に、論点を整理しながら、筋道の通ったアプローチをしようという、適切な距離感というのが、非常に大切だと思います。そういう面で、たとえばITとの関連でも、アメリカの歴史を調べれば、すぐわかりますけれども、ITの新しいプロジェクトというのは、たとえば電信というのが、ボルティモアとワシントンの間で最初の実験が行われたというのが、歴史的な事実としてありますけれども、ニューヨークとワシントンを適切につなぐというニーズから、情報関連のビジネスというものが非常に活性化するという部分もあります。したがいまして、私が申し上げたいのは、情報化時代だから、もうバーチャルな世界なんだから、リアルの話というのは抑えるべきなんだという議論は、必ずしも正しくないということだけ申し上げておきます。
齋藤 氏
須田さんは、東京への一極集中の中での情報化社会の進展というのは、ますます東京からの情報中心になる。東京からの一方的な情報提供になるということで、問題視されていますけれども、その辺ちょっとお願いいたします。
須田 氏
情報化時代が来るということは、情報が距離と時間を克服して、自由に、しかも非常に大量に流通できる時代が来るということなんですね。したがって、これは場合によれば、東京一極集中のためにも使おうと思えば、使えるわけです。逆にまた、首都機能移転とか、地方分権とか、そういう分散のためにも使えるんですね。どっちに使おうとするかという、使おうとする人間のポリシーをどっちに決めるかで、そちらに移るわけですから、どういうふうに情報手段を使っていくかということの決め方の方が、私は大事だと思うんですね。したがって、その場合、情報の発信元が東京一つだけであるとすれば、やはりこれは一極集中を助長すると思いますし、発信元が地方に分散して、いろんな所にある。首都機能移転で政治と経済主体が分かれて、その2ヶ所から情報が発信されれば、これも分割に寄与すると思います。そういうふうに、いろいろ発信元によって変わってくるし、情報の使い方によって変わりますから、私は両刃の剣のようなものだと思いますから、どう使うかということが大事だと思います。先程岐阜県の山の中で、変な役人さんが集まったら、クレイジーな結論が出るとおっしゃいました。そうでしょう。しかし、岐阜県の山の中で、山の中とは言いません。東濃地方で、全国の知事さんが集まって、川のほとりで、豊かな緑の中で議論をすれば、素晴らしい議論が出てくるような気がいたします。また、変な役人が来るからいけないのでありまして、立派な役人が、ワイズメンが集まれば、素晴らしい結論が私は出ると思う。東京のあの喧騒の中で、通勤に疲れた人が集まっても、知恵は出ないけれども、緑の中の新首都で議論をすれば、素晴らしいアイデアが出ると思うんですね。ただ、そこに集まる人の資質如何の問題。まず、その情報をどう発信するかというのが、私は問題だと思うんであります。そういうふうに考えていけば、私は情報というものは使い様だ。どちらにでも使える。私は、ここでは情報というのは、首都機能移転によって、国の機能を分散する方向に使いたい。しかし、さっきおっしゃったように、集積メリットは確かにあります。集積をしても、集中しないで集積するという方法はあると思うんですね。1ヶ所に全部集中するんじゃなくて、いろんな所に集中を作りながら、ネットワークを組む。集積のメリットを各地に分散して出すようにすれば、やっぱりできると思うんです。集中なき集積ということを、考えることも、情報化時代では可能だと思います。問題は、情報化時代の情報というものを、どのように我々が使うか。使い方のポリシーさえ決めれば、情報というものは、首都機能移転というものの効果をいよいよ深める方向に向かうことも、十分に可能だと、私は確信いたします。
齋藤 氏
情報化社会というのは、非常に難しいんですね。専門家の間でも、意見が分かれていると思いますし、私達マスコミも、情報産業と言えば、情報産業。私も、NHKのスペシャル番組のチーフプロデューサーを3年つとめましたけれども、要は中身、ソフトの問題というのは、非常に重要であります。特にこれが情報洪水と言われている中で、情報の質と言うんでしょうか、情報管理とか、情報操作とか、どうやって誤った情報とかというものを見抜くのか、あるいは読み解くのか、その辺がものすごく重要になってきております。ところで、国土交通省、この3月9日に、さっきの寺島実郎さんも入って、最終提言をまとめられたのがあるんですね。「IT(情報技術)を活用した首都機能都市のあり方に関する提言について」という最終提言、これは、情報技術を活用して、首都機能都市というものを築いていこうということだと思うんですけれども。これについて、舩橋さんから、情報化社会の中で、首都機能移転というのがどういう意味を持っているのか。簡単にお話いただければなと思います。
舩橋 氏
その前に、1点補足をさせていただきたいと思います。情報化が進展すると、集中するか集中しないかということについて、一つだけ資料をお示ししたいと思います。IT産業の事業所がどれだけ集積しているかということですが、既に首都圏で、IT産業の事業所が45.9%、この数字になっています。東京23区で27.4%ということでございます。
それから、今お話になりましたのは、平成12年度に検討会を開催いたしまして、ITを活用した首都機能都市、それのあり方についてまとめたリポートの件でございます。これは、非常にいろいろな内容がございますけれども、これからどういう地域が情報化と連携して発展していくかということについてのアンケート調査も含め、まとめたものです。詳しく報告している時間はございませんけれども、国土交通省のホームページ、あるいはご入手されたい方は、直接おっしゃっていただいてもいいんですが、そういうもので公表しておりますので、是非アクセスしていただきたいと思います。