INTERVIEW
2026-07-08

画像左:関 治之 一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事、画像中央:佃 千加 国土交通省総合政策局情報政策課AI活用推進企画官、画像右:田村 賢哉 株式会社Eukarya代表取締役CEO
生成AIの進化により、これまで活用が難しかった情報を、データとして扱える時代になった。国土交通省は2024年にProject LINKS(以下、LINKS)を立ち上げ、膨大な行政情報をAI技術で「データ」として整備し、官民が利用可能な基礎的な情報として提供することで、社会全体の生産性向上を目指す取り組みを進めている
データを介して官民がつながるオープンイノベーションは、どのように市場のインパクトをうみ、社会課題を解決していくのか。そのために今必要なことは何なのか。行政側からデータを提供する国土交通省の佃千加、LINKSを構成する2つのシステムー行政情報を構造データに変換する「LINKS Veda」と、構造データを分析・可視化する「LINKS BI」―を開発するEukaryaの田村賢哉氏、そしてユーザー側からオープンデータ活用を推進するCode for Japanの関治之氏の3人が、異なる視点から意見を交わした。
関 治之 |一般社団法人コード・フォー・ジャパン 代表理事
田村 賢哉 |株式会社Eukarya 代表取締役CEO
佃 千加 |国土交通省総合政策局情報政策課AI活用推進企画官

Q. 行政情報の活用で最初に取り組むべきことは何でしょうか?
田村 行政情報は「宝の山」です。しかし、文書の多くはPDFなどで電子データ化されていても、内容は手書きが中心で、入力様式も統一されていませんでした。データとして使える状態にはなっていなかったのです。
そこで、まず取り組んだのがデータの構造化でした。
手作業でEvcel表に入力やOCRによる読み取りなど、従来の手段は、コストや精度の面で限界がありました。しかし、生成AIの登場によって状況は変わりました。データの構造化に必要な最後のピースが埋まった感覚です。
関 オープンデータを実際の課題解決に利用する上では、見つけやすさ、使いやすさが重要です。構造化はその基盤となります。
見つけやすくするには、適切なメタデータや検索性、わかりやすいタグが欠かせません。使いやすくするためには、異なるデータ同士を組み合わせられる共通IDなどの仕組みも求められます。

田村 メタデータはオープンデータを活用する際の基盤となるため、構造化の際には特に重視しています。ただ、それでもデータを探して活用するには、ユーザー側に一定の専門知識が必要でした。
LINKS BIは、その探索をAIに任せてしまおうという考え方でつくっています。自然言語で必要なデータを検索できるだけでなく、そのデータで何ができるのか、までAIに尋ねられます。
従来のBIツールでは、何をしたいのか、どのデータを集めればよいのかなど、ユーザーが考えることがたくさんありました。グラフを作成するだけでも、一定のスキルが求められます。しかし、AIによってデータを探し、活用するハードルは格段に下がりました。
そうした環境では、データの構造化そのものも、AIが見つけやすく理解しやすいなど、AIに最適化された形で設計する必要があります。

Q. オープンデータの利活用で、国土交通省としてはどういった点を重視していますか?
佃 行政と民間が連携して社会課題を解決するオープンイノベーションは、世界的な流れです。スタートアップや起業を目指す社会人、学生など、多様な人に参加していただき、私たちだけでは思いつかない斬新な発想をもち込んでほしいと思っています。
昨年開催したハッカソンからも、ワクワクするようなアイデアが数多く出されました。行政と民間がつながることで、新しい可能性が次々と生まれる、そんな循環をつくっていきたいと考えています。
そのためには、国土交通分野のデータの可能性を知ってもらうことが大切です。今年もアイデアソンやハッカソン、ハンズオンなど、多くの方に参加いただけるイベントを企画しています。
Q. 関さんは市民参加型のハッカソンに多数関わってこられました。入口を広げる工夫などはありますか?
関 ハッカソンを、エンジニアだけの機会にするのはもったいないですよね。データを使って「住む街のことがわかる」「ビジネスを改善できる」など、ITの専門家でなくても、自分ごとにできる打ち出しが大切です。
加えて、社会に価値を生むためには、ある程度広い領域で人を集めるのが良いと思っています。必ずしもデータありきではなく、「子育ての課題を一緒に考えよう」「インフラの課題をデジタルで解決しよう」といったテーマ設定です。
この集め方なら、ひとつのテーマに対し、幅広い知識やサービスでアプローチできます。参加者の年齢や性別、専門性が偏りにくく、多様な人が集まるでしょう。
実際、AIと自然言語の会話でアプリケーションをつくるVibe Codingの登場により、ハッカソンも変化しています。
コード・フォー・ジャパンがお手伝いしている、とあるハッカソンでは、2025年から公式に生成AIの開発ツールを提供しています。すると、参加者の層もアウトプットも、大きく幅が広がりました。
以前はアイデアはよいがデモが不十分、というケースもかなりありましたが、生成AIによって、どのチームもデモまで完成させられるようになりました。
今年2月に Anthropic 社が開催したハッカソンでは、自分ではコードを一行も書かない弁護士が優勝したと言います。彼はVibe Codingを使って、カリフォルニア州で何ヶ月もかかることがある住宅の建築許可プロセスを、大幅に短縮するAIエージェントをわずか1週間でつくりました。
受賞した5組のうち4組は、プロのソフトウェア開発者ではなかったそうです。高度なプログラミングスキルをもたなくても、明確な課題意識と深い業務知識を持つ人が、優れた解決策をつくれるようになったのです。本気で課題解決したい人を集めて、そうした成功体験を積み重ねていくことが、大切だと思っています。

田村 ぼくは「評価」の重要性が、ますます大きくなると考えています。
自分の場合では、聴覚障害を持つ娘とのコミュニケーション方法を考えることがあります。ぼく自身は専門のエンジニアではないので、従来は既存のツールから良い方法を選択するしかありませんでした。しかし、今では関さんがおっしゃるように、Vibe Codingなどを活用し、自分の手で解決策をつくり出すこともできます。
ただ、ぼくは聴覚障害の専門家でも、プログラミングの深い知識があるわけでもありません。そこで、業務知識をもち、正確なアセスメントができる人から、つくったものを評価してもらえるコミュニティが必要だと思うのです。
つくることが簡単になったからこそ、適切なフィードバックを得られる場が重要になると思っています。

関 アイデアをサービス化して実際の価値を生むには、オープンデータを用意するだけでは不十分です。提供側とユーザー側が対話できる場まで、セットで考える必要があります。
データがどんな背景でつくられ、普段どのように使われているのか。ユーザーは行政とはまったく別の用途に使うのかもしれませんが、それでもデータの成り立ちを教えたり、アウトプットを適切にアセスメントしてくれる人が必要です。
そんな交流が生まれるコミュニティを、私たちも目指してきました。
LINKSのハッカソンでも、佃さんたち総合政策局の方だけでなく、実際にデータを扱う実務部署(原課)の職員も参加されるとよいのではないでしょうか。ユーザーとの対話を通し、よい気づきが得られると思います。
佃 ハッカソンを通じて、自分たちが思いもしなかったデータの使われ方が見つかることで、オープンデータ化に取り組む意義を実感できるきっかけになるかもしれません。
関 点ではなく線で捉え、サービス化までのプロセスを組み込めると良いと思います。原課の職員から話を聞く、フィールドワークで現場を見る、プロトタイプを基にユーザーインタビューをする、イベント後も継続支援を受ける。そうした関係性づくりが大切です。
佃 データを提供する側と利用する側で、意見交換できる機会を作ることも考えたいと思います。
関 AIで簡単にアプリやサービスがつくれるようになると、「どんな問いを立てるか」がますます大事になります。現場を知る人やユーザーに話を聞いたり、仲間同士で対話しながら、問いを広げ深めていく活動は、AIに代替させられません。AIは与えられた情報から最適な答えを導きますが、問いそのものを立てることは不得手です。
熱量を共有する人が集まって問いを重ねることで、ひとつのアイデアが思いもよらない方向へ発展していきます。多様性を力にできるのは人間の強みです。

Q. 最後にLINKSを通してやっていきたいこと、皆さんの展望を教えてください。
佃 LINKS のXアカウントでは、鉄道や空き家など、分かりやすく、一定の関心層がいると思われる分野の投稿には、たくさんのインプレッションが付きます。一方で、一般の方にあまりなじみがないと思われる分野に関する投稿には、インプレッションがあまりつきません。
データの価値をわかりやすく伝え、一般の方に馴染みのない分野にも興味をもってもらい、活用につなげていきたいと思います。
関 LINKSの取り組みを、自治体や企業とつなげていきたいと考えています。ひとつの省庁のデータだけでできることには限界があります。自治体や企業が持つ情報と組み合わせれば、これまでにない価値を生み出せるはずです。
田村 ぼくはデータを充実させることが、平和につながると本気で信じ、会社を立ち上げました。人は実情を知らないと、必要以上に不安を感じたり、他者に対してネガティブな感情を抱くようになります。データによって、見えなかったことが見えてくると、物事を違った視点でとらえ、もっと優しくなれると思うのです。
日本の都市、地方には、さまざまな課題があります。それらを正しく理解するための情報源として、データを整えることが大切です。LINKSで行政データを構造化・公開することで、社会課題を自分ごととしてとらえる人が増え、建設的なコミュニケーションが生まれることを期待しています。