第1節 ヒト・モノ・カネ・情報の流れ

■2 地域を支えるヒト(交流人口)・モノ・カネ・情報の流れ

 第1節2.では、1.で扱った「定住人口」以外のヒト・モノ・カネ・情報の流れとして、観光(交流人口)、物流・情報、地域経済循環の各分野について、それらを通じた地域経済への効果や具体の取組事例を紹介する。
 まず、「(1)観光(交流人口)」において、地方における消費税免税店数の推移や地域別国内宿泊旅行消費額の収支等、訪日外国人や日本人観光客による地域経済への効果を紹介・分析した上で、県内資本として初めて免税店許可を取得し主に地域産品を販売する「秋田まるごと市場」と、クルーズ船寄港で実績を上げている青森港の事例を紹介する。
 次に、「(2)物流・情報」において、インターネットの普及と物流分野への影響を概観し、物流が地域社会に貢献している例として、石川県における大型物流センター立地による雇用創出と、山口県における道の駅を拠点とした物流事業者による地域支援の取組事例を紹介する。また、ICT(情報通信技術)の普及による新しい働き方として、テレワークの普及やサテライトオフィスの例(神山町)を紹介する。
 最後に、「(3)地域経済循環と地域づくり」において、「資金の流れ」から見た地域づくりとして、地域経済循環の概念と仕組みを紹介し、その改善策を「地域外からの資金の獲得」、「地域外への消費流出の抑制」、「地域内での投資手法の多様化」、「地域の不動産を活用した投資」の4つの側面から考察する。また、地域経済循環分析に基づく地域活性化の取組みを行っている熊本県水俣市の取組みを紹介する。

(1)観光(交流人口)
(訪日外国人の動向)
 2014年の年間訪日外国人旅行者数は、前年比29.4%増の約1,341万人となり、過去最高を記録した(図表2-1-56)。国・地域別に見ると、台湾が約283万人、次いで韓国が約276万人、中国が約241万人の順となっている。また、東南アジア6箇国注35については、過去最高の約160万人を記録し、訪日外国人全体に占める割合は、東アジアで66.5%、東南アジアで11.9%を占め、アジア全域で79.1%を占めている(図表2-1-57)。
 
図表2-1-56 訪日外国人旅行者数の推移
図表2-1-56 訪日外国人旅行者数の推移
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図表2-1-57 2014年の訪日外国人旅行者数及び割合(国・地域別)
図表2-1-57 2014年の訪日外国人旅行者数及び割合(国・地域別)
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 次に、2014年の訪日外国人旅行消費額を見ると、前年比43.1%増の2兆278億円、一人当たり訪日外国人旅行消費額は前年度比10.6%増の15万1,174円となり、過去最高を記録した(図表2-1-58)。また、訪日外国人旅行者が日本で支払った金額と日本人旅行者が海外で支払った金額の差を示す旅行収支は回復傾向にあり、2014年4月の旅行収支は大阪万博開催中の1970年7月以来の黒字を記録した(図表2-1-59)。
 
図表2-1-58 訪日外国人旅行消費の推移
図表2-1-58 訪日外国人旅行消費の推移
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図表2-1-59 旅行収支の推移
図表2-1-59 旅行収支の推移
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 この訪日外国人旅行者数と旅行消費額の増加は、為替相場が円安方向へ推移したことにより、日本への旅行や日本での買い物が割安になったことに加え、外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充やビザの発給要件の緩和のほか、首都圏空港の発着枠の拡大やLCC路線数の増加等が要因となっている。特にLCC国際線については、2010年以降に東アジア、東南アジアの国・地域における路線数が急速に増加している。
 外国人延べ宿泊者数の推移を見ると、三大都市圏、地方圏共に2011年以降宿泊者数が増加している(図表2-1-60)。また、2014年の都道府県別外国人延べ宿泊者数を見ると、東京都、愛知県、大阪府等の都市部や北海道等の地域に宿泊者が集中しているものの、都道府県別外国人延べ宿泊者数の対前年伸び率では、地方においても伸びを見せている(図表2-1-61、図表2-1-62)。特に、山梨県は91.3%増、滋賀県は77.0%増となっており、他の地域と比べ大幅に伸びている。
 
図表2-1-60 外国人延べ宿泊者数の推移
図表2-1-60 外国人延べ宿泊者数の推移
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図表2-1-61 都道府県別外国人延べ宿泊者数(2014年)
図表2-1-61 都道府県別外国人延べ宿泊者数(2014年)
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図表2-1-62 都道府県別外国人延べ宿泊者数対前年伸び率(2014年)
図表2-1-62 都道府県別外国人延べ宿泊者数対前年伸び率(2014年)
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(訪日外国人増加による地域経済への効果)
1)外国人旅行者向け消費税免税制度拡充による地方経済への効果
 2014年10月1日より免税対象品目が拡大され、これまで免税対象から除かれていた食品類、飲料類、薬品類、化粧品類等の消耗品について、一定の不正防止措置を講ずることを前提に免税対象となった(図表2-1-63)ことで、全国の輸出物品販売場数は9,361店(2014年10月1日時点)となり、同年4月1日と比較して半年間で3,584店増加した(図表2-1-67)。
 
図表2-1-63 外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充の概要
図表2-1-63 外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充の概要

 訪日外国人旅行消費額において、買い物代は全消費額の約3分の1を占めており(図表2-1-64)、また、訪日外国人旅行者が日本で購入した物品を見ると、「菓子類」、「その他食料品・飲料・酒・たばこ」、「化粧品・香水」等の新たに免税対象となった品目の購入割合が高くなっており(図表2-1-65)、免税手続を利用した人は免税手続を利用していない人よりも購入単価が高くなる傾向がある(図表2-1-66)。
 
図表2-1-64 2014年訪日外国人旅行消費額(費目別)
図表2-1-64 2014年訪日外国人旅行消費額(費目別)
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図表2-1-65 訪日外国人が日本で購入した物品(2014年)
図表2-1-65 訪日外国人が日本で購入した物品(2014年)
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図表2-1-66 消費税免税手続の利用有無別の購入者単価
図表2-1-66 消費税免税手続の利用有無別の購入者単価
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 免税店数の地域割合を見ると、三大都市圏が約70%を占めており(図表2-1-67)、今後は地方の商店街等においても積極的に免税店を増やすことが、外国人の旅行消費を誘発させるために必要である。2015年4月1日から、免税手続の第三者への委託が可能となり、商店街や物産センター等において、免税販売手続を一括で行う免税手続カウンターを設置できることとなった(図表2-1-68)。これにより、外国語対応への不安や免税手続の煩雑さが解消され、地方の商店街等において免税店が増えることが期待される。また、外国人旅行者にとっても、免税手続の煩雑さが軽減されるとともに、免税手続カウンターにおいて各店舗における購入金額を合算して免税販売の購入下限額を判定することができ、旅行消費額の増加も期待される。
 
図表2-1-67 免税店数の地域別割合の推移
図表2-1-67 免税店数の地域別割合の推移
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図表2-1-68 商店街における免税手続カウンター設置のイメージ
図表2-1-68 商店街における免税手続カウンター設置のイメージ

 そのほか、外航クルーズ船が寄港する港湾における輸出物品販売場に係る届出制度が創設された。この結果、クルーズ埠頭(クルーズ船の接岸岸壁や旅客船ターミナル等)への免税店の臨時出店が容易となり、免税品を購入後直ちに船に持ち込めるクルーズ埠頭において、外国人旅行者による地元物産品等の購入が促進された。
 また、免税店における購入商品等を一時預かりまたは配送することによる訪日外国人旅行者の「手ぶら観光」について、そのサービス拠点を明示するための共通ロゴマークを2015年3月に決定した。今後、一括カウンター等への共通ロゴマークの掲示の促進と併せて、訪日外国人旅行者に対する「手ぶら観光」の認知度の向上を図ること等により、一層の買物需要の喚起が期待される。

■地方における免税店の事例〜秋田まるごと市場〜
 秋田県秋田市卸町にある「秋田まるごと市場」(図表2-1-69)は、免税店としての許可を2014年12月に取得し、2015年1月下旬から免税販売を開始している。秋田県内の免税店は、免税制度が改正され対象品目が大幅に拡大した2014年10月1日時点で秋田空港国際線ターミナルや秋田市のデパート、大型ディスカウント店等7店で、いずれも県外資本の事業者であったため、「秋田まるごと市場」が初めての秋田県内資本の事業者となった。
 
図表2-1-69 秋田まるごと市場(秋田県秋田市)
図表2-1-69 秋田まるごと市場(秋田県秋田市)

 「秋田まるごと市場」は、秋田空港や秋田港に近い場所に立地し、高速道路からのアクセスも容易であり(図表2-1-70)、また、大型バスが駐車できる駐車場やフードコートを完備しており、これまでも台湾、中国、韓国等から、毎年約1,000人以上の外国人観光客が訪れていた。秋田県内の消費が伸び悩む中、円安方向への推移等の影響により秋田県を訪れる外国人観光客は増加している。「秋田まるごと市場」では秋田の銘菓、特産品、生鮮食品等の県内の地域産品を販売しており、訪れる外国人旅行者の多くが、果物や食品等を購入することからも、免税店許可取得により、更なる外国人観光客による地元産品の消費が期待される。
 
図表2-1-70 秋田まるごと市場の位置
図表2-1-70 秋田まるごと市場の位置

 また、2015年にはクルーズ船のオプショナルツアーとして組み込まれており、今後更なる効果が期待されているところである。

2)クルーズ船の寄港による地方経済への効果
 クルーズ船は地方部を含む100港以上に寄港しており、その中でも外航クルーズ船は50港以上に寄港している。我が国港湾へのクルーズ船の寄港回数は近年増加しており、2014年には1,204回と過去最高を記録し(図表2-1-71)、クルーズ船により入国した外国人旅客数は41.6万人となった(図表2-1-72)。福岡市や神戸市等の調査によると、大型クルーズ船の寄港地における経済効果は一人当たり3〜4万円、1寄港当たり1〜2億円と試算されており、特に母港(発着地)では、その効果が更に大きなものとなっている。
 
図表2-1-71 我が国港湾へのクルーズ船の寄港回数の推移
図表2-1-71 我が国港湾へのクルーズ船の寄港回数の推移
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図表2-1-72 クルーズ船による外国人入国者数(概数)
図表2-1-72 クルーズ船による外国人入国者数(概数)

■青森港におけるクルーズ船寄港の効果
 青森港への2014年のクルーズ船寄港回数は東北地方では最多の20隻となっており、特に近年では外国船社の寄港回数が急激に増加している(図表2-1-73)。2014年の乗船客数は26,617人であり、外国人客は11,039人、日本人客は15,578人となっている。
 
図表2-1-73 青森港のクルーズ船寄港実績の推移
図表2-1-73 青森港のクルーズ船寄港実績の推移
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 2014年に青森市等が実施したクルーズ船観光客のアンケート調査によると、日本人観光客一人当たりの消費額は6,840円、外国人観光客一人当たりの消費額は8,100円となっており、日本人観光客の消費額よりも外国人観光客の消費額が多いということがわかった。
 購入品目別割合を見ると、外国人は伝統工芸品が36.6%で最も多く、日本人はりんご関連が31.0%、海産物が28.8%となっており、共に青森県の地域産品の購入割合が高いことから、地域経済に一定の寄与をしているものと考えられる(図表2-1-74)。
 
図表2-1-74 購入品目別割合(件数)
図表2-1-74 購入品目別割合(件数)
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 前述の青森市等が実施したアンケート調査の消費額には含まれてないが、クルーズ船寄港時には、十和田湖や白神山地等の青森県の観光資源を活かしたオプショナルツアー(地域観光)が組まれているため、実際の消費額はこれよりも高い額であると推察され、観光消費の発生による間接効果を含めるとクルーズ船寄港による経済効果は更に大きなものと推察される。
 このように、クルーズ船は寄港地を中心に一度に多くの観光客が訪れ、地域の活性化に寄与している。
 国土交通省としては、クルーズ振興を通じたより一層の地域の活性化を推進するため、既存施設を有効活用しつつ、旅客船ターミナルの機能強化、港湾施設の諸元や寄港地周辺の観光情報を国内外に発信するウェブサイトの充実、外航クルーズ客に地域の観光情報等を提供する場としての「みなとオアシス」の活用等に取り組んでいる。
 今後とも、2020年の「クルーズ船100万人時代」の実現を目指すとともに、クルーズ振興を通じた地方の創生を図るため、ソフト・ハード両面から積極的な取組みを推進していく。

(日本人観光客の地域経済への効果)
 2014年の国内における外国人を含めた旅行消費額22.4兆円のうち、日本人国内宿泊旅行消費額は14.3兆円、日本人国内日帰り旅行消費額は4.5兆円であり、日本人の国内旅行消費額は国内における旅行消費額の80%以上を占めている(図表2-1-75)。
 
図表2-1-75 国内における旅行消費額の推移
図表2-1-75 国内における旅行消費額の推移
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 また、我が国の延べ宿泊数の推移を見ると、日本人延べ宿泊数・外国人延べ宿泊数共に増加傾向にあるものの、依然として外国人延べ宿泊数よりも日本人延べ宿泊数の占める割合が大半を占めている(図表2-1-76)。このため、地方経済にとっては外国人観光客だけではなく日本人観光客の呼び込みも引き続き重要である。
 
図表2-1-76 我が国の延べ宿泊数の推移
図表2-1-76 我が国の延べ宿泊数の推移
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 2014年の国民一人当たりの国内宿泊観光旅行回数は1.29回、国民一人当たりの国内宿泊観光旅行宿泊数は2.12泊となっている(図表2-1-77)。また、日帰り旅行延べ人数は前年比7.2%減の1億9,158万人・回、宿泊旅行延べ人数は前年比7.0%減の1億6,405万人・回となっており、いずれも2011年を底に回復傾向にあったが、2014年は減少に転じた(図表2-1-78)。
 
図表2-1-77 国内宿泊観光旅行の回数及び宿泊数の推移
図表2-1-77 国内宿泊観光旅行の回数及び宿泊数の推移
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図表2-1-78 国内日帰り・宿泊観光旅行延べ人数の推移
図表2-1-78 国内日帰り・宿泊観光旅行延べ人数の推移
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 図表2-1-79は地域別に国内宿泊旅行消費額の収支を見たものだが、例えば、北海道に居住している人が観光を目的に東京で宿泊し、10,000円を消費した場合は、「観光・レクリエーション」において、居住地の北海道と目的地の関東にそれぞれ消費額の10,000円が計上される(「国内旅行全体」は、「観光・レクリエーション」、「帰省・知人訪問等」、「出張・業務」を合計したもので「国内旅行全体」のみ地域別収支を棒グラフにしている。)。これを見ると、関東、中部、近畿のいわゆる三大都市圏から地方にお金が流れている傾向があることがわかる。
 
図表2-1-79 地域別国内宿泊旅行消費額の収支(2014年)
図表2-1-79 地域別国内宿泊旅行消費額の収支(2014年)
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 旅行消費額の大半を占める国内宿泊旅行は地域経済に大きな影響を与えるが、北海道、北陸信越、沖縄の三地域は、「観光・レクリエーション」を目的とした宿泊が特に突出しており、宿泊旅行の全体収支の黒字額を引き上げている。

(地方観光圏の整備を通じた観光地域づくり)
 観光庁では、「観光圏の整備による観光旅客の来訪及び滞在の促進に関する法律(観光圏整備法)」に基づき、滞在交流型観光に対応できる区域として「観光圏」の整備を促進している。これにより、ゴールデンルートにある地域だけではなく、特定のテーマを持って国内外に訴求する際立った魅力を持つ観光地域を創出し、観光を通じた地域の活性化を図っている。
 2014年度に観光圏整備実施計画の認定を受けた北海道の蘭越町、ニセコ町、倶知安町の3町からなる「ニセコ観光圏」は、世界有数のパウダースノーとスキーヤー・スノーボーダーの安全確保の活動により、国内はもとより、世界各国から観光客が訪れ、日本人延べ宿泊数・外国人延べ宿泊数共に増加傾向にあり、2013年は約153万人泊となった(図表2-1-80)。
 
図表2-1-80 ニセコ観光圏における宿泊延数の推移
図表2-1-80 ニセコ観光圏における宿泊延数の推移
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 また、同計画で「雪国観光圏」として認定を受けている新潟県の魚沼市、南魚沼市、湯沢町、十日町市及び津南町、群馬県みなかみ町並びに長野県栄村の7市町村は、JR上越新幹線(乗降駅2箇所)や関越自動車道等の高速交通網が整備されている。越後湯沢駅を中心に、首都圏とは2時間弱で結ばれており、日帰り観光も可能となっている。
 「雪を通じた国際観光の展開」、「雪国らしい新たな観光産業の形成」、「滞在型観光の促進」、「地域づくり・人づくりの推進」を基本方針として取り組んでおり、圏域市町村の宿泊延数は増加傾向にある(図表2-1-81)。
 
図表2-1-81 雪国観光圏における宿泊延数の推移
図表2-1-81 雪国観光圏における宿泊延数の推移
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(2)物流・情報
(インターネット通販と物流)
 ICT(情報通信技術)の発展により、時間・距離・場所を超え、世界中のヒトとつながることが可能となった。近年は、情報通信機器の普及が進んでおり、情報通信機器の普及状況の推移を見ると、パソコン、携帯電話・PHSは1990年代後半から2000年代前半にかけて普及し、スマートフォン、タブレット型端末は2010年から急速に普及している(図表2-1-83)。
 
図表2-1-83 情報通信機器の普及状況の推移(世帯)
図表2-1-83 情報通信機器の普及状況の推移(世帯)
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 情報通信機器の普及に伴い、インターネット利用率も拡大している。年齢階層別にインターネット利用率を見ると、2013年末時点で13〜59歳のインターネット利用率は90%を超えており、60歳以上の年齢層においてもインターネット利用率は拡大傾向にある(図表2-1-84)。
 
図表2-1-84 年齢階層別インターネット利用率の推移(個人)
図表2-1-84 年齢階層別インターネット利用率の推移(個人)
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 このような、情報通信機器の普及やインターネット利用率の拡大を背景に消費者の生活も変化し、消費者は時間・場所を限らず買い物ができるようになった。そのため、商取引についてもインターネットを利用した取引が増加している。
 我が国の消費者向け電子商取引市場規模は着実に増加してきており、2013年は約11.2兆円、電子商取引の浸透度合を示す指標であるEC化率注36は約3.7%となっている(図表2-1-85)。
 
図表2-1-85 我が国の消費者向け電子商取引市場規模の推移
図表2-1-85 我が国の消費者向け電子商取引市場規模の推移
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 こうした電子商取引市場の成長や消費者ニーズの多様化は物流分野にも影響を与えている。貨物流動量の推移を見ると、流動1件当たりの貨物重量は減少しているが、件数は増加している。また、宅配便注37の取扱個数の推移を見ても、取扱個数は増加していることから、輸送単位が小口化・多頻度化していることがわかる(図表2-1-86、図表2-1-87)。
 
図表2-1-86 貨物流動量の推移(3日間調査)
図表2-1-86 貨物流動量の推移(3日間調査)
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図表2-1-87 宅配便取扱個数の推移
図表2-1-87 宅配便取扱個数の推移
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 これに伴い受取人の不在等による再配達が増加している現状を踏まえ、再配達の削減を通じた物流の効率化を推進するため、宅配事業者、通販会社等で構成される「宅配の再配達の削減に向けた受取方法の多様化の促進等に関する検討会」を開催し、宅配の受取方法の多様化の促進等を通じた再配達の削減に向けた現状把握、要因分析を行うとともにこれらに基づき諸課題及び対応の方向性に関する検討を行っている。
 このような背景から、近年では物流業務の一層の効率化のため、物流施設の再編・集約が行われ、保管のみならず、荷捌き、流通加工機能、高度情報処理機能等様々な機能を併せ持った大型の物流施設が、消費者が居住する地域に近い都市近郊に立地する傾向がある。こうした物流施設の需要の高まりから、不動産投資信託の投資対象としても魅力が上がっており、J-REIT注38による取得資産を見ると、従来はオフィス、住宅、商業・店舗が中心であったが、近年では、物流施設への投資が伸びを見せている(図表2-1-88)。
 
図表2-1-88 J-REIT投資対象の資産規模の推移について
図表2-1-88 J-REIT投資対象の資産規模の推移について
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(物流による地域社会への貢献)
1)物流施設立地による地域の雇用
 従来の物流施設は平屋建ての倉庫で商品を保管するだけのものが主流であったが、前述のように、最近の物流施設は、荷物の仕分けや梱包、在庫管理等の作業も行っている。こうした多機能型の大型物流施設は、近年活発に建設されており、地方の雇用創出にも貢献している。

■(株)ビーイングホールディングス「白山第3SCMセンター」〜石川県白山市〜
 石川県金沢市の総合物流輸送企業(株)ビーイングホールディングスは、同県白山市に敷地面積2,992坪、延べ床面積約3,940坪の大型の物流センターである白山第3SCM(サプライチェーン・マネジメント)センターを2014年11月に建設した。
 今回建設された白山第3SCMセンターは、従来型の施設よりも多くの雇用を創出しており、(株)ビーイングホールディングスが所有している既存施設と比較すると以下のとおりまとめられる。
 
図表2-1-89 (株)ビーイングホールディングス所有の物流施設概要
図表2-1-89 (株)ビーイングホールディングス所有の物流施設概要
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 このように、近年建設されている大型の物流施設は地方の雇用創出にも貢献している。インターネット通販の拡大や多頻度小口配送の増加等により、今後も大型物流施設の需要は増えると考えられることから、物流施設立地による地方の雇用創出への期待が高まっている。
 
図表2-1-90 白山第3SCMセンターの位置
図表2-1-90 白山第3SCMセンターの位置

 
図表2-1-91 白山第3SCMセンターの外観
図表2-1-91 白山第3SCMセンターの外観

2)物流事業者による地域支援の取組み
 人口減少・少子高齢化や地域構造の変化等に伴い、特に地方においては食料品等の日常の買い物が困難な状況に置かれる人への対応が必要となっているほか、輸送網の維持も課題となっている。こうした課題に対し、高齢者の多い地域において、地方公共団体と物流事業者が連携し、高齢者の見守りや買い物支援等を実施し、生産者に対して販売機会を創出するなど、地域の維持・活性化に向けた取組みを実施している。このような取組みにより、例えば高齢者が庭先で作った野菜等、従来は市場に流通しなかった農産品が「道の駅」や「地域外」で販売されるようになるなど、新しい物流チャネルによるモノの流れが期待される。本格的な人口減少社会においても、このような新たな物流チャネルが全国各地で起きれば、モノの流れを通じた地域の活性化や我が国の活力の源泉につながるものと考えられる。

■宅配事業者と連携した道の駅「ソレーネ周南」〜山口県周南市〜
 山口県周南市は市域の約68%を占める中山間地域に広大な農地を有している。近年は、過疎化・高齢化が進み、耕作放棄地の増加、農産品の生産量減少による販売機会ロス・収入減、交通インフラの衰退による移動・買い物困難等、日本各地に共通する課題を多く抱えていた。
 そのような背景から、2014年5月17日にオープンした国道2号沿いの道の駅「ソレーネ周南」では、「オール周南で24時間周南ブランド発信」をコンセプトに、多くの道の駅が提供している「観光型」の機能に加え、道の駅を市民の交流・コミュニケーションの場とし「生きがい」を支える「福祉型」の機能も備えることで、地域の課題解決への取組みを行っている。
 さらに、同年11月17日には、周南市と道の駅「ソレーネ周南」を運営する(一社)周南ツーリズム協議会及びヤマト運輸(株)の三者で「地域活性化包括連携協定」を締結し、官民一体となって地域の活性化及び市民サービスの向上を目指し、地域住民の生きがい支援や周南ブランドの発信に取り組んでいる。
 
図表2-1-92 「地域活性化包括連携協定」の取組み概要図
図表2-1-92 「地域活性化包括連携協定」の取組み概要図

 「地域活性化包括連携協定」による1つ目の取組みとして、これまで少量のために市場に出すことができなかった高齢者が庭先で作った野菜や地域の農産品・加工品を、1袋から自分で値段を決めて出品・販売できる場を提供している。また、交通手段がない中山間地域の農家や生産に集中したい食品加工工場等、直接持ち込むことが難しい場合には、ヤマト運輸(株)のセールスドライバーが集荷に行き、出品商品を折りたたみ式コンテナにそのまま入れるだけで、「ソレーネ周南」へ納品できる仕組みとなっている。
 2つ目の取組みとして、高齢者や障害者の買い物・見守り支援が挙げられる。カタログ通販やネットスーパー等の活用により、「ソレーネ周南」で受注・商品のピックアップ・梱包を行い、ヤマト運輸(株)のセールスドライバーが自宅まで届けることで、道の駅まで来ることができない高齢者や障害者への買い物を支援している。また、配達時に安否確認を行い、異常時には市の担当者に連絡をすることで、見守り支援も同時に行う予定である。
 3つ目の取組みとして、地域産品の域外への販売、周南ブランドの発信・販路拡大、6次産業化の支援が挙げられる。周南市の特産品・加工品や高齢者が作った農産品等を道の駅に来た地域の人や観光客に販売するだけでなく、全国の消費者やレストラン等へ向けて販売する仕組みの構築を行い、周南市の特色を盛り込んだオリジナル送り状(宅急便伝票)も作成することで、全国へのPRを検討している。また、国内輸送だけでなく海外への輸出についてもヤマトグループがサポートし、周南ブランドの国内外への発信を強化していく予定である。

 以上のように、物流事業者は様々な面において、地域の維持・活性化に向けた取組みを実施している。特に人口減少・高齢化が進むと言われている地方においては、こういった地域の維持・活性化に向けた取組みが必要である。そのため、国土交通省は、学識経験者、物流事業者、地方公共団体、NPO等の関係者からなる「地域を支える持続可能な物流システムのあり方に関する検討会」を2014年10月に開催した。本検討会において、過疎地等における物流及びその他の生活支援サービスに関するニーズ、輸送実態、各地における新たな取組みの状況、課題とその対応の方向性について検討し、2015年3月には「地域を支える持続可能な物流システムのあり方に関する検討会報告書」を取りまとめた。また、本検討会における検討を踏まえ、2015年度には持続可能な物流ネットワーク構築に関するモデル事業を実施する予定である。

(ICTの普及による多様な働き方)
1)テレワークの普及・推進
 ICT(情報通信技術)を活用した、働く場所にとらわれない柔軟な働き方であるテレワークは、家庭生活との両立による就労確保、子育て、高齢者・障害者介護を担う者の就業促進、地域における就業機会の増加等による地方活性化、余暇の増加による個人生活の充実、通勤混雑の緩和等、様々な効果が期待されている。
 国土交通省では「都市部への人口・機能の一極集中による弊害の解消」、「地域活性化」等を目的とした、テレワークの普及・推進に関する取組みを以下のとおり実施している。

■テレワーク人口実態調査
 テレワーカー率やテレワーカー人口等について定量的に実態把握を行い、結果を公表することにより普及・啓発に活用している。
 
図表2-1-98 在宅型テレワーカーの推移
図表2-1-98 在宅型テレワーカーの推移
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■テレワークセンターの整備
 テレワークを推進する施設として、在宅勤務の代替スペースやモバイルワークの拠点となる「テレワークセンター」(共同利用型オフィス)の整備の検討をしている。また、これまでは、大都市での整備を主に検討してきたが、人口減少・少子高齢化の中、地方都市部等においても働く場所の創出、中心市街地の空き店舗の有効活用等によるまちの賑わい創出等が求められていることから、地方都市の活性化等を目的とし、まちづくりと関連したモデル実証実験の実施を検討するなど、今後も普及・推進の取組みを拡充していく予定である。
 
図表2-1-99 テレワークセンター社会実験の概要
図表2-1-99 テレワークセンター社会実験の概要

2)サテライトオフィス
 地方に移住をする場合は、その移住する場所に仕事がなければならないと考えるのが普通である。しかし、ICTが普及した現在では、都心等の本拠地から離れた地域にある職場をサテライトオフィスと称し、働く場所にとらわれない生活をする事が可能となっている。
 徳島県徳島市の中心部から車で約1時間程度の中山間地域にある人口6千人程の神山町では、行政と現地特定非営利活動法人グリーンバレーが中心となり地域の活性化に取り組んでいる。2004年に光ファイバー網が町全域に整備され、中山間地域にもかかわらずブロードバンド環境が構築された。神山町では2007年に移住交流支援センターを設置することになった際、移住交流に関する業務をグリーンバレーに委託した。グリーンバレーは他市町村が行っているような抽選や先着順で移住者を決める方式は採らず、移住後に神山町で何をするか提案してもらい、その内容から移住者を決定するなど今後を見据えた戦略をとっている。また、近年ではサテライトオフィスを活用したIT関連企業等が十数社進出しており、なかでも、築90年程の古民家をガラス張りに改装するなど、現代風に再生された「えんがわオフィス」は、映像関連企業のオフィスであるにもかかわらず、地域住民や視察者等様々な人々が集まるなど、オフィス自体が人を呼ぶ施設となっており、賑わいが創出されている珍しい事例である。
 また、近年ではサテライトオフィスが増えたことにより、周辺でも雇用が創出されるなど、地域活性化が図られている。
 今後、他の地方圏においてもサテライトオフィス等を活用した地域活性化が期待される。
 
図表2-1-100 様々な人々が集う古民家を活用したサテライトオフィス
図表2-1-100 様々な人々が集う古民家を活用したサテライトオフィス

(3)地域経済循環と地域づくり
(地域経済循環の考え方)
 地域経済を「資金の流れ」から見ると、地域がその強みを活用して生み出した財やサービスを地域外に供給することによって地域外から資金を獲得し、その資金を地域内で循環させることで地域に新たな需要を創出するという経済循環構造を構築し、地域経済を活性化することができる。より具体的に示すと、まず地域外から獲得した資金は企業の従業者である地域住民の所得となって地域内で消費される。そして、その消費は地域内の小売業やサービス業等の収入となって、その従業者である住民の所得となり、さらに消費が行われるという循環が生まれる。また、消費に回らなかった資金は、金融機関へ貯蓄され、金融機関を通じて地域内に再投資(融資)され、新たな生産へとつながっていく(図表2-1-102)。このような経済循環構造が機能することによって、地域内の雇用や所得が生み出され、地域経済の持続性が保たれることになる。
 
図表2-1-102 地域経済循環のフロー
図表2-1-102 地域経済循環のフロー

 しかし、地方の市町村の多くでは、この循環がうまく機能していない状況にある。地域の基盤産業が低迷し、従前よりも地域外から資金を獲得できなくなっており、獲得した資金についても、地域外の大型ショッピングセンターやインターネット通販の利用等によって地域外に消費が流出する傾向にある。また、地域で貯蓄された金融機関の預金についても、地域内への再投資が減少しており、2004年と2014年の都道府県別預貸率を比較して見ると、多くの都道府県で預貸率が低下していることがわかる(図表2-1-103)。こうした地域内での消費や投資の減少は、雇用機会や所得の減少へとつながり、地域の活力が失われる一因となっている。
 
図表2-1-103 都道府県別預貸率の変化
図表2-1-103 都道府県別預貸率の変化

(地域経済循環構造の改善策)
 地域の経済循環の構造を是正し、適正な循環に改善していくためには、まずは地域の経済循環について定量的な分析を行い「見える化」することによって、地域外から資金を獲得している産業や、資金の流出が多い分野といった地域ごとに異なる特性を把握することがスタートになる。また、こうした経済循環構造というフロー面の把握と同時に、自然環境、インフラ、都市構造、文化・伝統といった地域資源というストック面についても目を向けておく必要がある。
 このような現状分析を踏まえ、地域の実情に合った対策を講じていくことになるが、ここでは、考えられる対策として「地域外からの資金の獲得」、「地域外への消費流出の抑制」、「地域内での投資手法の多様化」、「地域の不動産を活用した投資」という4つの側面から見ていく。

1)地域外からの資金の獲得
 地域外からの資金を獲得するための方策としてまず考えられるのは、地域固有の資源を活かした商品や製品等の地域外への販売を促進することである。こうした観点から、各地で6次産業化注39の取組みが積極的に推進されている。農林水産品等の第1次産品を加工して付加価値を付けた商品を域外へ販売することによって、より多くの資金を獲得できるだけでなく、加工や商品開発等を地域内で行うことで、地域内で雇用や設備投資が生まれ、資金循環を高めることにもつながる。
 次に、地域外から人を呼び込み地域内での消費を促進することも、地域外から資金を獲得するための方策として考えられる。観光は、旅行業や宿泊業だけでなく、農林水産業や小売業、交通事業者までその経済効果が波及する裾野の広い産業と言われており、6次産業化と同様に多くの地域で振興が図られている。その効果を高めるためには、通過型・日帰りの観光ではなく滞留時間を長くするための仕掛けや、地域の材料を使って地域で製造・加工された土産品のプロモーション等を考えていく必要がある。
 また、観光振興だけなく、都市と農村の交流や二地域居住の促進も含めた交流人口の拡大に向けた取組みを推進していくことも有効といえる。

2)地域外への消費流出の抑制
 地域外への消費流出を抑制するということは、より多くの地域住民に地域内で買い物をしてもらい、地域で作られたものを買ってもらうことを意味する。これを検討するにあたっては、現状、住民がどこで買い物をしているかという消費の「場所」、地域外産品の購買率が高い品目はどういったものがあり、そのうち地域内産品に代替できる品目があるか、という消費の「産地」について把握する必要がある。
 まず、消費の「場所」に関しては、郊外の大型ショッピングセンターやインターネット通販等の利用といった地域外での買い物の割合が高まっていることが想定されるが、都市機能の集約や公共交通ネットワーク再構築(コンパクトシティ化)による中心市街地へのアクセス改善を図り、中心市街地の利便性や魅力を高めていくことで、来街者を増加させ地域内での消費拡大を図るという対策が考えられる。
 次に、消費の「産地」に関しては、地域で生産された農林水産物を地域で消費しようとする地産地消の取組みが一つの対策となる。具体的には、直売所や量販店での地場農林水産物の販売や、学校給食や社員食堂での地場農林水産物の利用等の取組みがある。これにより、地場の生産者の所得機会が創出され、地域の資金循環が高まるほか、生産者と消費者の距離が近いことで、流通コストを抑えつつ鮮度の良い産品を提供できる、地場産品への親近感が醸成されるといったメリットもある。
 地産地消は、農林水産物に限らず、エネルギーについても検討することができる。ガソリンや灯油等の化石燃料は輸入に依存しており、地域外(海外)から購買せざるを得ないため、地域外へ消費が流出している代表的な品目となっている。しかし、地域に再生可能エネルギーとして活用できる自然資源等が存在する場合、再生可能エネルギーの導入によって、地域内におけるエネルギー供給が実現すれば地域外へのエネルギー代金の支払いが減少し、地域内で資金が循環することになる。
 この他、省エネルギーの取組みを推進することによっても、地域のエネルギー消費量を削減し、地域外へのエネルギー代金(消費)の流出を抑制することが可能となる。例えば、省エネルギーに関連する設備投資の促進や、コンパクトシティ化による自動車依存度の低減等が考えられる。

3)地域内での投資手法の多様化
 先に記載したとおり、消費に回らなかった資金は、金融機関への預金という形で貯蓄に回り、その資金は金融機関を通じて再投資される。その投資判断は金融機関に委ねられており、将来性のある事業内容や地域のために必要な案件であっても、事業実績や収支等の問題から金融機関では取扱いが難しい案件も存在している。
 近年では、金融機関を介さない新たな投資手法が広がりつつあり、こうした手法は、従前金融機関が担うことが難しかった、例えばソーシャルビジネス注40のような分野への投資を可能とし、投資案件の裾野拡大を通じて、地域内での再投資の活性化に寄与する可能性がある。また、持続的な地域づくりにあたり、公的な財源だけでは対応しきれない部分を補完するために、広く民間からの社会投資や市民からの寄付を促すという役割も担っている。
 ここでは最近の動きとして、クラウドファンディングとソーシャルインパクトボンド(SIB)の二つの取組みを紹介する。

 クラウドファンディングとは、「群衆(Crowd)」と「資金調達(Funding)」を組み合わせた造語で、事業を行いたい法人や個人が、インターネット上に開設されたクラウドファンディングのためのウェブサイト(プラットホーム)に事業内容を掲載し、不特定多数の個人投資家等から資金募集を行う投資手法である。クラウドファンディングには出資者へのリターンのあり方によって寄付型、商品・サービス購入型、貸付型、事業投資型といった類型に分けられる(図表2-1-104)。
 
図表2-1-104 クラウドファンディングの類型
図表2-1-104 クラウドファンディングの類型

 クラウドファンディングの一般的なプロセスは、ウェブサイト(プラットホーム)への掲載申込、サイト運営者による審査、資金募集ページの作成、資金募集の開始、プロジェクトの実行、出資者へのリターン(寄付型を除く)という流れになる。なお、資金募集には目標金額が設定され、目標金額を達成できなければ案件は不成立となって資金調達できない仕組みとしているものもある。
 出資者へのリターンは必ずしも金銭とは限らず、従前の金融サービスでは資金調達が難しかった地域貢献活動であっても、地域のニーズに合致しており出資者の賛同を得ることができれば資金調達が可能となり、結果として新たな域内再投資の流れを生み出すとともに、地域貢献が図られるというメリットがある。加えて、資金募集の告知を通して、住民の地域への関心を高めたり、出資者の人数や資金が集まるまでの期間によって地域のニーズや課題を把握できるといった効果も考えられる。

 ソーシャルインパクトボンド(SIB)とは、社会的問題を解決するための事業をNPO等の主体が民間投資家からの投資を受けて実施し、その事業が社会的成果(行政コストの削減等)をあげた場合に、行政が削減できたコストの一部を投資家へリターンとして支払う投資手法である。成果が得られなかった事業に対しては、行政に支払い義務はなく、投資家にとっては投資資金が戻らずに実質的には寄付を行った形となる。SIBは2010年に世界で初めて英国で実施され、その後、米国、オーストラリア等で、受刑者再犯防止プログラムや児童虐待防止プログラムといった予防的な施策に対して行われている。
 我が国ではSIBの導入実績はまだないが、導入に向けた動きが出始めている。神奈川県横須賀市では、(公財)日本財団がSIB導入のために実施するパイロット事業に協力し、特別養子縁組注41の促進プログラムを2015年4月に開始している。
 具体的な事業内容は、日本財団より資金提供を受けた中間支援組織(今回は日本財団が担う。)が、民間団体へ業務委託し、委託を受けた民間団体は、市と連携して特別養子縁組成立促進に向けたプログラムを実施するというものである(図表2-1-105)。特別養子縁組成立の効果としては、早期に子どもの家庭養護の環境を整えることができることのほか、市内における乳児院・児童養護施設の入所者数減少による施設運営費用の削減が見込まれており、この効果について検証を行う。横須賀市では、本事業を検証した結果、事業の有効性が認められた場合には、2016年度に市の事業としてSIBを組成したいとしている。
 
図表2-1-105 SIBのスキーム(横須賀市の事例)
図表2-1-105 SIBのスキーム(横須賀市の事例)

 このように、SIBは事業による社会的成果に連動して、投資家への償還額、すなわち行政の支払額が決定することから、この社会的成果をいかに定量的かつ客観的に算定できるかが重要となる。様々な分野の社会的事業にこうした評価モデルが確立されることになれば、社会的事業という新たな投資案件が創出され、行政にとっても予算が限られるなかで社会的問題の解決や財政負担の軽減が期待できる。

4)地域の不動産を活用した投資
 地域のストック面に着目した地域経済循環構造の改善策として、地域の不動産を活用した投資が挙げられる。
 地域経済循環における再投資は、企業の設備投資等を通じて、新たな財やサービスの生産へとつながっていくのが一般的な流れである。その一方で、地域の既存の不動産を活用した投資を行うことによって、上記とはまた違った資金循環を生み出す可能性がある。
 国民経済計算より、我が国の家計部門が保有する不動産を見ると、土地が約676兆円、住宅が約303兆円にのぼっており、家計の金融資産の相当部分を占める現金・預金残高の約874兆円を上回る規模となっている(図表2-1-106)。
 
図表2-1-106 家計部門の資産残高の内訳(2013年)
図表2-1-106 家計部門の資産残高の内訳(2013年)
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 このように、我が国の不動産は大きな規模となっているが、そのなかには利用状況の低下や老朽化等により、そこから得られる便益が低下しているものも多い。また、一定の経済的価値をもつ不動産であっても、有効に活用されず、本来の価値を十分に発揮できていない場合もある。
 そこで、地域におけるこうした不動産を活用した投資を行っていくことが、地域経済循環を活発化させる手段の一つとなり得る。考えられる主な投資の例としては、「不動産の価値の向上」を目的とするものと「不動産の資金化」を目的とするものとに分けられる(図表2-1-107)。現状では、リバースモーゲージや不動産証券化といった資金化の手法は、東京圏での取扱いが中心で地方にはまだ広がっておらず、地方都市においてその利用促進に向けた取組みが進められているところである。
 
図表2-1-107 不動産を活用した投資の例
図表2-1-107 不動産を活用した投資の例

 こうした不動産を活用した投資が地域経済循環のフローに与える影響について、図表2-1-102のフロー図をベースにして示すと、「不動産の価値の向上」と「不動産の資金化」のそれぞれの分類によって、そのフローが異なることがわかる。空き家・団地等の再生等の「不動産の価値の向上」に分類される手法は、賃料収入の獲得等によって生産の増加につながる。一方で、リバースモーゲージや不動産証券化といった「不動産の資金化」の手法は、生産の増加をもたらすものではないため、そのフローは生産には向かわずに資金化という形で分配(所得)へと向かうという点が特徴である(図表2-1-108)。
 
図表2-1-108 不動産を活用した投資による地域経済循環への影響
図表2-1-108 不動産を活用した投資による地域経済循環への影響

 地域にあるストック(資源)に着目し、これを活用した投資によって、ストックの価値の向上や潜在的な価値の発揮が実現し、賃料や資金化等で新たに生まれたフローが消費の拡大や貯蓄の増加へとつながり、域内の資金循環を活性化させるものと考えられる。

(地域経済循環分析に基づく地域活性化の事例)
 これまで見てきたような地域経済循環の分析をベースに施策を立案している地方公共団体の事例として、熊本県水俣市の取組みを紹介する。
 水俣市では、水俣病の教訓を出発点として先進的な「環境まちづくり」の取組みを進めてきたが、その取組みは地域経済を活性化するところまでは至らず、人口減少や近年の景気低迷等も相まって、地域社会の疲弊は続いていた。そこで、こうした状況を打開し、環境関連施策を地域経済の活性化に結び付けていくために、2010年度に「みなまた環境まちづくり研究会」を発足し議論をスタートさせた。研究会での議論をもとに「平成23年度水俣市環境まちづくり推進事業」で地域経済循環分析に基づく戦略を策定し、2012年度から環境負荷を少なくしつつ、経済発展する新しい形の地域づくりを目指して、「環境首都水俣」創造事業の取組みを開始している。
 地域経済循環分析によって、水俣市では休日を中心に市外のロードサイド店等に消費が流出し、中心市街地の売上額が10年間(1997年〜2007年)で約50億円減少していること、エネルギー代金の支払により年間約86億円が市外に流出していることが判明した。また、投資の面では、市内の預金額に対し、市内の貸出にまわる割合(預貸率)は、2〜3割と低い割合となっており、市内で貯蓄された資金が市外への投資や国債購入等を通じて市外に流出していることが明らかとなった(図表2-1-109)。
 
図表2-1-109 水俣市の地域循環の課題(対策前)
図表2-1-109 水俣市の地域循環の課題(対策前)

 こうした分析で明らかになった課題を踏まえ、市内での消費と投資を拡大するために、それぞれの分野で対策が実施されている。

1)中心市街地活性化の取組み
 消費の市外への流出を抑制し、公共交通機関の利用促進と商店街の活性化を図るため、コミュニティバスを利用して商店街を訪れる人にエコポイントを発行する実証実験を「環境首都水俣創造」事業(環境省補助)により2012年8月21日から2013年1月31日までの約6ヶ月間にわたり実施した。
 エコポイントはバス停で配布されるバス乗車の証明チケット(券)を乗客が商店街で買い物をする際に提示すると付与され、また、買い物の荷物が大きい場合にはバス利用者は無料で宅配サービスを利用できる仕組みとした。当初は事業周知が進まず、券の配布がなかなか進まなかったが、徐々にメリットが理解され、券の利用数が増えるとともに、バス利用者がこれまで入ったことのない店を訪れるなど、商店街にとって新たな顧客獲得の機会となった。また、来店者数を把握していた商店街の17店舗における、来店者数に占める券の利用者数の割合は、開始当初は1%未満であったが6ヶ月目の1月には39.0%まで上昇した(図表2-1-110)。
 
図表2-1-110 17店舗における来店者に占める利用者数の割合
図表2-1-110 17店舗における来店者に占める利用者数の割合
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 また、コミュニティバスの乗客数は2009年度(2008年10月−2009年9月)以降、減少傾向にあったが、2012年1月に大幅な路線見直しを実施し、どのバスも中心部(商店街、医療センター)を通るように変更し、乗客数は下げ止まっている。
 こうした取組みの成果もあって、2012年の水俣市の商品別地元購買率はすべての商品で2009年に比べて上昇しており、市内での消費が活性化されたことがわかる(図表2-1-111)。
 
図表2-1-111 水俣市の商品別地元購買率の変化(2009年、2012年)
図表2-1-111 水俣市の商品別地元購買率の変化(2009年、2012年)
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2)観光振興〜肥薩おれんじ鉄道「おれんじ食堂」
 水俣市を訪れる観光客は、ピークであった1994年〜1999年の70万人前後から10年間で半減しており、市内での消費を増やすための施策として、観光客の増加に向けた取組みが実施された。その中の一つとして、「環境首都水俣」創造事業(環境省補助)により、2013年3月から肥薩おれんじ鉄道に観光列車「おれんじ食堂」が導入された。
 「おれんじ食堂」は、世界的工業デザイナーの水戸岡鋭治氏のデザインにより既存の車両が改造された2両編成、定員43名の列車である。「食とスローライフを満喫する列車」をコンセプトに、地産地消、旬の食材にこだわった料理が味わえ、停車駅では特産品を買うことができ、車窓からの風景を楽しみながら、新幹線では30分ほどで移動できる新八代(熊本県)〜川内(鹿児島県)間を約4時間かけて運行している(図表2-1-112、図表2-1-113)。
 
図表2-1-112 おれんじ食堂の外観
図表2-1-112 おれんじ食堂の外観

 
図表2-1-113 おれんじ食堂 1号車
図表2-1-113 おれんじ食堂 1号車

 「おれんじ食堂」は運行開始以来、テレビ、雑誌等で大きな話題となり、2004年の開業以降、ほぼ一貫して減少してきた肥薩おれんじ鉄道の利用者が2013年度に増加に転じ、それに伴って売上もまた増加した(図表2-1-114)。地域の自然資源や特産品を活かした観光収入の増加は、市外からの資金獲得に効果をあげていると考えられる。
 
図表2-1-114 肥薩おれんじ鉄道の売上(2012年度と2013年度の比較)
図表2-1-114 肥薩おれんじ鉄道の売上(2012年度と2013年度の比較)
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3)再生可能エネルギーの導入
 市内のエネルギー収支を改善するための対策として、木質バイオマス注42発電とメガソーラー等の設置が計画されている。
 木質バイオマス発電は、水俣市及び周辺地域の間伐材等を収集し、破砕・選別を経て加工された燃料チップを燃焼させて発電を行うものである。この事業により、バイオマス発電所の運営や、その他林業、製材関連を合わせて市内で多数の雇用創出が想定されている。
 また、メガソーラーについては、市内の遊休地数か所に太陽光パネルを設置して大規模な太陽光発電を行うもので、そのうちの一部は、地元の中核企業等によって既に事業化されている。

4)環境金融制度の導入
 市内の投資を促進し、低炭素化を図るため、2013年度より地元中小企業を対象に環境関連の融資の保証料全額と3年分の利子を全額補給する、全国でもトップレベルの水準の環境金融制度「みなまたグリーン注43」を開始した。
 この制度は、市内中小企業者が市内金融機関から、熊本県信用保証協会が実施する「くまもとグリーン保証制度」を利用した融資を受けたときに、融資利用者が信用保証協会へ支払うべき「信用保証料」の全額と、融資を受けた日から3年以内に支払った「約定利子に相当する額」を、市が補助金として交付する仕組みとなっている(図表2-1-115)。
 
図表2-1-115 「みなまたグリーン」の仕組み
図表2-1-115 「みなまたグリーン」の仕組み

 「みなまたグリーン」は、2013年度中に、太陽光発電設備、低排出ガス社用車、リサイクル設備、高効率空調、LEDの導入への融資10件、約1.6億円の投資促進効果があった。こうした環境金融制度の取組みは市内の投資を促進するだけではなく、省エネルギー化によって化石燃料の消費量が減少し、市外への資金の流出が抑制されるという効果をもたらすことになる。
 このように、地域における資金の流れを定量化して把握することで、地域活性化のための施策の立案やその効果の検証に活用できる。こうした考え方は、今後広がりを見せていくことが予想されるが、行政だけでなく、地域の企業や住民といったすべての主体に浸透させていくことが望ましい。

 上記のような取組みに加えて、先に述べた「不動産を活用した投資」もまた有効と考えられる。例えば、水俣市の2013年の空き家率は17.1%と、全国平均13.5%、熊本平均14.3%を上回っている。こうした状況を踏まえ、街なかの空き家をリフォームし、その価値を向上させ移住者や街なかへの住み替え希望者に賃貸することによって、賃料収入が発生するだけでなく、地域内での消費が増加し資金循環が活性化する可能性がある。
 地域の資金循環を考えるとき、フロー面を把握するとともに、新たなフローを創出できるストックの存在についても見ていく必要がある。
 お金は使ってしまえば終わりなのではなく、そのお金は巡り巡って誰かのもとへと渡る。使ったお金が「地域の誰か」に渡るという意識と行動を地域全体で積み重ねていくことが、自らが暮らす地域を守り、豊かにすることにつながるものと考える。


注35 タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム
注36 すべての商取引額(商取引市場規模)に対する電子商取引市場規模の割合。消費者向け電子商取引におけるEC化率は、小売業・サービス業における値を指す。
注37 一般貨物自動車運送事業の特別積合せ貨物運送又はこれに準ずる貨物の運送及び利用運送事業の鉄道貨物運送、内航海運、貨物自動車運送、航空貨物運送のいずれか又はこれらを組み合わせて利用する運送であって、重量30kg以下の一口一個の貨物を特別な名称を付して運送するものをいう。
注38 J-REIT:JAPAN Real Estate Investment Trustの略。多くの投資家から集めた資金で、オフィスビルや商業施設、マンションなど複数の不動産等を購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配する商品。((一社)投資信託協会ウェブサイトより引用)
注39 第1次産業としての農林漁業と第2次産業としての製造業、第3次産業としての小売業等の事業との総合的かつ一体的な推進を図り、地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取組み。
注40 環境保護、高齢者・障害者の介護・福祉から、子育て支援、まちづくり、観光等に至るまで、多種多様な地域社会の課題解決に向けて、住民、NPO、企業など、様々な主体が協力しながらビジネスの手法を活用して取り組むことをいう。
注41 特別養子縁組とは、原則として6歳未満の子どもの福祉のため、特に必要があるときに、子どもとその実親側との法律上の親族関係を消滅させ、実親子関係に準じる安定した養親子関係を家庭裁判所が成立させる縁組制度である。
注42 「バイオマス」とは、生物資源(bio)の量(mass)を表す言葉であり、「再生可能な、生物由来の有機性資源(化石燃料は除く)」のことを呼び、そのなかで、木材からなるバイオマスのことを「木質バイオマス」と呼ぶ。木質バイオマスには、主に、樹木の伐採や造材のときに発生した枝、葉等の林地残材、製材工場等から発生する樹皮やのこ屑等のほか、住宅の解体材や街路樹の剪定枝等の種類がある。
注43 水俣市「くまもとグリーン保証制度」利活用促進補助金制度の通称。


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