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平成17年5月23日付朝日新聞社説「長良川堰10年 この惨状をどうする」
に対する国土交通省の考えについて

平成17年5月23日付朝日新聞朝刊に「長良川堰10年 この惨状をどうする」との社説が掲載されました。これに対しまして、国土交通省の考えを取りまとめて、6月10日に朝日新聞社に送付しました。その内容を以下に掲載いたします。

朝日新聞朝刊社説


長良川河口堰につきましては、平成7年に事業が完成し、同年から管理運用を開始して今年ですでに10年が経過しました。この間、河口堰は治水、利水面で大きな効用を発揮するとともに、環境の保全上特段の支障は生じていないと考えています。

まず、治水面では、河口堰建設と一体不可分のものとして実施した長良川下流部の大規模しゅんせつにより川の断面積が大きくなり、洪水時に、長良川下流部の水位が堰運用前に比べて大幅に低下して長良川下流部は飛躍的に安全になりました。このことは、学識経験者からなる「中部地方ダム等管理フォローアップ委員会(堰部会)」において確認され、沿川の自治体、住民の方々も実感されているところです。

次に、利水面では、長良川河口堰の完成によって新たに愛知県知多半島地域の4市5町や三重県北勢地域の2市3町及び中勢地域の3市5町1村に水道用水を供給するとともに、堰運用以前は塩水の混入により取水が困難となっていた既存の工業用水やかんがい用水等についても、堰運用後は安定した取水が可能となりました。河口堰の新規開発水量については、その全てについて需要が発生しているわけではありませんが、これらの効用は極めて大きなものであり、「中部地方ダム等管理フォローアップ委員会(堰部会)」では、このことについても確認されています。

一方、環境面では、平成7年7月に、学識経験者の指導・助言を得ながら、堰運用後の環境の変化を把握し、環境保全対策の効果を確認することを目的として「長良川河口堰モニタリング委員会」を設置し、平成11年度までの5年間モニタリング調査を実施しました。また、平成12年度からは、「中部地方ダム等管理フォローアップ委員会(堰部会)」において指導・助言を頂きフォローアップ調査を実施してきたところです。

この10年間の環境に関する調査結果については、平成17年3月に行われた「中部地方ダム等管理フォローアップ委員会(堰部会)」において審議され、堰運用に伴う淡水化及び水位の安定化等による環境の変化はおおむね安定し、環境の保全上特段の支障は生じていないことが確認されています。

私どもとしては以上のように評価しているところであり、平成17年5月23日付け貴紙朝刊の社説で指摘、主張された主な点について、私どもの考えは以下の通りです。なお、詳細については、さらに後述いたします。


・植物プランクトンの量について
クロロフィルaの値は、長良川大橋、伊勢大橋などで一時的には予測を超える観測値を示しているものの、予測値が堰上流水域の平均的な値であることを踏まえると、全体として予測の範囲内に収まっているものと考えています。

・ヤマトシジミについて
ヤマトシジミは、長良川では、堰上流域において平成11年にはほとんど漁獲されなくなっています。しかし、堰下流域では、堰運用後も継続的に漁獲されており、ヤマトシジミはしゅんせつ区域外で繁殖していると考えられます。なお、平成11年9月の出水で、堰上流域に放流し畜養していた稚貝が流失したことから、それ以降漁業関係者は稚貝を堰上流域に放流していないとのことです。

・アユについて
堰の運用によりアユの遡上数が大幅に減少したとは考えておらず、アユの漁獲量に堰の運用が著しい影響を及ぼしているとは考えていません。

・洪水と塩害を防ぐ方法について
洪水と塩害を防ぐために河口堰の建設以外の方法についても検討した結果、治水対策の実施に当たり塩水の上流への侵入を確実に防止し、併せて地域の発展に必要な水資源の開発を行うためには、河口堰の建設が最も現実的で適切な方法であると考えています。

・ゲートの開放について
長良川河口堰のゲートを開ければ堰上流域への塩水の侵入や周辺土地の地下水の塩水化を招き、現在、堰上流で取水している水道用水や工業用水、農業用水の水利用ができなくなるなど、地域住民の生活や経済活動などに甚大な影響を与えることとなるため、平常時にゲートを開けることはできません(洪水時にはゲートは全開されます)。


(1)「水質悪化の目安となる植物プランクトンの量は、当初の予想を大きく超える。」について

長良川河口堰運用後の堰上流水域の水質については、植物プランクトン量の指標となるクロロフィルaに関して、渇水年である平成6年の実測最大のクロロフィルa濃度を初期値として試算した結果、最大で30μg/l〜60μg/l程度と予測されていました。

しかし、これは堰上流水域を1つの培養槽と考え平均的に取り扱った検討であることから、局所的・一時的な現象は予測モデルでは表現できず、局所的に植物プランクトンが増殖しやすい環境が形成される箇所ではクロロフィルaの値は高くなる性質のものであることから、堰上流水域の水質を実際に把握することを目的として、堰上流において定期的に水質観測を実施するとともに、総合監視船等により水質監視を徹底して行ってきています。

その結果、クロロフィルaの値は、上記性質を反映して、長良川大橋、伊勢大橋などで一時的には予測を超える観測値を示しているものの、予測値が堰上流水域の平均的な値であることを踏まえると、全体として予測の範囲内に収まっているものと考えています。

堰運用後の10年間の水質の調査結果について、「中部地方ダム等管理フォローアップ委員会(堰部会)」では特に問題となる経年的な変化の傾向は認められないことが確認されています。なお、堰運用後、堰上流水域において、植物プランクトンの異常発生により取水に支障が生じたことはありません。

長良川下流水域の水質観測地点

長良川下流水域の水質観測地点


クロロフィルa濃度調査結果
注)地点・時期によっては同日に流心、右岸、左岸の3箇所で調査をしているが、その場合は3箇所の平均
長良川(堰上流水域)におけるクロロフィルa濃度調査結果
注)全平均は、上記4地点の値(各地点とも原則として月1回〜週1回調査)の月毎の平均

長良川(堰上流水域)におけるクロロフィルa濃度調査結果


(2)「シジミは放流しても大半が死んだ。漁民は数年で放流をやめた。」について

木曽三川下流部はヤマトシジミの産地であり、長良川河口堰の建設によってヤマトシジミに影響を及ぼすことが予測されました。具体的には堰上流域においては、堰運用後は淡水化するため、汽水域で繁殖するヤマトシジミは生息はできるものの繁殖できなくなることが、また、堰下流域においては、しゅんせつの影響を受ける区域でヤマトシジミの漁獲量が減少することが予測されました。このため、関係の漁業組合の方々と十分話し合った上で合意に基づき、漁業補償を行いました。

木曽三川下流部におけるヤマトシジミの漁獲量を河川別にみると、揖斐川及び木曽川では年変動はあるものの継続的に漁獲されています。長良川では、堰上流域において平成11年にはほとんど漁獲されなくなっています。これは事前に予測されたように、堰上流域が淡水となりヤマトシジミが繁殖できなくなったためと考えられます。しかし、堰下流域では、堰運用後も継続的に漁獲されており、ヤマトシジミはしゅんせつ区域外で繁殖していると考えられます。このことは、堰運用後5年間実施したモニタリング調査のヤマトシジミの生息調査結果によっても確認されています。

なお、上述のとおり、堰運用後、堰上流域は淡水となるためヤマトシジミは繁殖できなくなりますが生息は可能なことから、漁業関係者が数年間は稚貝を放流し漁獲していました。しかしながら、平成11年9月の出水で、堰上流域に放流し畜養していた稚貝が流失したことから、それ以降漁業関係者は稚貝を堰上流域に放流していないとのことです。


平成8年 平成9年
平成10年 平成11年
平成12年 平成13年
平成14年 平成15年
平成16年 凡例

ヤマトシジミの漁場毎の年間漁獲量



(3)「アユの漁獲量は半分以下になってしまった。」について

水資源機構(旧水資源開発公団)では、アユの遡上数を把握する調査を長良川河口堰運用前の平成5年より行っています。その調査結果によると、堰運用前(平成5年〜平成7年)のアユ推定遡上数は200万尾程度〜700万尾程度でしたが、堰運用後においても150万尾程度(平成14年)〜750万尾程度(平成10年)の間で推移しています。また、長良川河口堰左岸呼び水式魚道(陸側)における平成7年〜平成16年のアユ実測遡上数は、調査期間中にゲート全開操作のため調査不可能となった平成7年を除くと、約23万尾〜約96万尾の範囲にあります。「中部地方ダム等管理フォローアップ委員会(堰部会)」では、年変動は見られるものの順調に遡上しているとしています。なお、平成17年のアユの遡上調査は魚道において実施中ですが、6月7日時点で約7万尾となっています。学識経験者によると、これは昨年台風による出水が多く、特に台風23号による出水で河川が荒廃したことなどが影響しているのではないかとのことです。

このようなことから、私どもとしては堰の運用によりアユの遡上数が大幅に減少したとは考えておらず、アユの漁獲量に堰の運用が著しい影響を及ぼしているとは考えていません。

長良川(堰上流域)におけるアユの遡上状況 注1)


長良川(堰上流域)におけるアユの遡上状況

注1)アユ推定遡上数は、河口から約50kmの忠節橋(平成10、13、14年は、大縄場橋)における調査結果から算出しています。なお、堰地点のアユ遡上数と忠節橋での遡上数の相関が高いことが確認されたため、平成16年度をもって忠節橋地点でのアユ遡上調査は終了しています。

注2)平成16年度は、忠節橋地点の河道中央部が深掘れしていたため、比較的浅い左右岸のみにおいてアユが遡上するものと考えて、左右岸のみにおいて遡上数の調査を実施し、このデータをもとに推定遡上数を算出しました。しかし、中央部においても、実際には少なからずアユが遡上していたため、アユ推定遡上数は450万尾以上としています。

長良川河口堰地点におけるアユの遡上状況(左岸呼び水式魚道・陸側)

注)平成12〜17年については、左岸呼び水式魚道(陸側)において魚道を幅方向に二分割し、1日毎に片側ずつ交互に計測(録画ビデオによる連続計測)する方法での計測実数です。したがって、この計測実数は左岸呼び水式魚道(陸側)の総遡上数のほぼ1/2と推定されます。

注)平成7〜11年については、目視にて10分間観測し10分間休憩後再び10分間観測するというサイクルで計測していた計測実数です。したがって、この計測実数も左岸呼び水式魚道(陸側)の総遡上数のほぼ1/2と推定されます。


長良川河口堰地点におけるアユの遡上状況(左岸呼び水式魚道・陸側)



(4)「洪水と塩害を防ぐのなら、他に方法はあった。自然の堰をいじらずに堤防をかさ上げしてもよかった。自然堰を壊しても、その近くで塩害対策を講じればよかった。」について

長良川では洪水を安全に流すために、川の断面積を大きくすることが必要でしたが、その方法としては、

◆ 高い堤防を造る(堤防嵩上げ)

◆ 川幅を広げる(引堤)

◆ 川底を掘り下げる(しゅんせつ)

が考えられます。

高い堤防を造る「堤防嵩上げ」案では、高い水位で洪水を流すこととなるため、万一破堤したときの被害を大きくするとともに、新幹線など17の橋梁を架け替える必要があるため現実的でなく費用も約8,700億円にのぼります。また、川幅を広げる「引堤」案についても、長良川沿いの貴重な土地や多くの家屋移転を伴うことになり現実的ではありません。この費用は約5,700億円となります。このため、長良川下流部の河口から約30kmの区間においては、川底をしゅんせつすることにより、洪水を流下させるために必要な断面を確保することとしました。しかし、川底をしゅんせつして掘り下げると、塩水が川の上流に侵入してきて河川からの取水や農地、地下水等に塩害が広がる恐れがあります。

しゅんせつする前の長良川は、河口から約14〜18km付近に「マウンド」と呼ばれる上下流に比べ河床の高い部分があり、塩水の侵入がこの地点でほぼ止まっていました。洪水対策のためしゅんせつを行い川底を下げると、このマウンドを全面的に取り除くことになり、マウンドで止まっている塩水が、河口から上流約30kmまで侵入するものと予測されました。これに伴い今まで塩害のなかった地域においても河川水が塩水化し、河川から取水している用水が利用できなくなるばかりでなく、堤内地の地下水、土壌も時間の経過に伴い塩水化の影響を受けて、農地としての使用に影響が出るとともに将来の土地利用にも大きな制約が加わります。このため、河口堰を建設して、塩水の川の上流への侵入を防止した上で、川底をしゅんせつすることとしたものです。このしゅんせつと河口堰の費用はあわせて約3,800億円で最も安価な方法です。また「自然堰を壊しても、その近くで塩害対策を講じればよかった。」とありますが、どのような対策があるのか明らかにされていません。私どもは、河口堰の建設以外の方法についても検討しています。具体的に河口堰以外の塩害対策としては、

1マウンド地点に潜り堰を建設する方法

2淡水(アオ)取水する方法

3取水施設を上流に移設する方法

4矢板等で塩水の侵入を防止する方法
の4つが考えられますが、12の方法では塩水の侵入を確実に防ぐことができません。3の方法では、取水施設を上流に移設すると川の水深が浅いため大量の水を取水するためには河口堰と同じような取水堰が必要になります。また、地下水に塩分が侵入してしまい、井戸が使用できなくなるなどの塩害が発生します。4の方法では、川の上流に塩水は侵入することから、河川からの取水に支障が生じるとともに、地下水流動を遮断して陸水環境を悪化させることになります。従って、治水対策の実施に当たり塩水の上流への侵入を確実に防止し、併せて地域の発展に必要な水資源の開発を行うためには、河口堰の建設が最も現実的で適切な方法です。これについては、土木学会の社会資本問題研究委員会によって行われた「長良川河口堰にかかわる治水計画の技術評価」(平成4年7月)で妥当との見解が示されています。

川の断面積を増大させる方法(イメージ図)

川の断面積を増大させる方法(イメージ図)

長良川のしゅんせつと塩水の侵入防止

長良川のしゅんせつと塩水の侵入防止



(5)「アユが川を上る春や下る秋にゲートを一部でも開けてみてはどうか。海水が上らない範囲なら、今すぐできる。」「ゲートを開け、堰の上流に海水を入れれば、それを一部でも回復できる。取水口を上流に移せば、利水への影響も少ない。」について

長良川河口堰のゲートを開ければ堰上流域への塩水の侵入や周辺土地の地下水の塩水化を招き、現在、堰上流で取水している水道用水や工業用水、農業用水の水利用ができなくなるなど、地域住民の生活や経済活動などに甚大な影響を与えることとなるため、平常時にゲートを開けることはできません(洪水時にはゲートは全開されます)。

たとえ短時間であっても、ゲートを開けて堰上流域に一旦塩水が入ると、洪水がなければ塩水が堰下流に押し戻されず、堰上流域に塩水を残したままでゲートを降ろすことになり、真水より重い塩水が川底に滞留して川底の酸素量の急激な低下を招き、環境上大きな問題となります。このことは、平成6年度に実施した「長良川河口堰調査」ですでに明らかとなっています。

既存の取水施設(5箇所、約13m3/s)を上流に移せば利水への影響も少ないとのご意見ですが、これには前述のような問題があることからできません。

なお、アユの遡上期には左右岸に近い調節ゲートからの流出量を増やし、左右岸の魚道に魚を誘導する操作を行うとともに、魚が調節ゲートからも遡上しやすくなるよう、満潮時付近では堰上下流の水位差をできるだけ少なくするようにゲート操作を行うなど、魚類の遡上、降下に十分配慮したゲート操作を実施しています。

長良川下流部における利水の状況(平成17年3月現在)


長良川河口堰のゲート及び魚道

長良川河口堰のゲート及び魚道

【稚アユ誘導操作】
(遡上期の2月1日〜6月30日の間実施)

アユが岸側を遡上する習性と流れに向かって泳ぐ習性を考慮し、岸に近いゲートの流量を増やすことでアユを岸側に誘導し、より遡上の容易な左右岸の各種魚道に導くための操作です。

稚アユ誘導のためのゲート操作イメージ

稚アユ誘導のためのゲート操作イメージ

【仔アユ降下操作】
(降下期の9月1日〜12月31間実施)

孵化したばかりの仔アユは流速の速い河川の流心部を流下する習性があることから、稚アユ誘導操作とは逆に、河川中央部のゲートの流量を最も多くし、仔アユの降下を助ける操作です。

仔アユ降下のためのゲート操作イメージ

仔アユ降下のためのゲート操作イメージ



【大潮の満潮時付近の操作】

大潮の満潮時付近では上下流の水位差をできるだけ少なくするよう調節ゲートの操作を行うことにより、調節ゲートからも魚が遡上しやすくなるような操作を行います。

小潮の満潮時及び大潮・小潮の干潮時
小潮の満潮時及び大潮・小潮の干潮時1小潮の満潮時及び大潮・小潮の干潮時には、堰上下流の水位差は大きい。
矢印(下)
小潮の満潮時及び大潮・小潮の干潮時2大潮の満潮時は、徐々に下流側の水位が上昇
矢印(下)
大潮の満潮時
大潮の満潮時3下流側の水位が更に上昇。
矢印(下)
4ゲート操作により、上流側の水位を下げ、堰上下流の水位差をより小さくする。
矢印(下)
5魚が遡上しやすくなる

魚が遡上しやすいゲート操作のイメージ



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