第一章 不動産及び金融から見た「不動産の証券化」

 不動産の証券化の議論はこのところ急速に進みつつあるが、多くの場合、その議論は、商品化のためのスキームのあり方が中心となっている。しかしながら、この問題は、単に不動産への新たな資金の投入を促進させる手段にとどまらず、不動産の最適配分(有効利用)、金融資産の最適配分(我が国に1316兆円〈1999年3月末現在〉も存在する家計貯蓄の有効活用)にも関わる問題であることに留意すべきであると考える。したがって、「不動産の証券化」を政策として考える場合には、不動産及び金融といった二つの側面からこれに取り組む必要があると思われる。

個人の金融資産の内訳

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個人の金融資産の構成上の特徴として、99年3月末時点で現金・預金が723兆円(55%)、保険・年金準備金が364兆円(28%)と、安全資産がその8割を占めていることが挙げられる。

出典 日本銀行「資金循環勘定」(99年9月21日公表分)



 なお、「不動産の証券化」という言葉は、不動産及びその関連資産をベースとして作成された証券という形をとる資産を指すものとして幅広く使われている。ここでは、いわゆるSPC()利用型、不動産特定共同事業(*2)の商品による不動産の小口化商品、、各種のABS(資産担保証券)(*3)、アメリカに存在するREIT(*4)といった、不動産ないしその関連資産をベースにした金融資産まで幅広く捉えることとした。

(土地と不動産の証券化)

 不動産の証券化は、不動産の活用という側面から見ると、従来の不動産投資に多く見られた、投資(取得・開発)と運営管理の機能を同一主体で処理し、なおかつ、その事業主体が金融機関による間接金融で資金調達のうえ事業リスクを負担するという伝統的な手法とは異なる方式として捉えられる。すなわち、不動産の証券化は、この一体化していた投資と運営管理の機能を分離させ、不動産のプロジェクト自体に着目して直接市場から資金を集める途を開くとともに、投資に伴う事業リスクを広く分散させる一方で、最終投資家にとっては、保有する金融資産を一層活用させるものとして捉えることができる。

 このような形式での不動産の証券化は、バブル崩壊後の経済社会の構造的な変化の中で、伝統的な商業銀行を経由したいわゆる間接金融が必ずしも十全に機能しなくなったことをも背景として、事業主体のリスク負担力や資金調達力が低下している現状下で、新たな資金を不動産の有効活用に導くものと期待されている。
 しかしながら、不動産の証券化の最終的な目標は、何らかの形で不動産が利用されればそれでよしとするようなものにとどまるものではなかろう。それは、土地に代表される不動産の最適配分を目指すべきものであろう。その意味では、それを実現するための手段としての商品としての位置付け(それは多くの場合、投資利回りという形で示されることになろう)、不動産市場及びそれを化体した証券市場双方の透明化、活性化をも含むものとして、併せて検討すべきものではないかと思われる。



(金融資産と不動産の証券化)

 不動産の証券化の問題をより包括的に捉えようとすると、資金供給面、ひいては、金融資産の最適配分という観点からも考える必要がある。約1300兆円という有数の個人の貯蓄をいかに活用するかというマクロ経済政策の観点から見ることも大切であろうし、資産の運用に際し、運用資産全体として、そのポートフォリオの的確な組成を通じて最小のリスクで最大のリターンを期待する投資家、特に機関投資家に新たな投資対象を提供するという観点も重要であろう。  欧米諸国では、最終投資家が保有する金融資産の中に占める証券の比率は伝統的に我が国よりは高く、このところ、そのシェアはさらに高まりつつあるように見受けられる。

【我が国と欧米諸国の家計等に占める金融資産の比率の比較】

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出典:「日本の家計の金融資産選択行動」日本銀行調査統計局(1999年11月)


 欧米のこのような傾向は、金利や金融についての自由化の進展、金融技術の向上等を背景として、証券形態の資産が相対的に魅力的になりつつあること、投資家の利回り最大化に対するより強いニーズ(それは必ずしもハイリスクかつハイリターンな商品志向を意味するものではなく、むしろ、多様な資産のより複雑な組み合わせにより、運用資産全体のパフォーマンスの向上を求めるものである)や、銀行のバランスシート(*5)の縮小化志向などによるものであろう(その意味で、ここでいう証券化商品は、利回りやリスクについて同一の特性を有するものである必要がないことはいうまでもない)。これらの条件の多くは、程度の差はあっても我が国においても当てはまるものであり、我が国においても運用資産に占める預金の比率の低下、証券その他の預金以外の資産の比率の上昇が予想されるところである。

 こうした状況の変化の流れの中にあって、「不動産の証券化」は、最終投資家に、新たな投資対象を提供することにより、より好ましい投資ポートフォリオ(*6)の組成を可能にすることになる。そのことは、国内的にみて新たな投資先としての魅力的な投資対象を提供することにより、海外への資金の流れを引き止めることをも意味し、国内において貯蓄を有効に活用するという好ましい結果をもたらすことにもなろう。

(検討対象とすべき「証券化商品」)

 以上のような観点から、ここにいう「不動産の証券化商品」の対象には、通常取り上げられる不動産を有価証券あるいは類似の資産に転換させる機能をもつSPC利用型や不動産特定共同事業の商品、不動産投資信託(*7)に限らず、不動産関連の資産(例えば、住宅ローン債権をベースに組成されたABS)なども含めて考えるべきであると判断した。したがって、広く、例えば公的、民間金融機関の住宅ローン債権の証券化なども視野に入れて検討することとした。



() Special Purpose Companyの略。資産保有者から資産を譲り受け、それを担保にした証券の発行を行う等の特別な目的のために設立される会社のこと。1998年9月施行のいわゆるSPC法に基づき設立されるSPCを「特定目的会社」、SPC法によらず設立されたSPCを「特別目的会社」と呼ぶことが多い。
(*2) 1995年4月に施行された「不動産特定共同事業法」に基づき行われる、複数の投資家から出資を募り、不動産に共同出資のうえ運営管理し、当該不動産からあがる収益を投資家に分配する事業のこと。
(*3) Asset Backed Securitiesの略。保有する資産を他の資産と区別し、その資産を裏付けにして発行される有価証券のこと。
(*4) Real Estate Investment Trustの略。アメリカにおいて不動産投資を行う会社のうち、内国歳入法の所定の要件を満たすことによって、法人税が課されなくなる会社を指し、日本では「不動産投資信託」と訳される。
(*5) Balance Sheet。貸借対照表のこと。
(*6) Portfolio。経済主体によって保有される各種の金融資産の集合をいう。
(*7) 投資信託が有価証券の発行などにより一般の投資家から資金を集め、これを実物不動産や不動産証券化商品に運用投資し、その収益を分配することで、投資家にとっては間接的な不動産投資を可能にするスキームをいう。

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