第八章 今後の展望

 我が国における不動産の証券化は、歴史的に見れば不良債権の処理の一環として論じられはじめられたように思われ、それは1998年のいわゆるSPC法の成立につながり、その後、様々の制度の創設や変更に至り、その動きは現在も続いている。その証券化の動機も、その要因も、当初は自らの保有する不動産の価格のさらなる低下や簿価割れに対処するというものに重点があったが、時代の変遷とともに、当該企業の新たな資金調達手段、あるいは、より低コストの資金調達手段という見地から、積極的な取り組みが増えてきたように思われる。加えて第二章で述べたとおり、最近の低金利のもと、比較的利回りの高い不動産証券化商品に対する投資家サイドからの需要の高まりは、これらの動きをさらに活発化させているように思われる。

【不動産証券化の最近の動きについては、資料20を参照】

 また、このような動きの背景としては、我が国に対する海外の投資家の増加や金融機関の参入があり、その動きは、日本の金融機関にも影響を与えていることが挙げられる。その結果、我が国においても不動産証券化関連の様々なビジネスが活発化する方向にある。このような状況のもと、以下の例の如く様々な新しいビジネスの方向が予見される。

(不動産担保ローン債権の証券化)

 いわゆる不動産の証券化商品の対象は、不動産そのものを対象としたものに限らず、不動産関係のローン債権が対象となり得る。特に、いわゆるMBS()と称される保有する住宅ローン債権の証券化が考えられる。それが、公的金融機関であれ、民間の金融機関であれ、このローンを証券化して、これを市場で売却することは、当該金融機関の資金調達手段の多様化、資産の圧縮にもなる(それは、いわゆるBIS比率の改善、ROA及びROEの改善にもつながる)ほか、当該機関の金利リスクや期間のミスマッチ(流動性リスク)といったリスクの低下をもたらすことになる。その結果としての財務体質の改善は、当該機関の格付の上昇となり、より安いコストでの資金調達を可能にするであろう。

 また、このようなMBSのベースとなる住宅ローン債権は、新たに発生する住宅ローン債権のみならず、既存の住宅ローン債権も対象となるものと思われる。

 さらに、不動産投資に関するノンリコース・ローン(*2)についても、当該不動産の保有企業の格付が必ずしも高くない場合には、相対的に低い金利での資金の調達を意味することになり、その点で当該企業の財務体質の改善にもつながる。このノンリコース・ローンについても、これをベースに証券化商品(一種のABS)を組成することが可能であろう。その結果としての当該商品の売却は、いわゆるMBSと同様の財務上の効果をローンの貸し手である金融機関にもたらすことになろう。なお、このような進展には、当該不動産についてより幅広く、かつ、詳細な情報の開示が求められることはいうまでもない。

(新たな関連事業の創出)

 不動産の証券化の進展は、不動産の分野における機能の分離を通じて、様々な新たな事業の創出や既存の事業の拡大をもたらすことになろう。この場合、不特定多数の投資家が不動産投資・事業リスク負担機能を担うのに必要な、不動産及び不動産証券化商品の特性を踏まえたサービスを提供できるような関連する諸機能の専門化、分化、高度化が要請される。

 この結果、不動産投資と運営管理に関連する分野で様々な新しい事業機会の創出や活発化が見られることになる。具体的には、投資家の投資判断に資する投資情報を提供するサービスや、証券化対象不動産の管理を行い当該不動産の価値を維持・向上させる(キャッシュフローを増加・安定させる)プロパティーマネージメント(*3)、不動産の取得・管理運営・処分などについて、プロパティーマネージメントなど他の関連する業務を統括のうえ、専門的な立場から助言したり、またはそれらを一任され実行する不動産投資顧問会社(運用会社)(*4)などが挙げられる。

(土地の有効利用と不動産の証券化)

 当初、その土地の保有者が、いわば身軽になるための手段と考えられていた不動産の証券化は、単に当該土地が何らかの形で利用されるという意味での活用化を促進するのみならず、その収益力に応じた形、よりふさわしい形、での活用を促すことにより、適切な利用を促すことになる。これはいわば土地の「最適利用」へのプロセスといえよう。不動産の証券化は、こういう最適利用への不動産の選別化の手段となることが考えられる。


 ただし、だからといってこのような証券化のプロセスが土地の「活用」に与える効果を過大視することは適切ではなかろう。なぜならば、証券化の対象となる不動産は、キャッシュフローを生むものであること、関連情報が開示または公開されていること等の条件を満たしていることが必要であり、すべての土地・建物がこのような条件を満たしている訳ではないからである。

(PFIとの関連)

 不動産の証券化は、悪化した財政事情の下、民間資金の活用によって公共事業の推進を図ろうとする、いわゆるPFIと関連するところが多い。双方ともに、我が国における家計の貯蓄等の有効活用を図るものである。また、不動産の証券化の進展は、PFIの推進にもつながることになる。それは、例えば、PFIによるプロジェクトファイナンスが、不動産の証券化を活用して進められることが考えられる。また、不動産の証券化もPFIも、ともに公的機関等の資産や負債の圧縮、オフバランス化の推進への途を開く側面がある点においても共通点が見られるところである。この点については、今後、さらに積極的な議論が行われることを期待したい。




(*) Mortgage Backed Securitiesの略。住宅ローン債権を担保に証券化したものを指す。なお、商業用などの収益不動産へのローン債権(ノンリコース・ローン)を担保に証券化したものをCMBS(Commercial Mortgage Backed Securities)という。
(*2) Non-Recourse Loan。融資に伴う債権者の求償権の範囲を融資対象物件の担保価値に限定するローン。債権者は貸倒れリスクを負担する代わりに、従来のリコース・ローンに比べて貸付金利を高く設定できるメリットがあるといわれる。
(*3) Property Management。不動産の現物(物件)を物理的に管理し、物件の価値を維持・向上させる業務。
(*4) 投資家のために、不動産の取得・管理運営・処分などについて、専門的立場から助言したり、それらを一任されて実行する業務で、アセットマネージメント(Asset Management)ともいう。




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