流域治水のいま
新潟県見附市から
見附市では、降雨時に田んぼに水を貯めることで内水氾濫を防止するとともに、河川への流出を減らすことで河川への負担を軽減する取組を進めています。実施にあたっては農家の理解、協力が重要になりますが、見附市は、農家のメリットを追求し、新潟大学の協力を得て作業的な負担も減らすなど、全体として取組が前に進むための工夫を随所に行なっています。流域治水の好事例として紹介します。
見附市農林創生課副主幹兼農林整備係長の阿部泰比古さんにお話を伺いました。
----- この度はありがとうございます。見附市では「田んぼダム」を推進していると伺ったのですが、これはどういった取組でしょうか。基本的なことをご教示いただけますか?
見附市では、平成22年度から新潟大学の協力を受け、大掛かりな施設整備が不要(又は低額)で、迅速な取組が可能であることから田んぼダム事業を実施しています。これは、大雨の時に田んぼから河川に流れ出る水量を抑制することで(※)、一時的に田んぼに水を貯め、河川への負担を軽減する取組です。
※田んぼから河川への排水管の口径を小さくすることで行う(写真参照)
左:従前の排水管 右:田んぼダム実施後の排水管(試験の様子)
調整管の設置費・管理費の負担 (見附市:総事業費約15,000千円)
田んぼダムの事業面積は約1200ha、貯水量は約252万tに及びます。これは、刈谷田川ダム(見附市最大の一級河川刈谷田川の上流に位置)の治水容量の約64%に相当します。田んぼダムを100%実施した場合、床下、床上浸水の大幅な軽減が見込まれ、経済効果は3億円になると予想されています。これにより、事業区域の下流河川、水路等の負担軽減による治水効果が期待されます。
----- そもそもですが、どうして田んぼダムに取り組むことになったのでしょうか。何が問題意識としてありましたか?
見附市は、降雨時、信濃川水系貝喰川に雨水が集中します。流下能力が近年の豪雨に対応できないため、雨水が滞り易く、以前から慢性的な内水被害に悩まされてきました。平成16年7月13日に発生した水害では、隣接する三条市とともに大きな被害を受けました。それをきっかけに貯留施設の整備、刈谷田川の改修、遊水地の整備など様々な水害対策を本格的に行い、市内下流域の内水被害対策として田んぼダムにも取り組むようになりました。
平成16年7月に発生した水害による被害の様子
------ お話を伺っていますと、早い、安い、効果絶大! と良いことずくめのように感じられますが、実施に際しては様々に工夫されてきたと思います。ポイントはどのあたりにあるでしょうか?
田んぼダム事業は、事業導入において農家の理解を得ること(合意形成)が最も大きな課題であると考えます。そのため、見附市では事業にかかる経費は全て市で負担し、その後の維持管理についても圃場(ほじょう:耕作農地)の管理を行っている維持管理組合に委託して、農家に経費的な負担をかけないように工夫しています。
また、畦畔(けいはん:水田を囲む盛り土部分)や排水ますなどの修繕は、国の多面的機能交付金を、本来は活用できない個人所有のものにも活用できるようにして、農家にメリットが生じるようにしました。
事業推進の枠組み。農家の負担軽減がポイント
平成22年から25年までは、降雨時に農家が現地に出向いて器具を操作しなければいけませんでした。そのため、農家への負担や稼働率の低迷など、十分な効果を得ることができませんでした。しかし、平成26年に新潟大学が排水管を改良し、逆円錐型の管を装着することで流出量を抑えつつ、降雨時に操作が不要となって農家の作業負担が解消されました。結果的に、稼働率95%以上を実現しています。
----- 市として、どうしたらうまく進むのか、大学とも連携して創意工夫を凝らしてきたことが伝わってきます。こういった取組が広がっていくことを期待して、全国の人々にメッセージをお願いします!!
田んぼダム事業の実施条件は、地形、気象条件、圃場の作業条件等、地域によって様々ですので、地域に合わせた取組を考えてみてください。