第二章 投資家(貯蓄者)から見た不動産証券化へのニーズ

 不動産の証券化は、それが投資家にとって新たな種類の金融資産を提供し、全体としてより好ましいポートフォリオの組成を可能にするものとして、その進展自体が投資家にとって好ましいものと思われる。

 また、今後予想される低成長、少子・高齢化社会において、投資家はその保有する資産の利回りやリスク分散により敏感になると考えられ、証券化への需要は強まるものと思われる。併せて資金仲介機能における銀行の伝統的な役割の相対的な低下(それは銀行貸し出しを核とする間接金融の役割の低下の原因でもあり、結果でもある)という世界的な流れの中で、我が国の投資家の証券への投資は、一層拡大することになるものと思われる。

 言い換えると、不動産の証券化は、一方では、より効率的な投資の機会を与えることになるとともに、他方では、金融資産構造の変化の中で、今後に予想されるある程度の預金のシェアの減少と証券のシェアの拡大という自然の流れに沿ったものになると思われる。

 それでは、一体どのような種類の資金やどのような投資家の資金が不動産の証券化商品に向かうのか、また、それはどの程度のものであろうかが、一つの検討課題である。

(家計にとっての不動産の証券化)

 現在の一定の不動産証券化商品が、その取引単位が高額であり、かつ、その流動性が低いにも関わらず、個人への売却が進んでいることに見られるように、現時点においても、不動産証券化へのニーズはある程度存在するのではないかとも見られる。今後、種々の理由により個人が利回り等に敏感になっていくであろうことなどを考慮すれば、家計について、預貯金から不動産証券化商品へのある程度のシフトが考えられるのではないかと思われる。

 また、我が国の場合、すでに個人資産中に占める土地・建物のシェアが高いので、家計の不動産証券化商品の購入は進まないのではないかとの見方がある。しかしながら、この「土地・建物」の大部分は、自己の居住用土地・建物であり、いわゆる運用資産としての保有ではないという事実に鑑みれば、一概にそうはいえないように思われる。

【個人資産中に占める土地・建物のシェアについては、資料6を参照。なお、資料7より個人の住宅・宅地資産に占める自己の居住用土地・建物のシェアは78.7%である(平成6年現在)。】

(機関投資家にとっての不動産の証券化)

 不動産証券化への潜在的需要は、家計(個人)よりは、年金基金、生命保険会社といったいわゆる機関投資家において、より大きいものと思われる。これは、@機関投資家は、長期的観点に立って資産の運用をすべき立場にあること、Aまた、その専門性に鑑み、それぞれがその最適なポートフォリオの組成を求めて努力しなければならないこと、Bまた、例えその運用資産中に占める証券にされた不動産に対する投資のシェアが低くとも、その運用すべき資金全体が高額であるために、不動産証券化商品への投資金額は相当のものにのぼるであろうこと、Cさらに、年金受給者等の委託者からの利回り上昇等への願望が強く、個人の場合よりはより好ましいポートフォリオ組成への圧力が強いであろうこと等によるものである。

 ところが我が国では、現実には機関投資家による不動産あるいは証券化された不動産への投資の割合は著しく低く、年金基金に至ってはほとんど保有されていない。

年金基金の運用資産に占める不動産関連の割合の海外比較

厚生年金基金連合会の資産構成の現状

平成11年3月末時価ベース


 債券   株式  転換社債  外債   外株  生保一般 不動産 短期資産  合計 
構成比 35.90% 30.46% 4.13% 6.81% 18.57% 1.17% 0.48% 2.49% 100.00%
基本ポートフォリオ 38.00% 30.00% 5.00% 6.00% 16.00% 4.00% 1.00% 0.00% 100.00%
委託機関数 18 18 9 13 13 6

*42

*運用機関によっては、複数の資産を運用している会社もある。
注)この他に生保特別等があり(資産相対比率1.24%)、5運用機関に委託している。

出典:厚生年金基金連合会ホームページ

海外年金基金の運用

  政策アセット・ミックス

基金名 国内株式 外国株式 国内債券 外国債券 不動産 オルタナティブ 短期資産
CPPIB 80 20 0 0 0 0 0
オンタリオ州 30 35 23 10 2
NY市職員 55 13 30 0 0 2 0
NY州・地方職員 43 12.5 34 0 3.5 5 2
NY州教職員 55 10 20 3 5 1 0
フロリダ州 61 8 26 4 0 1
CalPERS 41 20 24 4 6 4 1
CalSTRS 38 25 26 0 10 1
GET IMC 45 25 20 5 0 0 5
*GTE IMCの値は実測値
*CPPIB:Canada Pension Plan Investment Board
 CalPERS:カリフォルニア州公務員退職年金基金
 CalSTRS:カリフォルニア州教職員退職年金基金

出典:年金資金運用研究センター出張報告

 これは、バブル崩壊後の不動産価格の急落が、その投資をためらわせている面も強いものと思われるが、なお、過去において運用規制に縛られて、不動産に対する投資が行われてなかったことの後遺症という側面もあるように思われる。しかしながら、年金基金等の機関投資家が運用資産の利回りの極大化を目指すということであれば、不動産あるいは不動産関連証券が、ある程度そのポートフォリオに組み込まれていくことは不思議ではないし、発行市場、流通市場が整備されるなどその条件が整えば、その比重は時とともに上昇していってもおかしくはなかろう。特に、極めて多額の資金を運用する機関投資家についてはそうであろう。

 年金基金がどの程度不動産関連商品を組み込むかは、当該基金の成熟度にも左右されるものであるといわれている(成熟度の低いもの、すなわち、現状では支払いが相対的に低いものについては、その多くを流動性の高い資産で運用する必然性がないものであることから、成熟度の高いものよりは高い比率で組み込まれよう)。いずれにしても、企業年金については、その運用資産についてのいわゆる「5・3・3・2ルール」()が撤廃され(そのルールの下では不動産の投資は全体の2割以下と定められていた)、利回り極大化への一つの障壁が取り除かれたことでもあり、今後、年金基金の運用に当たって不動産証券化商品への投資が考慮されていくのではないかと思われる。

 なお、これら機関投資家の間では、いわゆる不動産関連商品のうちでも、デット型商品(*2)に比べて、エクイティ型商品(*2)への投資には慎重であるといわれている。

 いずれにしても、機関投資家の運用資産が著しく巨大であり、かつ、将来もそれが増加しつつづけることを前提とすれば、機関投資家の今後の資産選好の動向は、不動産の証券化の進展に大きな影響を与えるものと考えられる。




(*) 年金資産の安全性を保つために設けられた運用規制。資産運用先の比率を規制するもので、具体には、元本保証資産が5割以上、国内株式は3割以下、外貨建資産は3割以下、不動産は2割以下とされていたもの。企業年金については、1997年12月までに規制が撤廃されているが、公的年金については存続している。
(*2) デット(Debt)型商品とは、負債・債務部分に相当する商品(CP、社債、ローン債権担保証券)を指し、エクイティ(Equity)型商品は不動産投資における自己資本による持分、出資証券、組合出資に相当する商品、または所有権・共有持分取得に係る商品を指す。

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