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第I部 観光の状況

第2章 国際観光振興の回顧、総括と今後の展開

第4節 国際観光振興政策の今後の展開

1 訪日ブランドの構築・強化



  (1) 日本が世界に誇る「普遍的な魅力」の確立

 歴史、文化、伝統、自然など日本の魅力は多様である。そして、その多様性こそ日本観光の競争力の源泉であることは確かである。しかしながら、多様な魅力を多様であるとそのまま訴えることは、イメージの拡散にしかならない。多様な魅力の根底に共通してあるものを見出し、その根底にあるものを意識してプロモーションをしていく必要がある。
 観光庁では、平成24年8月より、外国人8人を含む11人からなる「「普遍的な日本の魅力」の再構築・発信に関する検討会」を開催し、外国人目線に立って、日本の魅力について議論を行った。
 その結果、日本の文化、伝統は「日本人」の精神や感性が発現されたものであり、質の高いものづくりや日本食は「日本人」の勤勉さやこだわりを体現したものではないか、日本の魅力の根底にあるもの、すなわち日本観光を海外に発信するに当たってのキーワードとなるもの、それは「日本人」という切り口ではないか、との結論に達した。
 東日本大震災に際して世界中の人々を感嘆させた冷静で規律正しい日本人。日本を訪れる多くの外国人が触れる親切な日本人。技への誇りとこだわりを持って魂を込めたものづくりをする日本人。同じように見える観光資源でも、そのような日本人が手がけたものであることそのものが、「温かみ」、「面白み」、「深み」といった人の息吹を感じさせる特別な意味を付加し、他との差別化の重要な要素になっているのではないか。
 検討会では、以上の議論を踏まえ、日本観光の価値について「日本人」を切り口に再構築し、以下のような「日本を旅行することでしか得られない3つの価値」(3C)としてとりまとめた。
コラム
 価値1:日本人の神秘的で不思議な「気質」に触れることができる。(Character)
 1)震災のような困難なときにも示された高い美徳・規律、礼儀正しい気質。
 2)シャイだけど親切。知らない人にも配慮し、人に温かい気質。
 3)飽くなき好奇心と根気で独自の世界をつくりあげる気質。
 4)あえて言葉にしない、「わびさび」や五感を越えた「暗黙知」の存在。
 価値2:日本人が細部までこだわり抜いた「作品」に出会える。(Creation)
 1)歴史・伝統を継承し、現代の革新を加える「匠」や「専門家」による作品。
 2)チームワークと擦り合わせの技から生まれた世界一「ハイテク」な作品。
 3)洋の東西を問わず、「異国文化」を取り込み、日本的に昇華させた作品。
 4)「自然」への畏怖・感謝をもとに、自然と一体化することで生まれた作品。
 5)研ぎ澄まされた五感により、山海の素材の持ち味を引き出した「日本食」。
 価値3:日本人の普段の「生活」にあるちょっとしたことを経験できる。(Common Life)
 1)「ちょっとしたこと(a little thing)」に楽しみやくつろぎを感じられる生活。
 2)四季や伝統が深く入り込む一方、現代と「融合」した生活。
 3)「世界一厳しい消費者」を満足させるレベルの高い消費ができる生活。
 4)「お客様は神様」を合言葉に、完璧な「おもてなし」を享受できる生活。
 5)都市から田舎まで、全国どこでも「便利」、「清潔」、「安全」な生活。
 これらは、今後の訪日プロモーションの指針となり得るものである。今後、この「3つの価値」(3C)を、日本の統一イメージ形成の指針としてオールジャパンで共有し、世界の人々に対し、非日常体験への扉を開く「驚きの別世界」としての「日本」を浸透させるべく取り組んでいく。

日本人が細部までこだわり抜いた「作品」に出会える。



日本人の神秘的で不思議な「気質」に触れることができる。



日本人の普段の「生活」にあるちょっとしたことを経験できる。



  (2) 国内外から選好される国際競争力の高い魅力ある観光地域の形成


  1) 「日本の顔」となる観光地域づくり

 先に述べたとおり、国際競争が激化する中、ブランドの確立された観光地域が国内外から選好される観光地域として生き残っていくと考えられるが、「観光地域のブランド確立」が達成されるのは、観光地域が、以下の全てを満たしているときである。
i)地域が自然、歴史、文化等に根ざした「独自の価値」を有しており、当該価値が国内外に認知されていること
ii)地域が「独自の価値」を来訪者に提供することにより、来訪者の期待を安定的に満たしていること
iii)地域の関係者・住民が「独自の価値」を共有し、活動に反映していること
iv)地域と来訪者が「独自の価値」に共鳴し合いながら、その価値を向上させていること
v)地域として「独自の価値」の継続的な維持・向上を図るための仕組みを構築していること
 そのようなブランドを生み出すためには、観光地域において、自然、歴史、文化等に根ざしたその地域の「独自の価値」とは何かについて検討を行い、その価値を表す「コンセプト」を定めることが必要である。そして、そのコンセプトに沿った空間を形成することはもちろん、来訪者と地域の人々の交流を支えるためのおもてなしの向上や滞在プログラムの造成といった受入環境の整備、マーケティングの実施等によるブランドの管理を行うことが必要である。さらには、これらの取組の継続的な実施と改善により、ブランドを維持していくための努力が継続して行われなければならない。
 今後、近隣諸国に伍して国際競争を勝ち抜いていくだけの高い潜在力の認められる観光地域が、このような取組を促進し、「日本の顔」となる観光地域となっていく必要がある。そして、それらの観光地域から世界に向けて日本の魅力が発信されることで、日本が、これまで以上に目的地として選好されるようにしていかなければならない。

  2) 観光地域づくりの中核となる組織・人材の育成

 「日本の顔」となる観光地域のブランドを確立するためには、中核となる組織と人材の存在が鍵となる。そのような中核組織は、地域のコンセプトの明確化、誘客対象の特定や競合地域との差別化を図るために必要なマーケティングの実施、多様な関係者間の調整や各取組の統括等を行う地域全体のマネジメントなど多様な機能を果たしていくことが求められるが、観光地域づくりプラットフォーム(注)等を、そのような中核組織として育てていかなければならない。
 また、そのような組織が機能するためには、中核となる人材が不可欠である。地域が目指すべき方向性を企画・立案し、関係者との認識の共有と合意の形成を行い、さらには実務を的確に行うために必要な知識や経験を有する人材を、地域において持続的に育てていくことが必要である。

(注) 
「観光地域づくりプラットフォーム」とは、着地型旅行商品の販売を行うため、地域内の着地型旅行商品の提供者と市場(旅行会社、旅行者)をつなぐワンストップ窓口としての機能を担う事業体のこと。

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