バリアフリー

徳島県立近代美術館    「学芸員、障害当事者、サポーターが一体となってつくるユニバーサルミュージアム」

講 評

徳島県立近代美術館は地方の公立美術館でありながら、学芸員の弛まない努力により、2011 年からさまざまな利用者、とりわけ聴覚障害者、視覚障害者、発達障害者等と対話を繰り返し、多面的かつ先駆的ユニバーサルミュージアムの取組みを継続している。その基本姿勢は、美術鑑賞を単に視覚や聴覚だけで理解し感じるだけではなく、ハードを含むさまざまな障害者のニーズを研究し把握しながら、「やってあげる」のではなく「一緒にやる」、誰もが楽しみを分かち合える美術・文化活動づくりにチャレンジし続けていることである。例えば、視覚や聴覚障害者へのナビゲーター、当事者を含むアートイベントサポーターによる活動、手話、点字、触図、積み木制作など多彩なアイディアから「話せば広がった鑑賞物語」、「あの手この手」、「見どころ見つけた」などのユニークな美術作品との出会いの方法を創出、「誰もが自分らしく美術館で過ごせる」事業を展開している。
これらの活動は、全国各地の公立美術館の事業に新たな視座を与える模範として高く評価される。

受賞者の取組

■ 取組の概要
徳島県立近代美術館は、年齢や障害の有無に関係なく、誰もが安心して自分らしく鑑賞を楽しむことのできる美術館を目指し、2011 年よりユニバーサルミュージアム事業を実施。美術館が視覚・聴覚障害者等と共同で様々なワークショップを行い、問題点の検証等を実施するほか、視覚・聴覚障害等のあるサポーターがナビゲーターを務める鑑賞会を定期的に開催するなど、インクルーシブな取組みを実施している。

● ユニバーサルミュージアム事業の取組
徳島県立近代美術館では、聴覚障害者に向けた手話通訳や筆談での鑑賞会、視覚障害者に向けた対話や触図を介しての鑑賞会などを定期的に開催。2018 年からは、鑑賞会で生まれた考え方を空間や展示台などの形に反映させた「ユニバーサル美術館展」を毎年開催している。
また、美術館職員が中心となり、徳島県内外から集まった聴覚障害者や視覚障害者などの障害当事者を含むアートイベントサポーターと協力して、視覚障害者の鑑賞の手助けとなり会話に広がりを生む触図や、手話ビデオ、音声ガイド、参加者全員で感想を伝え合えるような短い言葉が点字とともに書かれた積み木などを作成している。
そのほか、ピクトグラムを用いた分かりやすいパネルと映像での案内表示や、駐車場から展示室までの順路や館内の照明や音声を地図や映像で確認できるホームページを作成し、感覚にやさしい(センサリーフレンドリー)の取組みも2022 年より新たに実施している。

◎今後期待される取組

今後全国各地の美術館で共生社会、心のバリアフリーを見据えた様々なユニバーサルミュージアムの展開が続くと思われる。この徳島県立近代美術館の活動は本当に魅力的かつチャレンジングであり、絶えず多様な当事者側の声に寄り添いながら、一つ一つの事業が丁寧に創意工夫されている。
こうした取組みがさらに発展し継続していくためには、市民の参加と経験の共有、そして発信、他の公共事業との連携や学芸員確保が欠かせない。

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