西芳寺の五季
春
本堂前の枝垂れ桜が満開になると、辺りはいっそう華やかな雰囲気、苔の合間を縫うように流れる清水が陽光にきらめき、その水辺ではカワセミたちが恋の季節を謳歌するようにきれいな声を聞かせてくれます。桜の後には、新録が徐に濃くなり、ミツバツツジも咲き誇り、また違った世界を見せてくれます。苔むす庭も悠久の時の流れの中で、春のうれしさ・温かさを味わっているようです。
梅雨
一二〇余種もの苔に覆われる「苔寺」の境内は、ひと雨ごとに緑を深めていきます。雨上がりは苔の緑もひときわみずみずしく、曲線美のみで構成される苔庭は、人々の心に清々しさとやすらぎとを与えてくれます。本堂前の蓮池にある蓮は紀元前に蘇生していた大賀蓮という古代蓮。淡紅色の花が咲く姿は時空を超えたようです。その頃には梅雨明けも近付いており、木々の緑が勢いを増す夏本番へと季節は移ろいます。
夏
木立の静寂をやぶる蝉の声で夏の盛りが告げられると、いよいよ暑さは本格的。少し立ち止まってみると、冷房とは違ったそよ風がひときわ心地よく感じられます。庭園では百日紅が夏のあいたじゅう可愛らしい花を咲かせる一方で、境内を覆っている苔はじっと耐えなければならない時期。厳しい日照りが続くと苔はカラカラに乾きひび割れてしまうこともありますが、決して枯れているのではなく、活動を極力抑えながら次の雨を待っているのです。夏の庭は、生命力にみちた自然の強かさを教えてくれます。
秋
金木犀の香りで秋の到来を感じると、次第に冷え込んでいきます。(澄みわたる空の下、)その冷え込みで、広い境内の木々が次第に色づき、日増しに秋の色を整えていく光景は一期一会。とくに秋の盛りは境内一面に広がる苔の緑と紅葉のコントラストが見事で、モスグリーンの絨毯とモミジの赤、黄、橙が対照の美をつくり出し、彩り鮮やかな世界を見せてくれます。
冬
彩りをなくした冬枯れの庭。言い換えれば、冬の庭は一番見渡しが良いです。苔は常緑で、冬のあいだも緑色を保っていますが、活動は非常に鈍くなります。休眠状態となって春をじっと待つ間は、苔の睡眠を邪魔しないよう掃き掃除は極力避けます。そうして冬をやり過ごした苔は、気温が上がり始めるとようやく止めていた生長を再開し、鶯が囀り始める頃、新しい季節を迎えます。