会議記録

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第6回(平成11年11月10日)


2−3.ショートスピーチ (松田美夜子委員)
  (松田 美夜子委員講演資料)

 日本の廃棄物政策の現状について日頃考えている点について述べたい。
 私は現在、国のごみ減量プロジェクトの委員として、法律の素案づくりにたずさわっている。もともとは主婦として、私の住んでいる川口市がリサイクルのシステムをつくるときに参加したのがきっかけである。それ以来現在まで15年間に500カ所ほどの清掃工場の現場を訪れて専門誌にレポートを書き続けている。また海外へ自費で調査に出かけて、毎年一カ月ぐらいはヨーロッパに滞在し、ヨーロッパの環境政策を定点観測しながら日本とどうつないでいけばいいのか、また私たち自身が、国民として21世紀に向けてどういう生活感覚を持てばいいのかということをテーマにライフワークの仕事をしている。
 現在、各省庁が廃棄物に関する法の整備を一斉に進めているが、なぜこのようになってきたのか、まず、その背景を現状のデータに基づいてお伝えしたい。
 例えば、佐賀県の佐賀市の平成6年のデータをみてみると、人口20万のこの市の一般会計の予算は600億円だが、このうち高齢者対策が既に平成5年度で120億円と5分の1に達している。
 平成6年度の清掃工場の建設コストというのを考えてみる。今ダイオキシン対策をしていくとどうなるかというと、例えばここで法改正せず300トン炉をつくっていくと、一トンにつき一億円の建設コストがかかるというのが現実で、また、ごみを燃やすと2割の灰が出るが、このまちは埋め立て地が市内にないので他のまちに運んで処理しているため、その費用として1トンにつき35,000円かかる。この市は毎日60トンの灰がでるので廃棄物の処理以外に毎日210万円かかっている。これは単に行政の責任というよりは、廃棄物の処理を清掃という視点から片づけるということに論点を置いてきた中から出てきた問題点である。
 これをどういうふうに解決しようかというときに、例えば、燃やしているごみの組成分析したものをみると、生ごみというのが多いように思われるが、実をいうと、紙のリサイクルシステムを担ってきたちり紙交換が来なくなったので紙類を燃しているとか、使い捨て容器が氾濫してガラス瓶や金属かプラスチックの容器が増えてきているという実態がある。また「その他ごみ」というところは家電製品が中心で、この部分が「その他ごみ」の中で大体6割ぐらいを占めるような状況になってきたということがある。しかも、大量の資源がそのまま焼却されたり、土に埋められている。
 これらのことをふまえて資源を再利用しごみを減らし、なをかつ自治体の負担を減らしていくためには、行政の責任は責任として、国民としての役割分担、企業としての役割分担を持たねばいけないということになって、法律の改正がスタートした。
 まず、「生ごみ」だが、ヨーロッパの方では生ごみというのは、貴重な地球の資源として堆肥化政策が各国で進んでいる。日本でも生ごみの堆肥化を行い、都市と農村を有機的につなぎ、もちろん安全チェックは当然のことだが、地面に戻すものは戻す。「その他ごみ」は家電製品が中心になっているので、ここには生産段階からリサイクル設計を進めていくために使用ずみの家電はメーカーが引き取る「家電製品リサイクル法」が2001年からスタートする。
 紙類、ガラス類、金属、プラスチックについては、包装容器が8割を占めているので、包装材容器については、これを各家庭で素材ごとに分別して、自治体が収集したものを企業が再生品の原料として使うというシステムをつくることになった。
 その基本となったデータが川口市の事例である。川口市では市民の方で瓶、缶と紙を19年前から素材ごとに分けて出している。
 川口市の平成10年の実績を見ると、川口市ではこれをコミュニティに還元しているわけだが、瓶、缶、紙、牛乳パック、ペットボトルの回収を法律に従って行っていて、23,318トン集めた。これは川口市の人口約46万人のうち8万人くらいがごみを全く出さなかったのと同じだけの資源を回収したことになる。売却代金は 9,634万円である。川口市ではトン当たり35,000円のごみ処理費がかかっている。従来、川口市は横浜と同じように全量焼却だったから、焼かずに済んだということで単純計算すると、8億1,613万円の節税となる。これは都会に小学校や中学校を約2校建てることができるだけの税金の節約になっている。
 川口市がこのシステムを始めた1980年度から1998年度までの19年間の累計で見ていくと、瓶、缶、ペットボトルなどの回収量が28万トン、川口市の大体1年9カ月分のごみ処理費に相当する。売却代金が14億円。市のごみ処理の節約は86億円となっている。私はこのシステムが誕生するとき市政モニターをしていて、みんなと一緒にリサイクルの提案をしたのだが、もしあのとき川口市の市長さんが「働いているお母さんは忙しくてできないよ、松田さんは暇だからできるんだね」というところで止まっていたら、28万トンの貴重な資源、14億円で市内の業者さんが買っていくものを86億円の経費をかけて焼くという状況になっていたわけである。
 私はこの町に住みながら考えていた。横浜市は全量焼却しているわけだが、横浜市は川口市の9倍の人口がある。だから、仮に川口市と同じような実績、仕組みをつくっていけば、川口市の9年間分を1年間の実績で上げるではないかと。東京都の人口は1,200万人だから川口の人口の30倍ある。東京都はこれを全部海の中に埋めているわけだから、もし川口と同じ仕組みをつくっていけば、東京都は川口市の人口の30倍なので、30年間分の実績を1年間で上げることができる。もしこれが日本中に始まったらもっといいのに、なぜ始まらないのだろうと思ったのがきっかけで、厚生省のごみ減量プロジェクト委員になりました。
 川口市が成功したのは、都会に位置し、品質がよくて、ロットがまとまるからである。全国の市町村になぜ広がらないかというと、地方自治体の小さな町だと、ロットがまとまらないし、運搬費がかかる。だとしたらこれを法律という体系に持っていくことによって、補える部分があるということで、容器包装リサイクル法が来年の4月1日から日本全国で実施され、家電製品リサイクル法によって、2001年から生産の設計までを含めた企業のメーカーのいわゆるリサイクル責任という法律が誕生した。
 容器包装リサイクル法の果実は、行政の自由裁量に任せながらも、一つのプログラムの中でシステムとして法体系の中に容器と包装材の回収を組み込んでいくことによって、3,300の市町村がスタートできることである。そしてこれにより、1億2,000万人の人々が環境を軸に考えて、資源を大事にする暮らしを始めるというベクトル合わせができたことである。使い捨て容器というのは1回きりでごみを増やすものであるとか、ごみ処理には非常にお金がかかるということを認識し始める基軸ができたことはこの法律のいいところである。
 しかし、この法律をつくるときからわかっていたのだが、行政がシステムをつくって回収を推進していくと、回収した再生原料が余るのではないかということであった。現実そういうことになっている。
 そこで私は去年、アメリカに行ってきた。アメリカをなぜターゲットにしたかというと、9年間、ヨーロッパを毎年続けて、勉強しているうちに、アメリカがどうなっているのか気になってきたからである。
 アメリカに行ってびっくりした。アメリカは、1993年から連邦政府が音頭をとってリサイクル商品の購入をやっていて、「リサイクル品を買わないなら本当のリサイクルをしていることとは言えない」。「If you’re not buying recycle, you’re not really recycling」という言葉で、学校教育の中で推進すると同時に、企業全体が再生品の購入活動ををクリントン大統領の諮問機関の通達によって一斉にスタートしていた。
 そして、1997年には、誓約書を書いて応募した人には、全米で一戸、建設廃材でできたグリーンハウスを「あなたの好きなところに建ててあげましょう」というキャンペーンを大々的に進めていた。1997年のグリーンハウスは、建坪が54坪。内容は2階建てで、南向き。この土地つき住宅を「あなたの好きなところに建ててあげます。あなたはどういうリサイクルを誓約をしますか」というキャンペーン。19997年にこのグリーンハウスをもらったのはテキサスの人だったので、連邦政府の担当官は「ニューヨークの中に建ててください」なんて言わなかったからほっとしたとジョークを言っていた。このグリーンハウスは太陽熱利用の暖房を備えて、部屋の間取りは、広いウォークインクローゼットとそれからメインルームと客間付き、洗面所は2カ所ついている。玄関と居間が吹き抜けになっているので家全体の熱循環ができるようになっている。
 これのねらいは何かというと、再生品購入の奨励である。グリーンハウスの建物のすべてにリサイクル廃木材を再利用し、内装の床のカーペットはペットボトルの再生品、玄関のタイルはリサイクルガラスタイル、こうして家そのものがリサイクルビジネスのショールームになっている。家の建設費用は3,600万円(25万ドル)である。これに参加した団体は、家を建てたのが「国立住宅建設協会」。「アメリカ森林製紙協会」が土地を提供し、「再生品購入ビジネス連盟」が資材を調達して、それを使って建てていった。応援したのが「全米市長会」と「全米リサイクル連盟」である。
 もう一つアメリカが進めているのが、「建設業者のためのリサイクル製品の案内」というもので各大手のメーカーが建物を建て替えるとき、又は本社ビルを改築するときに、このリストにあるものを使って、建物のほとんどを再生品で建築したり改装をしてしまうということを積極的に進めていた。それを結局は企業のステイタスにしているということが今回の旅でわかった。例えば、エリクソン社だが、本社のロビーの床はソーダガラスでできたリサイクル品。また、恐らくペットだと思うが、プラスチックソーダボトルでできたリサイクルカーペットを敷き詰めている。天井板もリサイクルニュースペーパーでつくっている。アメリカ企業の部屋というのは大変広くて、大体500坪ぐらいトータルで使うので、再生品の利用拡大の効果は大きい。これらの仕事をまとめてリーフレットにして、「全米リサイクル連盟」が発表している。ユニークな楽しい事例もある。例えば、オフィスの戸棚などは撮影所で使って、倉庫に転がっていたものを磨きをかけてつくったり、郵便局の仕分け棚を持ってきて、それで本棚にかえたとか、そういうことも紹介されている。
 マクドナルド社は1991年から社会貢献として、リサイクル品の購入ということに努力している。最初の年は120億円だったのだが、現在は1,200億円のリサイクル品の購入をやっている。その中でも、今回建てたのはレストランなのだが、85%再生品でできているレストランである。すべての窓枠、それからガラス、屋根材、これを全部リサイクル資材でつくって、それをお客さんへ宣伝することにより、お客様をたくさん呼んでいる。マクドナルド社のレストランの窓枠、スティールにはリサイクルマークがついている。それからお客様が座るテーブルもリサイクルのスティール、椅子はリサイクルのプラスチックである。
 また別の会社でもフロアにリサイクル製品を使っている。それから、会議室にはリサイクルされたパインフロアを使っている。パインフロアの意味がよくわからないが、回収された松の木でつくったフロア、床を使っているのではないかなと思う。
 アメリカで有名なチョコレートとアイスクリームのお店がある。全米に124店あるこのチェーン店は、既に47店がリサイクル品を使い、お店の75%リサイクル品でつくっている。床のカーペットがリサイクルガラスで、カレットガラスの黒と白を上手に一松柄に組み込んでいる。これで一つの意匠登録になっていて、この店は全米にこれらのリサイクル材を使っていくことになっている。アメリカという国は、建築デザイナーたちもすごくリサイクルについて関心があるし、また政府とうまく連携しながら、デザイナーのセンスを生かして使いこなしている国なのだということをつくづく思って帰ってきた。
 さて、今度はヨーロッパの国をみてみよう。マッターホルンのふもとのツェルマット村。ここは建築協定で木材を使うことにしていて、そしてこの村を走る自動車は全て電気自動車になっている。タクシーもそれからバスもホテルの送迎用の車も全部電気自動車になっている。これはツェルマット村や周辺のの空気をきれいに保つためである。電気自動車の時速は大体50キロ以内で、40キロぐらいのスピード制限でしか走ることはできない。日本の電気自動車がなぜ150キロを走ることをイメージして、ガソリン自動車と競争しなければいけないのか。用途を考えて使っていけば電気自動車のコストは下げることができるのではないかと私は思った。
 人口3,000人のこの村に現在は120万人の観光客が訪れるわけだが、村のパンフレットにはこういうふうに書かれている。
 「ようこそツェルマット村にいらっしゃいました。今皆さんが呼吸されている、このきれいな澄んだ空気は、今から135年前にマッターホルンが初めて登頂されたときと同じきれいな空気です。滞在をどうぞお楽しみください」
 今から135年前というのは徳川慶喜が明治政府にバトンタッチをしたちょっと前、江戸時代である。つまり、私が今日スイス行きのチケットを買って、明日マッターホルンに着いたら、そこで135年前の空気を吸えるということで、この村は環境と観光を見事に両立させている。
 ここの廃棄物の処理というのはごみは出さないことだから、ホテルの冷蔵庫の中はワンウエイのものは入っていない。そしてリターナルボトルが使われている。もしワンウエイのボトルが入っていたら、そのホテルは三流以下だということになっていくのだと思う。ここに訪れる観光客は遊びには来るのだけれども、環境は汚したくないと思っている人たちが来るからである。
 スウェーデンはかなり進んでいる。スウェーデンのチョコレートにはマークが2つついている。緑のマークは、健康なカカオ豆だというマーク。つまり化学肥料を抑えて堆肥でつくっているカカオ豆であることを第三者機関が認定している。そして赤いマークは、これらのカカオ豆の生産地である発展途上国の労働者たちに正当な給料を払っているということを第三者機関が認定しているマークである。スウェーデンの人たちはこのマークの2つついたものを価格が高いけれども購入する。このカカオ豆のチョコレートの素材の包装紙は再生紙100%で、チョコレートを包むアルミ箔は使われていない。ワンウエイの包装材に電力を大量に消費して生産されるアルミ箔を使うのは大変もったいないということで、10年前からアルミ箔は使われていない。
 スイスは1971年に憲法に環境保護を唱い込み、それから半年後にツェルマット村が住民投票によって電気自動車を購入して、自動車を使わないと決めていった。スイスは人口が700万人の国である。
 8,000万人いるドイツの国は、1994年にドイツ連邦共和国憲法の20条に環境保護を唱い込んだ。ドイツのような連邦共和国の憲法は比較的改定されやすいのだが、一方で改定してはいけないという条項を持っている。改定してはいけない条項というのがドイツの場合は憲法20条である。ドイツが連邦国家であることを決めているのが憲法20条なので、これを変えるとドイツという国がなくなっていくので、変えてはいけないという約束になっている。そこにa条が入った。「国家は来るべき世代に対する責任の意味においても、生活の基盤としての環境を憲法における秩序の枠内における立法により、また法律に基づいた行政と司法により保護をする。」つまり国家は次の世代に対する責任の意味において、環境を保護することを憲法に盛り込んだのである。人権と環境が同じ重みを持っているのはドイツだけでなく、スイスのほかに環境先進国はすべてそうである。だとすると、日本の国の将来に向けて、私はやはり憲法の中に環境保護を唱い込みたいと思う。
 そして、建設省には次のことをお願いしたい。建設省は公共事業の緑化(みどり化)に取り組んでほしい。
 建設省にはさまざまな公共事業があるが、例えばものすごく評判のよかった「道の駅」、それからこれから進めようとされている「川の駅」。これをリサイクルビジネスのショールームにできないだろうか。すぐれた建築家やデザイナーの人々の知恵を駆使してもらって、そこをビジネスのショールームにし、日本の技術を世界に発信していく政策を進めていただきたいと思っている。もちろん、そうなると緑化された駐車場などを誰が管理するかということもでてくるが、それは管理する部分も含めて、何も全てを建設省がしなくてもいいわけだから、地域の人たちと話し合いながら、知恵を出しあいたい。建設省の政策の焦点がこれからは緑化に重点が置かれることを願ってやまない。(拍手)
松田美夜子委員
 
松田美夜子委員
 
松田美夜子委員

 

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