出羽三山の高山植物
月山 (1,984 m) の弥陀ヶ原湿原には、たくさんの高山植物が生育しています。弥陀ヶ原湿原は、月山山頂の北東側のゆるやかな斜面を流れ落ちた溶岩流によって形成された高地 (約1,400 m) に沿って位置しています。
その自然環境は、稜線のそれぞれの側で大きく異なります。急勾配で強い風が吹く西側は、日本海の方向であり、土壌は乾いています。これらの条件により、コメバツガザクラ (学名: Arcterica nana) やイワウメ (学名: Diapensia lapponica) など、岩に這う植物が集まっています。東側のゆるやかな斜面では、密度の高い積雪がゆっくり溶けて尾根に水気が残り、湿地のような地形ができます。ここには、ヒメカンゾウ (学名: Hemerocallis dumortieri)、ヒナザクラ (学名: Primula nipponica Yatabe)、丸い葉を持つモウセンゴケ (学名: Drosera rotundifolia L.) といった植物が繁茂しています。西側と東側は高台で分かれており、木でできた遊歩道で渡ることができます。この高台には、7~8月に、白い花のミヤマウスユキソウ (学名: Leontopodium fauriei) や、チシマギキョウ (学名: Campanula chamissonis) が咲きます。特に注目すべき種は、エゾノハクサンイチゲ (学名: Anemone narcissiflora var. sachalinensis) と、オゼコウホネ (学名: Nuphar pumilum var. ozeense) です。エゾノハクサンイチゲは、北海道と月山にのみ生育している花です。
月山の積雪は深さ30mに達することがあり、月山の一部は8月下旬まで雪に覆われたままです。高山植物は、雪が溶ける初夏に咲き始めます。雪は非常にゆっくりと溶けていきます。1つの種が、湿原の様々な場所で、それぞれ春や夏や秋に開花の季節を迎えることがあるほど、ゆっくり溶けていきます。 月山の高山植物は、6月から9月に花を咲かせます。
一般的には、標高2,500m以上がこのような高山帯に相当しますが、月山では1,300m付近でも高山植物が生育します。それゆえ、これは「偽高山帯」と呼ばれます。「偽高山帯」は稀な現象です。標高がもっと高いところではより一般的である環境が、特に厳しい条件によって (標高が高くなくても) 生じる場合に、この「偽高山帯」が現れます。月山では、日本海から強い西風が吹き、1年の大半の期間は深い雪が積もっています。これらが、背の高い針葉樹にとって環境を好ましくないものにしています。こういった気候でなければ、この標高では背の高い針葉樹が育つのです。