百済観音像
クスノキの一材から彫り出されたこの百済観音像は、法隆寺の最も有名な宝物のひとつであり、信仰のシンボルとして、そしてまた特別な美術品として、日本全国から巡礼者を引き寄せている。パリや東京でも展示されたことがあり、1930年代には大英博物館のために複製もつくられた。高さ211cmと背が高く、すらりとした姿の百済観音は、1897年の古社寺保護法の制定後、国宝に指定された文化財である。その起源は謎に包まれている。この像が初めて法隆寺の記録に登場するのは17世紀であることから、それまで何世紀にもわたって別の寺に収められていた可能性を示唆している。かつては、朝鮮半島から伝来したものであると考えられていた(「百済」とは古代朝鮮の王国ペクチェ(371~660年)の日本語表記である)が、朝鮮から渡ってきた仏師が制作した可能性のほうが高い。左手には水瓶を持ち、右手は、手のひらを上に向けて人々に救いの手を差し伸べる菩薩の慈悲を表すポーズのようにもみえる。