1) マネジメント

 Q7−1 計画を策定するに当たって求められる能力、留意すべきことは何か。

関係者からの多様な意見、本音を引き出すための、コーディネーターとしての能力。
より効率的に検討などを進めるための計画技術。
計画部門と事業部門に分かれている自治体では、現場の課題を計画に反映する姿勢をもつこと。

 担当者は、関係者からの多様な意見、本音を引き出すことが重要である。このため、検討の初期の段階において、コーディネーターとして議論をけん引する役割が求められる。
 また、より効率的に検討などを進めるためには、計画技術についての知見も必要となる。(Q2−4を参照)
 さらに、自治体によっては、計画部門と事業部門が分かれているケースがある。そのような場合は、計画と事業の両部門が問題意識を共有しながら計画策定を行うことが重要である。計画担当者は、現場の課題を計画に反映する姿勢をもつことが重要である。


 Q7−2 基本方針、達成目標の達成に向けた計画を作成したいが、どのようにすればいいのか。


 基本方針、達成目標を作成する際にとりまとめた現状や課題に対して、どのように改善すればよいかを考える。(V.実践例を参照)



2) 運営主体

 Q7−3 運営主体は、どのようにして決めればいいのか。


自治体、交通事業者、地域住民の関係主体間でよく調整し、合意しておくこと。


 リスク(提供される交通サービスを持続的に運営する責任)は、関係主体全てに掛かるものであるが、運営形態によって、その軽重が異なる。提供する交通サービスの検討にあたっては、リスク分担について、関係主体間でよく調整し、合意しておくことが重要である。(こちらを参照のこと)



 Q7−4 「リスクの分担」とは、どういうことか。


リスクとは、提供される交通サービスを持続的に運営する責任のこと。


 リスクとは、提供される交通サービスを持続的に運営する責任のことであり、関係主体全てに掛かるものであるが、運営形態によって、その軽重が異なる。
 えてして、リスク分担の意志や能力によって運営形態やモードの選択肢が絞られることもあり、代替案の選択にあたっては、特に留意が必要である。



 Q7−5 利用者である住民がリスクを分担している事例があると聞くが、どのようにしているのか。


自治体が一定の支援を行いながらも、地域住民が主体となって生活に密着した地域交通サービスを運営している。


 市町村の限られた財源の中で、今後の高齢化の進行による交通弱者の増加に対応するためには、すべての地域交通サービスを税金だけでまかなうことは困難であると考えられる。
 このため、生活に密着した地域交通サービスについては、自治体が一定の支援を行いながらも地域住民が主体となって構築し、支えていくことが重要である。


  地域住民が主体となって地域交通サービスを運営する仕組みを創設

・新潟市では、郊外において生活交通を維持確保するためには、地区住民の積極的・主体的な参画が必要であると考え、住民バス制度を創設した。
・制度の内容は、平日運行で1日10便(5往復)を限度に、運行経費の7割を上限に市が補助を行い、残りの3割は運賃収入等で賄うというものである。3割の部分は、運賃収入だけでなく、沿線企業からの協賛金などでも可能である。
・実際に住民バスを導入した地区では、運行経費の3割を確保するため、運賃収入のほかに、4自治会(約720世帯)で、世帯当たり年間1,000円を負担している事例もある。
・なお、3割という条件が厳しく、住民バスを導入しないところもある。平成17年4月にスタートしたが、その多くは廃止された路線を住民バスで代替する形をとるものが多い。


  地域住民が主体となり、地域企業等の協力を得ながらバスを運営

・三重県四日市市羽津いかるが地区では、路線バスが廃止されたため、住民有志が中心となり、NPO 法人生活バス四日市によるバス運営を開始した。
・バスの運行経費は1ヶ月約90万円であり、そのうち運賃収入が約10万円となっている。残りの80万円は、市からの補助が約30万円、沿線の事業者等からの協賛金が約50万円となっている。
・協賛事業者は、スーパー、病院、介護施設等となっており、地域貢献ということで協力している。




3) 運行計画

 Q7−6 サービス水準をどうすれば明確にできるのか

サービス水準をどのようにして設定するかについては、負担とサービス水準の組み合わせについてのデータを住民に提示し、それを住民が選択。

 自治体の財源には限りがあるため、あらゆる利用者のニーズを計画に反映することは困難な場合がある。自治体の負担の超えたサービスの提供は、結果的に持続可能性を危うくする。
 限られた財源の中で、サービス水準をどのようにして設定するかについては、負担とサービス水準の組み合わせについてのデータを住民に提示し、それを住民が選択することである。(参考文献:「地域社会が保障すべき生活交通のサービス水準に関する研究 平成19年度研究調査プロジェクト報告書」、(財)国際交通安全学会、平成20年3月)

  ニーズにマッチした運行により、撤退した路線バスの利用者を上回る

・三重県四日市市羽津いかるが地区では、路線バスが廃止されたため、住民有志が中心となり、NPO 法人生活バス四日市によるバス運営を開始した。
・地域主体の取組であることから、予算も限られており、バスの運行計画の検討段階では、最低限のサービス水準で、いかにして乗ってもらえるバスとするかが課題となった。
・検討段階では、譲ることができないサービス水準は何かを明らかにすることに努めている。住民の方々との討議により、土日の運行は必要性が低いこと、通勤・通学の利用よりも、買い物や通院には対応することが重要であることなどが判明した。
・また、ルートについても、ニーズがあるのに路線バスが廃止したのは、ルートに問題があった(高齢者がアクセスしにくいバス停配置であった)と考え、利用しやすいバス停の位置についてもニーズを把握した。
・これらの検討をルート設定やダイヤ作成に反映させた運行を開始したところ、利用者数は廃止した路線バスを上回っている。


  無料運行から有料運行に変更したが、住民からの苦情はほとんどなし

・大分県宇佐市では、市町村合併を契機に、旧市町で無償運行されていた通院福祉バス(利用目的は通院に限定)を見直し、新たなコミュニティバスの運行に移行した。
・運賃は合併前、無料であったものを有料(100円)としたが、運行頻度は週1便から週2便とした。最低限のサービス水準であるため、運行する曜日やダイヤは各地区の住民ニーズを踏まえて設定した。
・また、旧市町が運行していた通院福祉バスのルートはそのまま残した上で、公共交通の空白地域を解消するための新たな路線を設定した。
・また、住宅地近くでは、フリー乗降区間の設定や、地域住民の意向を踏まえ、乗りやすいところまでバスを入り込ませるなど、高齢者の使いやすさに配慮した。
・こうした取組の結果、有料化による反対はほとんどなかったほか、高齢者の外出行動の増加やコミュニティバスの車内が交流の場となるなど、住民生活に密着した交通手段となっている。



 Q7−7 交通モードの選択に当たって注意しなければならないことは何か。

「コミュニティバス」、「定時定路線運行」といった固定概念はもつべきではない。
他の交通モードも含め、ネットワーク全体として地域住民の利便性を高めること。

 交通モードは需要密度等の地域に特性に応じて考えることが重要であり、「コミュニティバスでなければならない」、「定時定路線運行でなければならない」といった固定概念はもつべきではない。
 また、一部の路線、区間だけを見て検討するのではなく、他の交通モードも含め、ネットワーク全体として地域住民の利便性が高まるよう注意しなければならない。

  バスに固執せず、複数の交通モードを組み合わせて全体を最適化

・すべてをコミュニティバスで対応するのではなく、最寄りのコミュニティバスのバス停まで、シャトル便(無料)を運行している地区もある。(大分県宇佐市)
・廃止代替バス、市営バス、巡回バス、契約バスという4つのバスがあったが、朝夕は通勤・通学の足として「定時定路線バス」を運行し、昼間は高齢者の通院や買物などの足として「デマンド交通」を運行するシステムに再編した。(長野県東御市)
・中心市街地と合併前の旧町村の中心部を多頻度で運行する幹線バスと、地域内の移動及び幹線バスへの乗継を想定して運行する支線バスを導入し、支線バスの一部はデマンドで運行している。また、支線バスは、山間部等の道路幅員が非常に狭い地域に対応するため、小さい車両を活用して集落をきめ細かく運行するなどの工夫もしている(長野県木曽町)
・行政区域すべてをコミュニティバスで網羅しようとはせず、バスの利用圏域外(バス停を中心とした500m圏域外)に対しては、バスと連携する乗合タクシーを運行している。(愛知県三好町)
・地域交通を維持する方法としては、必ずしも大型バスにこだわらず、ジャンボタクシーなど別の交通モードを導入することも考えられる。バスは、広い道路しか通行できず、スピードも遅いので運行回数を上げようとすると無理が出る。ジャンボタクシーであれば、そのような課題がクリアできる。(樺国バス (広島県))



  デマンド交通を導入する場合は、定時定路線のバスと競合しないように注意

・石川県宝達志水町では、コミュニティバス導入後に、デマンド(乗合)タクシーを導入したところ、コミュニティバスの利用者数が減少となっており、コミュニティバスとデマンド(乗合)タクシーの競合が発生したことが原因と考えられている。



@ルート

 Q7−8 運行ルートの設定に当たって注意しなければならないことは何か。

住民の移動ニーズ、移動実態に合致しているか。
ルートが冗長・複雑で非効率になっていないか。
定時性の確保ができるルートになっているか。
既存の交通事業者のルートと競合していないか。

■利用者の目的(ニーズ)に合っているか

 単に公共施設を結べばよいというものではない。公共施設を地域住民が本当に利用したがっているのか検証が必要である。
 ルートの調整に関して、基本的には、自治体で方針を描いた段階で、関係者の集まりに入っていき、その中で調整することが有効である。
 ルートの設定あたり、住民の意見を反映することは重要であるが、白紙の状態で意見を聞くのではなく、住民にルートが設定できる条件を提示した上で議論してもらうことが重要である。


  みんなが行きたい大規模商業施設を組み込んだ路線は利用者も増える

・イトーヨーカドーの他に、住宅地・学校・区画整理以前からのショッピングセンター(サンロード・サンワドー)等、多様なスポットを経由していることが利用好調の要因。(青森市)
・利用が好調な要因の一つには、バスが大規模SCに乗り入れていることがある。誘致の当初からバスの乗り入れを協議し、店舗計画・設計にバス停の設置などを反映させた。(愛知県三好町)



  あれも、これもではなく、バスを必要としている人にとって不可欠なルートを設定

・各集落の子供たちが小学校・中学校・高等学校に通える路線であることを基本とし、そこに観光スポットやホテル等の集客施設を経由させ、観光客も利用できるように工夫。(福島県北塩原村)
・バスに対する潜在需要があるにもかかわらず、廃止したバス路線に住民が乗らなかったのは、そもそも高齢者等にとって使いづらい路線だったと考えた。このため、運行ルートは、地域住民によるワークショップ型で検討した。従来の路線バスは幹線道路を走っていたが、そこまで高齢者が歩いて行くのは困難なため、生活道路を通るようなルートに変更した。(NPO法人生活バス四日市(三重県))





■ルートが冗長・複雑になっていないか

 目標地点を最短で結ぶことが重要である。短いルートを高頻度で運行することが乗客にとって利便性が高く採算性も高い。
 なお、高齢者等は時間に余裕があることから、入り組んだルートでも、乗りやすいところまでバスが出向く路線の方が好まれる場合もあり、あくまでも利用者のニーズを優先することが重要である。
 また、利用者のニーズを優先するといっても、ある程度の意見の集約は必要である。すべてのニーズに応えようとしたあまり、かえって誰にとっても便利ではないルートになることもある。


  住民のニーズに応えようとしたあまりルートの利便性が低下

・郊外の路線バス空白地域と中心市街地、病院等を結ぶコミュニティバス路線を開設したが、多くの要望に応えるために路線が複雑化してしまった。(長野県岡谷市)
・従来の路線バスでは、乗り入れが困難であった地域や病院等の市民利用施設を結ぶコミュニティバス路線を開設したが、ニーズを集約することが難しく、住民のニーズを聞きすぎて、かえって不便な路線になってしまった。(大阪市)



■定時性を確保できるか

 都市部の場合は、渋滞しているポイントをどのように外すか、自動車があまり走らないところにいかにバスを通すかを考慮することが重要である。


  バスルートは混雑道路を避けることが重要

・バス路線の再編にあたり、運行ルートは、渋滞ポイントは避けるようにし、自動車があまり走っておらず、人がなるべく多く歩いている区間を選定した。バスが通行するのに最も良い道路は、車道7m(2車線)に両脇3m程の歩道がある道路で、自動車があまり通っていない道路である。(埼玉県三郷市)
・100円循環バスを導入したが、混雑する中心部を走行するため、定時性の確保が難しい。(京都市)



■既存の交通事業者との役割分担
 交通事業者との連携・協力関係の観点からは、既存の路線バス等とルートがかぶらないような配慮が重要である。役割分担、相乗効果が発揮できるルート設定が重要である。

■道路交通に支障はないか
 ルートの設定は、道路の状況(幅員等)や交通規制の状況など道路交通に支障を及ぼさないよう設定することも重要である。道路の通行に問題がないかどうかは、警察との協議も必要である。

■採算性のみを考慮したルート設定は注意
 市町村合併等を契機に路線を再編する場合、サービス水準の低下は避けるべきである。収支のみを重視した縮小均衡型の路線再編は失敗する可能性がある。


  バス路線の再編は、従前のサービス水準は損なわないことが基本

・バス路線の再編にあたっては、既に利用している住民の方々の利便性を損なわないよう、基本的に従来の路線は存続させた上で、公共交通の空白地域を解消するために必要な路線を新設。(富山県南砺市)
・旧1市2町が運行していたバスのルートはそのまま残すこととし、従来の路線に加えて、公共交通の空白地域を解消するために2路線を追加した。路線バスから1km以上離れた地域(行政区)を公共交通の空白地域が解消できるようルートを決定した。住民の意向を踏まえて、地元に入って調整した上でルートも試験運行と本格運行とでは、かなり変えている。より、乗りやすいところまでバスを入り込ませたりしている。(大分県宇佐市)




Aアクセス・イグレス

 Q7−9 利用者にとってのモビリティ向上に配慮した仕組みには、どのようなものがあるか。

徒歩圏を考慮した高密度なバス停配置。
目的地(施設)への直接乗り入れ。
スムーズに乗換えができるよう施設を改善。
パーク&ライド、サイクル&(バス)ライド。

■バス停配置
 バス停配置は、徒歩圏を考慮した高密度な配置が有効である。また、自動車の交通量が少ない区間では、フリー乗降制の導入も有効である。
 なお、バス停の配置密度が高密になるほど、運行速度は低下することから、表面的に先進事例を模倣するのではなく、利用者のニーズ(時間に余裕のある高齢者等の利用が多い路線なのか、速達性を重視する通勤者等の利用が多い路線なのか)を踏まえて検討することが重要である。


  徒歩圏に配慮したバス停配置が重要

・住宅・商店密集地域が200m、それ以外の地域が概ね300m間隔。(茨城県土浦市)
・市街地が200m、市街地以外が400m間隔。(茨城県龍ヶ崎市)
・高齢者でも歩いて次のバス停へいけるよう、200mを目安に設定。(東京都台東区)
・自動車の交通量が少ない一部の区間において、フリー乗降を可能とした。(長野県木曽町)
・バス停は徒歩3〜5分を基本に概ね300〜500mの配置間隔としている。当初は300mを基本とする検討も行ったが、バス停配置が高密になるほど、運行速度が下がるというデメリットがある。三好町は地形が比較的平坦であるということもあり、最終的には300〜500mの配置間隔となった。(愛知県三好町)
・住宅地近くでは、フリー乗降区間を設定し、高齢者等の利便性確保を図っている。(大分県宇佐市)



■鉄道の新駅設置
 人口や都市機能の立地からみて、一定の需要があるにも関わらず、鉄道駅がない場合は、新駅の設置を検討することが有効である。


  新駅の設置で鉄道の利用を促進

・富山ライトレールの整備にあたっては、利用圏の拡大を図るため、徒歩圏を考慮し、概ね600m間隔で駅を配置することとした。このため、空白となる地域には新駅を設置した。(富山市)
・JR高山本線の増発社会実験では、利便性の向上に向けた増発以外の取組として、工業団地や住宅団地が整備されている地区に新駅を設置した。通常、新駅設置には、鉄道事業者との調整等ハードルが高く、時間もかかるが、社会実験駅(臨時駅)として市が整備費を負担することで早期に実現できた。(富山市)
・山形鉄道フラワー長井線では、観光地「あやめ公園」や工業高校に近くに新駅を設置した。設置にあたり、ホームなどの整備費用を市民の寄付金で賄ったほか、駅舎は工業高校の生徒による手作りで、材料はPTA が負担するなど、住民参加による駅づくりを行った。(山形県長井市)



■目的地(施設)への直接乗り入れ
 車の魅力はドア・トゥ・ドアである。一方、公共交通の弱点は、公共交通を降りたところからの「足」の確保である。多くの人が利用する施設には、直接、玄関口まで乗り入れることが有効である。


  降りてから歩かせるのではなく、施設の玄関口まで乗り入れる

・イトーヨーカドーにおいては、店舗の目の前にバス停を設置しており、アクセスしやすくしている。(青森市)
・利用者の利便性を考慮し、弊社からお願いしてショッピングセンターの玄関口までバスが走行するようにした。(秋北バス(秋田県))
・ショッピングセンターにバスロータリーを設置することについては、周辺道路の交通渋滞の発生が予想されることから、ショッピングセンターにバスが必要であると考え、交通対策課から開発事業者と市の開発担当に申し入れを行った。(埼玉県三郷市)
・バスはモールの正面玄関に直接乗り入れる構造となっている。これは、買い物袋を抱えて、離れたバス停まで歩くのは高齢者等には大変だからである。(愛知県三好町)



■乗継の改善
 バスと鉄道のシームレスな乗り継ぎは、ドア・トゥ・ドアの自動車に対抗する上でも重要な要素であり、交通結節点である中心駅から乗車できるようにしている事例や、鉄道駅や電停にアクセスするフィーダーバスの運行を行っている事例がある。また、電停と同一ホームにバスが乗り入れるなど、交通モード間のバリアフリーな乗り継ぎに配慮した施設計画をしている事例もある。


  バスと電車の一体ホームにより乗り継ぎを円滑化

・富山市では富山ライトレールの整備にあたり、乗り換えの利便性への配慮から、富山ライトレールとフィーダーバスが一体ホームで乗り継ぎできるようにしている。




■パーク&ライド
 乗継ぎの利便性を高める方法としてパーク&ライドがある。車社会の中で公共交通の利用促進を図る上では自動車との共存は有効な視点である。都市部など道路渋滞が顕著な地域では、鉄軌道のメリットが高まるためパーク&ライドが有効に働く傾向がある。

  自動車と公共交通を共存させる取組が有効

・郊外の鉄道駅へのアクセス性を高めるため、パーク&ライドや乗合タクシーの運行を行った結果、パーク&ライドが最も効果があることがわかった。(富山市)
・再生を引き受けた北勢線の駅の立地環境は、道路が狭く、駐車場を確保できる余地がほとんどなかった。利用者の方々が行きやすい場所に駅を移動させるため、駅の統廃合は必要であった。駅の統廃合の結果、パーク&ライド用の駐車場が確保でき、駐車台数は平成15年で0台であったのが、平成20年には418台となった。(三岐鉄道(三重県))
・鉄道沿線が丘陵地、山間地であり、バスの本数も少ないため、自動車で駅にアクセスするニーズが高いと考え、3ヶ月以上の定期券購入者に対し、パーク&ライド駐車場を提供。(神戸電鉄(兵庫県))



■サイクルパーク&(バス)ライド
 バス停の利用圏は一般に、徒歩で5分程度、200〜300m圏域と言われているが、自転車でアクセスできるサイクルパーク&(バス)ライド用の駐輪場を設置することで、利用圏域を広げることができる。
なお、サイクルパーク&(バス)ライドは、バス停が高密度な配置されている場合、期待するほどの効果が出ない恐れがあることに注意する必要がある。



Bダイヤ

 Q7−10 ダイヤの設定にあたって注意すべきものは何か。

利用者の目的(移動ニーズ)にあった時間になっているか。
時刻表を毎回見なくても記憶できるほどのわかりやすさに配慮することも有効。
他の交通機関相互の連絡・乗継のための待ち時間が適切になるよう、利用者の利便性に配慮されているか。

■利用者の目的(移動ニーズ)にあった時間帯になっているか
 ニーズへの柔軟な対応と、わかりやすいダイヤ設定は、トレードオフの関係になることもある。ダイヤは地域交通サービスのコンテンツとして根幹的なものであり、地域住民が納得できるものとすることが重要である。


  ターゲットに応じて、ダイヤ設定を工夫

・夏と冬で学校の時間割が違うので、それに合わせてバスダイヤを変更している。(福島県北塩原村)
・富山ライトレールは、通勤・通学時は10分に1本、日中は15分に1本、夜は30分に1本とした高頻度運行を行っている。15分に1本は、時刻表を見なくても気軽に利用できる運行間隔という考えからである。(富山市)
・バスのダイヤは、高齢者、通学者等の交通弱者がターゲットであることから、朝夕の通学・帰宅、病院への通院・見舞等に利用しやすい設定に努めた。(富山県南砺市)
・幹線バスについては、ダイヤを基本的に1時間ヘッド(間隔)とした。長野県木曽町では、JR中央線という幹線鉄道が存在するため、コミバスを二次的な交通と位置づけており、中央線やバスの他路線との接続を考慮し、かつ、学校や病院への利用時間に合わせるよう、ダイヤを設定している。(長野県木曽町)
・財源が限られているため、最低限のサービスではあるが、午前中の通院や昼間の買い物など高齢者の生活に合わせたダイヤとした。また、終点のスーパーでは、高齢者が買い物を済ませたあと、バスで帰宅できるよう、スーパーで40分待機した後、発車するダイヤとなっている。(NPO法人生活バス四日市(三重県))



■わかりやすさに配慮されているか
 時刻表がなくても利用しやすいよう、パターンダイヤ(毎時10分など)を設定するなどの工夫も見られる。


■他の交通機関との円滑な連絡・乗継が図られているか
 ドア・トゥ・ドアではない公共交通は、乗り継ぎが必要になる場合がある。利用者の視点からは、出発地から目的地までの移動を、全体として円滑にすることが重要である。
 このため、異なる交通モード間でダイヤの調整(例えば鉄道とバスとで待ち時間の少なくなるようなダイヤ調整をするなど)を行うことが重要である。
 また、時間的な連続性の確保だけでなく、バリアフリーなど物理的な連続性も確保することが重要である。(「乗継の改善」も参照のこと)

■わかりやすさに配慮されているか
 時刻表がなくても利用しやすいよう、パターンダイヤ(毎時10分など)を設定するなどの工夫も見られる。


■他の交通機関との円滑な連絡・乗継が図られているか
 ドア・トゥ・ドアではない公共交通は、乗り継ぎが必要になる場合がある。利用者の視点からは、出発地から目的地までの移動を、全体として円滑にすることが重要である。
 このため、異なる交通モード間でダイヤの調整(例えば鉄道とバスとで待ち時間の少なくなるようなダイヤ調整をするなど)を行うことが重要である。
 また、時間的な連続性の確保だけでなく、バリアフリーなど物理的な連続性も確保することが重要である。(「乗継の改善」も参照のこと)



  公共交通は利用者が降りたあとの行動も考えることが重要

・バスの利用者は、バスを降りたら移動が終わるのではなく、そのあとの移動がある。大手のバス事業者が撤退した路線を引き継いだが、バスと鉄道の乗り継ぎ(待ち時間)を改善したことで、利用者が増えてきている。(イーグルバス(埼玉県))
・鉄道との連絡強化を図るため、鉄道との接続を考慮したダイヤ改正を行った。(京都府京丹後市)



 Q7−11 利便性と経費の抑制と、どちらを優先すべきか。

どちらを優先すべきかという議論ではなく、地域住民の合意のもとで利便性と負担のバランスをどのレベルで選択するのかという議論とすべき。

 乗ってもらうためには利便性が重要であり、地域交通サービスを持続可能なものとするためには経費も重要である。非効率な運行は改善する必要があるが、サービス水準を落とすような経費の抑制は結局のところ、利用者の減少につながる悪循環を引き起こす可能性がある。
 利便性と経費の抑制と、どちらを優先すべきかという議論ではなく、地域住民の合意のもとで利便性と負担のバランスをどのレベルで選択するのかという議論である。このためには、自治体は地域交通サービスにどこまで支出できるか、また、地域住民はどこまで負担意思があるのかについて、必要な調査を実施するとともに合意形成を図ることが重要である。



Cサービス

 Q7−12 輸送サービスを提供すれば、それで十分ではないのか。

顧客とのコミュニケーションも大切にしていくことが、リピーターをつくるポイント。


 利用者と常に接する運転手の対応は、公共交通利用促進の要となる。運転手も、安全運転を第一にしつつ、顧客とのコミュニケーションも大切にしていくことが、リピーターをつくるポイントとなる。
 また、観光との連携を図る場合においては、公共交通じたいを観光商品化し、「もてなし」のサービスを提供することが重要である。特に都市間を連絡する幹線である鉄道は、地域の観光振興を図る上で重要な資源であり、観光と連携した取組が効果的である。
 さらに、車両の冷房化など乗り心地を快適なものとすることも重要である。


  おもてなしに力を入れて地方鉄道を活性化

・北近畿タンゴ鉄道(京都府)では、「おもてなし」に力を入れている。例えば、宮津線は平成19年から女性のトレインアテンダントを導入し(現在3名)、観光案内サービスを行っている。
・その他、ペインティング列車の運行や花による駅舎の季節演出、駅ホームでの足湯の整備なども行っている。また、沿線の説明のためにゆっくり走ったり、停車したりすることもある。



D 車両

 Q7−13 車両のデザインは何故必要か。

乗ってもらうためにはまず知ってもらうことが必要であり、そのための有効な手だてとなる。
デザインは、住民が注目したり、身近に感じたりする方法の一つ。
鉄道の場合は、観光やイベント時にキャラクター列車などを運行する事例もある。


 バスの場合、車両のデザインは、住民がバスに注目したり、身近に感じたりする方法の一つになる。子供が乗ってみたいと思うような、カラーリング等を工夫したデザインとした事例や、人目を引くように、レトロ調の車両を導入した事例がある。
 また、鉄道の場合は、観光やイベント時にキャラクター列車などを運行する事例がある。公共交通の再生に取り組んでいる交通事業者の経験によると、鉄道はバス(観光・高速バスは除く)に比べて、車両を新しくした場合に利用者の増加につながりやすいという指摘がある。


  地域の協力により車両を魅力化

・和歌山電鉄貴志川線(和歌山県)では、「いちご電車」や「おもちゃ電車」などのユニークで車両を導入している。
・「いちご電車」は、車両にいちごのデザインを施しているほか、「イチゴ狩り協会」とタイアップして、車内にいちごのプランターを設置したイベントなども行っている。また、車両の改良費用は、市民からの寄付金を募っている。
・「おもちゃ電車」は、地元のおもちゃ会社と協力して導入した。車内には、おもちゃ展示用のショウウインドなどが設置されている。車両の改良費用は、企業の広告料で賄っている。



 Q7−14 その他、車両を選ぶ条件として、どのようなものがあるか。

道路の幅員や沿道環境、地形(起伏)等を考慮して車両を選定。


 小型車両を導入した理由としては、狭い道路でも対応できること、住宅地内を運行しても住民に圧迫感を与えないこと、中山間地域等では地形に起伏があったり、道路が狭小であることから大型バスが入れない集落が多いことなどが挙げられている。



E 運賃の設定・改善

 Q7−15 運賃の設定のために、どのような検討が必要か。

サービス水準を提示した上で地域住民の支払い意思額を把握。
受益者負担(運賃)の範囲、税金で賄う範囲をどのようにするのかの検討。


 運賃は収入に直結するため、計画を作成する上で重要なポイントの一つである。運賃はサービスに対する対価であって、運賃そのものがサービスではない。提供しようとする交通サービスの水準との対応で運賃の水準を考えることが重要である。このため、計画段階や実証実験段階のアンケート等に基づき、慎重に判断することが重要である。
 また、運賃ですべての運行経費を賄うことは困難であるため(賄うことができれば民間事業として成立する)、ある程度、税金を投入するという議論も出てくる。このため、受益者負担(運賃)の範囲、税金で賄う範囲をどのようにするのかの検討も必要である。


  運賃は、住民の支払い意思を踏まえて設定することが重要

・バスの運賃は、運行経費や市の補助額などを勘案し、自治体と協議会で計算して設定。(新潟市、茅野山・早通生活交通協議会(新潟市))
・アンケートを実施したところバスの運賃は、短距離で200円、長距離で300〜500円ぐらいが目安であるとの結果。その範囲を超えない運賃を設定することとなった。(長野県木曽町)
・「上限200円バス」の200円という料金は、市民へのアンケート調査に基づくものである。アンケートにあたっては、ニーズの精度を高めるため、バスを利用すると考えられる高校生や高齢者に対象を絞った。また、設問の際には、安易に低料金が回答されないよう、市の財政状況を詳しく説明した上で、料金水準を選択していただいた。さらに、運賃のケースごとに、従前の財政負担を維持するための必要な利用者数をシミュレーションし、「上限200円バス」を導入した際の利用者数の目標値も設定した。(京都府京丹後市)
・片道延長が30km以上の路線も多く、高校3年間の定期券代が100万を超え、家計にとって大きな負担となり、マイカーで送迎する家庭が増え、バス離れの要因にもなっている。(兵庫県養父市)




 Q7−16 運賃の設定方法には、どのような種類があるか。

利用者需要の向上や導入された目的により、均一制・区間制・ゾーン制などの運賃形態もある。


 バスの運賃は距離に比例する「距離制」で、乗車距離に応じて運賃がわかりやすいということから基本とされているが、地域や路線の状況、利用者需要の向上や導入された目的により、均一制・区間制・ゾーン制などの運賃形態もある。なお、路線バスの場合、均一料金の導入には、国土交通大臣若しくは地方運輸支局長の認可が必要である。
 また、多様な割引制度を発案し好評を得ている事例がある。


  ゾーン制運賃の導入

・京都府綾部市では、交通事業者の破綻後に市独自のバス運行を導入することとしたが、その際、運賃はゾーン制を導入した。ゾーンの設定は、昭和27年の合併時の旧村単位を基本に、大まかなゾーンのイメージを設定した。
・市街地は200円均一としたほか、これまで最高1,250円の区間を500円にするなど、利用しやすい運賃に改めた。
・運賃に対しては、ある程度の受益者負担を考慮しつつも、空で走るくらいなら乗ってもらった方が良いという考えで、概ね値下げになるように設定している。


  多様な割引制度の工夫により埋もれていた需要を喚起

・バス事業者と鉄道事業者が連携した乗継乗車券を導入した。(岩手県滝沢村)
・料金施策としては、回数券の購入に対する補助を行っている。JR高山本線を一度利用してもらうことが目的であり、代金の約25%を助成している。(富山市)
・年間定期(100日分の料金で365日利用)が大ヒット商品となっている。(万葉線(富山県))
・需要喚起を図るため、割引率の高い回数券や定期券を導入した。平成17年以降の企画乗車券は11種類にも及び、なかでも平成19年10月販売を開始した「無記名全線パス」が好評である。(北近畿タンゴ鉄道(京都府))
・市内のバスにおいて、土日祝日のファミリー割引制度を導入した。ファミリー割引制度は大人(中学生以上)1人に対し、子供(小学生以下)3人までのバス運賃が無料となるものである。事前調査では、子供はほとんど乗っていないことがわかっていたので、無料による損失はないと考えた。これは利用者増につながった。子供の乗車機会は1.7倍に増えた。子供のときにバスに乗る経験がなければ大人になっても乗らないと思う。試験的に導入し、効果が確認された後に本格実施した。(大分市)




 Q7−17 既存の交通機関の運賃との調整は必要か。

自治体が関与する地域交通サービスと交通事業者が運営する地域交通サービスが、それぞれ役割分担し、ネットワーク全体として持続的に機能するためにも、既存の交通機関の運賃との調整は必要。


 自治体、交通事業者といった複数の交通サービスを提供する主体が存在する場合は、それぞれが役割分担をして、全体として利便性の高いネットワークを構築することが重要である。
 交通事業者との連携・協力関係の観点からは、自治体が関与する地域交通サービスの実施が、交通事業者の経営にマイナスの影響を与えないような工夫が重要である。


  コミュニティバスと路線バスの運賃の水準を平準化

・コミュニティバスの運賃を100円としたことから、一般の路線バス(運賃は対距離制で最大480円)との格差が大きいことから、一般の路線バスについても、市が欠損を一部負担する形で、日中(8:00〜17:00)の料金を最大200円とする上限運賃制を導入。運賃設定の根拠は、コミュニティバスの運賃が1乗車につき100円で、1回の乗り継ぎ(計200円)で龍ヶ崎市内の主要な交通結節施設へ行くことができることから、コミュニティバスと路線バスのどちらを利用しても、概ねの市内移動が200円で可能となるとの考えによる。(茨城県龍ヶ崎市)
・市町村合併後に旧市町村単位で運行していたコミュニティバスの運賃の統一や、路線バスの市内中心部での集中を解消するための再編を行った。この際、中高生に対しては、コミュニティバス、路線バス、鉄道も含め、定期代の補助を実施している。また、鉄道以外の交通事業者を対象に高齢者割引、障害者割引も実施している。(松江市)




 Q7−18 交通事業者が運賃の改善に協力してくれない。

利用が見込めない場合には運賃を元に戻すことを協定等で明確にする。


 利用が一定のライン以上を維持されれば運行を継続するが、利用が見込めない場合には中止する(トリガー方式)といった条件の下、一定期間の中で試験運行するのも有効な手法である。

  値下げ後に利用者が増えない場合、元に戻しても構わないことを協定で締結

・金沢市は、交通事業者が運賃値下げのリスクを懸念していたため、運賃の値下げ後に利用者が増えない場合は、交通事業者が運賃を元に戻しても構わないことを協定として締結する方法を考えた。
・交通事業者は、一度、運賃を下げた後に、運賃を元に戻すと利用者から苦情がくるのではないかと考えていたが、その不安が協定を締結することにより払拭されたため、運賃の半額値下げに踏み切った。結果的には、利用者が2倍以上になる効果が出ている。



 Q7−19 運賃の設定に当たって、留意すべきことは何か。

自治体の負担、利用者の負担が妥当と考えられる範囲で設定。
運賃を上げる場合には、サービス水準を上げるなど、全体として利用者のメリット、デメリットが相殺される工夫も重要。


 運賃は、自治体の負担、利用者の負担が妥当と考えられる範囲で設定することが重要である。一度料金を決めると、なかなか値上げがしにくくなる。
 運賃を上げる場合には、サービス水準を上げるなど、全体として利用者のメリット、デメリットが相殺される工夫も重要である。

  近隣の自治体にならって運賃の値上げをしたところ利用者減に

・長野県伊那市では、近隣自治体のコミュニティバスの事例などから、サービス水準を変えずに、運賃の値上げを行ったところ、利用者が減少してしまった。




4) 利用促進策の作成

 Q7−20 情報提供は、何故必要か。

公共交通を使っていない人にとっては、サービスの内容すらわからない。
サービスを改善しても、周知されなければ、利用してもらえない。


 公共交通を使っていない人にとっては、自分の目的地に行くために利用できるバスがあるのかどうか、どこで乗ったらいいのか、どのバスに乗ったらいいのか、運賃はいくらくらいかかるのか、帰りの便はあるのか等、基礎的な情報すら知られていないのが現実である。
 普段からバスに乗り慣れていない人には、バス停名を聞いても、それがどこなのか、目的地に近いのかどうかもわからないことに留意することが重要である。
 また、ダイヤ等を改善したとしても、そのことが地域住民に周知されなければ、利用促進にはつながらないため、広く情報発信することが重要である。
 本調査で実施したアンケート結果からは、情報案内や利用働きかけを実施することにより、当初の期待を上回る効果をあげる傾向がある。




  ニーズも踏まえサービスの改善を図ったが周知不足で効果がいまひとつ

・福井県永平寺町では、アンケート調査の結果を踏まえ、コミュニティバスのルートを一部再編して鉄道駅への接続の向上を図ったが、地域住民への周知不足から利用者が増えなかった。




 Q7−21 情報提供する内容や方法には、どのようなものがあるか。

時刻表、バスマップ等路線図、ホームページや携帯サイトによる運行情報提供。
ポスター・チラシ、広報誌、マスコミ等によるサービス改善の情報提供。


■時刻表
 時刻表は、バス利用の最も重要な情報の一つである。また、同一の路線に、複数のバス事業者の路線バスがある場合、事業者ごとにバス停とバス時刻表があるのが一般的である。しかし、利用者から見れば不便であり、時刻表は一つにまとめる方が使いやすい。同じように、路線図やバス停を一つにまとめると、利用者にとってはより使いやすくなる。


■バスマップ
 バス路線とバス停、さらに運賃やお得なサービスなどの情報を分かりやすく示した「バスマップ」が有効である。
 また、バスマップは、地図として位置関係がわかることが重要であり、デフォルメしたマップや地形、街区等が掲載されていないものは使いにくい。


■ホームページや携帯サイト
 インターネット、携帯電話は情報の媒体として普及しており、運行に関する情報提供を行う媒体として活用することが有効である。

■運行状況
 バスは道路事情により、どうしても時間通りに来ない場合もある。バス停での待ち時間に起因するストレスを緩和する上では、インターネットや携帯電話などにより、バスの運行状況(位置情報)を提供することが有効である。

■ポスター・チラシ、広報誌、マスコミ等による利用喚起
 ダイヤのサービス改善やバスを利用することのメリット等の情報は、広く地域住民に発信することが重要であり、ポスター・チラシ、広報誌、マスコミの活用など多様な媒体を活用することが重要である。


  分かりやすい、使いやすい鉄道・バス時刻表を自治体が自ら作成

・京都府京丹後市では、これまでの路線バス時刻表は、すべてのバス停が掲載されていないことから、「バスに乗っていただく」という視点が欠けていると考えた。
・そこで、すべてのバス停が網羅された時刻表を作成し、全戸配布した。時刻表は年に2回の頻度で更新、発行している。
・当初、財政部署は、「時刻表の発行は、自治体の仕事なのか」と難色を示したが、時刻表は市民にバスを知ってもらうための施策であり、使いやすい時刻表を作成しないのは、「釣りをするのに餌がないのと同じだ」と説得した。
・時刻表の更新は、自治体職員が自ら原稿を作成し、印刷のみを委託している。[こちらを参照]




  バスマップは地形地物がわかる地図をベースに作成することが重要

・埼玉県三郷市では、バス路線網の再編と合わせて、路線図や主なバス停の時刻表、運賃が掲載された「バスガイドブック」を作成し、全戸配布した。
・「バスガイドブック」には、市内を走るバス事業者すべての情報を掲載している。
・抽象的・模式的なバスマップ(路線図)では、どこのバス停が最も近いなどがわからず、利用者にとって使いにくいとの考えから、地形地物がわかる地図をベースにマップを作成している。今後は、更新作業の効率化(印刷費用の縮減)を図るため、Web上での配信も検討している。




  広報誌でバスを利用する生活シーンを情報発信

・京都府京丹後市では、バスを知ってもらうことが重要であると考え、折込チラシや毎月の広報誌で継続的に宣伝を行った。
・特に「生活の中でどのようにバスを利用するのか」を具体的にイメージさせることが重要であると考え、子供たちがバスに乗っている写真や、老人会がバスを利用している写真などを掲載した。




  マスコミを積極的に活用して情報発信

・利用促進策は告知が重要であるため、プレリリースや記者会見は積極的に行った。また、ファミリー割引の認知媒体を調べてみると、1位がバス車内、2位が新聞、3位が口コミであり、口コミまで普及すれば一気に広まる。(大分市)。
・鉄道とバスの異業者連携による割引切符(すごe-きっぷ)の発売にあたっては、盛岡市長、滝沢村長、交通事業者による共同記者会見を開催した。(岩手県滝沢村)
・マスコミへのプレリリースは、積極的に行っており、マスコミに取り上げられやすいように意識した資料作成を行っている。(高松琴平電気鉄道(香川県))



  地域住民や民間主体で情報発信

・神戸市の「住吉台くるくるバス」は、民間事業者と地域住民が主体となって運行するコミュニティバス(神戸市からの補助はない)であり、「住吉台くるくるバスを守る会」が「くるくるバス通信」を発行して住民への利用促進を呼びかけている(神戸市)。
・青森県八戸市の南部バス鰍ヘ、郊外の住宅団地とショッピングセンターを結ぶ路線を開設した。バス事業者は、専用チラシを作成し、沿線全世帯へポスティングするなど、積極的に利用促進を働きかけている。(南部バス梶j




 Q7−22 利用者にとって「分かり易い情報」、利用者に「利用してもらうための情報」とは、どのようなものか。

系統のネーミングや番号統一化、バス停名の工夫など。


■系統のネーミングや番号統一化
 複数のバス事業者が運行している場合、事業者の系統番号を統一化することで、あまりバスに乗り慣れていない人も、目的地までのバスを簡単に探せるように工夫することができる。


  バスに乗り慣れていない人でも、バスの行き先がすぐにわかるよう系統番号を統一

・大分市では、バスに乗り慣れていない人でも、バスの行き先がすぐにわかるよう、市内の主要なバス事業者2社の系統番号を統一化した。
・統一化にあたっては、A、B、Cなどアルファベッドを用い、大分駅を中心に方面別に記号を割り振っている。また、「I」は数字の「1」と間違えやすいため、使わないなどの配慮をしている。
・LED車両が普及していたことから、系統番号の統一化に要するバス事業者の負担は少なかった。一部、LEDが普及していない区間では、全部表示を書きえると経費的な負担が大きいので、従来の表示は残しておいて、別途「A」などを表示する看板を掲げる方法とした。




■バス停名の工夫
 バス停名を聞けば誰にでもその位置がわかるような「バス停名の工夫」も重要である。地域の人にしかわからないようなバス停名ではなく、誰もがわかる施設名などを使ったバス停名とすることが望ましい。


 Q7−23 情報提供する内容や方法を検討するに当たって、留意すべきことは何か。

情報を更新する仕組みを整えること。


 情報は更新することが重要である。このため、情報提供の仕組みを検討する際には、あわせて更新を含む運営コストをどのように調達するのかも検討しておくことが重要である。


 Q7−24 モビリティマネジメントは有効か。

一定レベル以上のサービス水準が確保されていれば有効。


 モビリティマネジメントは、ある程度のサービス水準をもつ路線でないと効果がないという指摘がある(イメージとしては、20万人以上の都市との意見もある)。一定のサービス水準があってはじめて、情報提供や各種の利用に向けた働きかけも有効になると考えられる。



5) 調整

 Q7−25 計画の策定のために、調整すべきことは何か。

施策や事業の選択では、関係者の合意形成を図りながら選択すること。
財源の制約も考慮して、持続可能な施策や事業を選択すること。


 施策や事業の実施にあたっては、交通担当部署以外の関連部署(例えば道路管理者)や交通事業者、許認可権者等の多様な主体が関わることから、施策や事業の選択では、関係者の合意形成を図りながら選択することが重要である。
 また、財源の制約も考慮して、持続可能な施策や事業を選択することも重要である。国の支援制度を活用する場合でも、支援期間が終了したあとの継続性を確保することが重要である。また、財政部署との協議・調整も必要である。



 Q7−26 調整にあたって、留意すべきことは何か。

調整が必要な主体とは、当初から情報、課題意識を共有すること。


 調整を円滑に進めていくためにも、調整が必要な主体とは、当初から情報、課題意識を共有することが重要である。そのためにも、検討体制・組織に参加してもらうことが重要である。



6) 他施策、他事業との連携


 Q7−27 他施策、他事業には、どのようなものがあるか。

商店街活性化との連携、観光振興との連携、学校教育との連携など。


■商店街活性化との連携
 公共交通を利用することのメリットの付け方として利用頻度に応じてポイントが貯まり、それを商品券などに交換できるといった取組や、中心商店街などで買い物をした場合にバス利用に使えるポイントが貯まるなどの工夫が考えられる。また、イベントを行う際にバスを利用すると、特典を付けるなどの工夫も考えられる。


  商業振興と地域交通サービスの連携

・商店街活性化を目的に、中心市街地を循環するバスを導入した。中心市街地へのアクセス手段としてだけでなく、何らかの形で商店街の活性化と絡めた事業が模索され、その結果、地域通貨を導入した。地域通貨の仕組みは、協賛店で1,000 円以上の買物をすると、当日乗車証明券と引き換えに100 円分の地域通貨がもらえ、乗車1回分の通貨として使えるというものである。地域通貨の導入効果としては、年間で約2万枚の利用があることから、1人当たり2千円の買物をした場合、4千万円の消費に結びついていると推計されている。(茨城県土浦市)
・ICカードでの運賃支払いは、約7割であり、現在、富山ライトレールのほか、フィーダーバス、中心市街地の循環バス、市の駐車場でも利用できる。また、現在、ICカードで買物をするとポイントが貯まり、ポイントがチャージ料金(入金)となる社会実験を行っている。(富山市)
・スーパーが「生活バスよっかいちスタンプカード」を発行している(「生活バス」利用者を対象に、レジでの精算後、1日1回1個のスタンプを押印し、月ごとのスタンプ押印数に応じて景品を進呈)。(NPO生活バス四日市(三重県))



■観光振興との連携
 人口減少社会を迎える中で、地域住民だけをターゲットとした運行は、いずれ利用者数の頭打ちになることが予想される。地域・まちづくりの方向性との整合を図りながら、地域交通サービスを観光振興等の活性化のツールとして活用する視点も重要である。
 また、鉄道は、車内でのイベント等の開催ができるなど、車両自体が観光資源になる可能性をもっている。地方鉄道においては、鉄道の存在感をPRする上でも、車内でのイベント等の企画が有効である。


  車内でのイベント企画により鉄道の存在価値を高める

・上田電鉄別所線(長野県)では、車内において、電車貸切ライブや演奏会、沿線写真撮影会など多様なイベントを企画、開催している。
・これらのイベント企画、開催は、地域住民が主体的に関与していることが特徴であり、集客効果を期待するといった、目先の利益だけではなく、「別所線では、常に何かをやっている」という情報発信を行うことで、地域における別所線の存在価値を高めることを狙いとしている。


■学校教育との連携
 子供のときからバスに乗っていないと、大人になっても乗らないという指摘がある。小学校と連携して授業でバスに乗る体験学習を実施することなどが考えられる。



 Q7−28 他施策、他事業との連携を進めるに当たって、どのような検討、調整が必要か。

連携が必要な主体とは、当初から情報、課題意識を共有すること。


 効果的な連携体制を構築するためにも、連携が必要な主体とは、当初から情報、課題意識を共有することが重要である。そのためにも、検討体制・組織に参加してもらうことが重要である。



7) 実証(社会)実験

 Q7−29 実証(社会)実験を行う目的は何か。

計画の前提となる仮説を検証し、本格実施の前に必要な改善を行うためのデータを得るため。


 取組の検討時において実施した地域住民のニーズは、必ずしも確実なものではないことから、実証(社会)実験により、計画した取組が住民ニーズに合致したものかどうか検証することが重要である。実証(社会)実験の結果を、本格運行時に反映することにより、より確かな効果が期待できる。
 また、実証(社会)実験を実施するにあたっては、期間が短いと一過性のデータしか得られない可能性があることから、最低でも数ヶ月以上は行うことが重要である。
 実験運行、試験運行でニーズを検証しながら、ルートやダイヤの変更など、改善を繰り返していることが利用者の増加につながっている事例もある。
 なお、地域交通のサービスの維持に対する地域住民等の意識を高いまま維持することを意図して、敢えて「実証実験」の看板を下ろさない事例もある。



 Q7−30 実証(社会)実験では、何を実施すればよいのか。

利用者数や、実際の利用者数から交通サービスに対する満足度、改善点を把握。


 実証(社会)実験では、利用者について計画時の見込みと実態との間で乖離が生じているかどうかや、実際の利用者数から交通サービスに対する満足度、改善点を聞きだし、その結果を本格運行の際に反映することが重要である。



 Q7−31 実証(社会)実験により把握したものを、どのように利用すればよいのか。

運行計画全般に反映。
利用者のニーズがなければ無理に本格化させないこと。


 実証(社会)実験の結果は、ルート、バス停の位置・間隔、ダイヤ、運行本数、運賃体系、車両の見直しなどに反映することが考えられる。また、利用者のニーズがなければ無理に本格化させないといった姿勢も重要である。


  実証(社会)実験を通じてよりよい地域交通サービスを実現

・実証実験期間中に、利用実態を把握するためのアンケート調査を実施→実証実験やその中で行われたアンケート調査、乗務員が毎日1周ごとにつけているカウント調査(他路線では年2回のみ)などから、両方向運行、運行間隔の短縮、運行時間帯の拡大などの取組が行われた。(岩手県交通(岩手県))
・路線ごと・停留所ごとの利用者数を把握し、利用の少ない停留所等を割り出し、ルートの一部変更に反映させたほか、利用者数の状況に応じて、適切な車両を割り当てた。当初、ジャンボタクシーで試行していた路線と小型バスで試行していた路線の利用者数の状況から、本格運行では車両の入れ替えを行った。(茨城県土浦市)
・コミュニティバス導入の実証実験の結果を分析・評価した上で、本格的な運行の可否を決定した。実験運行では土曜日も運行したが需要が少なかったので本格運行では平日を基本とした。(富山県南砺市)
・始発と最終を一往復分増加する運行時間帯の拡大実験を行った。しかし、利用者意向調査の中では、需要自体はあったものの、新たに税金を投入してまで、運行時間帯を拡大する必要はないという意見が多かった。社会実験の結果を受け、運行本数を増やさずに時間帯を拡大したダイヤの全面改正を行った。社会実験の成果は的確に運行計画に反映させており、とりあえず実施しているわけではない。(愛知県三好町)



 Q7−32 実証実験の実施経費は、どのように確保するのか。

 国土交通省の支援制度は「X.支援制度」を参照のこと。











(END)