vol.12... 水災害対策最前線

流域治水のいま

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日頃の連携で工業団地の水害対策

福島県郡山市から

令和元年の東日本台風が引き起こした水害によって、郡山市の工業団地が大きな被害を受けたことは、メディアでも大きく報道されました。ひとたび操業拠点で事業が継続できなくなると、その施設から得られる経済的利益が失われるだけでなく、地域の雇用や、納入先で操業ができなくなるなど、さまざまな範囲にまで影響が波及していきます。過去にも大きな被害を経験している郡山市では、工業団地の企業が話し合い、地域の行政と連携して対策に取り組んでいます。

郡山中央工業団地会会長の小川則雄さんにお話を伺いました。

----- この度はお話を伺えることとなり、ありがとうございます。令和元年東日本台風による被災は、全国の企業関係者が注目したと思います。早速ですが、今、工業団地の各企業はどんな対策に取り組んでいますか?

工業団地に被害が集中

郡山中央工業団地会は、昭和45年に創立され、当時は12社で発足しました。現在は、運送業や卸業者といった大企業や地元の中小企業計144社で構成されています。

私たちの工業団地は、阿武隈川と谷田川に挟まれた場所にあり、水害の起こりやすい立地になっています。令和元年東日本台風による水害では多くの企業が被災し、私が経営する自動車学校も 10日間閉鎖となり大変な状況でした。自宅が浸水した職員もいます。自動車学校ではかなりの施設が泥水を被ってしまい、団地内の企業から高圧洗浄機を借りてきて泥を洗い流す必要があるなど、復旧がなかなか大変でした。我々は、国、県、市に支援を要請し、郡山市は、団地内にある体育館に4ヶ月に渡って出張所を設置して、被害の把握や対策にあたっていました。

令和元年東日本台風により、郡山中央工業団地が大きな被害を受け、全国の工業団地の浸水リスクに注目が集まった

小川会長が代表を務める自動車学校でも床上浸水が発生し、泥の洗浄に苦労した

103社が対策に取り組む

被害は郡山市内全体で625億6200万円になり、そのうち84.5%にあたる528億8400万円の被害がこの中央工業団地で発生しています。その後、各社が水害対策を進めました。その内容としては、敷地のかさ上げが3社、止水板の整備・建物のかさ上げが3社、エアコン室外機のかさ上げや、事業用車両の避難手法検討、安否確認システム、BCP、防災行動計画の策定など、ハード・ソフト対策を103社が取り組んでいます。

特に令和元年東日本台風の被災時は、建物の1階にあった電子機器や電源設備が浸水して使えなくなったことがあり、まずはパソコンやサーバ機器を2階に移すなどの対策をとった企業が多くあります。


----- 工業団地会はどんな役割を担っているのでしょうか?

企業の意見を取りまとめて申し入れ

この地域では、1986年(昭和61年)にも水害にあっています。その後、水害対策が工業団地における重要な課題となりましたが、企業単独で行動を起こすのは大変ですし、行政も個々の企業の要請全部に応えていくのは大変です。そのため、中央工業団地として企業の意見をとりまとめ、行政に要請を行ったり、調整をしたり、個々の企業に対策や計画の策定を呼びかけたりといった役割を担っています。

例えば、昨今のゲリラ豪雨で道路が冠水し、数社の企業の従業員が帰宅できない事態が生じたことがありました。その際、団地会で郡山市に要望したところ、80cmの雨水管を2mの大きなものへと変更することとなり、現在工事が行われています。

また、令和元年の水害は大変でしたが、この時は、従業員の車両駐車場の確保が大きな問題になりました。水害によって発生したゴミで自社の駐車場がすぐにいっぱいになってしまい、出勤してきた従業員が車を置けなくなってしまったのです。そこで、工業団地会から行政に要請し、公共施設の駐車場を一時的に使わせてもらうなど、対応策を講じてもらいました。この経験は、再び水害の被害に見舞われた際にも必ず役に立つと考えています。


----- 対策を進めていく上で重要だと考えていることは何でしょうか?

日頃からの意思疎通を!

令和元年の被災後、この工業団地からの移転を決めた企業もありましたし、高台の工業団地に移転する選択肢もあるのですが、例えば、金属メッキを行う工場では大量の水が必要で、その確保ができるこの工業団地からの移転はそう簡単ではありません。そのため、水害対策は本当に重要な課題ですが、これは企業単体ではなく地域一丸となって取り組むべきもので、水害が発生した時だけでなく、日頃から県、市と密に連絡を取り合うことが大切です。

工業団地会でも毎月、20社からなる役員で地域の問題点などを話し合う会議を開催しています。工業団地会の企業同士、隣組のような組織を作っていますが、やはり問題や課題を認識しつつ、日頃から意思疎通を図っていくことが重要だと思います。

水害対策について話し合いをしている様子(毎月の役員会)


----- 個社の対策がそれぞれあって、それから地域としての対策や取組があるわけですね。この工業団地の取組は全国の企業関係者の注目もあると思います。最後に、企業関係者など、人々への呼びかけやメッセージをお願いします。

これからを考えていきましょう

企業の取組、地域の取組があるわけですが、阿武隈川の流域で見れば、雨水を貯留する機能の増強や、河道を掘削して洪水をより多く安全に流せるようにするなど、対策が考えられているといいます。まさに「流域治水」で、流域のみんなの取組ですね。

そして、この背景には地球温暖化、気候変動があるわけですよね。ですので、それを企業も考え、対策に取り組む必要があります。私の自動車学校でも、送迎用に水素エンジン車を使うことになりましたし、水素ステーションが地域にできる話もあります。水害に備えつつ、「これから」を考えて行動していきましょう!

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