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平成13年度観光の状況に関する年次報告

第1章 観光の現状はどうなっているか

第5節 ●アメリカ同時多発テロ事件の旅行に与えた影響

1 海外旅行,国内旅行の動向



  (1) 主要旅行業者総取扱高,取扱人員

国内主要旅行業者50社の旅行取扱状況によると平成13年9月分における海外旅行取扱額は,9月11日のテロ事件直後から欧米方面を中心にキャンセルが相次いだこと等により対前年比25.7%減となった。10月以降も大幅に減少し,特に11月は対前年比52.1%減と過去最大の落ち込みを示した。この結果,平成13年の取扱額累計は対前年同期比88.5%となった。テロ事件以前の1月から8月分の累計は,対前年同期比103.6%と堅調に推移していたのに対し,テロ事件以降の9月から12月分の累計は同60.0%と大幅に落ち込んだ(表1-5-1)。

表1-5-1 主要旅行業者50社の総取扱高(平成13年)



同50社の取り扱う主催旅行のうちブランド国内旅行商品の取扱人数は,9月分は対前年比11.8%増となり,10月以降も増加を継続し,この結果9月から12月分の累計は対前年同期比108.3%となった。これは,海外旅行から高品質の国内旅行へのシフト分と考えられる(表1-5-2)。

表1-5-2 主要旅行業者50社のブランド国内旅行商品取扱人数(平成13年)



平成13年の海外旅行,国内旅行,外人旅行の総取扱額は,年間累計で対前年比4.9%減であった。

  (2) 航空企業の輸送人員数(月別,前年比)

1)国際航空旅客輸送の動向
邦社4社(日本航空,全日空,日本エアシステム,日本アジア航空)の国際航空旅客数の推移を見ると,8月までは前年並みに推移してきたが,9月においては,テロ事件の影響により前年同月比20.1%減と大幅に減少するなど航空業界に大きな打撃となっている。9月から12月分累計は対前年同期比29.3%減であった(図1-5-3)。

図1-5-3 国際航空旅客数の対前年比増減の推移(邦社4社)



方面別に見ると,特に太平洋線の落ち込みが激しい(図1-5-4)。

図1-5-4 国際航空旅客数の方面別対前年比増減の推移(邦社4社)



湾岸戦争の際と比較してみると,事件直後の落ち込みは大きく,また低迷が長期化している。
2)国内航空旅客輸送の動向
邦社18社の国内航空旅客輸送については,9月時点では全体として特にテロ事件の影響は見られなかったものの,10月には前年同月比5.4%減となり,沖縄線を中心に減少したが(9月から12月分累計は対前年同期比2.4%減),その後14年に入って,回復傾向にある(図1-5-5)。

図1-5-5 国内航空旅客数の対前年比増減の推移(邦社18社)



羽田と札幌,那覇,福岡,鹿児島の間の旅客数について見ると,那覇線の落ち込みが際立っている(図1-5-6)。

図1-5-6 国内航空旅客数の路線別対前年比増減の推移(邦社18社)



湾岸戦争の際と比較すると,湾岸戦争の際には全体としては影響がなかったのと比べ,大きく様相が異なっている。

  (3) 日本人海外渡航者の旅行動向

多発テロ事件による,日本人海外旅行者の各国(地域)への渡航状況を見ると,テロ事件の起こった9月~12月の4か月の対前年同期比でアメリカ52.3%減,カナダ48.3%減,ハワイ47.0%減,グアム45.9%減,マレーシア43.7%減,シンガポール42.9%減,韓国21.3%減,台湾21.0%減,香港18.2%減,マカオ18.1%減と落ち込みを見せた。中国は12月には前年比増加に回復し,9-12月で2.2%減とほとんど影響を受けていない(表1-5-7,図1-5-8,図1-5-9)。

表1-5-7 アメリカ同時多発テロ事件前後の日本人海外旅行者,各国(地域)別訪問者数(受入国・地域統計)




図1-5-8 日本人海外旅行者数の方面別対前年比増減の推移(その1)




図1-5-9 日本人海外旅行者数の方面別対前年比増減の推移(その2)



ハワイを訪問した旅行者について見れば,日本人旅行者の落ち込み及びその後の回復の遅れは際立っている(図1-5-10)。

図1-5-10 訪ハワイ旅行者数の推移




  (4) 海外修学旅行の動向

13年度は,海外修学旅行の行き先として多い韓国・中国等へ延べ1,302校,約21万6千人が実施し,前年度に比べ,校数で約12%,人数で約15%の増加となる予定であった((財)日本修学旅行協会調べ)が,テロ事件の影響を受け,日程を変更したり,行き先を国内地に変更する学校が続出した。

  (5) 家計における消費支出の動向

テロ事件の旅行に与えた影響を家計における消費支出の動向からみると,10月以降国内パック旅行費,鉄道運賃,有料道路料が対前年同月比で増加している一方,海外パック旅行費,航空運賃は減少している。

図1-5-11 宿泊関連支出金額の月別動向




図1-5-12 交通関連支出金額の月別動向




  (6) 湾岸戦争時とアメリカ同時多発テロ事件との比較

湾岸戦争時(91年1~2月)とアメリカ同時多発テロ事件における各国(地域)に渡航した日本人旅行者の回復トレンドを比較すると,湾岸戦争時は戦争が停戦した翌月より回復を開始し,5か月後には,前年の水準まで回復したのに対し,テロ事件からの回復は,より長期化すると思われる。
この原因の一つとして考えられることは,湾岸戦争時は,中東地域への渡航自粛があったものの戦争停戦以後において,これらを順次解除したが引き続き景気の拡大に支えられ回復に向かったものであり,テロ事件については,長引く景気の停滞と,テロに対する不安定な国際情勢による影響から,旅行者の旅行手控えが原因であると思われる。

図1-5-13 日本人海外旅行者数の対前年比増減の推移




(注)邦社18社
日本航空,全日本空輸,日本エアシステム,日本トランスオーシャン航空,エアーニッポン,日本エアコミューター,ジャルエクスプレス,スカイマークエアラインズ,北海道国際航空,新中央航空,エアー北海道,オリエンタルブリッジ,北海道エアシステム,琉球エアコミューター,ジェイ・エア,中日本エアラインサービス,旭神航空,天草エアライン

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