vol.12... 水災害対策最前線

流域治水のいま

全国で流域治水が進行中

令和3年度もまた、各地で水災害が発生しています。前号で紹介した(→vol.11)、地域、流域全体であらゆる関係者が協働して水災害対策を推進する「流域治水」がますます重要になってきています。各一級水系で国、流域自治体等による「流域治水協議会」が組織され、令和3年3月30日(火)には、全国109全ての一級水系などで「流域治水プロジェクト」が計画として公表されました。さらに、通称「流域治水関連法」(特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律)が成立し、令和3年5月10日(月)に公布、一部は同年7月15日(木)に施行の運びとなり、流域治水の推進を広く呼びかけています。

そこで今回は、全国で流域治水を推進していく上で、自治体や企業、住民など流域の皆さんにとって、その取組の参考となる事例を紹介していきます。

各流域の取組を紹介


流域治水の推進にあたっては、ハード、ソフトの両面でさまざまな取組が行われています。各地ではどのような取組が進められているのか、実際に取組を進めている方々に伺った話を基に、各地の水災害対策の事例を紹介します。

見附市農林創生課副主幹
兼農林整備係長阿部泰比古さん

case1

田んぼダムで流域治水

新潟県見附市から

見附市では、降雨時に田んぼに水を貯めることで内水氾濫を防止するとともに、河川への流出を減らすことで河川への負担を軽減する取組を進めています。実施にあたっては農家の理解、協力が重要になりますが、見附市は、農家のメリットを追求し、新潟大学の協力を得て作業的な負担も減らすなど、全体として取組が前に進むための工夫を随所に行なっています。流域治水の好事例として紹介します。記事はこちら >

大洲市治水課課長補佐
佐野嘉浩さん

case2

二線堤で安全度を高める

愛媛県大洲市から

大洲市では、平成30年7月豪雨で甚大な被害を受けた記憶が新しいのですが、市を流れる肱川の治水安全度を高めるべく、以前から対策が講じられてきています。その中に「二線堤」の整備があり、平成16年に完成しています。これは肱川からあふれてきた水を受け止め、経済の中心地を守るための堤防を整備する取組ですが、それには冠水する範囲に農地を有する農家の協力が不可欠です。二線堤整備の内容と、農家との連携について紹介します。記事はこちら >

川辺みらいミーティング実行委員長
松本竜己さん
川辺復興プロジェクトあるく代表
槙原聡美さん

case3

黄色いタスキで命をつなぐ

岡山県倉敷市真備町から

流域治水のコンセプトは全員参加。行政、企業、研究機関、そして住民が、それぞれに取組を進め、かつ協働して流域全体で被害を防ぐ、減らすことを目指すものです。住民の視点では、ハザードマップを確認したり、川の状況を確認して早めの避難をするなど、個人でできることがありますが、平成30年7月豪雨で甚大な被害が生じた真備町では、避難者の把握に時間を要した経験を生かし、命をつなぐ、つながりを深めることをテーマに「黄色いタスキ大作戦」が展開されています。記事はこちら >

常総市役所 市長公室防災
危機管理課課長小林弘さん

case4

コミュニティでマイ・タイムライン

茨城県常総市から

常総市では、平成27年7月の豪雨で大水害が発生し、甚大な被害が生じました。逃げ遅れた人々がヘリコプターで救助されるライブ映像は、社会に衝撃を与えるとともに、水防災への意識を再構築していく必要性を痛感させることとなりました。それから常総市では、水害発生前に自分がとるべき行動を時系列順に整理しておく「マイ・タイムライン」の作成を促進し、それを今、コミュニティへと拡大して普及をはかり、地域の防災力向上を目指しています。記事はこちら >

郡山中央工業団地会会長
小川則雄さん

case5

日頃の連携で工業団地の水害対策

福島県郡山市から

令和元年の東日本台風が引き起こした水害によって、郡山市の工業団地が大きな被害を受けたことは、メディアでも大きく報道されました。ひとたび操業拠点で事業が継続できなくなると、その施設から得られる経済的利益が失われるだけでなく、地域の雇用や、納入先で操業ができなくなるなど、さまざまな範囲にまで影響が波及していきます。過去にも大きな被害を経験している郡山市では、工業団地の企業が話し合い、地域の行政と連携して対策に取り組んでいます。記事はこちら >

自治体も企業も個人も地域で協働

いかがでしょうか。取組が前に進むにはどうしたらいいか? 協働して取組を進めていくにも、協働は相手があってのことであり、いかに相手が受け入れやすく、協力しやすい関係を構築できるか、そこに腐心している様子が各事例からよく窺えました。そして、そこに共通するのは、個々人が当事者として意識を高めていくことへの重要性に対する想いでした。次の世代への想いを持って、地域全体として水災害への対策を進め、防災力を向上させていく。流域治水でそうした取組を広げていきましょう!