平成15年度観光の状況に関する年次報告
第1章 観光の現状
第4節 旅行の経済に与える影響
1 旅行消費の経済効果に関する調査,推計
旅行は非常に裾野の広い産業であり,旅行消費(注)がもたらす他産業への需要創出効果や雇用創出効果等の経済効果が非常に大きいことから,21世紀のわが国のリーディング産業として大きな期待と関心を集めている。世界的にも旅行は成長産業として注目されており,そのため世界観光機関(WTO)は旅行消費の経済効果を示す統計手法であるTSA(Tourism Satellite Account)について,世界標準のTSA作成方式である「TSA Recommended Methodological Framework」(TSAマニュアル)を作成している。
このような動きを受け,国土交通省では,既存データを基に,14年の我が国における旅行消費額を推計した。この旅行消費額全体を13年に実施した旅行消費細目(交通費,土産代,食事代,入場料等)を尋ねるアンケート調査により,産業部門別の消費額に分類し,この結果から「産業連関表」を用いて旅行消費が我が国の経済全体に及ぼす経済波及効果を推計した。
まず,平成14年の我が国における旅行消費額は21.3兆円と推計され,前年と比較して1.4%の増加となった。なお,国民の海外での消費額を含めた旅行消費額は24.0兆円(0.9%増)と推計される。
平成13年は,米国同時多発テロ事件の影響で海外旅行が大幅減,国内宿泊旅行も国内の景気低迷などの影響で出張・業務旅行を中心に減少した。そのため,14年は,13年の反動で国内,海外ともに旅行量は増加した。しかし,物価下落の影響を受けて旅行単価は引き続き減少し,結果として14年の国民の旅行消費額は小幅な伸びに留まった。
一方,平成14年の訪日外国人旅行消費額(1.58兆円)の我が国における旅行消費額(21.3兆円)全体(21.3兆円)に占める割合は7.5%であった。これは前年に比べ増加しており,旅行消費の観点から,その位置づけが増したと言える(表1-4-1,図1-4-2)。
表1-4-1 我が国における旅行消費額推計結果
図1-4-2 我が国における旅行消費額推計結果
平成14年の旅行消費による生産波及効果を計算すると49.4兆円となり,これは「2001年度産業連関表延長表」(経済産業省)による国内生産額920兆円の5.4%にあたる。また,付加価値効果は26.1兆円と計算され,これは14年暦年名目GDP500兆円の5.2%に相当する。
また,雇用効果は398万人であり,これは13年の就業者数6,622万人(「国民経済計算年報」(内閣府))の6.0%を占めている(図1-4-3)。
図1-4-3 旅行産業の日本経済への貢献度
旅行消費が生み出す旅行産業の直接効果の付加価値10.5兆円は,GDPの2.1%を占めるが,これは農林水産業の1.4%,一般機械の1.9%よりも高く,また輸送用機械(2.3%),食料品(2.5%)に匹敵する数字である(図1-4-4)。
また,旅行産業の直接雇用者数187万人は総雇用者数の2.8%を占めるが,これは輸送用機械の1.6%,一般機械の2.1%,食料品の2.4%よりも大きい(図1-4-5)。
図1-4-4 産業間の付加価値比較 図1-4-5 産業間の雇用者数比較
我が国の旅行総消費額における外国人旅行者消費比率は上昇傾向にあり,平成14年には7.5%に達したが,諸外国に比べるとまだ著しく低水準にあり,例えば米国,オーストラリアでは20%台前半,フランスでは約35%,スイス,スペイン,オーストリアに至っては50%前後の水準にある(図1-4-6)。
図1-4-6 諸外国における旅行消費額の国内・海外比率
(注)
この節における「旅行消費」とは,TSAマニュアルに準拠した概念であり,狭義の「観光旅行」に伴う消費のみならず,ビジネス旅行等に伴う消費を含んだものである。
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