vol.12... 水災害対策最前線

流域治水のいま

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二線堤で安全度を高める

愛媛県大洲市から

大洲市では、平成30年7月豪雨で甚大な被害を受けた記憶が新しいのですが、市を流れる肱川の治水安全度を高めるべく、以前から対策が講じられてきています。その中に「二線堤」の整備があり、平成16年に完成しています。これは肱川からあふれてきた水を受け止め、経済の中心地を守るための堤防を整備する取組ですが、それには冠水する範囲に農地を有する農家の協力が不可欠です。二線堤整備の内容と、農家との連携について紹介します。

大洲市治水課課長補佐の佐野嘉浩さんにお話を伺いました。

----- この度はありがとうございます。大洲市では、二線堤という一般的には聞き慣れない堤防を整備して、水災害対策を推進していると伺いました。本川とは別にその堤防を整備するに至った背景をまず教えてください。

経済の中心地を水害から守る

大洲拠点地区である東大洲地区(下図参照)は、平成9年の用途地域指定以降、国道56号沿線を中心に大型商業施設等が立地し、多くの企業が進出し発展してきました。現在は、大洲市における経済の中心であり、多くの雇用を創出している地区でもあります。この地区が浸水すると大洲市経済は大打撃を受けてしまいます。

しかし、大洲市を縫うように走っている一級河川の肱川(ひじかわ)は、本川の堤防の治水安全度が低く、水害への不安が残ったままでした。本市の地形的な特性上、肱川は洪水が流下しにくく、治水が難しい河川であり、当地区は以前より浸水被害を繰り返しています。そのため、平成14年に、国から「東大洲地区の総合的な冠水被害軽減対策」の指定を受け、治水安全度を向上させる対策が講じられることになりました。

二線堤の整備(東大洲地区) ※赤のラインが二線堤の整備場所

二線堤と農地の写真

その対策の一つが二線提の整備でした。二線提とは、本川の堤防とは別に作られる堤防で、本川から水があふれた場合にも、大洲拠点地区に被害が及ばないようにするためのものです。
約37haある二線提遊水地は、約60万m3の水が貯留できます。本川からの越水時には約2時間の貯留を可能として、大洲拠点地区への浸水を遅らせ、浸水被害の軽減を図ります。

また、大洲拠点地区は、開発に伴い内水被害も懸念されます。そのため、内水氾濫を抑制する目的で、約23,500m3の水が貯留できる貯留施設を公園の一部として整備しています。これは、平成25年に完成しました。


----- 図を見ると、二線堤は農地を囲っています。ここに肱川の水が溢れてくると、農家は困りませんか。二線堤の整備を実現する上で、工夫されたことはありますか?

農家が不利益を被らないように

二線堤遊水地は農地で、遊水地内で農業を営む方の協力が不可欠です。野菜など農産品は、泥を被ってしまうと商品価値がなくなってしまいます。そのため、遊水地の農地に対して、洪水が暫定堤防(上図参照)を越流することで遊水地内の農地が冠水し、その結果として、大洲拠点地区内の災害軽減が図られたと認められる場合には、その補償を行うこととしています。これは、農業共済制度に加入している農家が対象となります。

併せて、農業共済制度の活用を促進するため、遊水地内農地の園芸施設に対し、災害時の農業損失の補填として共済掛金の3分の2を補助しています。園芸施設の場合は、ビニールハウスが損壊することもあるので、農業共済に入っておくことなど、事前の備えは大切です。


----- 農家はこの取組を理解して協力し、市は損失を補填する。各者が協働して水災害対策に取り組む、流域治水の一つの形ですね。

はい。農家の皆さんは、共済掛金を毎年支払う必要があるので、市への補助申請も毎年出してもらっています。それが、定期的に農家の皆さんとコミュニケーションを図るきっかけにもなっています。しかしやはり、大洲市の経済にとって、重要な場所を守っている意識を持っていただいているからこそ、協力してもらえると思っています。

水害対策には、堤防整備などの事前防災対策が重要だと考えています。そのため、河川管理者である国、県と協力して治水対策を進めています。しかしながら、近年の異常気象を考えると、流域全体として国、県、市、企業、住民などのあらゆる関係者が一体となり様々な手立てを考える必要があります。

私たちも緊張感を持って取り組んでいますが、公的な対策、いわゆる公助にも限界がありますので、各個人が防災意識を高め、命を守る行動を即座にとれるよう、日頃から心がけていただきたいと思います。

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