平成15年度観光の状況に関する年次報告
第1章 観光の現状
第1節 国民の観光の動向
1 国民の国内宿泊旅行の動向
平成15年の国民の宿泊を伴う国内旅行の状況は,国土交通省が実施した調査(注)から推計すると次のとおりである。
平成15年1年間に国内宿泊旅行を行った回数は,国民1人当たり平均2.11回であり,国民全体では延べ2億6,900万回と推計される。
これを旅行の目的別に見ると,「観光」が1人当たり平均1.16回(全体の54.8%),「家事・帰省」が同0.46回(同21.7%),「業務」が同0.26回(同12.3%),「兼観光」(家事・帰省,業務が主目的であるが,それに1泊以上付け加えて観光を行った旅行)が同0.12回(同5.7%)となっており,「観光」と「兼観光」を加えた「宿泊観光旅行」は1.28回であった(表1-1-1)。
経年変化を見ると,宿泊旅行全体の平成15年の回数(2.11回)は,前年(2.49回)に比べて15%減少した。目的別では,「観光」で対前年比8%の減少を示し,他の目的ではいずれも10%以上の減少となった。また,「宿泊観光旅行」の1.28回は対前年比9%減であった。このように前年との比較において大幅な減少となったが,これは10年程度のスパンで見ると,平成初期からの減少傾向が引き続き継続したとみることができ,結果として昭和63年以来の低い水準となった(図1-1-2)。
平成15年の「宿泊観光旅行」回数を月別に見ると,夏休みを取る機会の多い8月が最も多く,次いでゴールデンウィーク時期の5月が多い。しかし,月別回数の分散を計算すると前年より小さくなっており,旅行時期の平準化は進んだと言える(図1-1-3)。
平成15年1年間の宿泊日数は,国民1人当たり平均3.96泊(国民全体で延べ約5億600万泊)と推計され,これも前年の国民1人当たり宿泊日数4.65泊に比べると,15%の大幅減となっている。目的別にみると,「観光」は1.69泊(対前年比9%減),「家事・帰省」は1.13泊(同25%減),「業務」は0.70泊(同2%減),「兼観光」は0.31泊(同21%減)となっている。また,「宿泊観光旅行」は1人当たり平均2.01泊と対前年10%の減を示した。
表1-1-1 国民1人当たり平均宿泊旅行回数及び宿泊数
図1-1-2 国民1人当たりの宿泊観光旅行回数及び宿泊数の推移(平均)
図1-1-3 月別宿泊観光旅行の回数(1人当たり平均)
このように,宿泊数についても,平成初期からの減少傾向が継続しており,統計を取り始めた昭和54年以来最低の数値となった(図1-1-2)。
平成15年1年間における国民1人当たりの国内宿泊旅行消費額は約93,100円で,前年に比べ名目で12.8%減,実質で12.6%減であった。
また,宿泊観光旅行の消費額は,1年間で国民1人当たり約47,700円で,前年に比べ名目で9.5%減,実質で9.1%減となっている(表1-1-4)。
表1-1-4 国内宿泊旅行の1人当たり年間消費額
このように,国民の国内宿泊旅行は,10年程度のスパンでみると平成初期からの減少傾向が引き続き継続している。以下にその原因について考察してみる。
まず第一に,国内宿泊旅行のみならず,海外旅行も平成8年以降1,600万人を前後する伸び悩み傾向にあり,国民は総体として「宿泊旅行」に行く回数が減っていると言える。その原因は,可処分所得の減少,資産価格の低下,少子高齢化や雇用調整による先行き不安などによる個人消費の低迷が考えられるが,一般に「旅行」という消費財は所得の変化に敏感な所得弾力性が大きいものであること(すなわち,所得が減少する以上に旅行回数等が減ってしまうということ)も大幅な減少の原因と考えられる。
国内宿泊旅行が不振である原因には,これらに加えて,割安な海外旅行商品が販売されていることもあると考えられる。
なお,後述するように平成15年は国民の海外旅行者数は前年を2割近く下回ったが,それにもかかわらず,国内宿泊旅行回数・宿泊数とも1割前後減少するという従前の傾向を示し,海外旅行の減少は国内旅行の増加にほとんど結びつかなかった。
このように国民の国内宿泊旅行は,全体としては減少傾向にあるが,地域別にみると様々であり,例えば以下の例のように観光カリスマの貢献等により観光客が増加し,賑わいをみせる地域も多数ある。したがって,観光地の盛衰は全国一律に語ることができない点に留意すべきである。(以下の例は,観光カリスマが所在する市町村のうち,平成10年度から14年度の間の入込み客数の伸びが大きいものを示した。なお,観光カリスマによる観光魅力作りなど,地域の動きについては,第2章第3節2.に詳しく述べる)
○山梨県高根町(259万人→694万人:168.4%増)
・舩木上次さん:流行に流されずに開拓魂で清里を活性化
○富山県氷見市(93万人→167万人:79.2%増)
・堂故茂さん:伝統漁法の定置網漁を活用
○岐阜県古川町(58万人→120万人:106.5%増)
・村坂有造さん:伝統的な街並みづくり
○岐阜県白川村(105万人→155万人:47.6%増)
・中川満さん:伝統的生活文化を伝え冬季の観光化を実現
○熊本県南小国町(99万人→149万人:49.5%増)
・後藤哲也さん:素朴で統一感ある黒川温泉郷づくり
○大分県直入町(41万人→67万人:63.8%増)
・首藤勝次さん:日本一の炭酸泉を活かし長湯温泉を活性化
○宮崎県西米良村(5万人→13万人:158.0%増)
・黒木定藏さん:独自のワーキングホリデー制度の導入
(注)
国民2,200人(15~79歳)に,過去4ヶ月間の国内宿泊旅行動向を聞くアンケート調査を年3回サンプルを変えて実施。
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