vol.12... 水災害対策最前線

流域治水のいま

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コミュニティでマイ・タイムライン

茨城県常総市から

常総市では、平成27年7月の豪雨で大水害が発生し、甚大な被害が生じました。逃げ遅れた人々がヘリコプターで救助されるライブ映像は、社会に衝撃を与えるとともに、水防災への意識を再構築していく必要性を痛感させることとなりました。それから常総市では、水害発生前に自分がとるべき行動を時系列順に整理しておく「マイ・タイムライン」の作成を促進し、それを今、コミュニティへと拡大して普及をはかり、地域の防災力向上を目指しています。

常総市役所市長公室防災危機管理課課長の小林弘さんにお話を伺いました。

----- この度はありがとうございます。常総市では、マイ・タイムライン作成を促進しているとのことですが、それはどういった取組でしょうか?

自助の役割から共助の役割へ

常総市では、マイ・タイムライン作成の促進に取り組んでいます。マイ・タイムラインは、災害が発生した場合や、災害が発生する前に、あらかじめ自分がとるべき行動を時系列順に整理し、自ら考え、命を守る避難行動を起こす一助になるものです。

マイ・タイムラインのイメージ

さらに、これを家族やコミュニティの中でお互いの行動計画として共有することで、自分を助ける自助だけでなく、共助の役割を果たすことも期待できます。常総市では、小中学校の防災教育のコンテンツとしてもマイ・タイムラインを活用し、地域の災害リスクや防災意識の高揚に役立てています。


----- 取り組むきっかけとなったことは何でしたか? どんな問題意識がありましたか?

自分自身の防災を

マイ・タイムラインの作成を促進する取組を始めたのは、平成27年9月に発生した関東・東北豪雨がきっかけです。この災害では市域の3分の1が浸水し、自宅などに孤立した約4,300名の方々が、ヘリコプターやボートなどで救助されました。

災害を自分ごととして考えることは、正常性バイアス(※)などの観点から、とても難しいと感じます。そうした中で市民一人ひとりが、地域の危険性、気象や川の水位に関する情報などの自分自身に合った避難に必要な情報や、「いつ、何をするのか」といった判断や行動を把握して「自分自身の防災」を考えることは、大変有意義だと思います。

平成27年関東・東北豪雨による水害の様子(多くの住民が逃げ遅れ、救助の様子がライブで報道された)


----- 緊迫した場面でも、自分は大丈夫と思ってしまったり、水災害は自分には関係ないと考えてしまうことは、往々にしてあると思います。それが個々人が水災害に備える上での障壁になるとのお話ですが、地域として、取組を進めていく上での工夫を教えてください。

コミュニティで考える

取組を進める上では3つの特徴があります。1つ目は、平成28年9月にスタートした市内小中学校一斉の防災訓練でマイ・タイムラインの活用を実施していることです。この訓練は、災害の教訓を後世に伝え、市全体の防災力の向上を図るべく、災害を知ること、地域を知ること、災害が起こりそうなときや起こったときにどうすべきか学び、自ら行動できる人材を育てることを目的にしています。

マイ・タイムラインを使った訓練の様子

2つ目が、マイ・タイムラインリーダー制度の活用です。この制度は、住民にマイ・タイムライン作成をサポートする活動ができる人をリーダーと認定し、その活動を普及していくもので、認定された方々を中心に、防災協力団体や福祉関係団体の方々を対象とする講習会を定期的に実施しています。特に常総市では「マイスター」として、市の職員と根新田町内会元区長の2名が認定を受けており、講師として活躍しています。マイスターは、10回以上マイ・タイムラインの作成を指導した人に与えられる称号です。

そして、3つ目に、これまでは個人の行動計画ツールとして作成していたマイ・タイムラインを、現在は家族やコミュニティの方々とタイムラインを一緒に考える取組を進めていることが特徴として挙げられます。これまでの災害における被害者の多くが、要配慮者の方々であることから、自助の取組から共助の取組に発展させる活用を模索しています。


----- 水害が起こる前の段階から時系列的に考え、自分の行動をいわばシミュレーションしておく。そして、それをコミュニティに広げて共有していく。そういった取組が広がっていくと、逃げ遅れたり、被害にあう人が少なくなっていくと思います。普及の観点からメッセージをお願いします。

人々と意見を交わすきっかけに

水害に備えること、自らの行動を考えるためのマイ・タイムラインの作成は、「鬼怒川・小貝川下流域大規模氾濫に関する減災対策協議会」の具体施策の一つとして全国に先駆けて開始しました。
近年は、水害の被害がより広範囲かつ大規模に発生しています。このようなことから、全国の自治体や民間団体、マスメディアから視察、研修や取材を受け入れ、この取組の重要性を発信しています。

また、コロナ禍においては、避難をより難しくとらえる向きもあり、避難の在り方についても考えなければいけません。こうした中、日ごろから自らの行動を考え、家族や知人、さらには関係する様々な人々と意見を交わすきっかけとして、マイ・タイムラインはとても役に立つと思います。

何からはじめたら良いかわからないという方は、「みんなでマイ・タイムラインプロジェクト」(国土交通省下館河川事務所HP)をご覧いただければと思います。動画なども参考にしながら、マイ・タイムラインを作成することができます。マイ・タイムラインは、身近で役立つ防災ツールです。
できることから少しずつはじめていきましょう!!

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