会議記録

開会・建設大臣挨拶・委員紹介・懇談会進行について
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第1回(平成11年3月12日)


  5.懇談会に寄せる期待
    【川勝委員】
     気楽に話をしていきたいと思っている。この会議はもともと“ジャパニーズ・ドリーム”を考えようとする会だったが、会の名称は最終的には“次世紀の暮らしを語る”というようになった。これはドリームを考えることをやめたのではなく、暮らしや社会資本ということをもう少し具体的に考えたいからである。
 ジャパニーズ・ドリームというとアメリカンドリームを連想する。アメリカンドリームとはアメリカに行って夢を実現するということだが、それに対して日本では夢が持てるのか。さしあたってはアメリカンドリームを抜くことができるかが試されている。
 明治時代から戦前の日本では、一等国になろうと富国強兵を目指しそれを達成した。しかし強兵は一等国だったが、戦後になってアメリカの物質生産力に負け、今日まで経済発展に勤しんできた。はじめは繊維あるいは鉄鋼から、自動車、家電、半導体と“アメリカン・ウェイ・オブ・ライフ”を構成するパーツについては抜きん出、その結果GDPではG7のトップとなっている。にもかかわらず、満足感やアメリカに対する“ジャパニーズ・ウェイ・オブ・ライフ”がないのは、これまで暮らし方について充分に考えてこなかったからであろう。アメリカンドリームを抜くためには、アメリカ的生活様式に匹敵、あるいは凌駕するような自信をもてるかどうかに帰着する。
 そもそもアメリカと日本は、同時並行的に世界史に登場し、ヨーロッパから見ると新興国である両国はイギリスを追いかけてきた。日清・日露戦争後、はじめて中国から日本に留学生として学びに来るということが起こり、憧れられる国となった。このように日本はアメリカとの関係で長期的に見て決してコンプレックスを抱く理由はないのである。
 建設省の果たすべき役割は、1995年1月17日の阪神・淡路大震災という大惨事でもわかる通り、非常に大きい。地震帯や滝のようだと言われる河川など脆弱な国土の上に立っており、社会資本の整備というものをまだ考えねばならない。それらは、一人一人が充実して、日本人として誇りをもてるような国民の生活、暮らしを実現するという観点で考えるべきである。この国のあるべき姿について、暮らしに密着した観点から意見を頂き、広く情報発信できるようなものを出していきたいと期待している。
川勝委員
     
    【嶌委員】
     今回のこの話は、タイトルが魅力的だったので引き受けさせていただいた。私の昨年の著書「これからの10年の生き方」のサブタイトルを“「構想力」と「志」の時代”としており、それを具体化していきたいところでもあった。
 最近イタリアに魅力があると感じ、本を読んだり訪れたりするようにしている。日本人のイタリア人のイメージは、女性を追いかける遊び人、だらしないというものだが、調べると実は、きわめて人生を豊かに生き、したたかな国だということが分かった。例えばGNPは世界第5位、さらに地下経済が大きいと言われ、それを加えるとフランスを抜くとも言われている。労働生産性はアメリカ、シンガポールに次いで3位、勤勉と言われる日本が7位以上になったことがないのと比較すると、朝から夕方まではよく働いて夜や休日は人生を楽しむ、というようにメリハリのはっきりした生活であることが分かる。また、イタリア人にとっての人生の価値は、サッカー、会話、食事、恋愛・友情、母親・家族という順位であると言われる。働くときは働くが何のために働くかをはっきりさせる、というのが人生観であると思われる。その上、イタリアでは、アパレル、車、家具、建築デザイン、革製品、自転車、クルーザー、音楽、美術、食材、ガラス細工、半導体等々、世界の一級品がつくられている。勤勉のイメージがないように見えながら、他人の評価を気にせず、実は豊かにしたたかに暮らしていると言える。
 日本は、金融大国、貿易大国といわれ、海外にも多くの人が出かけていくが、公園や家、道路や下水道、大学や医療施設などを見て、アメリカ、イギリスやフランスの方が豊かではないかと思って帰ってくるのである。イギリスやアメリカなどは、19世紀や1950〜60年代の金融・経済大国の時代に生活インフラを整備してきたのが実状で、それを考えると、日本もバブルが崩壊したとはいえGNPが世界第2位の今のうちに、後世に残るような生活インフラをつくっておくべきであると考える。
 最近、日本ではブランドの時代が終わったということを感じる。学生が志向するいわゆるブランド企業は、戦後の石炭から繊維、石油化学、家電、ハイテクなどと変遷してきたが、最後に残った商社や金融、中央官庁、公営企業もリストラ再編、賃金カット、さらに倒産という時になって、自分の生き方や生きがいを問われていると言える。そういう中で、先のイタリア型の生き方が我々に何か示唆を与えてくれるのではないかと思う。今の日本では、女性の方が毎日、ボランティアやアルバイト仲間との会合など、スケジュールを持って地域に密着して生活しており、イタリア型の生き方を取り入れているのに対して、男性が取り残されているようだ。個人の生き方、社会インフラも含めて今の日本が問われている。
 かつての国土計画は、経済と国土の発展を軸に考えられてきたが、これからは人と国土、生活と国土という視点に立って、単にモノをつくるだけでなくソフトも含めたあり方を考えることが重要であると思う。これからは年収が300〜400万円でも豊かに暮らせる社会をつくらないと安心できないだろう。今の日本は年収が600〜700万円だが、400万円程度のアメリカの方が豊かに暮らしている。それは物価やアウトドアライフをはじめとした生活や社会インフラ、コミュニティのシステムが整っているからであり、日本でのシステムやソフトも含めた新しい豊かな生活づくりということを、この懇談会で考えていくことが重要であると思う。その中では、@社会インフラやコミュニティも含めた居心地のいい社会、A品性のある日本や都市、コミュニティができるような社会のあり方、Bエキサイティングな都市、街づくり、という観点が大事ではないか。エキサイティングなことというのは、例えばムダな予算を削り、一般会計から財源をひねりだして、有料道路を2年無料にするというような大胆なことで、これは40兆円の補正予算で景気を刺激するというよりよほど心が躍ると思う。後から、このようなエキサイティングなアイディアを出して、大胆に議論していけることを期待している。
嶌委員
     

 

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